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春也の高校編
運命のドラフト会議! 吐き気を催すほど緊張したのは当人ではありませんでした!?
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「つーか……騒がしくなりすぎだろ」
ドラフト会議が近くなるにつれ、落ち着きを失っていく周囲に、そろそろ春也も辟易気味だった。
「他にニュースがないのだから仕方あるまい」
朝の教室で授業の準備をする智希は、喧騒を気にしてもいなかった。完全な他人事と判断しているよりも、基本的に自分とごく身近な人間のことにしか興味がないのである。
「そんなこともないだろ。新チームが東北大会に出場したんだし」
「県大会で優勝したから、2つ勝てば春の甲子園に手が届いたんだが……結果は貴様も知ってるだろうが」
「あえなく初戦敗退だからな。あまりにガッカリしすぎてて、さすがの俺も声をかけ辛かったぜ」
つい先日の光景を思い出していると、晋悟も沈痛な面持ちで同意した。
「僕たちの後を引き継いで、連覇の記録を伸ばすんだって意気込んでたからね」
「だから奴らは阿呆なのだ。3大会連続で制したレギュラーが6人も抜けてるんだぞ。3人残ったとはいえ、簡単に穴を埋められるわけがないだろう」
「わかってても、何とかしたかったから頑張ったんでしょ」
いつもの調子でつるんでいた春也たちに、友人との会話を切り上げたらしい元マネージャーも合流する。
「ますます阿呆だな。意気込みは買うが、自分たちの身の丈にあった目標を設定すべきだ」
「甲子園出場を果たしてから、それより上を目指せってことか。考えてみれば俺たちもそうだったな。運よく1年の時から甲子園には出られたけど」
「入学した時は全中制覇した主力に加えて、県内からの有名だった選手も入って大騒ぎだったよね」
「おかげで逆恨み先輩が増えたけどな」
「アハハ、あったねー」
大笑いして涙を滲ませた元マネージャーが、懐かしそうに目を細めた。
「高梨先輩たちも元気でやってるのかな」
「1号と3号は県大学で扱かれてるっぽい。2号は他の大学行ったみたいだけど、その後は聞かないな。マネージャーの方が詳しいんじゃないか?」
春也の質問に、元マネージャーはどこか申し訳なさそうに首を左右に振った。
ちなみに部活を辞めた直後にもうマネージャーじゃないから名前で呼んでと言っていた要だったが、春也たちが慣れてるからと呼び方を変えないため、かなり前に諦めてもう指摘すらしなくなっている。
「部に所属してたからって、卒業後まで事細かく見たりしないからね。仲が良かったならともかく、春也君といざこざがあってからはあんまりだったし……」
当時まだ2年生だった3号こと高梨とは関係を修復する機会もあったが、春也命名2号先輩はわだかまりが完全になくなる前に卒業してしまった。
「過ぎ去った奴を気にしても仕方あるまい。それより貴様こそ緊張してないのか?」
「決めたら、あとはなるようになれとしか思わなくなったな。指名がないならないで俺もムーンリーフだ」
「大学や社会人でするつもりはないの?」
晋悟が意外だと言いたげな表情をする。
「悩んだけど、それならまーねえちゃんと一緒に働きながら、休みの日とかにパパと一緒になって草野球でもいいかなって思えてな」
高いレベルで勝負するのも面白そうだが、身近な仲間と楽しくプレイするのも悪くはない。それが春也の出した結論だった。
「指名なしはありえないんじゃない? 複数球団が1位でいくって公言したみたいだし」
「中には貴様の祖父が好きな関西の人気チームもあったな」
「祖父ちゃんの影響を受けてママが好きになって、その影響でパパもそのチームのファンに鞍替えしてたからな。今じゃムーンリーフ周辺はそこ一色だ」
マネージャーから若干の方向転換をした話題に、智希が乗っかり、春也が椅子に体重を預けながら笑う。
「じゃあ、春也君はそこに入りたいの?」
「できたらな。まあ、違ったとしても上位指名してくれるだけありがたいだろ」
「そうよね。もう1人の人気あった選手はパン屋さんに就職を決めちゃったし」
横目で見たマネージャーに、興味を示さない智希に代わって晋悟が反応する。
「智希君のこと?」
「ネットで話題になってたよ。悲報、南高校の正捕手、プロはプロでもパン屋を指名するって」
「くだらんな。俺がどうしたいかは俺が決めることだ」
「だな。別にパン屋の道に進んだからって、楽な道を選んだわけじゃねえんだし」
「まったくだ。放課後に葉月さんから指導を受けたりするが、なかなか奥が深いぞ」
「んなことしてたのかよ……って、教わるなら自分の母親じゃねえのか?」
「大雑把な母ちゃんが、あのような繊細な作業ができるものか」
今度は春也が驚く番だった。
「え? ウチのママってそんな繊細なのか?」
「と言うよりかは感覚で理解している感じだな、いわゆる天才肌の人間だ。だから説明は苦手で、見て覚えた茉優さんは同じ感覚派だったから理解できたんだろうな」
「一部の天才にしか真似できねえパンって、言葉だけ聞くと凄えな」
「凡人には厄介極まりないがな」
「智希もその天才肌なタイプじゃないのか?」
「阿呆か、貴様は。俺は努力型だ。晋悟もな。身内で天才肌なのは貴様と穂月さん、それにウチの姉さんと母ちゃんだな」
うんうんと晋悟も頷いているあたり、春也だけがそうした印象を抱けてなかったようである。
「だから俺がプロの道に進んでも苦労するだけだ。ならば友人の店を手伝いながら、活躍をテレビで眺めるのも悪くない。愛する人たちを幸せにするだけでなく、友人が帰ってきた時の居場所も用意できるからな」
フンといつもみたいに鼻を鳴らしながら、智希はいつもと違って恥ずかしそうにそっぽを向いた。
*
ドラフト当日。校長室に簡易の取材スペースが設置され、春也は監督と並んで用意されたパイプイスに座っていた。目の前の長机には、インタビューの際に使用するマイクが設置済みだ。
「これで指名されなかったら、違う番組で映像を使われそうっスね」
何気なく呟いた一言に、報道陣がどっと沸いた。どうやら春也の冗談だと思われたらしい。監督も隣で苦笑いを作っていた。
落ち着かずに待つ時間はやたらと長く感じられ、そしてドラフト会議が始まる。昨今ではテレビ中継もされており、野球部員たちも部室で見ているという。
厳かな会場の雰囲気に感化されたのか、ドアが開け放たれ、廊下で撮影の準備をしている取材陣まで揃って緊張している。
そして1巡名の指名がチーム名に続いて読み上げられる。最初は関東に本拠地を置く球団だった。
『高木春也 投手 市立南高校』
わっと歓声が上がり、監督から握手を求められる。誰も彼もが笑顔になり、春也より先に喜びを爆発させる。
さらに同じ名前が3度読み上げられる。4球団が競合を覚悟で春也を指名した。大学や社会人にも有力選手がいる中なので、素直に嬉しさを強くする。
室内のテレビで抽選の様子を見守る。複数台のカメラが春也の表情を逃すまいと撮影を続ける。
くじを開き、高々と右手を掲げたのは、少し前に友人たちと話していた例の関西チームの監督だった。
「高木君、今、どんな心境かな?」
「甲子園で活躍したから、投げ易いんじゃない?」
様々な質問に答えているうちに時間が経過し、見事にくじを引き当てたということで、テレビで該当球団の監督がメッセージを送ってくれる。前後するように担当のスカウトからも電話が入り、明日には指名挨拶が行われることになった。
*
取材陣の頼みで部室前に移動し、春也が来るのを待っていた部員たちから胴上げされる。しかも事前に全球団分を用意していたらしく、指名権を得たチームの帽子を被らされ、応援メガホンまで持たされた。
胴上げする部員に混ざって、智希や晋悟、さらには元マネージャーも祝福してくれる。照れ臭いが妙に誇らしくもあって、春也も素直に受け入れる。
高校生だけにあまり帰宅を送らせてもと、散々遅くまで練習させた監督が報道陣に言い、春也はなんとか智希たちと一緒に高木家へ帰った。
「何で主役不在で宴会が始まってんだよ!」
パーティー用にテーブルなどを設置されたリビングが、入ってすぐわかるほどに酒臭かった。
「俺はお前ならやってくれると思ってた! さすが俺の息子だ! うおお!」
豪快に男泣きする父親を見るのは、初めて甲子園で優勝した日以来の二度目だった。母親はそんな父親を見て大笑いしている。向こうも向こうで滅多になく酔っ払っているみたいだった。
「姉ちゃんたちも来てたのか」
「まーたんが緊張しすぎて朝からおえおえしてたから、心配でついてきたんだ」
「ほっちゃん! それは言わないって約束しただろ!」
慌てて穂月の口を塞いだ陽向は半泣きだ。口調も足取りもしっかりしているので、春也が無事に指名されたのを見て安心したのかもしれない。
「今からそんなんじゃ、俺が初めてプロのマウンドに上がる日には失神してそうだな」
「……したとしても起こしてもらうさ。その程度で春也の晴れ舞台を見逃してたまるかよ」
「まーたんなら仕事休んで現地にまで見に行くでしょうしね」
「もちろん私も行くよ!」
朱華が半笑いで指摘したのは陽向のはずが、何故か春也の母親が目を輝かせて拳を握っていた。
「嫁姑問題は勃発しそうにないけど、ムーンリーフにとってはなかなか頭の痛い問題になりそうね」
本店の経理を預かる好美が額に手を当てる。その肩を励ますように叩くのは智希の母親だ。
「好美は心配性すぎんだよ!」
「そうね、実希子ちゃんはどうせ運転手をやって、葉月ちゃんや陽向ちゃんと一緒に観戦しに行くんでしょうしね」
「さすがにわかってんじゃねえか」
「長い付き合いだからね。こうなったら一刻も早く智希君には戦力になってもらわないと」
「任せてください、すぐに主力となって母ちゃんをクビにします」
「智希!? お目出度い席で下克上発言は良くないぞ!?」
冗談半分に足元へ縋りつく母親を見て、ますます智希はやる気を漲らせていた。
ドラフト会議が近くなるにつれ、落ち着きを失っていく周囲に、そろそろ春也も辟易気味だった。
「他にニュースがないのだから仕方あるまい」
朝の教室で授業の準備をする智希は、喧騒を気にしてもいなかった。完全な他人事と判断しているよりも、基本的に自分とごく身近な人間のことにしか興味がないのである。
「そんなこともないだろ。新チームが東北大会に出場したんだし」
「県大会で優勝したから、2つ勝てば春の甲子園に手が届いたんだが……結果は貴様も知ってるだろうが」
「あえなく初戦敗退だからな。あまりにガッカリしすぎてて、さすがの俺も声をかけ辛かったぜ」
つい先日の光景を思い出していると、晋悟も沈痛な面持ちで同意した。
「僕たちの後を引き継いで、連覇の記録を伸ばすんだって意気込んでたからね」
「だから奴らは阿呆なのだ。3大会連続で制したレギュラーが6人も抜けてるんだぞ。3人残ったとはいえ、簡単に穴を埋められるわけがないだろう」
「わかってても、何とかしたかったから頑張ったんでしょ」
いつもの調子でつるんでいた春也たちに、友人との会話を切り上げたらしい元マネージャーも合流する。
「ますます阿呆だな。意気込みは買うが、自分たちの身の丈にあった目標を設定すべきだ」
「甲子園出場を果たしてから、それより上を目指せってことか。考えてみれば俺たちもそうだったな。運よく1年の時から甲子園には出られたけど」
「入学した時は全中制覇した主力に加えて、県内からの有名だった選手も入って大騒ぎだったよね」
「おかげで逆恨み先輩が増えたけどな」
「アハハ、あったねー」
大笑いして涙を滲ませた元マネージャーが、懐かしそうに目を細めた。
「高梨先輩たちも元気でやってるのかな」
「1号と3号は県大学で扱かれてるっぽい。2号は他の大学行ったみたいだけど、その後は聞かないな。マネージャーの方が詳しいんじゃないか?」
春也の質問に、元マネージャーはどこか申し訳なさそうに首を左右に振った。
ちなみに部活を辞めた直後にもうマネージャーじゃないから名前で呼んでと言っていた要だったが、春也たちが慣れてるからと呼び方を変えないため、かなり前に諦めてもう指摘すらしなくなっている。
「部に所属してたからって、卒業後まで事細かく見たりしないからね。仲が良かったならともかく、春也君といざこざがあってからはあんまりだったし……」
当時まだ2年生だった3号こと高梨とは関係を修復する機会もあったが、春也命名2号先輩はわだかまりが完全になくなる前に卒業してしまった。
「過ぎ去った奴を気にしても仕方あるまい。それより貴様こそ緊張してないのか?」
「決めたら、あとはなるようになれとしか思わなくなったな。指名がないならないで俺もムーンリーフだ」
「大学や社会人でするつもりはないの?」
晋悟が意外だと言いたげな表情をする。
「悩んだけど、それならまーねえちゃんと一緒に働きながら、休みの日とかにパパと一緒になって草野球でもいいかなって思えてな」
高いレベルで勝負するのも面白そうだが、身近な仲間と楽しくプレイするのも悪くはない。それが春也の出した結論だった。
「指名なしはありえないんじゃない? 複数球団が1位でいくって公言したみたいだし」
「中には貴様の祖父が好きな関西の人気チームもあったな」
「祖父ちゃんの影響を受けてママが好きになって、その影響でパパもそのチームのファンに鞍替えしてたからな。今じゃムーンリーフ周辺はそこ一色だ」
マネージャーから若干の方向転換をした話題に、智希が乗っかり、春也が椅子に体重を預けながら笑う。
「じゃあ、春也君はそこに入りたいの?」
「できたらな。まあ、違ったとしても上位指名してくれるだけありがたいだろ」
「そうよね。もう1人の人気あった選手はパン屋さんに就職を決めちゃったし」
横目で見たマネージャーに、興味を示さない智希に代わって晋悟が反応する。
「智希君のこと?」
「ネットで話題になってたよ。悲報、南高校の正捕手、プロはプロでもパン屋を指名するって」
「くだらんな。俺がどうしたいかは俺が決めることだ」
「だな。別にパン屋の道に進んだからって、楽な道を選んだわけじゃねえんだし」
「まったくだ。放課後に葉月さんから指導を受けたりするが、なかなか奥が深いぞ」
「んなことしてたのかよ……って、教わるなら自分の母親じゃねえのか?」
「大雑把な母ちゃんが、あのような繊細な作業ができるものか」
今度は春也が驚く番だった。
「え? ウチのママってそんな繊細なのか?」
「と言うよりかは感覚で理解している感じだな、いわゆる天才肌の人間だ。だから説明は苦手で、見て覚えた茉優さんは同じ感覚派だったから理解できたんだろうな」
「一部の天才にしか真似できねえパンって、言葉だけ聞くと凄えな」
「凡人には厄介極まりないがな」
「智希もその天才肌なタイプじゃないのか?」
「阿呆か、貴様は。俺は努力型だ。晋悟もな。身内で天才肌なのは貴様と穂月さん、それにウチの姉さんと母ちゃんだな」
うんうんと晋悟も頷いているあたり、春也だけがそうした印象を抱けてなかったようである。
「だから俺がプロの道に進んでも苦労するだけだ。ならば友人の店を手伝いながら、活躍をテレビで眺めるのも悪くない。愛する人たちを幸せにするだけでなく、友人が帰ってきた時の居場所も用意できるからな」
フンといつもみたいに鼻を鳴らしながら、智希はいつもと違って恥ずかしそうにそっぽを向いた。
*
ドラフト当日。校長室に簡易の取材スペースが設置され、春也は監督と並んで用意されたパイプイスに座っていた。目の前の長机には、インタビューの際に使用するマイクが設置済みだ。
「これで指名されなかったら、違う番組で映像を使われそうっスね」
何気なく呟いた一言に、報道陣がどっと沸いた。どうやら春也の冗談だと思われたらしい。監督も隣で苦笑いを作っていた。
落ち着かずに待つ時間はやたらと長く感じられ、そしてドラフト会議が始まる。昨今ではテレビ中継もされており、野球部員たちも部室で見ているという。
厳かな会場の雰囲気に感化されたのか、ドアが開け放たれ、廊下で撮影の準備をしている取材陣まで揃って緊張している。
そして1巡名の指名がチーム名に続いて読み上げられる。最初は関東に本拠地を置く球団だった。
『高木春也 投手 市立南高校』
わっと歓声が上がり、監督から握手を求められる。誰も彼もが笑顔になり、春也より先に喜びを爆発させる。
さらに同じ名前が3度読み上げられる。4球団が競合を覚悟で春也を指名した。大学や社会人にも有力選手がいる中なので、素直に嬉しさを強くする。
室内のテレビで抽選の様子を見守る。複数台のカメラが春也の表情を逃すまいと撮影を続ける。
くじを開き、高々と右手を掲げたのは、少し前に友人たちと話していた例の関西チームの監督だった。
「高木君、今、どんな心境かな?」
「甲子園で活躍したから、投げ易いんじゃない?」
様々な質問に答えているうちに時間が経過し、見事にくじを引き当てたということで、テレビで該当球団の監督がメッセージを送ってくれる。前後するように担当のスカウトからも電話が入り、明日には指名挨拶が行われることになった。
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取材陣の頼みで部室前に移動し、春也が来るのを待っていた部員たちから胴上げされる。しかも事前に全球団分を用意していたらしく、指名権を得たチームの帽子を被らされ、応援メガホンまで持たされた。
胴上げする部員に混ざって、智希や晋悟、さらには元マネージャーも祝福してくれる。照れ臭いが妙に誇らしくもあって、春也も素直に受け入れる。
高校生だけにあまり帰宅を送らせてもと、散々遅くまで練習させた監督が報道陣に言い、春也はなんとか智希たちと一緒に高木家へ帰った。
「何で主役不在で宴会が始まってんだよ!」
パーティー用にテーブルなどを設置されたリビングが、入ってすぐわかるほどに酒臭かった。
「俺はお前ならやってくれると思ってた! さすが俺の息子だ! うおお!」
豪快に男泣きする父親を見るのは、初めて甲子園で優勝した日以来の二度目だった。母親はそんな父親を見て大笑いしている。向こうも向こうで滅多になく酔っ払っているみたいだった。
「姉ちゃんたちも来てたのか」
「まーたんが緊張しすぎて朝からおえおえしてたから、心配でついてきたんだ」
「ほっちゃん! それは言わないって約束しただろ!」
慌てて穂月の口を塞いだ陽向は半泣きだ。口調も足取りもしっかりしているので、春也が無事に指名されたのを見て安心したのかもしれない。
「今からそんなんじゃ、俺が初めてプロのマウンドに上がる日には失神してそうだな」
「……したとしても起こしてもらうさ。その程度で春也の晴れ舞台を見逃してたまるかよ」
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「もちろん私も行くよ!」
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「嫁姑問題は勃発しそうにないけど、ムーンリーフにとってはなかなか頭の痛い問題になりそうね」
本店の経理を預かる好美が額に手を当てる。その肩を励ますように叩くのは智希の母親だ。
「好美は心配性すぎんだよ!」
「そうね、実希子ちゃんはどうせ運転手をやって、葉月ちゃんや陽向ちゃんと一緒に観戦しに行くんでしょうしね」
「さすがにわかってんじゃねえか」
「長い付き合いだからね。こうなったら一刻も早く智希君には戦力になってもらわないと」
「任せてください、すぐに主力となって母ちゃんをクビにします」
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