その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介

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春也の高校編

子供も大人も楽しみなお正月、初詣で大騒ぎしてたらあの人のあだ名が増えました!?

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 部活と宿題に塗れた冬休みで、何が一番楽しみかといえばもちろんお正月とお年玉である。大多数の子供と同じように、春也も今日と言う日を心待ちにしていた。

「あけましておめでとうございます」

 挨拶にも気合が入るというもので、店が休みの両親にしっかり頭を下げる。

「両手を前に差し出しながらというのはどうかと思うんだが……」

 苦笑する父親に、キッチンから戻ってきた母親が「まあまあ」と言って肩を叩く。相変わらず仲が良さそうで、春也の目指す理想の夫婦が具現化されているみたいだった。

 リビングには祖父母もおり、そちらへ視線を向けると、仕方がないとばかりに祖母が溜息をつく。年相応に皺も増えているが、それでも淑女然とした振る舞いは健在で、母親などは事あるごとに何か秘密があるのではと目を光らせては、そんなものはありませんと冷たくあしらわれている。

「あれ、姉ちゃんはまだ部屋?」

 両親と祖父母からお年玉を無事に頂戴し、ホクホク顔になった春也は天井を見上げながら尋ねた。

「皆で遅くまではしゃいでたからね。初詣は朝に一緒に行くみたいだけど」

「寮から帰ってきても変わんねえな。皆、一旦自宅に戻ってすぐここに集まったんだろ?」

 寮生活を送っているとはいえ、姉の通う大学は県内。その気になれば昔、春也がしたみたいに自転車で往復することもできる。それなりの時間がかかって、なおかつかなり疲れるので、なるべくならもうやりたくないが。

「社会に出たら離れ離れになるかもしれないし、それに朱華ちゃんは皆と過ごせる学校生活は残り少ないからね」

 母親の言葉に、春也はなるほどと頷く。高校時代から進級できるかどうか不明だった姉と違い、朱華は学業も優秀。すでにソフトボールの強い実業団からマークされているという噂もあり、就職先には事かかないらしいと晋悟が前に教えてくれた。

「順調なら来年の春には卒業すんのか……」

「長いようでいて、あっという間なのが学生生活だからね」

 思い出すように母親が言うと、父親も懐かしそうにする。

「大学は葉月と同じく寮生活だったから会うのに困らなかったんだが、その分、冷やかされまくったな」

「あー……野球部って彼女がいる部員への風当たりが強いよね」

「いや、別に野球部の特性みたいな話じゃないんだが……」

 父親が微妙そうな顔をしていると、玄関のドアが開く音がした。呼び鈴を鳴らしていないので、家族の誰かなのがわかる。

「姉ちゃんはまだぐーたらしてるし、菜月ちゃん?」

「真菜が雪にはしゃいじゃってね、一緒に外で遊んでたのよ」

 母親の説明が終わる頃には、うがいと手洗いを終えた叔母とその娘がリビングに入ってきた。コートも自室で脱いできたのか、お揃いのニットのセーターを着ている。

「朝から汗を掻いてしまったわ」

「何を言うのですか、お母様。朝に体を動かしてこそ、一日を健やかに乗り切れるというものです」

 したり顔でスラスラ話す春也の姪。これが同じくらいの年齢であればたいして問題もないのだが。

「……相変わらず、真菜はマセてるというかなんというか……凄いよな。今年の春から小学生だとは思えないぞ」

「私は早生まれですから、多少、他の子よりも生育が早いのでしょう」

「いや、そういう問題じゃないと思う。菜月ちゃん、教育しすぎじゃないの?」

「この子が勝手に育ったのよ……言っておくけど、私の子供時代だってここまでではなかったわよ」

 誤解するなとばかりに春也を見てきた叔母だったが、

「似たようなものだったろ」

「昔のなっちー、そのままだよね」

 祖父と母親に指摘され、二の句を告げられないまま撃沈された。

   *

「で、春也はどうなんだ、陽向との進展は……ん? ん?」

 朝から高木家を襲撃するなり、酒瓶片手に絡み始めたのは希の母親である。父親陣は巻き込まれるのを恐れたのか、恒例行事とばかりにテーブル席で集まって、お節料理に箸を伸ばしつつ談笑している。同じ男なのだから春也もそちらに混ざりたいのだが、その前に捕まってしまった。

「俺の事より、自分の子供の心配をしろよ」

「その必要が無くなったから、心置きなく残った1人をからかえるんだろ」

「からかうとか言いやがったよ、この酔っ払い!」

「はっはっは、お前もアタシと親族になるんだ、もっと甘えてもいいんだぞ」

「くっつくな! ぐおお、振り解けねえ……なんて力だよ……」

「部活はしてなくても、仕事で鍛えてるからな!」

「……私、その割には二の腕ぷよぷよなんだけど……」

「奇遇ね、はづ姉……私もよ……」

 片腕で春也を捕まえたまま、腰に手を当てて高笑いする希の母親をチラリと見て、葉月と菜月の姉妹が深い溜息を重ねた。

「大体、同い年のはずなのに昔とほとんど変わらないのは反則だよ」

「ウチのママ以上の化物よね」

「うん、ママは魔女って感じだけど、実希子ちゃんはもう人外の生物だよね」

「もしかして地球外生命体なのではないかしら」

「おい、そこの2人、どんどん文句じみてきてんじゃねえか!」

 うがーっと今度は葉月と菜月に突撃する実希子。殊更に懐いている真菜はそれだけで嬉しそうにはしゃぎ、年相応に纏わりついたりする。

「やっと解放された……捕まる前に智希あたりを誘って初詣にでも行くか」

「俺は構わんが、こういう場合は恋人と過ごすものではないのか」

「そうしたいけどこの状況じゃ……って智希!? いつの間にいたんだよ!」

 友人の母親がいるのだからおかしくはないのだが、春也の記憶が確かであれば実希子は夫と2人でリビングに入ってきたはずだ。

「まさか真っ先に姉ちゃんたちの様子を見に行ってたのか?」

「何を言ってるんだ、貴様は。昨日からずっといただろうが」

「は? お前こそ、何言ってんだ?」

 目をパチクリさせる春也へ、答えは意外なところからやってきた。

「智希君なら昨日、泊まりたいって訪ねてきたから家に上げたんだけど、春也は気付いてなかったの?」

「マジでか!? どこにいたんだよ、お前」

「乱入しようとしたら蹴り出されたので、仕方なしに空き部屋をお借りした。両隣のどちらかが空いてればもっと良かったのだが……」

「埋まってて良かったわ……本当に良かったわ……」

   *

 晋悟が合流する頃には、姉たちも起き出してきたので、正午近くになってから一緒に初詣へ出掛けることになった。

 近所の神社でお参りするのだが、小さい規模ながらもやはり大晦日から正月にかけては参拝客で混み合う。そのためやや遅れて訪れるのが恒例になりつつある。

「春也とまーたんはラブラブなお参りをするの?」

 唐突に朱華から尋ねられ、春也は思わず吹き出しそうになった。

「しねえし、一体どんなお参りだよ。それに恋人同士なのは俺とまーねえちゃんだけじゃねえだろ!」

 将来を見据えて、およそ恋愛とは思えない形で穂月と智希が付き合うことになった。そしてもう1組は、目的のためにはどこまでも獰猛な獣になる女性に目をつけられた晋悟だ。

「一応は恋人同士なんだから、それらしく振舞ってやるの、感謝してほしいの」

「まるでペットみたいに扱わないでほしいんですけど!?」

 なんとも賑やかだが、意外なことに晋悟から交際を拒否する言葉を聞いた覚えがない。春也はその点を指摘し、

「晋悟ってやっぱりドMだったんだな……」

「誤解を招く発言をしみじみ言わないでほしいかな!?」

「いいじゃねえか、神様の前ですべて晒しちまえよ」

「だから僕は違うんだってば!」

「じゃあ何で断らないんだ?」

「それは……その……」

「ゆーちゃんって、晋悟の好みドストライクなのよね」

 ネタばらしは同行中の晋悟の姉からもたらされた。

「そうなのか?」

「昔からお姫様っぽい子が好きなのよ、晋悟。だからゆーちゃんも選んだんでしょ。女は男の子の視線に敏感だもの」

「つまりゆーねえちゃんは晋悟の好意に気付いてから、これ幸いとばかりに応じてやったってことか」

「おめでたいことではないか、祝福してやろう、貴様の奴隷としての未来を!」

「うわあああ! 恥ずかしいし、違うし、でも違わないんだけど、そうじゃなくて夢見てたのは……って言うとからかわれるし、どうすればいいんだ! でも僕は奴隷になりたいわけじゃないからね!?」

「年下の男の子は我儘なの、でもゆーちゃんはお姉さんだから望みを叶えてあげるの。首輪は何色にするか早く選ぶの」

「ペットもお断りさせてほしいんですけど!?」

   *

 春也が賑やかなカップルを放置して、陽向と先にお参りしようとすると、前方から見知った顔が歩いてきた。

「あれ、3号先輩じゃないスか。家、この辺でしたっけ?」

「高木か、俺は友達の家に泊っててな」

 見れば後ろに野球部以外の男子も数人ほどいた。

「男同士で騒いだついでに初詣スか、健全といえばいいのか不健全といえばいいのか……」

「うるせえよ、リア充」

 軽口を叩きながらも、以前よりは仲良くなった先輩と会話を続けようとして、春也は相手の視線が固まったのを知る。

 どうかしたのかと追ってみれば、その先には悠里と晋悟をからかう朱華がいた。

「もしかしてあーねえちゃんが好みスか?」

「あーねえちゃん!? 高木の知り合いなのか!?」

「つーか、晋悟の姉ちゃんスよ。で、じゃれ合ってるのができたばかりの彼女っス」

「はあ!? 何でいきなり彼女ができてんだよ……まあ、モテっぷりから考えて、その気になればいつでも作れたんだろうけどな」

 驚いたあとで落胆する高梨こと3号先輩に、春也はなおも残酷な事実を告げる。

「智希が彼女を作ったんで、それに感化されるみたいな形スね」

「はあ!? それはありえないだろ!?」

「それがありえたんスよ。自分の姉ちゃんと離れたくないからって、仲の良い俺の姉ちゃんに告って受け入れられたんス」

 普通ならにわかに信じられない話も、智希のイケメン――外見のみ――ぶりを知っている人間からすればさもありなんという感想になる。

「後輩に先を越されてばかりとは……こうなったら、頼む高木、俺に柳井のお姉さんを紹介してくれ!」

「別にいいスけど、結果まで責任持てないスよ?」

 それでも高梨が頷いたことで、春也は肩を竦めつつも朱華に声をかけた。

 そして数分後、3号先輩は激振られ先輩へと進化することになった。
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