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春也の高校編
秋は猛練習……かと思いきや、とあるカップルのイチャつきぶりに問題発生!?
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「よっしゃ、バッチコーイ!」
秋も深まる南高校の野球部専用グラウンド。元気な声を響かせて、練習用ユニフォームに身を包んだ1人の部員が、飛んできた打球に横っ飛びする。
追いつかなくとも悔しがったりせず、実に爽やかな笑顔でもう一丁などと叫んでは、素早く立ち上がって、グラブを広げるように拳で叩く。見る者が見れば、スポーツの秋に相応しい光景だと口元を緩めただろう。
しかし秋の大会で惨敗する原因を作った春也は違う。雪辱を晴らすため、猛練習に励む中、毎日のように練習へ参加する3年生へ声をかける。
「国体も終わったのに、部員の練習時間を奪ってどうするんスか」
「いいじゃねえか、大学で野球を続けられることになったんだ。プロはさすがに無理だろうけど、完全燃焼するための準備だよ」
陽光に輝かせるかのように白い歯を見せ、ベンチ側をチラリ。それだけで理由が他にあることは明らかだった。
「マネージャーにいいとこ見せたいだけじゃないスか」
「おいおい、俺がそんな不純な理由で汗を流すように見えるのか」
「マネージャー! 見られてると先輩が集中できないって」
春也が大声で叫ぶと、キョトンとしたあとで苦笑したマネージャーがベンチの裏に消える。
「よし、次は高木がノックを受けるか?」
「変わり身の早さはさすがスね」
矢島は要と交際しているみたいだが、甲子園から帰還後、いつになく他の女子生徒からキャーキャーと囲まれる環境に鼻の下を伸ばしに伸ばし、制裁を食らってからは事あるごとにご機嫌を取ろうとしているらしかった。
「まあ、マネージャーも満更じゃなさそうでしたけど……」
矢島が好プレーを見せるたびに、軽く飛び跳ねながらキャッキャッと拍手していたので、2人揃ってバカップルの素質は抜群といった感じである。
「じゃあ別にいいだろ。体を鈍らせたくないってのは本音だしな」
鍛えるのに時間がかかっても、衰えるのはあっという間なのが人間の肉体だ。春也も重々承知しているし、個人で自主練習するよりもチームに混ざった方が使える機器も増えて効率的なのも理解している。
「俺は構わないんスけど、3号先輩を筆頭に拗ねる部員が続出中なんで、イチャコラするんなら周りに目がないとこでやってほしいスね」
甲子園に出場したことで一時的に女子人気が急上昇した野球部の面々だが、その大半は卒業間近の3年生か、1年生ながらに出場を果たした春也や智希、ベンチに入っていて、何度かテレビに映った晋悟に集中してしまった。おかげで彼女を作るという野望を叶えられなかった部員が続出する結果になった。
「それは想いを遂げられなかった奴が悪いだろ」
春也の説明に対し、矢島は軽く肩を竦めた。
「いいっスね、1号先輩は。勝者の余裕っスね」
「うおっ!? 高梨か、いきなりビックリさせんな。
つーか、お前ってそんなキャラだったか?」
「高木と接してると、色々と染まってくるんスよ。女人気だけは染まってくれないんスけどね」
フフフと自虐的な笑みを浮かべる丸坊主。目元が妙に暗く見えるのは錯覚ではないかもしれない。
「みたいだな、にしても1号先輩って」
「どんどん数が増えてますからね。4号からは主に1号先輩が量産してますけど」
3号こと高梨にジト目で言われ、ようやく矢島は自分を見る部員の目が剣呑な輝きを宿しつつある事実に気付く。
「ま、待てよ。彼女持ちって意味なら、高木の方が先輩だろうが!」
怒りの矛先を逸らそうと必死の矢島が指を差してくるが、春也はひょいと躱してから、やれやれとばかりに首を左右に振る。
「俺は入学前からいましたし、何より練習中に頭の悪そうなラブラブ光線は放射してませんでしたからね」
「お前、言うに事欠いて頭悪いとか……」
「引退したはずの先輩が女にいいとこ見せる目的でハッスルプレイしては、キャーキャー言われて喜んでる姿なんて、部員には目の毒だってわからないみたいだし」
この時ばかりは全部員が春也の味方となり、後ろにズラッと並んではうんうん頷いている。何故かその中には監督まで混ざっていた。どうやら意中の同僚女教師にはいまだ振り向いてもらえていないらしい。
「貴様らは揃いに揃って阿呆か」
鼻で軽く嗤って、真打登場とばかりに智希が口を挟んできた。注目を集めるなり、自他ともに認めるシスコンはその実姉の自作プロマイドを数枚取り出した。
「人間は古より神仏を敬い生きてきた。なればこそ恋人などとくだらぬ存在に現を抜かしてないで、その神仏を崇めればよいのだ! そのための写真ならば特別に俺がくれてやろう!」
当たり前のように配ろうとする暴走シスコン野郎を、晋悟が大慌てで羽交い絞めにする。
「宗教じゃないんだから、信者を増やそうとしないでくれるかな!? これ以上、仕事が増えたら僕の手に負えなくなるからね!?」
晋悟が制止に入ったことでお開きみたいな雰囲気になるが、ここで大きな問題が発生する。
「監督まで一緒になって何を――」
「――あ、いた。晋悟君だ!」
勝手にグラウンドへ入ってきた数名の女子が、制服のスカートを翻してはしゃぎ、発見したばかりの晋悟に大きく手を振る。
「やっぱり最終的には晋悟がハーレムを作るのか」
「なっ……春也君、そんなことを言ったりすると――」
「「「裏切り者が!」」」
晋悟が周囲の様子を確認するのと、荒れ狂う嫉妬が込められた複数の怒声が解き放たれたのはほとんど同時だった。
*
「――なんてことがあったんだよ」
春也は正面に座って、美味しそうにパスタを食べている恋人に数日前の出来事を身振り手振りで説明したあと、大げさに溜息なんてついて見せた。
オープンカフェでとしゃれこみたいところだったが、地元はすでにコートが必要な寒さになりつつあるので、ファミレスで食事がてらお喋りをすることにしたのである。夏でもそんなお洒落なカフェは存在しないので、結局は今と変わらなかっただろうが。
「どうして男ってのは彼女のいるいないに……ってそれは女も一緒か」
思い当たる節があるのか、陽向は唇についたミートソースを舐めながら呟いた。ふとした仕草一つで思春期真っ盛りの少年の視線を釘付けにしているのだが、それにはあまり気付いていないみたいだった。
「大学でも結構その手の話は多いからな。彼氏のいる俺はいつも絡まれる側だ。といっても部だと一番モテるのぞちゃんがあの有様だから、平和なもんだけどな」
彼氏云々の話になると、あれだけ綺麗な希でも作ってないんだし、大学ソフトボールに青春を捧げるのも悪くはないよねという意見でまとまるらしい。
「大学生と高校生じゃ、なかなかカップルもできないだろうしな」
合コンを頼んだところで、背伸びして恰好をつけようとする男子高校生側が恥をかくのは想像に難くない。
「ああいうのは自然にできるもんじゃねえのか? 修学旅行の前とか」
「あー……先輩らも期待してたみたいだけど、ああいうのはイケメンに限った話だとか言って嘆いてたな」
それでも次の甲子園に主力として出場できれば、自分にもモテ期が到来するのではと考えている2年生は少なくなかった。その結果、春也を目の敵にしていたような連中まで急に優しくなったのは滑稽だが。
そのことも食べ終えた陽向に伝えると、ケラケラと笑われた。ちなみに春也はとっくの昔にステーキ2枚を完食済みである。
「それだけ春也の実力が認められてるってことだろ。秋の大会でポカはやらかしたけどな」
「黒歴史を引っ張り出すのはやめてください……」
若さゆえの過ちを犯してしまったばかりに、一生頭の上がらなくなるネタを掴まれてしまった。
「これまでは俺が照れるまーねえちゃんをからかって愛でることが多かったのに」
考えてみれば夏に慰められたことといい、付き合ってからは甘えっぱなしみたいになっている。
「ここらで一つ、男の威厳みたいなものを見せるべきだろうか」
「ハッ、くだらねえこと考えてんじゃねえよ。男だから女だからとか言ってないで、やりたいようにやってみろよ。俺が撮影して後で笑ってやるから」
「途中までいいアドバイスぽかったのに酷いオチになってた!」
恋人になっても友達みたいに笑い合うことが多い。まるで自分の両親を見ているみたいだなと思いつつも、悪い気はしない春也だった。
*
2人並んで店から出て、少し照れ気味に陽向が寄り添ってくる。
「これからどうする? まだ時間はあるんだろ?」
「そうだな、ちょっと体を動かしたいしボーリングでも……」
などと会話しつつ、駅前の繁華街を歩きだしたその時だった。
「あれ……あそこにいるの監督だ……」
視線の先に、たくさんの荷物を両手に抱えた中年男性が、寒風吹く中を額に汗して歩いていた。その姿に部活中の威厳は微塵もない。
「それでいて、少し前を歩いてるのは美由紀先生じゃないか?」
春也の隣で身を乗り出していた陽向が、振り返っては何事かを言っている高校時代の恩師に気付いた。
「もしかしてデートか? ちょっと行ってみようぜ」
「おい、さすがに邪魔だろ、そっとしとけって」
陽向に止められて、そういえば自分もデート中だったと我に返る春也。
「そうだな、俺たちもなかなか一緒に過ごせる時間を作れないもんな」
「そういうこった、それじゃさっき春也が言ってた通り――」
「――ちょっと何でも買ってくれるって言うから買物に来てあげたんだけど」
「ですが、さすがにこれは買いすぎといいますか、なんといいますか……」
風に乗って届いてきた2人の会話に、春也と陽向はどちらともなく足を止める。
「情けないわね、男としてもう少し甲斐性を見せなさいよ!」
「……男だから女だからと言いまくった上に、好き勝手にしてる中年カップルがいるな」
「これ以上、見るのはよそう。春也、お前はああいう大人に……」
言葉を続けようとして、陽向が途中で呑んだ。目を見開いたままの彼女の視線を追いかけると、路地裏からコソコソと6つの影が姿を現して中年カップルに突撃をかまそうとしていた。
秋も深まる南高校の野球部専用グラウンド。元気な声を響かせて、練習用ユニフォームに身を包んだ1人の部員が、飛んできた打球に横っ飛びする。
追いつかなくとも悔しがったりせず、実に爽やかな笑顔でもう一丁などと叫んでは、素早く立ち上がって、グラブを広げるように拳で叩く。見る者が見れば、スポーツの秋に相応しい光景だと口元を緩めただろう。
しかし秋の大会で惨敗する原因を作った春也は違う。雪辱を晴らすため、猛練習に励む中、毎日のように練習へ参加する3年生へ声をかける。
「国体も終わったのに、部員の練習時間を奪ってどうするんスか」
「いいじゃねえか、大学で野球を続けられることになったんだ。プロはさすがに無理だろうけど、完全燃焼するための準備だよ」
陽光に輝かせるかのように白い歯を見せ、ベンチ側をチラリ。それだけで理由が他にあることは明らかだった。
「マネージャーにいいとこ見せたいだけじゃないスか」
「おいおい、俺がそんな不純な理由で汗を流すように見えるのか」
「マネージャー! 見られてると先輩が集中できないって」
春也が大声で叫ぶと、キョトンとしたあとで苦笑したマネージャーがベンチの裏に消える。
「よし、次は高木がノックを受けるか?」
「変わり身の早さはさすがスね」
矢島は要と交際しているみたいだが、甲子園から帰還後、いつになく他の女子生徒からキャーキャーと囲まれる環境に鼻の下を伸ばしに伸ばし、制裁を食らってからは事あるごとにご機嫌を取ろうとしているらしかった。
「まあ、マネージャーも満更じゃなさそうでしたけど……」
矢島が好プレーを見せるたびに、軽く飛び跳ねながらキャッキャッと拍手していたので、2人揃ってバカップルの素質は抜群といった感じである。
「じゃあ別にいいだろ。体を鈍らせたくないってのは本音だしな」
鍛えるのに時間がかかっても、衰えるのはあっという間なのが人間の肉体だ。春也も重々承知しているし、個人で自主練習するよりもチームに混ざった方が使える機器も増えて効率的なのも理解している。
「俺は構わないんスけど、3号先輩を筆頭に拗ねる部員が続出中なんで、イチャコラするんなら周りに目がないとこでやってほしいスね」
甲子園に出場したことで一時的に女子人気が急上昇した野球部の面々だが、その大半は卒業間近の3年生か、1年生ながらに出場を果たした春也や智希、ベンチに入っていて、何度かテレビに映った晋悟に集中してしまった。おかげで彼女を作るという野望を叶えられなかった部員が続出する結果になった。
「それは想いを遂げられなかった奴が悪いだろ」
春也の説明に対し、矢島は軽く肩を竦めた。
「いいっスね、1号先輩は。勝者の余裕っスね」
「うおっ!? 高梨か、いきなりビックリさせんな。
つーか、お前ってそんなキャラだったか?」
「高木と接してると、色々と染まってくるんスよ。女人気だけは染まってくれないんスけどね」
フフフと自虐的な笑みを浮かべる丸坊主。目元が妙に暗く見えるのは錯覚ではないかもしれない。
「みたいだな、にしても1号先輩って」
「どんどん数が増えてますからね。4号からは主に1号先輩が量産してますけど」
3号こと高梨にジト目で言われ、ようやく矢島は自分を見る部員の目が剣呑な輝きを宿しつつある事実に気付く。
「ま、待てよ。彼女持ちって意味なら、高木の方が先輩だろうが!」
怒りの矛先を逸らそうと必死の矢島が指を差してくるが、春也はひょいと躱してから、やれやれとばかりに首を左右に振る。
「俺は入学前からいましたし、何より練習中に頭の悪そうなラブラブ光線は放射してませんでしたからね」
「お前、言うに事欠いて頭悪いとか……」
「引退したはずの先輩が女にいいとこ見せる目的でハッスルプレイしては、キャーキャー言われて喜んでる姿なんて、部員には目の毒だってわからないみたいだし」
この時ばかりは全部員が春也の味方となり、後ろにズラッと並んではうんうん頷いている。何故かその中には監督まで混ざっていた。どうやら意中の同僚女教師にはいまだ振り向いてもらえていないらしい。
「貴様らは揃いに揃って阿呆か」
鼻で軽く嗤って、真打登場とばかりに智希が口を挟んできた。注目を集めるなり、自他ともに認めるシスコンはその実姉の自作プロマイドを数枚取り出した。
「人間は古より神仏を敬い生きてきた。なればこそ恋人などとくだらぬ存在に現を抜かしてないで、その神仏を崇めればよいのだ! そのための写真ならば特別に俺がくれてやろう!」
当たり前のように配ろうとする暴走シスコン野郎を、晋悟が大慌てで羽交い絞めにする。
「宗教じゃないんだから、信者を増やそうとしないでくれるかな!? これ以上、仕事が増えたら僕の手に負えなくなるからね!?」
晋悟が制止に入ったことでお開きみたいな雰囲気になるが、ここで大きな問題が発生する。
「監督まで一緒になって何を――」
「――あ、いた。晋悟君だ!」
勝手にグラウンドへ入ってきた数名の女子が、制服のスカートを翻してはしゃぎ、発見したばかりの晋悟に大きく手を振る。
「やっぱり最終的には晋悟がハーレムを作るのか」
「なっ……春也君、そんなことを言ったりすると――」
「「「裏切り者が!」」」
晋悟が周囲の様子を確認するのと、荒れ狂う嫉妬が込められた複数の怒声が解き放たれたのはほとんど同時だった。
*
「――なんてことがあったんだよ」
春也は正面に座って、美味しそうにパスタを食べている恋人に数日前の出来事を身振り手振りで説明したあと、大げさに溜息なんてついて見せた。
オープンカフェでとしゃれこみたいところだったが、地元はすでにコートが必要な寒さになりつつあるので、ファミレスで食事がてらお喋りをすることにしたのである。夏でもそんなお洒落なカフェは存在しないので、結局は今と変わらなかっただろうが。
「どうして男ってのは彼女のいるいないに……ってそれは女も一緒か」
思い当たる節があるのか、陽向は唇についたミートソースを舐めながら呟いた。ふとした仕草一つで思春期真っ盛りの少年の視線を釘付けにしているのだが、それにはあまり気付いていないみたいだった。
「大学でも結構その手の話は多いからな。彼氏のいる俺はいつも絡まれる側だ。といっても部だと一番モテるのぞちゃんがあの有様だから、平和なもんだけどな」
彼氏云々の話になると、あれだけ綺麗な希でも作ってないんだし、大学ソフトボールに青春を捧げるのも悪くはないよねという意見でまとまるらしい。
「大学生と高校生じゃ、なかなかカップルもできないだろうしな」
合コンを頼んだところで、背伸びして恰好をつけようとする男子高校生側が恥をかくのは想像に難くない。
「ああいうのは自然にできるもんじゃねえのか? 修学旅行の前とか」
「あー……先輩らも期待してたみたいだけど、ああいうのはイケメンに限った話だとか言って嘆いてたな」
それでも次の甲子園に主力として出場できれば、自分にもモテ期が到来するのではと考えている2年生は少なくなかった。その結果、春也を目の敵にしていたような連中まで急に優しくなったのは滑稽だが。
そのことも食べ終えた陽向に伝えると、ケラケラと笑われた。ちなみに春也はとっくの昔にステーキ2枚を完食済みである。
「それだけ春也の実力が認められてるってことだろ。秋の大会でポカはやらかしたけどな」
「黒歴史を引っ張り出すのはやめてください……」
若さゆえの過ちを犯してしまったばかりに、一生頭の上がらなくなるネタを掴まれてしまった。
「これまでは俺が照れるまーねえちゃんをからかって愛でることが多かったのに」
考えてみれば夏に慰められたことといい、付き合ってからは甘えっぱなしみたいになっている。
「ここらで一つ、男の威厳みたいなものを見せるべきだろうか」
「ハッ、くだらねえこと考えてんじゃねえよ。男だから女だからとか言ってないで、やりたいようにやってみろよ。俺が撮影して後で笑ってやるから」
「途中までいいアドバイスぽかったのに酷いオチになってた!」
恋人になっても友達みたいに笑い合うことが多い。まるで自分の両親を見ているみたいだなと思いつつも、悪い気はしない春也だった。
*
2人並んで店から出て、少し照れ気味に陽向が寄り添ってくる。
「これからどうする? まだ時間はあるんだろ?」
「そうだな、ちょっと体を動かしたいしボーリングでも……」
などと会話しつつ、駅前の繁華街を歩きだしたその時だった。
「あれ……あそこにいるの監督だ……」
視線の先に、たくさんの荷物を両手に抱えた中年男性が、寒風吹く中を額に汗して歩いていた。その姿に部活中の威厳は微塵もない。
「それでいて、少し前を歩いてるのは美由紀先生じゃないか?」
春也の隣で身を乗り出していた陽向が、振り返っては何事かを言っている高校時代の恩師に気付いた。
「もしかしてデートか? ちょっと行ってみようぜ」
「おい、さすがに邪魔だろ、そっとしとけって」
陽向に止められて、そういえば自分もデート中だったと我に返る春也。
「そうだな、俺たちもなかなか一緒に過ごせる時間を作れないもんな」
「そういうこった、それじゃさっき春也が言ってた通り――」
「――ちょっと何でも買ってくれるって言うから買物に来てあげたんだけど」
「ですが、さすがにこれは買いすぎといいますか、なんといいますか……」
風に乗って届いてきた2人の会話に、春也と陽向はどちらともなく足を止める。
「情けないわね、男としてもう少し甲斐性を見せなさいよ!」
「……男だから女だからと言いまくった上に、好き勝手にしてる中年カップルがいるな」
「これ以上、見るのはよそう。春也、お前はああいう大人に……」
言葉を続けようとして、陽向が途中で呑んだ。目を見開いたままの彼女の視線を追いかけると、路地裏からコソコソと6つの影が姿を現して中年カップルに突撃をかまそうとしていた。
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