僕と英雄

桐条京介

文字の大きさ
2 / 25

2話 鈍感大王なんだから

しおりを挟む
「規制される前はテレビゲームのない生活なんて無理だと思ったけど、意外と慣れるものだね」

 達観したような台詞を呟いた裕介の隣で、七海が苦笑する。

「テレビゲームはなくなったけど、ゲーム自体は残ってるじゃない。裕介も遊んでるやつ」

 それこそが、大手玩具メーカーが企画し、現在も政府が支援中のボードゲームの英雄だった。

「大人も子供も夢中よね。ほら、今朝もやってる」

 七海が指差したのは、全国展開しているコンビニの駐車場だった。駐車スペースの一角を区切り、そこをプレイルームにしている。

 英雄はメーカーの承認を受けた審判がいなければ、対戦プレイができない決まりになっている。細かな隠しルールが存在し、それらを判定する必要があるためだ。

 他にもプレイ中の虐めを防ぐ目的もある。部屋に閉じこもらせず、コミュニケーション能力を向上させるために対面でのゲームを推奨したのに、虐めを誘発する結果になっては関係者の面子が丸潰れになる。

 そこで目をつけたのは各県の至るところに出店しているコンビニだ。

 メーカーの研修を受け承認を得た人間を社員として雇えば、国から補助金が出される。雇用促進にも繋がり、今では他の職業訓練同様に職業安定所からも紹介されるくらいだ。

 利用者がいなければコンビニ勤務を行うが、基本的には審判業務が優先される。人気が増すに連れてコンビニが雇う人間も増加するので、現在のところは双方が得をする状態になっている。

 加えてゲーム目的に集まる子供たちや大人が、プレイ中や観戦のために飲み物やお菓子、さらにはお弁当を買ったりもするのでますますコンビニ各社は英雄というボードゲームを全面的に支援するようになった。

 現在は各店ごとのイベントや特典なんかで、利用者集めを競っている。

 裕介が住む町は大きな市から離れた県境で、広さはあれどさほど発展していない区の中に存在する。

 特徴は温泉が多い土地柄で、様々な旅館やホテルが立ち並ぶ、いわば温泉街である。観光地として区全体はほどほどに有名だが、だからといって政令指定都市並みに発展しているとは限らない。

 温泉街としてのイメージを損なわないためかどうかはわからないが、とても緑が豊か――言ってしまえば田舎なのだった。

 見かけたコンビニがこの町で唯一であり、あとは老婆がやっているような昔からの個人商店しかない。

 したがって英雄をプレイしたい人間は、どうしても一箇所に集まることになる。おかげでそのコンビニは大繁盛。見るたびに社員が増えているのは、気のせいではないはずだ。実際に現在審判中の若い女性店員も初めて見る顔だった。

「本当によくやるわよね」

 昔からゲームにさほど興味のない七海は、たまに裕介が頼んで一緒にプレイする時以外、テレビゲームのコントローラーを触る機会すらなかった。おかげで規制が行われた現在でも、以前と何ら変わりのない生活を送れている。

「……裕介も、そろそろ卒業したら?」

 その声には呆れよりも、心配そうな響きが含まれていた。幼馴染だけに、裕介の現状をよく知っているのだ。

 気を遣いながらも、幼馴染である裕介の苦境を救いたいと、意を決したように七海が続けて口を開く。

「裕介、虐められてるんでしょ? おばさまたちはまだ知らないみたいだけど、学校ではわりと有名じゃない」

 裕介は無言で俯く。実際にその通りだった。

 自己主張を滅多にしない裕介は、所属する教室内でもあまり目立たない。虐められるというよりは、いないものとして扱われている感が強い。それは小学生時代から変わらないので、今さらどうとも思わない。七海の指摘は英雄をプレイ中の話だ。

 やたらと裕介を目の敵にして絡んでくる兄妹がいる。虐めは厳禁で審判は監視者でもあるため、過度な威嚇をしたりはしない。ただ圧倒的戦力で勝敗を決するだけだ。もちろん敗北するのは裕介である。

 勝者は敗者からポイントを奪えるので、強者はより強くなり、弱者はいつまでも搾取される。メーカー側もその辺には配慮しており、毎月自動的に登録者へポイントを支給している。弱くとも時間が経過すれば自動的にレベルアップできる仕組みだ。

 本来なら裕介も勝負を挑まれた時点で逃げればいいのだが、強く言われると断り切れない性格が災いした。結果として毎日のように放課後はコンビニへ寄り、ボコボコにされるためだけにゲームをするはめになっている。七海はそれを危惧しているのだ。

「そう思う時もあるけどね。やっぱり僕はゲームが好きなんだ。ゲームのない生活は考えられないよ」

 弱々しい笑顔を見せる裕介を目の当たりにして、頭痛がするとばかりに七海はこめかみを軽く押さえた。

「裕介は昔からゲームバカだったものね。放っておくと、一緒に遊ぼうと約束した私を放置して何時間もやってたし」

「しょ、小学校低学年の話を持ち出さないでよ」

「事実でしょ。だからテレビゲームが規制された時の落ち込み様は凄かったものね。引きこもりになるんじゃないかって、おばさまと一緒に本気で心配したくらいよ」

「はは。それを言われると……でも、そうなってたかもしれない。七海が気を遣って僕を色々連れ回してくれなければね。ありがとう」

 裕介からすれば素直にお礼を言っただけなのだが、感謝を込めた視線を向けられた七海は、火がついたみたいに一瞬で顔を赤くした。

「か、勘違いしないでよね。あれは私の荷物持ちに付き合わせただけなんだから。ま、まあ、勝手に感謝してくれるのを止めたりはしないけど」

 照れているのか、語尾の方がぼそぼそと聞こえ辛くなっていった。頬を朱に染めたままの七海に、裕介は口元を緩める。

「七海も変わらないよね。同い年なのにお姉さんぶったりするところとか。そういうのを姉御肌っていうんだろうね。あと照れ屋なところ」

「裕介が頼りないせいでしょ。だから私は不足部分を補おうとして、こういう性格になったのよ」

 裕介は小首を傾げる。

「どうして僕の足りないところを埋めようとしたの? テレビゲーム規制の時もそうだけど、七海はいつも側にいてくれるし」

 落ち着きを取り戻しつつあった七海の顔色が、その一言で秋の紅葉を連想させるほど赤くなった。

「相変わらず、鈍感大王なんだから」

 聞き取れないほどの小さな声。何か言ったと尋ねる裕介に、七海は怒ったような口調で知らないと返した。

 裕介は早足になった七海を追いかけ、小走りで隣に並んだ彼女の顔を見る。口を真一文字に結んで、視線を合わせようとしない。こうなると厄介なのは、幼馴染なのでよくわかっていた。

 答えを貰ってないからといって、下手に先ほどの質問を繰り返すと逆鱗に触れる。全身が地雷スイッチと化したような雰囲気が今の七海にはある。

 小さい頃は気が付かずによく噴火させてしまったが、成長するに連れて見極めと対処法を会得できた。このようなケースでは放置しておくのが一番だった。

 七海は根に持つタイプではないので、少しすればすぐに本来の彼女に戻る。裕介はそれを黙って待てばいい。

 無言になった七海の隣を歩きながら、だいぶ後ろになったコンビニの駐車場の様子を確認する。そこではまだ二十代から三十代と思われる男性二人が、真剣な顔つきで互いに持つカードをボード上で戦わせていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...