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春也の高校編
愛し愛され大団円! 愛すべき不思議な家族はこれにて終幕です!
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早朝、歩き慣れた遊歩道からいまだ芽吹かない桜の木を見上げ、春道は軽く溜息をついた。
「入学シーズンでも満開とはならないものな」
隣にピッタリと寄り添う妻が、曲げた人差し指を下顎に当ててクスリとする。
「その代わり、ゴールデンウィークにはお花見デートができるわよ」
「そうやって楽しみにしてると直前で雨が降って、休みを待たずに桜が散ってしまうんだよな」
「昔、葉月が愕然としてたわね」
「ああ……もうずいぶんと昔のことなんだな……」
シャリと鳴った足元を見る。さすがにもう雪はなく、ようやく日の光を浴びられたとばかりに砂や小石が歩道を転がっていた。
視線を上げれば、穏やかな日の光は木の幹で隠れそうになる。どこか弱々しくも感じられるが、夏へ近づくにつれてまた力強さを増していくのだろう。
「そうね……春道さんにプロポーズしたのが懐かしいわ」
穏やかな微笑みを崩さない妻から、隠しようのない上品さが漂う。それは春道には決してないものだった。
「俺は……きちんと和葉の隣を歩けてたかな」
一瞬だけキョトンとして、妻は淑女然としていたのが嘘みたいに噴き出した。
「何を言い出すかと思えば……きちんと歩けてなかったなら引っ張り戻すし、嫌だと駄々をこねるのなら、私が春道さんの隣まで行くから大丈夫よ」
「そうか……そうだな……」
ありがとうとお礼を言えば、はにかんだ妻が、春道の左腕にスッと自身の腕を絡めてくる。
「年甲斐がないかしら?」
「幾つになっても好きな人とは寄り添いたいものだよ。特に俺はね」
「フフ、春道さんは昔から周囲の視線をあまり気にしなかったわね」
「そんなことはないと思うんだけど……」
若干気まずくなって頬を掻く。そんな春道を見て、妻がまた楽しそうにする。
「葉月も立派に親の務めを果たしたし、菜月も母親を頑張ってる。ずっと前からわかってはいたが、もう俺たちがいなくなったとしても大丈夫だよな」
「ええ……でも、そんな寂しいことは言わないでほしいわ。お店もあまり手がかからなくなって、ようやくまた春道さんと1日中イチャイチャできる機会が増えてきたのに」
「悪い悪い、せっかく今を生きてるんだから、もっと素直に楽しまないとな」
年齢が年齢なので早朝にランニングはしなくなったが、それでも日課の散歩はかかさない。どちらかが病気でもない限りは、2人一緒に朝日を浴びながらあれこれと会話を楽しむ。
朝が早い葉月たちの朝食は前日の夜に用意してあり、今頃は冷蔵庫に入っていたのを温め直して食べて、店でせっせと開店前の準備に励んでいるはずだった。
「朱華ちゃんに続いて智希君や陽向ちゃんも入ってくれて、ますます店の経営は万全になったな」
「その智希君は1年間だけ2号店に修行に行くみたいだけど」
「希ちゃん目当てだな。でも穂月とも仲は良いんだろ?」
一見すると希といたいがために穂月を使っているみたいだが、孫曰く智希は智希でしっかりした好意を持っているらしかった。
「最初の頃は希ちゃんとベッタリの穂月を羨ましそうに見てたのよね。でも一緒に希ちゃんの隣にいるうちに話をするようになって、穂月を見る目や接する態度が変わっていったの」
「さすがによく見てるな」
春道は目を瞬いた。ある程度成長してからは、智希の隠された想いみたいなものはわかってきたが、妻ほど詳細には理解できていなかった。
「だから大丈夫だと思うわよ。あの3人は全員が一緒にいるのを望んでるみたいだし」
「実希子ちゃんもそれで納得してたし、今のご時世、結婚や出産が幸せに直結するとも限らないしな」
「私としては、素敵な旦那様と過ごす幸せも味わってほしいけど、こればかりは出会いだものね」
「いっそ、アルバムにある写真の中から、適当な通行人を選んでみるか?」
「成功例はあるけどお勧めできないわね。今から考えても焦ってたのでしょうね。冷静だったら絶対にそんな真似しないもの」
「なら今夜は当時の和葉の焦りに乾杯だな」
「ウフフ、付き合うわ」
*
卒業もして孫の春也は目出度くプロ野球選手の道を歩みだしている。しかも所属しているのが春道の好きな球団なのだから、これ以上ない祖父孝行である。
春也のドラフト1位指名が決まって、早速グッズなどを買い漁り、即座に妻に見つかったが、怒られるどころか自分のもとねだられた。今からテレビの前で2人揃って応援するのが楽しみだったりする。
だがそんな春也だけに、卒業式が終わればすぐ戻らなければならない。高卒の新入団選手であり、開幕を1軍で迎えるためにはオープン戦で結果を出し続ける必要がある。もっとも首尾よくいったとしても、首脳陣の考えによっては2軍で体力強化に励むかもしれないが。
そんな話を孫の卒業式後に話していたら、愛娘が閃いたとばかりに両手を叩いて提案した。春也が地元に残っているうちに、春道と和葉の70歳のお祝いをしようと。
丁度、葉月くらいの年齢であれば、積み重なるのをお祝いされるのは微妙な気分になったりもするが、春道たちまで辿り着けば祝ってもらえるのが素直に嬉しくなる。
しかし余計な気遣いをさせたくないと丁重に断ったのだが、ことイベント事には絶対に手を抜かない愛娘が強権を発動して開催を決定した。普段はそこまで強情にならない葉月の願いなので、最終的には春道と和葉も苦笑交じりに了承した。
そして今日。
店も休みにして、午後から春道と和葉の身内によるお祝いが始まった。一昨日に決定、昨日に準備、今日に開催という電撃スケジュールだった。ムーンリーフの経理を預かる好美がさぞ頭を抱えただろうと思いきや、参加中の彼女は予想していたと屈託なく笑った。
「おめでとうございます。お二人は今でも葉月ちゃんの心の支えなんですから、いつまでも元気でいてください」
「そうそう。この歳になると、親が生きててくれるだけでもありがたいしな」
実希子だけでなく、戸高家の面々もわざわざ声をかけにきてくれた。娘が子供時代から付き合いのある顔ぶれに、春道の隣で和葉も嬉しそうにする。
「すでに盛り上がってるみたいだけど、まずはパパに挨拶してもらわないと」
葉月に背中を押され、妻ともども皆の前に立たされる。こういう時の和葉は春道にすべて任せ、スッと1歩後ろに下がる。周囲からは夫の顔を立てていると評判だが、実際はスピーチしたくないので丸投げしているだけだ。家族なら誰もが知る事実である。
「ええと……結婚して娘ができるまでは、きっと1人で余生を過ごすんだろうなと思ってました。けれど……なんて言えばいいのか……」
春道が口籠ると、なんと穂月が「大丈夫だよ」と励ましてくれた。
「言葉を選ばなくてもいいんだよ。血なんか繋がってなくたって、穂月たちは家族なんだから」
発言に驚き、春道は思わず愛娘を見る。
「葉月、お前……」
「子供たちにはもう話してあるよ。それに養子なのを隠す必要もないし。だって始まりがどうであれ、葉月はパパとママの娘なんだから」
「穂月もジージとバーバの孫だよ」
「そうだな……2人ともありがとう」
黙って聞いていた和葉が両手で顔を覆う。嗚咽が漏れ聞こえてくると同時に、春道は隣に立って妻の肩を強く抱いた。
「血の繋がりがなくても結婚すれば夫婦に――家族になります。だから血の繋がりのない親子だって当たり前に家族になれるんです。そして愛する娘を通して知り合った方々も、俺は勝手に家族だと思ってます」
愛娘が建ててくれた家に集まった人たち。その顔を1つ1つ見ていく。すっかり老けて、会えばそれを話題にお互い笑い合う関係。
長期休みにはよく遊びに連れて行った子供たちが大人になり親になり、今はその時のお返しをするように色々とお祝いをしてくれる。
「ちょっとしたきっかけで夫婦になったはずが、気が付けば心から想い合っていたり……世の中は不思議なことだらけですが、幸せな人生を歩めた俺はその不思議さを心から愛してると断言できます」
春道は葉月の持たされたグラスを、和葉と一緒に掲げる。
「知り合ってくれてありがとう。人生を彩ってくれてありがとう。人生を彩らせてくれてありがとう。この場にいるすべての家族に愛情と感謝を。乾杯」
「「「乾杯!」」」
グラスの打ち合う音が聞こえ、中には抱き合っている者たちもいた。
「春道さん……」
腕の中にいる最愛の女性が上目遣いで見つめてくる。
「いつまでも愛してます……」
「……先に言われてしまったな。俺もいつまでも愛してる」
「待って待って! 葉月だってママとパパを愛してるんだからね!」
子供の頃に戻ったみたいに葉月が抱き着いてきて、その後ろを遠慮気味についてくる菜月も、姉の手で輪に加わる。
胸が熱くなる時間が流れ、そして――
「お祝い事といえば穂月の出番なんだよ!」
孫娘が足を踏み鳴らし、人差し指を天に向け、大きな声で宣言する。
「劇団ムーンリーフの開演だよ! 今日と言う日のために準備してきたんだよ!」
「……ずっと前からほっちゃんに演じたいって頼まれてた」
穂月の背中にもたれかかりながら、希が自分で書いたと思われる台本を振って見せた。印字したコピー用紙をホッチキスで止めただけだが、きちんと表紙があってタイトルも書かれている。
「どんな劇なんだ?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、穂月がにんまりと手を胸に当て、尋ねた春道に女優のごとき一礼を披露する。
「ただいまよりお見せするのは、奇妙な縁で家族になった人たちと、それを取り巻く人たちの物語です。どうか最後までお楽しみください。それでは演目、愛すべき不思議な家族の開演です」
「入学シーズンでも満開とはならないものな」
隣にピッタリと寄り添う妻が、曲げた人差し指を下顎に当ててクスリとする。
「その代わり、ゴールデンウィークにはお花見デートができるわよ」
「そうやって楽しみにしてると直前で雨が降って、休みを待たずに桜が散ってしまうんだよな」
「昔、葉月が愕然としてたわね」
「ああ……もうずいぶんと昔のことなんだな……」
シャリと鳴った足元を見る。さすがにもう雪はなく、ようやく日の光を浴びられたとばかりに砂や小石が歩道を転がっていた。
視線を上げれば、穏やかな日の光は木の幹で隠れそうになる。どこか弱々しくも感じられるが、夏へ近づくにつれてまた力強さを増していくのだろう。
「そうね……春道さんにプロポーズしたのが懐かしいわ」
穏やかな微笑みを崩さない妻から、隠しようのない上品さが漂う。それは春道には決してないものだった。
「俺は……きちんと和葉の隣を歩けてたかな」
一瞬だけキョトンとして、妻は淑女然としていたのが嘘みたいに噴き出した。
「何を言い出すかと思えば……きちんと歩けてなかったなら引っ張り戻すし、嫌だと駄々をこねるのなら、私が春道さんの隣まで行くから大丈夫よ」
「そうか……そうだな……」
ありがとうとお礼を言えば、はにかんだ妻が、春道の左腕にスッと自身の腕を絡めてくる。
「年甲斐がないかしら?」
「幾つになっても好きな人とは寄り添いたいものだよ。特に俺はね」
「フフ、春道さんは昔から周囲の視線をあまり気にしなかったわね」
「そんなことはないと思うんだけど……」
若干気まずくなって頬を掻く。そんな春道を見て、妻がまた楽しそうにする。
「葉月も立派に親の務めを果たしたし、菜月も母親を頑張ってる。ずっと前からわかってはいたが、もう俺たちがいなくなったとしても大丈夫だよな」
「ええ……でも、そんな寂しいことは言わないでほしいわ。お店もあまり手がかからなくなって、ようやくまた春道さんと1日中イチャイチャできる機会が増えてきたのに」
「悪い悪い、せっかく今を生きてるんだから、もっと素直に楽しまないとな」
年齢が年齢なので早朝にランニングはしなくなったが、それでも日課の散歩はかかさない。どちらかが病気でもない限りは、2人一緒に朝日を浴びながらあれこれと会話を楽しむ。
朝が早い葉月たちの朝食は前日の夜に用意してあり、今頃は冷蔵庫に入っていたのを温め直して食べて、店でせっせと開店前の準備に励んでいるはずだった。
「朱華ちゃんに続いて智希君や陽向ちゃんも入ってくれて、ますます店の経営は万全になったな」
「その智希君は1年間だけ2号店に修行に行くみたいだけど」
「希ちゃん目当てだな。でも穂月とも仲は良いんだろ?」
一見すると希といたいがために穂月を使っているみたいだが、孫曰く智希は智希でしっかりした好意を持っているらしかった。
「最初の頃は希ちゃんとベッタリの穂月を羨ましそうに見てたのよね。でも一緒に希ちゃんの隣にいるうちに話をするようになって、穂月を見る目や接する態度が変わっていったの」
「さすがによく見てるな」
春道は目を瞬いた。ある程度成長してからは、智希の隠された想いみたいなものはわかってきたが、妻ほど詳細には理解できていなかった。
「だから大丈夫だと思うわよ。あの3人は全員が一緒にいるのを望んでるみたいだし」
「実希子ちゃんもそれで納得してたし、今のご時世、結婚や出産が幸せに直結するとも限らないしな」
「私としては、素敵な旦那様と過ごす幸せも味わってほしいけど、こればかりは出会いだものね」
「いっそ、アルバムにある写真の中から、適当な通行人を選んでみるか?」
「成功例はあるけどお勧めできないわね。今から考えても焦ってたのでしょうね。冷静だったら絶対にそんな真似しないもの」
「なら今夜は当時の和葉の焦りに乾杯だな」
「ウフフ、付き合うわ」
*
卒業もして孫の春也は目出度くプロ野球選手の道を歩みだしている。しかも所属しているのが春道の好きな球団なのだから、これ以上ない祖父孝行である。
春也のドラフト1位指名が決まって、早速グッズなどを買い漁り、即座に妻に見つかったが、怒られるどころか自分のもとねだられた。今からテレビの前で2人揃って応援するのが楽しみだったりする。
だがそんな春也だけに、卒業式が終わればすぐ戻らなければならない。高卒の新入団選手であり、開幕を1軍で迎えるためにはオープン戦で結果を出し続ける必要がある。もっとも首尾よくいったとしても、首脳陣の考えによっては2軍で体力強化に励むかもしれないが。
そんな話を孫の卒業式後に話していたら、愛娘が閃いたとばかりに両手を叩いて提案した。春也が地元に残っているうちに、春道と和葉の70歳のお祝いをしようと。
丁度、葉月くらいの年齢であれば、積み重なるのをお祝いされるのは微妙な気分になったりもするが、春道たちまで辿り着けば祝ってもらえるのが素直に嬉しくなる。
しかし余計な気遣いをさせたくないと丁重に断ったのだが、ことイベント事には絶対に手を抜かない愛娘が強権を発動して開催を決定した。普段はそこまで強情にならない葉月の願いなので、最終的には春道と和葉も苦笑交じりに了承した。
そして今日。
店も休みにして、午後から春道と和葉の身内によるお祝いが始まった。一昨日に決定、昨日に準備、今日に開催という電撃スケジュールだった。ムーンリーフの経理を預かる好美がさぞ頭を抱えただろうと思いきや、参加中の彼女は予想していたと屈託なく笑った。
「おめでとうございます。お二人は今でも葉月ちゃんの心の支えなんですから、いつまでも元気でいてください」
「そうそう。この歳になると、親が生きててくれるだけでもありがたいしな」
実希子だけでなく、戸高家の面々もわざわざ声をかけにきてくれた。娘が子供時代から付き合いのある顔ぶれに、春道の隣で和葉も嬉しそうにする。
「すでに盛り上がってるみたいだけど、まずはパパに挨拶してもらわないと」
葉月に背中を押され、妻ともども皆の前に立たされる。こういう時の和葉は春道にすべて任せ、スッと1歩後ろに下がる。周囲からは夫の顔を立てていると評判だが、実際はスピーチしたくないので丸投げしているだけだ。家族なら誰もが知る事実である。
「ええと……結婚して娘ができるまでは、きっと1人で余生を過ごすんだろうなと思ってました。けれど……なんて言えばいいのか……」
春道が口籠ると、なんと穂月が「大丈夫だよ」と励ましてくれた。
「言葉を選ばなくてもいいんだよ。血なんか繋がってなくたって、穂月たちは家族なんだから」
発言に驚き、春道は思わず愛娘を見る。
「葉月、お前……」
「子供たちにはもう話してあるよ。それに養子なのを隠す必要もないし。だって始まりがどうであれ、葉月はパパとママの娘なんだから」
「穂月もジージとバーバの孫だよ」
「そうだな……2人ともありがとう」
黙って聞いていた和葉が両手で顔を覆う。嗚咽が漏れ聞こえてくると同時に、春道は隣に立って妻の肩を強く抱いた。
「血の繋がりがなくても結婚すれば夫婦に――家族になります。だから血の繋がりのない親子だって当たり前に家族になれるんです。そして愛する娘を通して知り合った方々も、俺は勝手に家族だと思ってます」
愛娘が建ててくれた家に集まった人たち。その顔を1つ1つ見ていく。すっかり老けて、会えばそれを話題にお互い笑い合う関係。
長期休みにはよく遊びに連れて行った子供たちが大人になり親になり、今はその時のお返しをするように色々とお祝いをしてくれる。
「ちょっとしたきっかけで夫婦になったはずが、気が付けば心から想い合っていたり……世の中は不思議なことだらけですが、幸せな人生を歩めた俺はその不思議さを心から愛してると断言できます」
春道は葉月の持たされたグラスを、和葉と一緒に掲げる。
「知り合ってくれてありがとう。人生を彩ってくれてありがとう。人生を彩らせてくれてありがとう。この場にいるすべての家族に愛情と感謝を。乾杯」
「「「乾杯!」」」
グラスの打ち合う音が聞こえ、中には抱き合っている者たちもいた。
「春道さん……」
腕の中にいる最愛の女性が上目遣いで見つめてくる。
「いつまでも愛してます……」
「……先に言われてしまったな。俺もいつまでも愛してる」
「待って待って! 葉月だってママとパパを愛してるんだからね!」
子供の頃に戻ったみたいに葉月が抱き着いてきて、その後ろを遠慮気味についてくる菜月も、姉の手で輪に加わる。
胸が熱くなる時間が流れ、そして――
「お祝い事といえば穂月の出番なんだよ!」
孫娘が足を踏み鳴らし、人差し指を天に向け、大きな声で宣言する。
「劇団ムーンリーフの開演だよ! 今日と言う日のために準備してきたんだよ!」
「……ずっと前からほっちゃんに演じたいって頼まれてた」
穂月の背中にもたれかかりながら、希が自分で書いたと思われる台本を振って見せた。印字したコピー用紙をホッチキスで止めただけだが、きちんと表紙があってタイトルも書かれている。
「どんな劇なんだ?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、穂月がにんまりと手を胸に当て、尋ねた春道に女優のごとき一礼を披露する。
「ただいまよりお見せするのは、奇妙な縁で家族になった人たちと、それを取り巻く人たちの物語です。どうか最後までお楽しみください。それでは演目、愛すべき不思議な家族の開演です」
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