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第4話 炎を吐く時は、あっちのおにーさんだけ巻き込むようにするのです
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こうなってくると、サレッタとナナが出会ったのも偶然ではないような気がしてくる。実際にはただの偶然以外に理由はないのだが。
それにしても、とカイルは思う。ナナは自分をドラゴンと言っているが、外見はどう見ても普通の人間だ。顔だけ出せる着ぐるみ姿で、堂々と街中を歩いてるのは普通とは呼べないかもしれないが。
けれど着ぐるみ姿の少女が口から炎を吐けるのは、どう考えても異常だ。常識では考えられない。理由を尋ねても、返ってくるのはドラゴンだからの一点張りだ。
何らかの魔法を使っている可能性が最も高いように思えるが、使用しているような兆候はない。
わからないことだらけで、考えても袋小路に迷い込むばかり。頭を抱えたい衝動がどんどん大きくなる。
カイルがこれだけ悩んでいるというのに、どらごんと呼んでからはサレッタとナナの距離が急速に縮まりつつあった。
基本的には同じ女性で、思考回路も似たり寄ったりな感じがするので気が合うのだろう。
あまり仲良くなりすぎても困るのだが、今さらナナをひとりで放り出すのも寝覚めが悪い。彼女のせいで、カイルたちが宿屋を放り出されてしまったとしてもだ。
「ナナちゃんはどらごんなのよね? じゃあご両親もどらごんだったの?」
数えきれないくらいのため息をついているカイルの耳に、サレッタがしたものと思われる質問が夜風に乗って届いた。
よく聞いたと心の中で賞賛しつつ、どのように答えるのかを聞き耳を立てて待つ。
「うーん……おかーさんとかおとーさんはいないです。でもじーじはいたのです」
「じーじ?」
「じーじです。ますたーなのです。強くて大きいドラゴンなのです」
ナナの返答に違和感を覚える。どこだろうか気になるものの、冷静に分析するのは後回しにする。
すぐ後ろを歩いているナナに、カイルも近づく。会話に参加させてもらうためだ。
「ってことは、何か。お前のじーじはドラゴンなのか?」
「そうなのです。じーじはますたーで凄いドラゴンなのです」
自慢げに言うナナからは、じーじという存在に対する確かな愛情が感じられる。
マスターというのが謎ではあるが、現在の時点ではあまり気にする必要もないだろう。そもそも、本当のことを言っているという保証もない。
カイルは疑い深くナナの話を聞いているが、サレッタは従来の性格によるものか、全面的に信じているみたいだった。
「凄いね。私もナナちゃんのじーじと会ってみたいな」
サレッタの言葉に、カイルは心の中でナイスだと拍手喝采を送る。
ナナが応じてくれたら、じーじの住むところへ連れて行ってやればいい。途中で冒険者ギルドの依頼をこなせれば、なおいい。低額であろうとも弱くて達成可能な魔物退治。あとは別の町への手紙や荷物の配達になる。
整備された町への道には衛兵が立っている場合があるので、理解している魔物たちはそうそう寄ってこない。問題はそれ以外の小道などだ。
町から町への移動経路のすべてが整備されているわけではないので、一般人には多かれ少なかれ魔物や盗賊などの危険がつきまとう。危機管理の一環として、移動時には冒険者を雇うのが一般的だった。
とりわけ商人の護衛となれば金払いもいいが、有力な商人ほど有名な冒険者グループと専属契約を結んでいる。カイルたちみたいな下っ端に分類される冒険者には、ごくごく稀にさほど裕福ではない一般人からの依頼が入る程度だ。
本当は冒険者を雇うお金を節約したいのかもしれないが、惜しんだ結果、盗賊や魔物に襲われ、金銭だけでなく命まで奪われてしまっては悔やんでも悔やみきれなくなる。
盗賊や山賊、それに魔物の脅威が増すほど、比例して冒険者の仕事も増える。
なんとも皮肉ではあるが、おかげでカイルはサレッタと共に最低限の生活はできていた。正式な住居はなく、宿屋暮らしだが、それでも生まれ故郷の村で過ごしていた時よりはだいぶマシだった。
ナナをじーじとやらの元まで送っていくことばかりを考えていたが、事はそう簡単に進まない。他ならぬナナが、サレッタのじーじとの面会を却下した。
どうしてと不服そうにするサレッタに、ナナはひと言「戻りたくないのです」と告げる。
明らかに何かありそうな感じで、もしかくしなくともナナがひとりで夜の町にいたのと関係あるのだろう。
誰であれ、人には触れられたくない秘密がある。そっとしておくべきだとカイルは判断したが、世話焼きで我が道を歩むサレッタは一切の遠慮なく事情を尋ねた。
「じーじと喧嘩でもしたの? 悪いことをしたなら、ナナちゃんから謝らないと駄目だよ?」
説教のようなアドバイスを受けた直後、ナナはぷーっと頬を膨らませた。可愛らしい姿と相まって、餌を食べている最中のハムスターを連想させる。
「ナナは悪くないのです! それに、じーじとは喧嘩してないのです! 放っておいてほしいのです!」
ぷんぷんという効果音がどこからか聞こえてきそうな感じで怒鳴るナナを前に、怯えるどころかサレッタは真剣な顔つきで逆に怒るような姿勢を見せた。
「ナナちゃんみたいな可愛い女の子を、夜の町にひとりで放っておけるわけがないよ!」
「ですから、ナナは女の子ではないのです!」
「わかってるわよ。どらごんなのよね。それでも! ひとりで放ってはおけないの! わかった!?」
強い口調で詰め寄られ、今度はナナも「嫌なのです」とは言えなかった。うぐ、と言葉を詰まらせているうちに、一気にサレッタに押し寄られる。
「じーじのところに帰りたくないにしても、私たちと一緒に行動すること! じゃないと、お姉ちゃん許さないからね!」
他人のサレッタが許すも許さないも……と思ったところで、カイルは両目を大きく見開いた。原因は、とんでもないことを口走ったサレッタだ。
ちょっと待てと言う暇もなく、サレッタの強い剣幕に圧されたナナが反射的に頷いてしまった。
満足げなサレッタとは対照的に、カイルは両目を右手の手のひらで覆う。これでなし崩し的に、ナナという不思議な着ぐるみ少女を連れて歩くはめになった。
半ば無駄だとは諦めているが、翻意してくれる可能性に賭けて、カイルはサレッタを説得してみる。
「勝手に物事を決めるな。じーじとやらがナナを探してるかもしれないだろ。勝手に連れ回したりして、余計にはぐれる結果になったらどうするんだ」
下手に一緒に行動させるより、衛兵に預けた方がいい。何度も繰り返すカイルの言葉にも、サレッタは決して首を縦に振らない。
パーティ結成当初の取り決めでカイルがリーダーになったはずだが、そのリーダーの意見を尊重してくれるようなそぶりすらなかった。
加えて、ナナ自身が戻りたくないと強固に言い張る。
「戻っても……どうせ、追い出されるだけなのです。ナナは、いらない子なのです。ドラゴンではなく、どらごんだからなのです……」
寂しげに、呟くようにナナが言った。
どうせ、追い出されるだけ。そのひと言にカイルの心がズキッとする。過去のトラウマを呼び起こされたような気分だった。
軽く舌打ちをして、フラッシュバックされる記憶を頭の片隅に設置しているゴミ箱の中へ放り込むと、気を取り直してナナに向き合う。
「お前……本当に行くところがないのか?」
「……行くところはないのです。でも、ひとりで大丈夫です。ナナはどらごんなのです。誇り高い……どらごんなのです……」
発言だけ聞けば一緒に行動したがっているようには思えないが、俯き加減になっている姿勢などから、素直に受け取るべきじゃないのがわかる。
それでも身元がわからない、しかも小さな体にフィットしているとはいえ、ドラゴンの着ぐるみを身に纏った少女を連れて歩いていいのだろうかという不安は付きまとう。
悩むカイルに対して、お節介なサレッタが口を開く。
「誇り高くたって、ひとりは寂しいでしょ。だから、私たちと一緒にいましょう。ナナちゃんなら大歓迎だから!」
「ナナ……おねーさんたちと一緒にいていいですか? どらごんなのに……人間ではないのに……いいのですか?」
「もちろんよ、ナナちゃん!」
「おねーさん!」
がしっと抱き合う二人。着ぐるみを着た小さな少女が、しゃがんでいるサレッタの両腕の中にしっかりと収まっていた。
何だ、これは。カイルは率直に思った。
間近で二人を見てはいたが、ツッコミを入れる前に感動的なシーンを作り上げられてしまった。これでは、衛兵に預けようと言っているカイルは悪者だ。
「おねーさんはとてもいい人なのです。炎を吐く時は、あっちのおにーさんだけ巻き込むようにするのです」
「ちょっと待て。お前は俺を燃やすつもりなのか」
もちろんなのですとサレッタの腕の中で頷くナナを見て、カイルは頭痛を覚えた。
それにしても、とカイルは思う。ナナは自分をドラゴンと言っているが、外見はどう見ても普通の人間だ。顔だけ出せる着ぐるみ姿で、堂々と街中を歩いてるのは普通とは呼べないかもしれないが。
けれど着ぐるみ姿の少女が口から炎を吐けるのは、どう考えても異常だ。常識では考えられない。理由を尋ねても、返ってくるのはドラゴンだからの一点張りだ。
何らかの魔法を使っている可能性が最も高いように思えるが、使用しているような兆候はない。
わからないことだらけで、考えても袋小路に迷い込むばかり。頭を抱えたい衝動がどんどん大きくなる。
カイルがこれだけ悩んでいるというのに、どらごんと呼んでからはサレッタとナナの距離が急速に縮まりつつあった。
基本的には同じ女性で、思考回路も似たり寄ったりな感じがするので気が合うのだろう。
あまり仲良くなりすぎても困るのだが、今さらナナをひとりで放り出すのも寝覚めが悪い。彼女のせいで、カイルたちが宿屋を放り出されてしまったとしてもだ。
「ナナちゃんはどらごんなのよね? じゃあご両親もどらごんだったの?」
数えきれないくらいのため息をついているカイルの耳に、サレッタがしたものと思われる質問が夜風に乗って届いた。
よく聞いたと心の中で賞賛しつつ、どのように答えるのかを聞き耳を立てて待つ。
「うーん……おかーさんとかおとーさんはいないです。でもじーじはいたのです」
「じーじ?」
「じーじです。ますたーなのです。強くて大きいドラゴンなのです」
ナナの返答に違和感を覚える。どこだろうか気になるものの、冷静に分析するのは後回しにする。
すぐ後ろを歩いているナナに、カイルも近づく。会話に参加させてもらうためだ。
「ってことは、何か。お前のじーじはドラゴンなのか?」
「そうなのです。じーじはますたーで凄いドラゴンなのです」
自慢げに言うナナからは、じーじという存在に対する確かな愛情が感じられる。
マスターというのが謎ではあるが、現在の時点ではあまり気にする必要もないだろう。そもそも、本当のことを言っているという保証もない。
カイルは疑い深くナナの話を聞いているが、サレッタは従来の性格によるものか、全面的に信じているみたいだった。
「凄いね。私もナナちゃんのじーじと会ってみたいな」
サレッタの言葉に、カイルは心の中でナイスだと拍手喝采を送る。
ナナが応じてくれたら、じーじの住むところへ連れて行ってやればいい。途中で冒険者ギルドの依頼をこなせれば、なおいい。低額であろうとも弱くて達成可能な魔物退治。あとは別の町への手紙や荷物の配達になる。
整備された町への道には衛兵が立っている場合があるので、理解している魔物たちはそうそう寄ってこない。問題はそれ以外の小道などだ。
町から町への移動経路のすべてが整備されているわけではないので、一般人には多かれ少なかれ魔物や盗賊などの危険がつきまとう。危機管理の一環として、移動時には冒険者を雇うのが一般的だった。
とりわけ商人の護衛となれば金払いもいいが、有力な商人ほど有名な冒険者グループと専属契約を結んでいる。カイルたちみたいな下っ端に分類される冒険者には、ごくごく稀にさほど裕福ではない一般人からの依頼が入る程度だ。
本当は冒険者を雇うお金を節約したいのかもしれないが、惜しんだ結果、盗賊や魔物に襲われ、金銭だけでなく命まで奪われてしまっては悔やんでも悔やみきれなくなる。
盗賊や山賊、それに魔物の脅威が増すほど、比例して冒険者の仕事も増える。
なんとも皮肉ではあるが、おかげでカイルはサレッタと共に最低限の生活はできていた。正式な住居はなく、宿屋暮らしだが、それでも生まれ故郷の村で過ごしていた時よりはだいぶマシだった。
ナナをじーじとやらの元まで送っていくことばかりを考えていたが、事はそう簡単に進まない。他ならぬナナが、サレッタのじーじとの面会を却下した。
どうしてと不服そうにするサレッタに、ナナはひと言「戻りたくないのです」と告げる。
明らかに何かありそうな感じで、もしかくしなくともナナがひとりで夜の町にいたのと関係あるのだろう。
誰であれ、人には触れられたくない秘密がある。そっとしておくべきだとカイルは判断したが、世話焼きで我が道を歩むサレッタは一切の遠慮なく事情を尋ねた。
「じーじと喧嘩でもしたの? 悪いことをしたなら、ナナちゃんから謝らないと駄目だよ?」
説教のようなアドバイスを受けた直後、ナナはぷーっと頬を膨らませた。可愛らしい姿と相まって、餌を食べている最中のハムスターを連想させる。
「ナナは悪くないのです! それに、じーじとは喧嘩してないのです! 放っておいてほしいのです!」
ぷんぷんという効果音がどこからか聞こえてきそうな感じで怒鳴るナナを前に、怯えるどころかサレッタは真剣な顔つきで逆に怒るような姿勢を見せた。
「ナナちゃんみたいな可愛い女の子を、夜の町にひとりで放っておけるわけがないよ!」
「ですから、ナナは女の子ではないのです!」
「わかってるわよ。どらごんなのよね。それでも! ひとりで放ってはおけないの! わかった!?」
強い口調で詰め寄られ、今度はナナも「嫌なのです」とは言えなかった。うぐ、と言葉を詰まらせているうちに、一気にサレッタに押し寄られる。
「じーじのところに帰りたくないにしても、私たちと一緒に行動すること! じゃないと、お姉ちゃん許さないからね!」
他人のサレッタが許すも許さないも……と思ったところで、カイルは両目を大きく見開いた。原因は、とんでもないことを口走ったサレッタだ。
ちょっと待てと言う暇もなく、サレッタの強い剣幕に圧されたナナが反射的に頷いてしまった。
満足げなサレッタとは対照的に、カイルは両目を右手の手のひらで覆う。これでなし崩し的に、ナナという不思議な着ぐるみ少女を連れて歩くはめになった。
半ば無駄だとは諦めているが、翻意してくれる可能性に賭けて、カイルはサレッタを説得してみる。
「勝手に物事を決めるな。じーじとやらがナナを探してるかもしれないだろ。勝手に連れ回したりして、余計にはぐれる結果になったらどうするんだ」
下手に一緒に行動させるより、衛兵に預けた方がいい。何度も繰り返すカイルの言葉にも、サレッタは決して首を縦に振らない。
パーティ結成当初の取り決めでカイルがリーダーになったはずだが、そのリーダーの意見を尊重してくれるようなそぶりすらなかった。
加えて、ナナ自身が戻りたくないと強固に言い張る。
「戻っても……どうせ、追い出されるだけなのです。ナナは、いらない子なのです。ドラゴンではなく、どらごんだからなのです……」
寂しげに、呟くようにナナが言った。
どうせ、追い出されるだけ。そのひと言にカイルの心がズキッとする。過去のトラウマを呼び起こされたような気分だった。
軽く舌打ちをして、フラッシュバックされる記憶を頭の片隅に設置しているゴミ箱の中へ放り込むと、気を取り直してナナに向き合う。
「お前……本当に行くところがないのか?」
「……行くところはないのです。でも、ひとりで大丈夫です。ナナはどらごんなのです。誇り高い……どらごんなのです……」
発言だけ聞けば一緒に行動したがっているようには思えないが、俯き加減になっている姿勢などから、素直に受け取るべきじゃないのがわかる。
それでも身元がわからない、しかも小さな体にフィットしているとはいえ、ドラゴンの着ぐるみを身に纏った少女を連れて歩いていいのだろうかという不安は付きまとう。
悩むカイルに対して、お節介なサレッタが口を開く。
「誇り高くたって、ひとりは寂しいでしょ。だから、私たちと一緒にいましょう。ナナちゃんなら大歓迎だから!」
「ナナ……おねーさんたちと一緒にいていいですか? どらごんなのに……人間ではないのに……いいのですか?」
「もちろんよ、ナナちゃん!」
「おねーさん!」
がしっと抱き合う二人。着ぐるみを着た小さな少女が、しゃがんでいるサレッタの両腕の中にしっかりと収まっていた。
何だ、これは。カイルは率直に思った。
間近で二人を見てはいたが、ツッコミを入れる前に感動的なシーンを作り上げられてしまった。これでは、衛兵に預けようと言っているカイルは悪者だ。
「おねーさんはとてもいい人なのです。炎を吐く時は、あっちのおにーさんだけ巻き込むようにするのです」
「ちょっと待て。お前は俺を燃やすつもりなのか」
もちろんなのですとサレッタの腕の中で頷くナナを見て、カイルは頭痛を覚えた。
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