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葉月の子育て編
菜月の帰省と進路
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「なーっ! なーっ!」
朝から大はしゃぎの穂月が、どうやら名前を呼んでいると思われる奇声を上げて、昨夜に帰省したばかりの叔母にまとわりつく。
微笑ましい目で見守っている葉月を怒ったりはせず、ギュッと足に抱き着いてくる姪の頭を菜月は優しく撫でる。
擽ったそうにしながらも、満面の笑みを浮かべる穂月に葉月のみならず、見ている誰もがほっこりせずにはいられない。
「ちょっと穂月、どこに連れて行こうというの」
パジャマ代わりに着ていた学生時代のジャージのズボンを引っ張られ、菜月は玄関へと向かう。
どうやら小さな天使は、昨夜に少しだけ降った雪を見に行きたいようだ。
「待って、この恰好で外に出るのはさすがに躊躇われるわ。この年でパパと同類になるわけにはいかないの」
「……どういう意味だと思う?」
「春道さんが部屋着でジャージばかり着ているからでしょう」
「やっぱりか……でも楽なんだよなあ。いつか菜月にも良さがわかるさ」
「菜月が言ってるのは、近所だからといってジャージ姿で出歩かないように、ということだと思うわよ」
重ねて愛妻に注意された春道が、心なしかしょんぼりと肩を落とした。
「私は構わないと思うけどな。最近はデザイン性の高いジャージだって増えてるし、それどころかステテコだって今じゃ、お出掛けにも耐えられるほどお洒落になってきてるんだよ」
「生地の薄い短パンみたいな感じで、特に寝苦しい夜には最適だな」
「あ、もう持ってたんだね、パパ」
ジャージからステテコ、そこからパジャマの話に移行し始めたところで、コートを羽織ったジーンズ姿の菜月が階段から下りてきた。
穂月の着替えもさせており、防寒対策はバッチリだ。
「はづ姉、穂月を外で遊ばせてもいいのよね?」
「うん、お願いするよ。私はあんまり激しく動けないし」
「妊娠中だものね……実希子ちゃんたちと同じで……」
昨夜の帰省後に改めて妊娠の報告をしたのだが、やはり友人たちと揃ってという状況が不可思議に思えたらしく、またしても呆れられてしまった。
とはいえしっかりお祝いもしてくれたが。
*
玄関のドアを開けると、瞬間的に息が止まるような冷風が吹き付けてきた。
強く吹く北風は瞬時に体温を奪うので、防寒具なしで外に出るのは自殺行為だ。
それでも日が差せば体感温度も上がり、動いているうちに汗をたくさんかく。
体が冷えた場合に備えてお風呂を沸かしてから外に出た葉月は、すぐに正解だったと微笑んだ。
手袋からでも伝わる雪の冷たさにひとしきりはしゃいだあと、少ない雪を掻き集めて小さな雪だるまを作ったらしい。
玄関横にちょこんと置かれている可愛らしい雪だるまには泥も混じっているが、製作者の小さな天使は実に誇らしげだ。
その後はほとんど追いかけっこをしていたらしく、相手をしてくれていた菜月も少し汗を掻いていた。
「なっちーも穂月もお風呂が沸いてるよ。汗を流してからお昼にしよう」
「ほら、穂月。帰るわよ」
「あいー」
菜月に背中を押されて家に戻ろうとするも、途中ですり抜けて、キャッキャッと走り出す。
すぐに掴まるのだが、両手で拘束された愛娘はとても楽しそうで、すっかり叔母とも仲良くなったのがわかる。
「なっちーは本当に子供に好かれるんだね」
「自覚はないのだけれど……」
玄関で穂月のジャンパーを脱がせながら、菜月が苦笑する。
実際に小学校の頃とかであっても、下級生から極端に懐かれたりということはなかったらしい。
「でも穂月はなっちーが大好きみたいだし、希ちゃんも」
「穂月はともかく、希ちゃんの場合は本の匂いに反応しているだけだと思うわよ」
「のぞー?」
友人の名前が聞こえると同時に、穂月が愛らしい顔を輝かせた。
クイクイと葉月のズボンを引っ張るあたり、遊びたくて仕方がないのだろう。
「なっちーが帰省するのは教えておいたから、きっと午後にでも遊びに来るよ。今日はムーンリーフも休みだし」
売上が減るし、不満を覚える客もいるだろうが、一週間に一度の定休日や、たまには社員旅行なんかも行ったりする。
仕込みがあると長時間の労働になりがちだが、中抜けというか休憩時間をちょくちょく取れるのは大きい。
おまけにきちんとボーナスもあるので、好美はホワイト企業だと言ってもいいと胸を張っていた。
「はづ姉のお店も順調そうで何よりだわ。
実希子ちゃんが来るのは気が重いけれど」
「どうして?」
「希ちゃんがあまりに私に甘えるものだから、大人げなく嫉妬するのよ……」
そう零した菜月は、今から疲れ切った表情を浮かべていた。
*
予感が確信に変わった昼下がりの高木家。
今にもぐぬぬと唸りだしそうな実希子の視線の先にいるのは、膝の上に希を乗せた菜月だった。
葉月の予想通りに実希子が希を連れて遊びに来たのだが、普段は隙あらばのんびりしたがる希が、菜月を見るなり行動を開始した。
足元までトコトコ歩き、ズボンを掴んでじっと見上げる。
子供特有の可愛らしさに菜月が自然と頭を撫で、気が付けばソファで膝の上に乗せていた。
「なつきちゃん」
「あら、希ちゃんはきちんと私の名前を言えるのね」
「うん」
苦も無く成立する会話に、背後に稲妻が見えそうなくらい実希子が驚く。
「な、なあ、希……母ちゃんの時とは違って良くしゃべるなあ」
冷静さを取り戻せないままに、棘を含んだ台詞を口にした実希子を、当の希は一瞥すらしない。
「……そういうところじゃないの。実希子ちゃんが嫌われているのって」
「ち、違う! アタシは嫌われてなんかないっ!
そうだよな、希、なっ? なっ?」
必死にご機嫌を取ろうとする実希子だが、なんとか愛娘の視界に入り込んだと思った途端に、ふいと顔を逸らされてしまう。
ほとんど絶望に近い勢いで新たなショックを上積みした実希子は、しばらく硬直したあと、
「……穂月、穂月、ちょっと来い」
と、対希用最終決戦兵器の投入を決定した。
何が起こるのか予測できたのか、条件反射的に希が全身をビクッと揺らす。
「だから、そういうところが娘に反発心を植え付けるんでしょ」
ジト目で菜月に注意された実希子は、愛娘の代わりに穂月を抱っこしてしゅんとする。まるで落ち込んだ犬の尻尾みたいに、ポニーテールが垂れ下がって見えた。
「だってさ、アタシじゃ何をしても希は笑ってくれないしさ」
「……まるで好きな女の子にちょっかいを出したがる男の子みたいね」
反論したそうにして、すぐに実希子が口を閉じる。
まさにぐうの音も出なかったのだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「前にも言ったけれど、希ちゃんの好きなことを一緒に楽しみなさい」
せめてもの抗議に頬を膨らませた実希子に、菜月が真面目に助言する。
どちらが年上かわからない光景だが、幸いにして年下の言葉もきちんと聞ける実希子だけに葉月は心配していなかった。
「きっと絵本とかも買ったはいいけど、希ちゃんに一人で読ませてるんでしょ? もしくは途中で実希子ちゃんが外で遊ばせたがるとか」
「うっ……なっちーはエスパーか」
「やっぱりね。希ちゃんは幼くとも自分の意思をきちんと持っているように見えるわ。実希子ちゃんもその点を考慮して接するべきね」
「……努力します」
*
新築してからも、あまり実家で過ごす機会は多くなかった菜月はまだホテルに泊まっているみたいだと苦笑するが、それでもかなり慣れてきてはいるみたいだった。
夜にお気に入りのクッションの代わりに、穂月を抱えている菜月は団欒中のリビングでほうっと息を吐く。
「久しぶりの帰省で疲れた?」
妹の好物であるホットミルクを、葉月は笑顔で差し出す。
ありがとうと受け取った菜月は一口だけ飲んで、マグカップをテーブルに置いた。
「それもあるけど、どちらかといえばホッとしたのかしらね」
「悩み事でもあった? なっちーは順風満帆の人生を歩んでるように見えるけど」
しかし他人からすれば羨ましい道のりが、当人にもそうであるとは限らないのが人生の難しさだ。
菜月もそうだったのかと思いきや、意外にも悩みは別のところにあった。
「私に関して言えばそうなのだけれど、ね」
「もしかして真君?」
両親は仲良くキッチンで後片付けしながら談笑している。
和葉にとっては楽しみな時間らしく、手伝おうとすれば笑顔で拒否される。
声が届いて邪魔をするのも申し訳ないので、少しばかり小声で尋ねた葉月に、妹は憂いを帯びた顔を上下に動かした。
「本人は画家になりたかったみたいだけれどね」
「諦めちゃったの?」
「私は挑戦してみればと言ったのだけれど、絵の道だけで食べていくのは無理そうだって真がね……」
「そっか。こればかりは難しいね」
「うん……」
穂月を横に座らせ、両手で持ったマグカップに菜月が視線を落とす。
「ねえ、はづ姉。私は真に何をしてあげればいいのかな……」
「うーん……。
そうだ! 逆に考えたらどうかな」
「逆?」
「なっちーがどうしてあげたいかじゃなくて、真君がどうしたいか聞くの。
彼はしっかりしてる子だから、言い出せないけど考えてることがあるような気がするんだよね」
「……そう……なのかもしれないわね……」
ホットミルクで喉を潤し、菜月は柔らかく微笑む。
「わかった。たまにはお姉ちゃんの言う通りにしてみるわ」
*
翌日には菜月は同じく帰省中だった真と話し合い、その報告を葉月にしてくれた。
大学時代に菜月が自分を支えてくれたみたいに、卒業したら大手メガバングで戦うことになる菜月を支えたいのだと真が言ったらしい。
その真はやはり絵が好きなので、絵画教室でアルバイトをしながらという話だ。
卒業後も今の住居を維持することになり、そのうち完全に同棲するのではないかしらと、その夜の菜月はとても嬉しそうだった。
朝から大はしゃぎの穂月が、どうやら名前を呼んでいると思われる奇声を上げて、昨夜に帰省したばかりの叔母にまとわりつく。
微笑ましい目で見守っている葉月を怒ったりはせず、ギュッと足に抱き着いてくる姪の頭を菜月は優しく撫でる。
擽ったそうにしながらも、満面の笑みを浮かべる穂月に葉月のみならず、見ている誰もがほっこりせずにはいられない。
「ちょっと穂月、どこに連れて行こうというの」
パジャマ代わりに着ていた学生時代のジャージのズボンを引っ張られ、菜月は玄関へと向かう。
どうやら小さな天使は、昨夜に少しだけ降った雪を見に行きたいようだ。
「待って、この恰好で外に出るのはさすがに躊躇われるわ。この年でパパと同類になるわけにはいかないの」
「……どういう意味だと思う?」
「春道さんが部屋着でジャージばかり着ているからでしょう」
「やっぱりか……でも楽なんだよなあ。いつか菜月にも良さがわかるさ」
「菜月が言ってるのは、近所だからといってジャージ姿で出歩かないように、ということだと思うわよ」
重ねて愛妻に注意された春道が、心なしかしょんぼりと肩を落とした。
「私は構わないと思うけどな。最近はデザイン性の高いジャージだって増えてるし、それどころかステテコだって今じゃ、お出掛けにも耐えられるほどお洒落になってきてるんだよ」
「生地の薄い短パンみたいな感じで、特に寝苦しい夜には最適だな」
「あ、もう持ってたんだね、パパ」
ジャージからステテコ、そこからパジャマの話に移行し始めたところで、コートを羽織ったジーンズ姿の菜月が階段から下りてきた。
穂月の着替えもさせており、防寒対策はバッチリだ。
「はづ姉、穂月を外で遊ばせてもいいのよね?」
「うん、お願いするよ。私はあんまり激しく動けないし」
「妊娠中だものね……実希子ちゃんたちと同じで……」
昨夜の帰省後に改めて妊娠の報告をしたのだが、やはり友人たちと揃ってという状況が不可思議に思えたらしく、またしても呆れられてしまった。
とはいえしっかりお祝いもしてくれたが。
*
玄関のドアを開けると、瞬間的に息が止まるような冷風が吹き付けてきた。
強く吹く北風は瞬時に体温を奪うので、防寒具なしで外に出るのは自殺行為だ。
それでも日が差せば体感温度も上がり、動いているうちに汗をたくさんかく。
体が冷えた場合に備えてお風呂を沸かしてから外に出た葉月は、すぐに正解だったと微笑んだ。
手袋からでも伝わる雪の冷たさにひとしきりはしゃいだあと、少ない雪を掻き集めて小さな雪だるまを作ったらしい。
玄関横にちょこんと置かれている可愛らしい雪だるまには泥も混じっているが、製作者の小さな天使は実に誇らしげだ。
その後はほとんど追いかけっこをしていたらしく、相手をしてくれていた菜月も少し汗を掻いていた。
「なっちーも穂月もお風呂が沸いてるよ。汗を流してからお昼にしよう」
「ほら、穂月。帰るわよ」
「あいー」
菜月に背中を押されて家に戻ろうとするも、途中ですり抜けて、キャッキャッと走り出す。
すぐに掴まるのだが、両手で拘束された愛娘はとても楽しそうで、すっかり叔母とも仲良くなったのがわかる。
「なっちーは本当に子供に好かれるんだね」
「自覚はないのだけれど……」
玄関で穂月のジャンパーを脱がせながら、菜月が苦笑する。
実際に小学校の頃とかであっても、下級生から極端に懐かれたりということはなかったらしい。
「でも穂月はなっちーが大好きみたいだし、希ちゃんも」
「穂月はともかく、希ちゃんの場合は本の匂いに反応しているだけだと思うわよ」
「のぞー?」
友人の名前が聞こえると同時に、穂月が愛らしい顔を輝かせた。
クイクイと葉月のズボンを引っ張るあたり、遊びたくて仕方がないのだろう。
「なっちーが帰省するのは教えておいたから、きっと午後にでも遊びに来るよ。今日はムーンリーフも休みだし」
売上が減るし、不満を覚える客もいるだろうが、一週間に一度の定休日や、たまには社員旅行なんかも行ったりする。
仕込みがあると長時間の労働になりがちだが、中抜けというか休憩時間をちょくちょく取れるのは大きい。
おまけにきちんとボーナスもあるので、好美はホワイト企業だと言ってもいいと胸を張っていた。
「はづ姉のお店も順調そうで何よりだわ。
実希子ちゃんが来るのは気が重いけれど」
「どうして?」
「希ちゃんがあまりに私に甘えるものだから、大人げなく嫉妬するのよ……」
そう零した菜月は、今から疲れ切った表情を浮かべていた。
*
予感が確信に変わった昼下がりの高木家。
今にもぐぬぬと唸りだしそうな実希子の視線の先にいるのは、膝の上に希を乗せた菜月だった。
葉月の予想通りに実希子が希を連れて遊びに来たのだが、普段は隙あらばのんびりしたがる希が、菜月を見るなり行動を開始した。
足元までトコトコ歩き、ズボンを掴んでじっと見上げる。
子供特有の可愛らしさに菜月が自然と頭を撫で、気が付けばソファで膝の上に乗せていた。
「なつきちゃん」
「あら、希ちゃんはきちんと私の名前を言えるのね」
「うん」
苦も無く成立する会話に、背後に稲妻が見えそうなくらい実希子が驚く。
「な、なあ、希……母ちゃんの時とは違って良くしゃべるなあ」
冷静さを取り戻せないままに、棘を含んだ台詞を口にした実希子を、当の希は一瞥すらしない。
「……そういうところじゃないの。実希子ちゃんが嫌われているのって」
「ち、違う! アタシは嫌われてなんかないっ!
そうだよな、希、なっ? なっ?」
必死にご機嫌を取ろうとする実希子だが、なんとか愛娘の視界に入り込んだと思った途端に、ふいと顔を逸らされてしまう。
ほとんど絶望に近い勢いで新たなショックを上積みした実希子は、しばらく硬直したあと、
「……穂月、穂月、ちょっと来い」
と、対希用最終決戦兵器の投入を決定した。
何が起こるのか予測できたのか、条件反射的に希が全身をビクッと揺らす。
「だから、そういうところが娘に反発心を植え付けるんでしょ」
ジト目で菜月に注意された実希子は、愛娘の代わりに穂月を抱っこしてしゅんとする。まるで落ち込んだ犬の尻尾みたいに、ポニーテールが垂れ下がって見えた。
「だってさ、アタシじゃ何をしても希は笑ってくれないしさ」
「……まるで好きな女の子にちょっかいを出したがる男の子みたいね」
反論したそうにして、すぐに実希子が口を閉じる。
まさにぐうの音も出なかったのだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「前にも言ったけれど、希ちゃんの好きなことを一緒に楽しみなさい」
せめてもの抗議に頬を膨らませた実希子に、菜月が真面目に助言する。
どちらが年上かわからない光景だが、幸いにして年下の言葉もきちんと聞ける実希子だけに葉月は心配していなかった。
「きっと絵本とかも買ったはいいけど、希ちゃんに一人で読ませてるんでしょ? もしくは途中で実希子ちゃんが外で遊ばせたがるとか」
「うっ……なっちーはエスパーか」
「やっぱりね。希ちゃんは幼くとも自分の意思をきちんと持っているように見えるわ。実希子ちゃんもその点を考慮して接するべきね」
「……努力します」
*
新築してからも、あまり実家で過ごす機会は多くなかった菜月はまだホテルに泊まっているみたいだと苦笑するが、それでもかなり慣れてきてはいるみたいだった。
夜にお気に入りのクッションの代わりに、穂月を抱えている菜月は団欒中のリビングでほうっと息を吐く。
「久しぶりの帰省で疲れた?」
妹の好物であるホットミルクを、葉月は笑顔で差し出す。
ありがとうと受け取った菜月は一口だけ飲んで、マグカップをテーブルに置いた。
「それもあるけど、どちらかといえばホッとしたのかしらね」
「悩み事でもあった? なっちーは順風満帆の人生を歩んでるように見えるけど」
しかし他人からすれば羨ましい道のりが、当人にもそうであるとは限らないのが人生の難しさだ。
菜月もそうだったのかと思いきや、意外にも悩みは別のところにあった。
「私に関して言えばそうなのだけれど、ね」
「もしかして真君?」
両親は仲良くキッチンで後片付けしながら談笑している。
和葉にとっては楽しみな時間らしく、手伝おうとすれば笑顔で拒否される。
声が届いて邪魔をするのも申し訳ないので、少しばかり小声で尋ねた葉月に、妹は憂いを帯びた顔を上下に動かした。
「本人は画家になりたかったみたいだけれどね」
「諦めちゃったの?」
「私は挑戦してみればと言ったのだけれど、絵の道だけで食べていくのは無理そうだって真がね……」
「そっか。こればかりは難しいね」
「うん……」
穂月を横に座らせ、両手で持ったマグカップに菜月が視線を落とす。
「ねえ、はづ姉。私は真に何をしてあげればいいのかな……」
「うーん……。
そうだ! 逆に考えたらどうかな」
「逆?」
「なっちーがどうしてあげたいかじゃなくて、真君がどうしたいか聞くの。
彼はしっかりしてる子だから、言い出せないけど考えてることがあるような気がするんだよね」
「……そう……なのかもしれないわね……」
ホットミルクで喉を潤し、菜月は柔らかく微笑む。
「わかった。たまにはお姉ちゃんの言う通りにしてみるわ」
*
翌日には菜月は同じく帰省中だった真と話し合い、その報告を葉月にしてくれた。
大学時代に菜月が自分を支えてくれたみたいに、卒業したら大手メガバングで戦うことになる菜月を支えたいのだと真が言ったらしい。
その真はやはり絵が好きなので、絵画教室でアルバイトをしながらという話だ。
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