その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

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春也の高校編

ついにシスコン卒業!? 智希が紹介してほしがった女性、そしてその理由とは!?

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「いいとこ見せにだけ練習来るとか、逆恨み先輩も変わってるよな」

 ブルペンでピッチング練習を終え、グラウンドに戻ると今日も矢島が現役部員と一緒になってノックを受けていた。バッティングもたまにしているみたいだが、基本的な体力増強メニューを精力的にこなしている。

「そうでもなかろう」

 すぐ隣を歩いていた智希が予想外に否定した。ずっと投球を受けてくれていただけに、冬も間近にもかかわらず、春也同様に軽く汗ばんでいるみたいだった。

「想い人に格好良く思ってもらいたいのは男女にかかわらず人類の共通認識だ」

「のぞねーちゃんとかもか?」

「穂月さんの前では凛々しい姿を見せるではないか」

「なるほど。けどそれだと智希は眼中に入ってないことになるな」

「やれやれ、貴様は相も変わらず阿呆だな」

 両手を広げた呆れましたポーズを披露したあと、智希が溜息混じりに言う。

「緩んだ姿を見せるのは心から信頼している表れだろう。そこには情愛を超えた確かな絆があるのだ」

「さすがだな、智希ほどポジティブな奴は知らないぜ」

「フッ……貴様も見習うといい」

「いや、皮肉だよ。ストーカーの思考と紙一重じゃねえか」

 ツッコミ担当の晋悟が外野で守備練習真っ最中のため、いつもみたいに春也も気軽に乗っかるわけにはいかない。もっとも真っ当に注意したところで、超個性的なシスコン友人が聞いてくれるはずもないのだが。

「いっそ智希も彼女を作ってみたらどうだ。新たな道が開けるかもしれないぞ」

「ふむ……ならば紹介してもらいたい女性がいるのだが」

「え?」

   *

 適度に休みを設けた方が、心身にも好影響を与えて練習にも身が入る。監督自身がそういう考えのため、南高校野球部は頻繁でなくともそれなりに休日を堪能できたりする。

「監督が美由紀先生と出掛けたいから、増やしてるわけじゃねえよな」

「そんなことはないと思うけど……でも人のデートを尾行してまで覗き見をするのはどうなのかな」

 物陰からこっそり顔を出していた春也のすぐ下、なんやかんやで付き合いの良い晋悟が目だけを動かしてそんな指摘をした。

「そうは言っても気になるだろ。智希がのぞねーちゃん以外に興味を示しただけで大事件なのに、よりによって相手はウチの姉ちゃんだぞ」

 数日前に智希が真面目な顔で、春也に紹介を求めたのは穂月だった。何十回と念押ししたが当人は本気らしく、根負けして連絡を取った。

 交際などの知識はあっても、ガードの固い友人たちに守られて男女の機微に疎い穂月は、一緒に遊ぶだけだと理解してすぐに了承した。

 そして約束した今日を迎えたのである。

「案の定、ついて来たな」

 待ち合わせた県中央の駅前、午前10時にきちんと姿を現した穂月が背負っていたのはバッグではなく、そこが指定席と言って憚らない友人の希だった。

「……希お姉さん、いつになく厳しい目で智希君を睨んでるね」

「肉親じゃなくて仇を見る目だな」

 先に来て待っていた智希は何のプレッシャーも感じることなく、笑顔で2人に挨拶しては何事かを喋っている。

「のぞねーちゃんがいるのを当たり前に受け入れてるぞ。智希の奴、本当にウチの姉ちゃんが好きなのか?」

「うーん……どうだろうね、僕も少し疑問ではあるんだけど……」

「その謎を解き明かすためにも、もっと近くで様子を見る必要があるの」

「そうだな……ってゆーねえちゃん!?」

 会話中に突如として増えた女声は、穂月の友人の悠里のものだった。ヒラヒラのロングスカートにもこもこのセーターを着ている。童顔なのも相まって大学生のお姉さんというよりかは、可愛らしい少女にしか見えない。

「のぞちゃんは堂々と乱入したけど、ゆーちゃんにそこまでの度胸はなかったの。でも相手がいれば話は別なの。ん」

「え? あの、ん、て言われても……」

 伸ばされた手に、晋悟は目を瞬かせて戸惑う。

「女性をエスコートするのは男性の務めなの。あとであーちゃんに言って、教育し直してもらわないと駄目なの」

「えぇ……」

 明らかにドン引きする晋悟がいつまでも手を取らないので、業を煮やした悠里が有無を言わずに取っ捕まえた。

「さあ、行くの。お前で我慢してやるんだから感謝するの」

「ぼ、僕の意思はどうなるんですか」

 叫び声を上げながらドナドナされていく親友。春也が唖然としているうちに、悠里はいつもの可愛らしい笑顔で、穂月たちに「奇遇なの」と話しかけていた。

「どうなんだ、これ……。

 とはいえ、俺も気になるからな。ゆーねえちゃんがいるってことは他もどっかに隠れてるんだろうし、まーねえちゃんを呼び出すか」

   *

 結局、大勢で座れるファミレスに全員揃って集まることになった。急遽呼び出された体を装ってはいたが、朱華も凛も沙耶もすぐに来たことから、春也の予想通り隠れて様子を見ていたのは確定だ。

 春也の隣には陽向が座り、その隣に悠里と晋悟、正面には穂月と希に智希。さらには朱華と悠里と沙耶も二手に分かれて同じテーブルに着いていた。

「智希、あんまり怒ってねえんだな」

 デートを邪魔する形になったのでさぞ不機嫌かと思いきや、希の隣をちゃっかり確保した友人は満面の笑みを浮かべていた。

「穂月さんを誘えば漏れなく姉さんがついてきて、心配に思った友人の方々が様子を見に来るのは目に見えてたからな。むしろ計算より合流が遅れたくらいだ」

「相変わらずエスパーじみてんな……それで、どうしてウチの姉ちゃんだったんだ?」

 誰もが疑問に思ってそうだったので、代表して春也が問いかけた。

「貴様は阿呆か、理由なら説明したばかりではないか」

「え? されたか、俺」

 不思議に思って周囲を見渡す。真っ先に「まさか……」と口を開いたのは、左隣に座っている陽向だった。

「ほっちゃんを誘うと、漏れなくのぞちゃんがついてくるってやつか」

「それがどうしたんだよ?」

「貴様はまだ気付かんのか。ならば教えてやろう。姉さんは間違いなく穂月さんの傍を離れないだろう。となれば穂月さんを娶れば一緒についてくる。つまり俺は姉さんと一緒に住めて、養うことができるのだ!」

 拳を握り、いつになく真剣な顔つきで立ち上がる智希。

「そうか、やっぱりお前は伝説だったよ」

「フッ、わかればいい」

「いや、褒めてないと思うよ!?」

 いつものやりとりに終始する男性陣を後目に、女性陣には納得がいったという空気が広まっていた。特に悠里は予想通りだったようで、

「だからこそ、ゆーちゃんもコイツに狙いを定めたの」

 グイッと隣に着かせていた晋悟の腕を引っ張った。

「ほっちゃんと一緒にいるのを考えるなら、春也君が狙い目なのは間違いないの」

 言いながらチラリと陽向を見た瞬間、悠里は小柄な体をビクッと震わせた。

「怖い狼に食べられてしまうから、手が出せないの。しくじったの。もっと早くこの考えに辿り着いて、子供の頃から餌付けしておくべきだったの」

 怯えながらもとんでもない後悔をする悠里に、さしもの春也もドン引きし、

「俺……まーねえちゃんと付き合えることになって本当に良かった……」

「実感がこもりまくってますわね」

「繰り広げられた光景を見てれば無理もないです」

 凛と沙耶がかわいそうなものを見るように、春也に同情した。

「なんだかゆーちゃんが悪魔みたいな扱いなの、納得いかないの」

「当人の許可もなく、勝手に将来を決めようとするからです」

「あら、晋悟はゆーちゃんがお嫁さん候補で文句があるの?」

 朱華の発言で、悠里の腕を振り解こうとしていた晋悟の動きが止まった。

「え……お姉さんはまさか賛成で……?」

「昔から可愛い妹が欲しかったのよ。ゆーちゃんなら大歓迎だわ」

「あーちゃんならそう言ってくれると思ってたの」

「は、春也君……」

 おろおろする友人が最後に頼ったのは、急展開の連続に半ば放心しかけていた春也だった。

「あー……その、何だ。意外に優良物件かもしれないぞ? たまに姉ちゃんに作ってきてたお菓子とかも美味しかったし、腹黒で毒舌な性格を除けば可愛いし」

「だったら春也君が――いえ、何でもないです……」

 台詞の途中で陽向にひと睨みされ、すごすごと小さくなる晋悟。

 友人の救出をあっさり諦め、春也は話題を元に戻す。

「智希は智希だからいいとして、姉ちゃんはどうなんだ?」

「穂月? んー……のぞちゃんと一緒だし、いいんじゃないかな。智希君もいい子だし」

 好きな男性も特にいなかった穂月は、今の生活が大きく壊れなさそうな未来にどこか満足そうでもあった。

「それなら、のぞねーちゃんは――」

「最上の名案。さすが我が弟」

 サムズアップして終了。友人にもたれたまま、弟に養ってもらう気マンマンである。

「これは……智希ママが聞いたら目を回しそうだな」

 明るそうで混沌としている先行きに、さすがの春也も眩暈を覚えずにはいられなかった。

   *

「いやー、めでたいな! 穂月にだったら智希も希もくれてやるぞ! 家も近いし、安心もできるし、葉月とも家族になれるし万々歳だな! はっはっは」

 数日後。事が公になると智希の母親は一升瓶片手に夜の高木家に乱入し、春也の予想とは違う意味で目を回していた。

「……何でウチのパパもママも、子供の状況を疑問に思わないんだ」

 ポツリと漏らした春也の言葉に答えてくれたのは、いつも朗らかに家族を受け入れてくれる祖父母だった。

「大体、こんな感じになるだろうとは思ってたしな」

「穂月が演劇の道に進むにしろ、ムーンリーフを継ぐにしろ、希ちゃんは一緒なのはわかりきっていたものね」

 どうやらこの事態を予想できていなかったのは、家族で春也だけだったらしい。

「それができるのなら、好きな道に進めばいい。人生は一度しかないんだからな。だから春也もやりたいことを追いかけろ。どうせ最後には誰だって後悔するんだ」

「ウフフ、良い助言に聞こえますけど、春道さん? 最後には誰だって何ですか? まさか春道さんもですか? 一体何に対して言ってるんですか?」

「わかるか、春也。これが本当の後悔先に立たずだ」

 首根っこを掴まれ、自室に連れ込まれる祖父を、春也は無意識に敬礼をして見送った。
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