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孫たちの学生時代編
子守りをする穂月にギャン泣きの試練!? なんとか乗り切って陽向の卒業式を迎えましょう
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冬休みも明け、中学2年生としての学校生活も残り少なくなってきたとある休日。穂月が久しぶりに家でゴロゴロしていたら、用事があるという叔母に子守りを頼まれた。
二つ返事で了承したまでは良かったが、赤ちゃんをきちんとお世話した経験はない。何せ弟が小さい頃は、穂月も同様に幼かったのだ。
それでも可愛らしい従妹の寝顔を見れば、とても無理とは言い出せなかったのである。
「ミルクの準備も完璧だし、オムツを取り換えるのは穂月にもできるし、さあ、どんとこいだよ!」
くわっと目を開き、お相撲さんみたいなポーズを取ってみたが、当の赤ちゃんはリビングの簡易ベッドですやすやとお休み中だった。
考えてみれば叔母も娘の様子が落ち着いていたからこそ、穂月に子守りを任せてくれたのだろう。そうでなければ他に誰も家族がいない状況で外出するとは思えない。
「すぐ帰ってくるって言ってたし、あんまり心配することなかったかな。これがアニメとかだと、意味不明に泣き出してカオスな状況になるんだよね」
ほっぺをつんつんしてみる。お餅みたいに柔らかくて、何度も触りたくなる。
「なーんてね、現実とフィクションは違うし、そうそう最悪な展開になんて――」
「ふぎゃあああ!」
「ふおおおお!? まさか穂月がぷにぷにしたせいかな!? ど、どうしよう! 真菜ちゃん、穂月、どうすればいいかな!?」
真菜と名付けられている姪が答えてくれるはずもなく、先ほどまでの安らかさが嘘みたいに、ひたすら豪快に泣き続ける。
「ええと、オムツ……は大丈夫みたいだね、それじゃミルクかな?
……飲まないね。そうなると単に機嫌が悪いってこと?」
近くにあったガラガラ鳴る玩具を使ってみるが、ご機嫌斜めぶりは変わらない。おまけにどんどん泣き声が激しくなっていく。
「これはとんだアニメ展開だよ……!」
額に滲んだ汗を手の甲で拭い、改めて赤ちゃんを注視する。
「……うん! 訳がわからないことしかわからないよ!」
無意味にサムズアップしてみたが、まだ1歳に満たない赤子に理解できるはずもなく、余計にギャン泣きしてしまう。
「ど、どうすればいいのかわからないよ! 誰かヘルプミーだよ!」
穂月が頭を抱えた丁度その時、高木家の呼び鈴が鳴った。救世主現ると赤子を連れて玄関へ急ぐ。
「よう、遊びに来た――」
「まーたん、さあ、穂月を助けて!」
「は!? おい、なんかとんでもなく泣いてんじゃねえか!」
きちんと手洗いをうがいを終えた陽向に、穂月は一縷の望みをかけて従妹を抱かせてみる。
「穂月よりおっぱいが大きいから、きっとお母さんを思い出せるよ!」
「おっぱいのデカさは関係ねえだろ! それにコイツの母親といえば……」
「菜月ちゃん、ナイチチだったね」
「本人の前で言うんじゃねえぞ」
障子はないので耳の心配はないが、壁に目がついてないか2人できょろきょろしてみたあと、改めてリビングで猛烈に泣き続ける赤子を見る。
「おしっことかしたんじゃねえの?」
「確認してみたけど違うみたいだよ。ミルクでもないみたい。だからご機嫌を取ろうとしたんだけど、まーたんと違って穂月に芸人魂はなかったんだよ!」
「よし、とりあえず落ち着け。そしてそんな魂は俺にもない」
抱きかかえた真菜をしばらく見つめたあと、陽向がおもむろに変顔し始めた。
「ぶほっ!」
「ほっちゃんが笑ってどうすんだよ!」
「だって……! ちょっと待ってて、デジカメ探してくる!」
「やめろ!
つーか、やっぱり泣き止まねえな……」
「うーん……こうなったら困った時の友頼みだよ!」
陽向に赤ちゃんを見ててもらい、穂月はリビングの電話から次々に友人を招集した、
*
「……こういう時は一緒に寝てあげればいい」
「おー」
「のぞちゃんが寝たいだけだろ、それ」
瞬く間に希は寝息を立て始めたが、陽向がさっきからよしよしとしている赤ん坊の有様は微塵も変わらない。
「真菜は強敵なんだよ、あっという間にのぞちゃんがやられたよ」
「ちょっと期待してみたんだが、やっぱり戦力に数えるべきじゃなかったな」
就寝中の希を横目に、陽向とあーだこーだ言ってると悠里も来てくれた。
「はわわ、真菜ちゃんがまーたんにいじめられてるのっ。ゆーちゃんが助けてあげるの! ほっちゃん、バットか包丁を貸して欲しいの!」
「おー」
「殺す気か! ほっちゃんもおーとか言ってきょろきょろすんな!」
仲間にしか通じない冗談じみたいつものやり取りを終えると、悠里も難しい顔になって陽向の胸に抱かれた赤ちゃんを覗き込んだ。
「ご飯でもトイレでもないとすると、病気かもしれないの! お熱を測ってみるの!」
「その可能性もあったよ! ゆーちゃんの言う通りだとしたら一大事だよ! 救急車を呼ぶには……666?」
「悪しき何かが呼び出されそうだから、それだけはやめてくれ! あと別に熱はなさそうだぞ。赤ちゃんだから体温は高いみたいだけどな」
「じゃあ、ますます謎なの。ここはゆーちゃんたちの知恵袋のさっちゃんの到着を待つの」
悠里が言い終わるのが早いか、またしても呼び鈴が鳴った。全員で頷き合い、一斉に玄関のドアを開ける。
「おーほっほっ! 困りごとを解決するために参上いたしましたわ」
「間に合ってますなの」
「ゆーちゃんさん!? 冬なのに自転車で駆け付けた友人にあまりの仕打ちですわよ!」
「だってりんりんじゃ役に立たないの。入団即戦力外候補筆頭なの」
改めて悠里がドアを開けるなりの毒舌ぶりに、毎度のことと理解しながらも背の高い友人は頬筋をヒクつかせる。
「何事もやってみなければわかりませんわよ!」
*
「……もはやなすすべがありませんわ」
家に上がった時の威勢はどこへやら、凛がリビングの変わらぬ惨状にガックリする。途中で沙耶も到着したが、穂月たち同様赤子をあやすことはできなかった。
「完全に迷宮入りしたよ。さすがの穂月も焦りが絶好調だよ」
「そういう使い方は初めて聞いたぞ。
それより、のぞちゃんはよくこの状況下で寝てられるな」
呆れた陽向が鼻から息を吐く。その直後にガチャガチャと鍵が開く音がした。
「菜月ちゃんが帰ってきたみたいだよ!」
全員の顔に安堵が広がり、そして――
「ただいまー。やっぱ姉ちゃんたち集まってたんだ」
顔を見せた春也に全員が落胆した。
「まーねえちゃんまで何だよ、その反応! さすがに傷つくぞ!」
春也の背後には、希と朱華の弟の姿もあった。
「つーか、真菜が泣いてんの? 菜月ちゃんはどうしたんだよ」
「穂月がお留守番とお守りを頼まれたんだよ。そうしたら現実はアニメの味方だったと判明したんだよ!」
「要するに姉ちゃんがまた変なことしたんだな」
「ふおお!?」
穂月が愕然としていると、最後に朱華がやってきた。現状を把握すると陽向から赤ちゃんを受け取り、よしよしとあやし始める。
「赤ちゃんが泣くのは大抵理由があるけど、そうでもない時もあるのよ。病気などの可能性を1つずつ消していったら、あとは疲れるまで泣かせてあげるのも手ね」
「おー。さすがあーちゃん」
「こう見えても、少しだけほっちゃんたちのお世話をしたからね」
朱華と穂月、それに希は幼い頃からムーンリーフを託児所代わりに過ごした。親たちは店が忙しいのもあり、時には物心ついたばかりの朱華がお姉さんらしく面倒を見てくれたのだという。
「ほっちゃんもよく泣いてたらしいわよ、特に夜」
「そうなんだー。こんな状況が夜に続いたら大変だね。お世話をしてくれたママに感謝だよ」
穂月が言うと、他の面々も自分の小さい頃を想像したみたいで、それぞれの母親の苦労を思いやるように頷いていた。
*
なんとか留守番と子守りをやりきってから少しすると、卒業式の季節になる。桜が咲くのはまだ少し先だが、穂月の学校もしんみり感が強くなる。
皆で陽向の卒業を見守ったあと、花束を渡すべく中庭で待ち構える。
「やっぱり、なんだか寂しいね」
穂月が零すと、心配ないとばかりに希が背中に体重をかけてきた。
「……卒業してもきっとたくさん会える。だってまーたんだし」
「のぞちゃんの言う通りなの! ヤンキーが南高校に受かるわけないから、日雇い労働の後に毎日遊びに来るはずなの」
「ゆーちゃん、さすがにそれは……」
「さっちゃんは違う未来が想像できるの?」
「そう言われると辛いです」
「何せまーたん先輩ですものね」
「お前ら! 好き勝手に言ってんじゃねえよ!」
いつの間にやってきたのか、穂月たちがコソコソ話していたど真ん中に陽向が飛び込んできた。
「特にゆーちゃん、合格発表もまだなのに人を浪人させてんじゃねえよ!」
「ひいいっ、乱暴者のヤンキーはさっさとゴーホームするのっ」
こめかみをグリグリされて悠里を半泣きにさせてから、陽向は「まあ、いいさ」とやたら上機嫌に胸を張る。
「まーたん、嬉しそうだね」
穂月が確認すると、わかるかと言わんばかりにニヤリとした。
「小学校の時の朱華じゃねえけど、ついに俺もスマホを買ってもらったんだ!」
朱華だけは小学校卒業と同時に与えられていたが、中学校でLINEを無視したという事件の影響で、中学卒業後まで待たされることになったのである。
「あーちゃんとやりとりしたの?」
「……いや、もう受験も終わったってのに、入学後のためにとかっていまだに夜はあーちゃん家で勉強させられててな。俺はもう勘弁してほしいのに、オフクロが夜に1人でいさせるよりはってな……」
「おー」
「ほっちゃんも他人事ではないです。受験生になるんですから」
「ふおお!?」
沙耶に指摘されて盛大に狼狽する穂月を、仲間たちが楽しそうに笑う。中学生最後の1年の始まりがすぐそこまで迫っていた。
二つ返事で了承したまでは良かったが、赤ちゃんをきちんとお世話した経験はない。何せ弟が小さい頃は、穂月も同様に幼かったのだ。
それでも可愛らしい従妹の寝顔を見れば、とても無理とは言い出せなかったのである。
「ミルクの準備も完璧だし、オムツを取り換えるのは穂月にもできるし、さあ、どんとこいだよ!」
くわっと目を開き、お相撲さんみたいなポーズを取ってみたが、当の赤ちゃんはリビングの簡易ベッドですやすやとお休み中だった。
考えてみれば叔母も娘の様子が落ち着いていたからこそ、穂月に子守りを任せてくれたのだろう。そうでなければ他に誰も家族がいない状況で外出するとは思えない。
「すぐ帰ってくるって言ってたし、あんまり心配することなかったかな。これがアニメとかだと、意味不明に泣き出してカオスな状況になるんだよね」
ほっぺをつんつんしてみる。お餅みたいに柔らかくて、何度も触りたくなる。
「なーんてね、現実とフィクションは違うし、そうそう最悪な展開になんて――」
「ふぎゃあああ!」
「ふおおおお!? まさか穂月がぷにぷにしたせいかな!? ど、どうしよう! 真菜ちゃん、穂月、どうすればいいかな!?」
真菜と名付けられている姪が答えてくれるはずもなく、先ほどまでの安らかさが嘘みたいに、ひたすら豪快に泣き続ける。
「ええと、オムツ……は大丈夫みたいだね、それじゃミルクかな?
……飲まないね。そうなると単に機嫌が悪いってこと?」
近くにあったガラガラ鳴る玩具を使ってみるが、ご機嫌斜めぶりは変わらない。おまけにどんどん泣き声が激しくなっていく。
「これはとんだアニメ展開だよ……!」
額に滲んだ汗を手の甲で拭い、改めて赤ちゃんを注視する。
「……うん! 訳がわからないことしかわからないよ!」
無意味にサムズアップしてみたが、まだ1歳に満たない赤子に理解できるはずもなく、余計にギャン泣きしてしまう。
「ど、どうすればいいのかわからないよ! 誰かヘルプミーだよ!」
穂月が頭を抱えた丁度その時、高木家の呼び鈴が鳴った。救世主現ると赤子を連れて玄関へ急ぐ。
「よう、遊びに来た――」
「まーたん、さあ、穂月を助けて!」
「は!? おい、なんかとんでもなく泣いてんじゃねえか!」
きちんと手洗いをうがいを終えた陽向に、穂月は一縷の望みをかけて従妹を抱かせてみる。
「穂月よりおっぱいが大きいから、きっとお母さんを思い出せるよ!」
「おっぱいのデカさは関係ねえだろ! それにコイツの母親といえば……」
「菜月ちゃん、ナイチチだったね」
「本人の前で言うんじゃねえぞ」
障子はないので耳の心配はないが、壁に目がついてないか2人できょろきょろしてみたあと、改めてリビングで猛烈に泣き続ける赤子を見る。
「おしっことかしたんじゃねえの?」
「確認してみたけど違うみたいだよ。ミルクでもないみたい。だからご機嫌を取ろうとしたんだけど、まーたんと違って穂月に芸人魂はなかったんだよ!」
「よし、とりあえず落ち着け。そしてそんな魂は俺にもない」
抱きかかえた真菜をしばらく見つめたあと、陽向がおもむろに変顔し始めた。
「ぶほっ!」
「ほっちゃんが笑ってどうすんだよ!」
「だって……! ちょっと待ってて、デジカメ探してくる!」
「やめろ!
つーか、やっぱり泣き止まねえな……」
「うーん……こうなったら困った時の友頼みだよ!」
陽向に赤ちゃんを見ててもらい、穂月はリビングの電話から次々に友人を招集した、
*
「……こういう時は一緒に寝てあげればいい」
「おー」
「のぞちゃんが寝たいだけだろ、それ」
瞬く間に希は寝息を立て始めたが、陽向がさっきからよしよしとしている赤ん坊の有様は微塵も変わらない。
「真菜は強敵なんだよ、あっという間にのぞちゃんがやられたよ」
「ちょっと期待してみたんだが、やっぱり戦力に数えるべきじゃなかったな」
就寝中の希を横目に、陽向とあーだこーだ言ってると悠里も来てくれた。
「はわわ、真菜ちゃんがまーたんにいじめられてるのっ。ゆーちゃんが助けてあげるの! ほっちゃん、バットか包丁を貸して欲しいの!」
「おー」
「殺す気か! ほっちゃんもおーとか言ってきょろきょろすんな!」
仲間にしか通じない冗談じみたいつものやり取りを終えると、悠里も難しい顔になって陽向の胸に抱かれた赤ちゃんを覗き込んだ。
「ご飯でもトイレでもないとすると、病気かもしれないの! お熱を測ってみるの!」
「その可能性もあったよ! ゆーちゃんの言う通りだとしたら一大事だよ! 救急車を呼ぶには……666?」
「悪しき何かが呼び出されそうだから、それだけはやめてくれ! あと別に熱はなさそうだぞ。赤ちゃんだから体温は高いみたいだけどな」
「じゃあ、ますます謎なの。ここはゆーちゃんたちの知恵袋のさっちゃんの到着を待つの」
悠里が言い終わるのが早いか、またしても呼び鈴が鳴った。全員で頷き合い、一斉に玄関のドアを開ける。
「おーほっほっ! 困りごとを解決するために参上いたしましたわ」
「間に合ってますなの」
「ゆーちゃんさん!? 冬なのに自転車で駆け付けた友人にあまりの仕打ちですわよ!」
「だってりんりんじゃ役に立たないの。入団即戦力外候補筆頭なの」
改めて悠里がドアを開けるなりの毒舌ぶりに、毎度のことと理解しながらも背の高い友人は頬筋をヒクつかせる。
「何事もやってみなければわかりませんわよ!」
*
「……もはやなすすべがありませんわ」
家に上がった時の威勢はどこへやら、凛がリビングの変わらぬ惨状にガックリする。途中で沙耶も到着したが、穂月たち同様赤子をあやすことはできなかった。
「完全に迷宮入りしたよ。さすがの穂月も焦りが絶好調だよ」
「そういう使い方は初めて聞いたぞ。
それより、のぞちゃんはよくこの状況下で寝てられるな」
呆れた陽向が鼻から息を吐く。その直後にガチャガチャと鍵が開く音がした。
「菜月ちゃんが帰ってきたみたいだよ!」
全員の顔に安堵が広がり、そして――
「ただいまー。やっぱ姉ちゃんたち集まってたんだ」
顔を見せた春也に全員が落胆した。
「まーねえちゃんまで何だよ、その反応! さすがに傷つくぞ!」
春也の背後には、希と朱華の弟の姿もあった。
「つーか、真菜が泣いてんの? 菜月ちゃんはどうしたんだよ」
「穂月がお留守番とお守りを頼まれたんだよ。そうしたら現実はアニメの味方だったと判明したんだよ!」
「要するに姉ちゃんがまた変なことしたんだな」
「ふおお!?」
穂月が愕然としていると、最後に朱華がやってきた。現状を把握すると陽向から赤ちゃんを受け取り、よしよしとあやし始める。
「赤ちゃんが泣くのは大抵理由があるけど、そうでもない時もあるのよ。病気などの可能性を1つずつ消していったら、あとは疲れるまで泣かせてあげるのも手ね」
「おー。さすがあーちゃん」
「こう見えても、少しだけほっちゃんたちのお世話をしたからね」
朱華と穂月、それに希は幼い頃からムーンリーフを託児所代わりに過ごした。親たちは店が忙しいのもあり、時には物心ついたばかりの朱華がお姉さんらしく面倒を見てくれたのだという。
「ほっちゃんもよく泣いてたらしいわよ、特に夜」
「そうなんだー。こんな状況が夜に続いたら大変だね。お世話をしてくれたママに感謝だよ」
穂月が言うと、他の面々も自分の小さい頃を想像したみたいで、それぞれの母親の苦労を思いやるように頷いていた。
*
なんとか留守番と子守りをやりきってから少しすると、卒業式の季節になる。桜が咲くのはまだ少し先だが、穂月の学校もしんみり感が強くなる。
皆で陽向の卒業を見守ったあと、花束を渡すべく中庭で待ち構える。
「やっぱり、なんだか寂しいね」
穂月が零すと、心配ないとばかりに希が背中に体重をかけてきた。
「……卒業してもきっとたくさん会える。だってまーたんだし」
「のぞちゃんの言う通りなの! ヤンキーが南高校に受かるわけないから、日雇い労働の後に毎日遊びに来るはずなの」
「ゆーちゃん、さすがにそれは……」
「さっちゃんは違う未来が想像できるの?」
「そう言われると辛いです」
「何せまーたん先輩ですものね」
「お前ら! 好き勝手に言ってんじゃねえよ!」
いつの間にやってきたのか、穂月たちがコソコソ話していたど真ん中に陽向が飛び込んできた。
「特にゆーちゃん、合格発表もまだなのに人を浪人させてんじゃねえよ!」
「ひいいっ、乱暴者のヤンキーはさっさとゴーホームするのっ」
こめかみをグリグリされて悠里を半泣きにさせてから、陽向は「まあ、いいさ」とやたら上機嫌に胸を張る。
「まーたん、嬉しそうだね」
穂月が確認すると、わかるかと言わんばかりにニヤリとした。
「小学校の時の朱華じゃねえけど、ついに俺もスマホを買ってもらったんだ!」
朱華だけは小学校卒業と同時に与えられていたが、中学校でLINEを無視したという事件の影響で、中学卒業後まで待たされることになったのである。
「あーちゃんとやりとりしたの?」
「……いや、もう受験も終わったってのに、入学後のためにとかっていまだに夜はあーちゃん家で勉強させられててな。俺はもう勘弁してほしいのに、オフクロが夜に1人でいさせるよりはってな……」
「おー」
「ほっちゃんも他人事ではないです。受験生になるんですから」
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