その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

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愛すべき子供たち編

皆でお祭り

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 星が輝く時間帯になっても、人と屋台の熱気で風が生暖かく感じる夜。

 通り過ぎる人々の大半は浴衣を着ており、夏らしい光景にピーヒャララと笛の音が聞こえてきそうだ。

 今年もムーンリーフでは屋台を出しており、縁日に参加する人たちの間でもそれなりに認知されるようになっていた。

 一口サイズの冷やしたケーキは特に女性に人気で、エスコートしている男性も女性をなんとか喜ばせようと屋台を見つければすぐに歩み寄る。

「ありがとうございますぅ」

 舌足らずの特徴的な声で、購入したカップルに茉優が一口ケーキを手渡す。
 屋台用のムーンリーフオリジナルTシャツにジーンズという服装だ。

「穂月ちゃんもお揃いだねぇ」

「あいっ!」

 嬉しそうに手を上げる穂月。

 縁日前に葉月が用意しているのを見て欲しがったので、子供たち用にも作ったのだ。浴衣ではなく、Tシャツを着たがったのは、自分も大人たちに混ざりたかったからだろうか。

「はっはっは、それを言うならウチの子供たちもだぞ」

「実希子ちゃん。希ちゃんたちもTシャツを着たがったの?」

 名前を呼んでから挨拶をした友人は、葉月が質問すると同時に朗らかな笑みを一転させる。

「希が動きたがらないから、仕方なしにアタシが選んで着せた。そしたら智希が同じのを着たがって今に至るってわけだ」

「そうなんだ。智希君は相変わらずお姉ちゃんっ子なんだね」

「たいして世話されてるわけでもないのに不思議だよな」

 母親同士が会話している間に、希を見つけた穂月が駆け寄る。

「あいだほっ」

「……あいだほー」

 薄っすらと目を開けて挨拶を返す希。
 やっと立っている感じでふらふらしているので、どうにも危なっかしい。

「のぞちゃんもよみせー?」

「そう」

「どこいきたいー?」

「家」

「なにするー?」

「寝る」

 短い受け答えの最中も希は夢の世界に旅立ちそうだが、楽しそうに質問している穂月に気にした様子は一切ない。

 慣れているのか、諦めているのかは葉月にもわからない。

「こんばんはー」

 そこに尚も加わる。

 朱華はすぐに穂月を探し、晋悟を連れて輪に入った。

 子供たちが夜に友人と外で遊べる機会は多くないので、眠そうな希と真顔で姉の隣に立つ智希を除けば皆が楽しそうだ。

「相変わらず実希子ちゃんの子供たちは我が道を行ってるわね」

「言うな」

「まあ、元気に成長してるんだからいいじゃない」

 尚に背中を叩かれ、実希子が顔を顰める。

「店番の好美はいいとして、柚は来ないのか?」

「柚ちゃんならさっき会ったわよ。同僚の人と見回りしてたわ」

「そういや小学校の先生だったな」

「忘れちゃだめでしょ。朱華の担任じゃなかったけど、穂月ちゃんたちを担当する可能性だってあるんだし」

 穂月たちは今年で六歳。
 来年には幼稚園を卒園して、小学校へ入学する。

「もう小学校か。なんかあっという間だったね」

「振り返るにはまだ早すぎるだろ。あんま懐かしんでばかりいると、おばさん化が進んじまうぞ」

 実希子にからかわれ、大げさに頭を抱えて見せる。
 笑い合っていると、とことこと朱華が尚に近づいてきた。

「ママ、私たちだけで夜店を見てきてもいい?」

 もう小学校二年生の朱華はだいぶ受け答えもしっかりしてきている。
 年齢相応にはしゃいでそこらを駆け回ることも多いが、穂月に比べれば立派なお姉さんである。

「うーん……さすがに子供たちだけはちょっと危険よね」

 子供だけでという状況に憧れる気持ちはわかるが、縁日はとにかく人が多い。
 油断していると簡単にはぐれるし、夜店が並ぶ通りから離れると、薄暗い路地だってある普通の夜の町なのだ。

「なら私が見てるよ。
 実希子ちゃんたちは茉優ちゃんのお手伝いをお願いできる?」

「ああ、いいぜ」

「一回りしたら戻ってくるから、そしたら交代しよ」

 葉月の提案に実希子だけでなく尚も頷いてくれたので、元気に歩き出す子供たちの後ろをついていく。

   *

 各自バラバラに行動して収拾がつかなくなるようなこともなく、朱華を中心にまとまって動く。

 限りある予算内で買物をどう楽しむかを学んでもらうためにも、穂月たちにはお小遣いとして千円を渡していた。

 子供たちにはかなりの大金となるため、年長者の朱華でも受け取った時には鼻息を荒くしたほどだ。

「はるやはなにかたべたいー?」

 手を繋いで歩く弟を、穂月が笑顔で振り返る。

「おかしー」

「じゃあ、わたあめっ」

 リクエストに応えるため、きょろきょろと綿菓子を作っている出店を穂月が探す。

「んー……あっちかな」

 満員電車みたいに混雑する大通りでは、子供の背では遠くまで屋台を見渡すことができない。予測をつけて動き出した穂月だったが、すぐに春也と二人で立ち往生してしまう。

「おねえちゃん……」

 二人だけで心細くなったのか、春也が泣きそうな顔で穂月の腕を引っ張る。

「だいじょうぶだよ、おねえちゃんにまかせて」

 とてとてと歩く穂月。
 子供の足ではすぐに遠くまではいけないが、油断していると葉月も二人を見失ってしまう。

 急いで追いかけようとしたが、タイミング悪く、朱華が晋悟が興味を示した輪投げ店の前で立ち止まる。

 ――ヤバっ!

 穂月たちを追いかけると朱華たちを見失い、朱華たちを見守っていると穂月たちの行方がわからなくなる。

 焦りで汗が噴き出しそうになった瞬間、葉月の前を小さな影が横切る。

「皆で一緒に行く方がいいよ」

「あっ、のぞちゃん」

 Tシャツの裾を引っ張られ、振り返った先にいた友人に穂月が笑顔を見せる。

「はるやがわたあめたべたいって」

「でもはぐれたらだめ」

「そっか……うん、そうだよね」

 希に引っ張られて、穂月が葉月のところまで戻ってくる。

「穂月、勝手に遠くへ行こうとしたら駄目だよ。
 希ちゃん、ありがとう」

 先ほどの俊敏な動きはどこへやら、また眠そうに希は目を瞬かせていた。

   *

「わたあめください」

 ようやく見つけた念願の綿菓子屋台で、背伸びをした穂月がカウンターに四百円を置いた。

 自分の好きなキャラクターものを選ぶかと思いきや、春也が最近ハマっている特撮の写真がプリントされた袋を選んだ。

「はい、はるや」

「わーい、ありがとう、おねえちゃん」

 両手で綿飴を抱きしめる春也はとても嬉しそうである。

「えへへ」

 穂月も嬉しそうで、にこにこと話し合いながら、次なる屋台を物色する。

 今度は朱華――というか晋悟の希望で一回二百円の輪投げを全員で遊ぶ。
 何も取れなかったが、三つの輪を分け合って姉弟仲良く笑い声を上げる。

「のぞちゃんはどこがいいー?」

「休めるベンチ」

 迷子になる危険から救ってくれた友人に穂月が行き先を振ってみたが、返ってきたのは睡眠第一の希らしい答えだった。

「うーん……じゃあくじ?」

 何故その結論に辿り着いたのか葉月が尋ねると、穂月は番号で景品を当てる屋台を指差した。

「おおきなぬいぐるみがあるのー。ふかふかだからねむれるー」

 どうやら抱き枕的な用途で、首に赤いリボンを巻いた茶色い熊のぬいぐるみを希に勧めたかったようだ。

 その導きに誰より目を輝かせたのは希――ではなく、その弟だった。

 ふんぬと気合を漲らせ、くじの屋台に近づく。
 景品にはキャラクターものもあるので、春也や晋悟も興味を示した。

 当たりくじ入ってますとカウンターに案内が置かれているが、一回三百円のくじではどう考えても奥に飾ってある最新のゲーム機が当たるとは思えない。

 案の定、智希が当てたのは小さなキーホルダーだった。

「ぐ……うぐぐ……」

 あまりにもの凄い悔しがり方をするので、店主も若干引き気味である。

 見かねたわけではないだろうが、今度は希も引くことにする。
 店主が気を利かせて先ほどのと合わせて二回五百円の料金を適用してくれた。

 そして――

「お、大当たりっ! おめでとう、お嬢ちゃん!」

 希が引き当てたのは、
 穂月が指先であるのを教えた例の大きなぬいぐるみだった。

   *

 希が抱っこしていた彼女の身長近くもあるぬいぐるみに目をひん剥いた実希子だったが、葉月が事情を説明すると苦笑いを浮かべた。

「ああいう屋台のくじは当たりがないのが定番だろ。よく当てたな」

「目玉はゲーム機みたいだったけど、当たりは入ってるって知らせてたから、言い訳というか、その証明みたいなものだったんじゃないかな」

 熊のぬいぐるみが置かれていたスペースには、早速大当たりが出ましたという紙を貼っていたので、もしかしたらゲーム機も出るかもと欲望に負けた客が押し寄せる可能性もある。

 すでに大当たりが出てしまったから、もうないだろうと敬遠される可能性も同時に発生してしまうが。

「ゲーム機が当たるとは思えないから、このぬいぐるみがその屋台の目玉だったに違いないわね」

 店を閉めてから屋台を手伝いに来ていた好美が、在庫がほとんどなくなりつつある冷やしケーキを準備しながら内情を予測していた。

「店主の方も、
 まさか序盤で引き当てられるとは予想もしていなかったでしょうね」

「でもさ、終わり頃になって事前に抜いてた当たりくじを戻したりするわけでもなく、真っ当にやってたのには好感が持てるよね。ゲーム機云々は抜きにしてだけど」

「最近は下手を打つとすぐにSNSで晒されるもの。昔ながらの屋台運営方法は厳しいのよ」

「良くも悪くもって感じだね」

 これも時代だねと葉月がしみじみ頷いていると、隣で聞いていた実希子がやっぱりおばさんくさいと笑った。
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