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春也の高校編
有名になると好き勝手に噂されます!? ドラフト後の騒動と幸せな約束
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春也がドラフトで1位指名され、テレビでよく見る球団の監督が遠く離れた田舎までわざわざ挨拶にも来てくれたことで、南高校に在籍する大多数の生徒からサインをお願いされた。洒落たものなど考えたこともないし、単純にボールペンで名前を書いただけなのだが。
一緒に写真を撮るのもよく頼まれ、応じているうちに何やらSNSでもアップされたみたいで、学校から生徒に不要な情報を流さないようになんて注意書きされたプリントも渡された。
人気球団だけあって周辺はさらに騒がしくなり、当然のように春也の家がパン屋を営んでいることも記事になった。これは店長の母親が、隠す必要はないからと公開を了承したからなのだが。
さらには性格を知らない人間には、アイドルみたいに扱われる智希が、プロでも進学でもなく就職する店としても一気に有名になった。もちろん春也の姉が同校出身で、ソフトボールでインターハイ3連覇をしたエースだとも知れ渡る。
こちらも演劇狂いな面を抜かせば容姿が整っているので、大学でも一気にファンが増えたらしい。もっとも姉の近くには常にガードマンならぬガードウーマンがいるので極度に心配する必要もないのだが。
「ただいまー……って、ママ、グッタリしてない?」
手洗いとうがいを済ませ、自室でジャージに着替えてからリビングに入ると、母親がテーブルに突っ伏していた。プロ入りに備えて練習してきたので、時刻はすでに午後9時近かったりする。
「最初はお客さんが増えたって喜んでたんだけどね……日に日にさらに増えててね……」
野球専門雑誌だけでなく、朝や昼のニュース番組でも放映され、さらには春也が所属する予定の球団のファンが、売り上げに貢献しようと関西からそれなりに訪れているらしかった。
「智希君にアルバイトに入ってもらったんだけど、それ目当ての女の子もいるし……」
「はー……大変なんだな……ってその智希のママまでいるじゃん」
「おう。家は家で何やら騒ぎなんでな。旦那に任せて避難中だ」
「……智希ママが蹴散らした方が早いんじゃねえのか?」
「アタシもそう思ったんだがな、春也の母ちゃんの店で働いてるわけだし、問題を起こすのはマズイって好美が言うんだよ」
「なるほど。確実に怪我人が出るもんな」
「お前はアタシを何だと……いや、どうせなっちー譲りの答えが来そうだから聞かないでおくわ」
実希子がややげんなりとしている間に、母親の葉月もある程度の気力と体力を回復させたみたいだった。
「そのなっちーも今日は2号店に泊ってくるって」
「あっちも大変ってことか? 何でそんな騒ぎになってんだ?」
「お小遣い稼ぎに、穂月がたまにバイトしてるからだよ。あの子が店に入ると当然……」
「のぞねーちゃんやゆーねえちゃんといった男人気の高い女性店員も誕生するわけか」
「正解」
今度は椅子にもたれながら、天井へと長い息を吐く葉月。
「私やなっちーがインターハイに出た時も、ここまで大きな騒ぎにはならなかったのになー」
「拗ねんなよ。それを言うなら、希や穂月たちが3連覇した時だってそうだ。まだまだ日本では野球人気が高い証拠だな」
屈託なく実希子が笑う。母親も愚痴というよりは、指摘された通り、自分の頃も今みたいにチヤホヤされたかったなんてわかりやすくいじけている。
「それで姉ちゃんたちは大丈夫なのか?」
「心配するなっちーを後目にお店に立って、注目されているのをいいことに、飲食スペースで踊り出したらしいわ」
「さすが姉ちゃんだな。いつでも俺の予想の斜め上をいってくれるぜ」
「話はそこで終わらないんだよ。動画で撮影した人がいたらしくて、面白いからってさらに人が押し寄せて、調子づいた愛娘はもう留まるところを知らないらしいんだよ」
「とどめに希や悠里を巻き込んで劇まで始めて、2号店の名物になりつつあるらしい。おかげで売上は伸びまくってるみたいだけどな」
肩を竦めた実希子に、普段は春也の帰宅を待っている姪のことを尋ねる。
「いい子だからもう寝てるよ。やっぱり学校で春也のことを聞かれるらしいぞ。本人は満更でもなさそうだったから、気にしなくても大丈夫だろ」
「それならいいけどさ。なんか皆に迷惑かけちまってるな」
「阿呆か、貴様は。最初に甲子園を制した時点で兆候はあっただろうが。それがたまたま爆発しただけにすぎん。こんなのをいちいち気にしてたら、プロで活躍などできんぞ」
聞き慣れた声に振り替えると、全身から湯気を立ち昇らせている智希がリビングに入ってきたばかりだった。
「風呂に入ってたのかよ」
「うむ。いいお湯だったぞ」
「つーか、すでに自分の家みたいになってんじゃねえか」
「今更だな。俺はそこの母ちゃんの息子だぞ」
「納得した」
「ハッハッハ! 智希と穂月が結婚すれば、葉月たちとは本当に家族になるんだ。遠慮してどうすんだよ」
「その前から遠慮なんてしてねえだろ……」
春也が高笑いする女傑に指摘するも、やはり気にも留めない。気がつけば母親も、そんな友人と同じ種類の笑みを浮かべていた。
「そこが実希子ちゃんのいいところなんだよ」
「かもな」
仕方がないので、春也も一緒に笑った。祖母と祖父も何事かと顔を出して、結局この日は夜まで皆でお喋りをした。
*
校舎へのスマホやタブレットの持ち込みは禁止だが、隠して持ってくる生徒は多い。堂々と操作していれば没収もされるが、休み時間に触れる程度なら大抵の教師が黙認する。以前までは鬼のように厳しかったとある女教師も、夏前あたりからやたらと優しくなっていた。もちろん問題などが発生したら、情け容赦なく没収された挙句に、これまでの緩さは撤回されるだろう。
「おい、見てみろよ。またお前らが話題になってるぞ」
そうした生徒の1人が、わざわざ春也の元までスマホ片手にやってきた。いつものようにつるんでいた友人2人も、その男子に視線を向ける。
「今度はどんなことになってるの?」
話を聞きつけた元マネージャーとその友人も加わり、瞬く間に春也の席を中心に輪ができる。
「小山田の姉さんが超美人だって」
「あー……なんかウチの姉ちゃん中心に、バイトしてる2号店で踊ったりしてるらしくてな……」
「その説明だけだと、何がどうなってるのか想像し辛いんだけど……」
数度会っているとはいえ、基本的に噂でしか穂月の人となりを知らない要が頬を引き攣らせる。
「で、そこから話が広がって、群雲学園の仮谷って奴の彼女の方が美人だっていうコメントが出てきた」
どうやらそういうスレッドまでできたらしく、そこでどちらが美人かという激論が交わされているらしい。
「仮谷って4番を打ってた奴だよな。夏に応援してたそれっぽい女子を見たけど、確かにとんでもない美人だったぞ。俺もその時、のぞねーちゃんに匹敵するんじゃねえかって思ったし」
さすがに隠し撮りの画像などは貼られておらず、見たことがある者同士の言い合いになっていたので、ますます泥沼というか決着がつき辛い状況になっている。
「どいつもこいつも阿呆すぎてくだらんな」
「智希はこういうの興味なさそうだもんな」
フンと鼻を鳴らした親友に、春也はすぐさま同意したが、
「論じるまでもなく姉さんの方が美しいに決まってるだろう。女神に敵う人間が存在すると思ってるのか。貸せ、俺が愚物どもに現実を教えてやる」
「晋悟君、智希君を押さえて! この勢いだと実名で投稿し始めそうだから!」
元マネージャーの要請を受けた晋悟が、すかさず智希を羽交い絞めにする。何か問題があれば、春也と智希の責任者扱いされている晋悟が、担任の美由紀や野球部の監督から怒られるせいだ。
「ハッハッハ、相変わらず晋悟は大変だな」
などと笑っていたら、スマホの所有者が「お?」と声を上げた。
「高木の彼女さんのことも書いてあるぞ。美人だけどヤンキー。群雲の仮谷と戦うなら、キャッチャーの姉を彼女にするべき、だって」
「貸せ、俺が愚物どもに現実を教えてやる」
「晋悟君、春也君を押さえて! この勢いだと――」
「何これ!? さっきのVTRでも見てるのかな!?」
大慌ての晋悟に懇願されたクラスメートに拘束され、春也は結局反論を書き込むことはできなかった。
*
部活を引退し、卒業も問題ないということで、陽向はちょくちょく高木家へ遊びに来るようになった。何かといえば春也が会いに行くため、金銭事情を心配したのが理由らしかった。朱華は仕事で、穂月たちは丁度忙しい盛りなので、春也の部屋で2人きりである。
「なんてことがあったんだよ」
日曜日で、家にはアルバイト程度で仕事をして、あとは年金で生活中の祖父母がいるくらいだ。年も年なのと、ムーンリーフの従業員も増えたので、最近では祖母ともどもあまり手伝いにはいかなくなっていた。
とはいえ彼女を連れ込んだ孫を監視するタイプでもないのと、1階と2階で離れているため、特に気にすることもなかった。
「……そんなに綺麗だったのか?」
「ん?」
「群雲学園のなんちゃらって奴の彼女だよ」
「ああ……前にも教えたと思うけど、のぞねーちゃんと同じくらいには」
「要するに、とんでもねえ美人じゃねえか」
いじけたように横を向く陽向。あまりにも可愛すぎて悪戯したくなるが、こういった状況でそんな真似をすれば怒らせてしまう可能性が高い。女心に鈍い春也でも、さすがに学習するのである。
「まあ、俺が好きなのはまーねえちゃんだけどな」
いつもならこれで機嫌が直るはずが、今日に限っては押し黙ったままだ。さすがにどうしたのか問うと、俯きながらポツリポツリと話し始める。
「春也はこれからどんどん有名になるだろ? そうすりゃ俺よりずっと綺麗な女に声だってかけられる。これまでは近くにいたから今みたいな関係になったけどさ、この先もずっとそうだとは限らねえし」
「限るだろ? 俺、まーねえちゃん以外に興味ねえし」
「そんなこと言うけどさ……不安なんだよ。俺、言葉遣いもこんなんだし、女らしさなんてねえし……」
「じゃあ今すぐ結婚しよう」
「……は?」
「家族になればそんな不安も消えるだろ」
「いや、お前、これからプロで勝負しようって奴がそんな……」
「俺にとっての1番はまーねえちゃんだ。プロに進むせいで離れるってんなら、まだ仮契約もしてねえんだし、やめて就職する」
春也が本気だとわかったのか、落ち込んでいた陽向が一気に焦りだす。
「待て! そんなの駄目だ!」
「だったら結婚してくれるよな?」
「脅しじゃねえか! こんなムードもクソもねえプロポーズなんてありかよ!?」
「俺とまーねえちゃんらしくはあるだろ」
「おま……プッ! ハハハ! そうだな。確かに俺たちらしいな。
けど……本当に俺でいいのか?」
「当たり前のこと聞くなよ」
隣に座って抱き締める。成長した春也には、幼い頃は頼もしかった陽向がとても小さく思えた。
「俺と結婚してください」
「……はい」
見つめ合って唇を重ね、ただお互いの温もりを感じる。それだけで春也は、地球に存在する幸せを独り占めしたような気分になった。
一緒に写真を撮るのもよく頼まれ、応じているうちに何やらSNSでもアップされたみたいで、学校から生徒に不要な情報を流さないようになんて注意書きされたプリントも渡された。
人気球団だけあって周辺はさらに騒がしくなり、当然のように春也の家がパン屋を営んでいることも記事になった。これは店長の母親が、隠す必要はないからと公開を了承したからなのだが。
さらには性格を知らない人間には、アイドルみたいに扱われる智希が、プロでも進学でもなく就職する店としても一気に有名になった。もちろん春也の姉が同校出身で、ソフトボールでインターハイ3連覇をしたエースだとも知れ渡る。
こちらも演劇狂いな面を抜かせば容姿が整っているので、大学でも一気にファンが増えたらしい。もっとも姉の近くには常にガードマンならぬガードウーマンがいるので極度に心配する必要もないのだが。
「ただいまー……って、ママ、グッタリしてない?」
手洗いとうがいを済ませ、自室でジャージに着替えてからリビングに入ると、母親がテーブルに突っ伏していた。プロ入りに備えて練習してきたので、時刻はすでに午後9時近かったりする。
「最初はお客さんが増えたって喜んでたんだけどね……日に日にさらに増えててね……」
野球専門雑誌だけでなく、朝や昼のニュース番組でも放映され、さらには春也が所属する予定の球団のファンが、売り上げに貢献しようと関西からそれなりに訪れているらしかった。
「智希君にアルバイトに入ってもらったんだけど、それ目当ての女の子もいるし……」
「はー……大変なんだな……ってその智希のママまでいるじゃん」
「おう。家は家で何やら騒ぎなんでな。旦那に任せて避難中だ」
「……智希ママが蹴散らした方が早いんじゃねえのか?」
「アタシもそう思ったんだがな、春也の母ちゃんの店で働いてるわけだし、問題を起こすのはマズイって好美が言うんだよ」
「なるほど。確実に怪我人が出るもんな」
「お前はアタシを何だと……いや、どうせなっちー譲りの答えが来そうだから聞かないでおくわ」
実希子がややげんなりとしている間に、母親の葉月もある程度の気力と体力を回復させたみたいだった。
「そのなっちーも今日は2号店に泊ってくるって」
「あっちも大変ってことか? 何でそんな騒ぎになってんだ?」
「お小遣い稼ぎに、穂月がたまにバイトしてるからだよ。あの子が店に入ると当然……」
「のぞねーちゃんやゆーねえちゃんといった男人気の高い女性店員も誕生するわけか」
「正解」
今度は椅子にもたれながら、天井へと長い息を吐く葉月。
「私やなっちーがインターハイに出た時も、ここまで大きな騒ぎにはならなかったのになー」
「拗ねんなよ。それを言うなら、希や穂月たちが3連覇した時だってそうだ。まだまだ日本では野球人気が高い証拠だな」
屈託なく実希子が笑う。母親も愚痴というよりは、指摘された通り、自分の頃も今みたいにチヤホヤされたかったなんてわかりやすくいじけている。
「それで姉ちゃんたちは大丈夫なのか?」
「心配するなっちーを後目にお店に立って、注目されているのをいいことに、飲食スペースで踊り出したらしいわ」
「さすが姉ちゃんだな。いつでも俺の予想の斜め上をいってくれるぜ」
「話はそこで終わらないんだよ。動画で撮影した人がいたらしくて、面白いからってさらに人が押し寄せて、調子づいた愛娘はもう留まるところを知らないらしいんだよ」
「とどめに希や悠里を巻き込んで劇まで始めて、2号店の名物になりつつあるらしい。おかげで売上は伸びまくってるみたいだけどな」
肩を竦めた実希子に、普段は春也の帰宅を待っている姪のことを尋ねる。
「いい子だからもう寝てるよ。やっぱり学校で春也のことを聞かれるらしいぞ。本人は満更でもなさそうだったから、気にしなくても大丈夫だろ」
「それならいいけどさ。なんか皆に迷惑かけちまってるな」
「阿呆か、貴様は。最初に甲子園を制した時点で兆候はあっただろうが。それがたまたま爆発しただけにすぎん。こんなのをいちいち気にしてたら、プロで活躍などできんぞ」
聞き慣れた声に振り替えると、全身から湯気を立ち昇らせている智希がリビングに入ってきたばかりだった。
「風呂に入ってたのかよ」
「うむ。いいお湯だったぞ」
「つーか、すでに自分の家みたいになってんじゃねえか」
「今更だな。俺はそこの母ちゃんの息子だぞ」
「納得した」
「ハッハッハ! 智希と穂月が結婚すれば、葉月たちとは本当に家族になるんだ。遠慮してどうすんだよ」
「その前から遠慮なんてしてねえだろ……」
春也が高笑いする女傑に指摘するも、やはり気にも留めない。気がつけば母親も、そんな友人と同じ種類の笑みを浮かべていた。
「そこが実希子ちゃんのいいところなんだよ」
「かもな」
仕方がないので、春也も一緒に笑った。祖母と祖父も何事かと顔を出して、結局この日は夜まで皆でお喋りをした。
*
校舎へのスマホやタブレットの持ち込みは禁止だが、隠して持ってくる生徒は多い。堂々と操作していれば没収もされるが、休み時間に触れる程度なら大抵の教師が黙認する。以前までは鬼のように厳しかったとある女教師も、夏前あたりからやたらと優しくなっていた。もちろん問題などが発生したら、情け容赦なく没収された挙句に、これまでの緩さは撤回されるだろう。
「おい、見てみろよ。またお前らが話題になってるぞ」
そうした生徒の1人が、わざわざ春也の元までスマホ片手にやってきた。いつものようにつるんでいた友人2人も、その男子に視線を向ける。
「今度はどんなことになってるの?」
話を聞きつけた元マネージャーとその友人も加わり、瞬く間に春也の席を中心に輪ができる。
「小山田の姉さんが超美人だって」
「あー……なんかウチの姉ちゃん中心に、バイトしてる2号店で踊ったりしてるらしくてな……」
「その説明だけだと、何がどうなってるのか想像し辛いんだけど……」
数度会っているとはいえ、基本的に噂でしか穂月の人となりを知らない要が頬を引き攣らせる。
「で、そこから話が広がって、群雲学園の仮谷って奴の彼女の方が美人だっていうコメントが出てきた」
どうやらそういうスレッドまでできたらしく、そこでどちらが美人かという激論が交わされているらしい。
「仮谷って4番を打ってた奴だよな。夏に応援してたそれっぽい女子を見たけど、確かにとんでもない美人だったぞ。俺もその時、のぞねーちゃんに匹敵するんじゃねえかって思ったし」
さすがに隠し撮りの画像などは貼られておらず、見たことがある者同士の言い合いになっていたので、ますます泥沼というか決着がつき辛い状況になっている。
「どいつもこいつも阿呆すぎてくだらんな」
「智希はこういうの興味なさそうだもんな」
フンと鼻を鳴らした親友に、春也はすぐさま同意したが、
「論じるまでもなく姉さんの方が美しいに決まってるだろう。女神に敵う人間が存在すると思ってるのか。貸せ、俺が愚物どもに現実を教えてやる」
「晋悟君、智希君を押さえて! この勢いだと実名で投稿し始めそうだから!」
元マネージャーの要請を受けた晋悟が、すかさず智希を羽交い絞めにする。何か問題があれば、春也と智希の責任者扱いされている晋悟が、担任の美由紀や野球部の監督から怒られるせいだ。
「ハッハッハ、相変わらず晋悟は大変だな」
などと笑っていたら、スマホの所有者が「お?」と声を上げた。
「高木の彼女さんのことも書いてあるぞ。美人だけどヤンキー。群雲の仮谷と戦うなら、キャッチャーの姉を彼女にするべき、だって」
「貸せ、俺が愚物どもに現実を教えてやる」
「晋悟君、春也君を押さえて! この勢いだと――」
「何これ!? さっきのVTRでも見てるのかな!?」
大慌ての晋悟に懇願されたクラスメートに拘束され、春也は結局反論を書き込むことはできなかった。
*
部活を引退し、卒業も問題ないということで、陽向はちょくちょく高木家へ遊びに来るようになった。何かといえば春也が会いに行くため、金銭事情を心配したのが理由らしかった。朱華は仕事で、穂月たちは丁度忙しい盛りなので、春也の部屋で2人きりである。
「なんてことがあったんだよ」
日曜日で、家にはアルバイト程度で仕事をして、あとは年金で生活中の祖父母がいるくらいだ。年も年なのと、ムーンリーフの従業員も増えたので、最近では祖母ともどもあまり手伝いにはいかなくなっていた。
とはいえ彼女を連れ込んだ孫を監視するタイプでもないのと、1階と2階で離れているため、特に気にすることもなかった。
「……そんなに綺麗だったのか?」
「ん?」
「群雲学園のなんちゃらって奴の彼女だよ」
「ああ……前にも教えたと思うけど、のぞねーちゃんと同じくらいには」
「要するに、とんでもねえ美人じゃねえか」
いじけたように横を向く陽向。あまりにも可愛すぎて悪戯したくなるが、こういった状況でそんな真似をすれば怒らせてしまう可能性が高い。女心に鈍い春也でも、さすがに学習するのである。
「まあ、俺が好きなのはまーねえちゃんだけどな」
いつもならこれで機嫌が直るはずが、今日に限っては押し黙ったままだ。さすがにどうしたのか問うと、俯きながらポツリポツリと話し始める。
「春也はこれからどんどん有名になるだろ? そうすりゃ俺よりずっと綺麗な女に声だってかけられる。これまでは近くにいたから今みたいな関係になったけどさ、この先もずっとそうだとは限らねえし」
「限るだろ? 俺、まーねえちゃん以外に興味ねえし」
「そんなこと言うけどさ……不安なんだよ。俺、言葉遣いもこんなんだし、女らしさなんてねえし……」
「じゃあ今すぐ結婚しよう」
「……は?」
「家族になればそんな不安も消えるだろ」
「いや、お前、これからプロで勝負しようって奴がそんな……」
「俺にとっての1番はまーねえちゃんだ。プロに進むせいで離れるってんなら、まだ仮契約もしてねえんだし、やめて就職する」
春也が本気だとわかったのか、落ち込んでいた陽向が一気に焦りだす。
「待て! そんなの駄目だ!」
「だったら結婚してくれるよな?」
「脅しじゃねえか! こんなムードもクソもねえプロポーズなんてありかよ!?」
「俺とまーねえちゃんらしくはあるだろ」
「おま……プッ! ハハハ! そうだな。確かに俺たちらしいな。
けど……本当に俺でいいのか?」
「当たり前のこと聞くなよ」
隣に座って抱き締める。成長した春也には、幼い頃は頼もしかった陽向がとても小さく思えた。
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