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3話 今日も懲りずに来たの?
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勉強の内容は変われど、朝に通って教室で勉強を受けるという流れは小学校と同じだ。クラスメートの顔ぶれにも慣れ、当初の落ち着きがないような雰囲気もだいぶ薄れた。
七海と同じクラスだったのもあって、中学校でも目立たない裕介が虐められることはなかった。童顔でからかわれたりするが、その程度は可愛いものである。
これでも小さい頃は活発だったんだけどね。いつだったか、仲良くなってきたクラスメートの前で、七海は裕介をそう評した。
実際にある程度の年齢までは明るかった。むしろ七海の方が大人しくて、いつも裕介の服の裾を引っ張って後ろをついて回っていた。
小学校低学年だったろうか。いつも一緒に遊んでいた年上の幼馴染の少年が、急に裕介を嫌うようになった。仲間外れにして、それまで仲が良かった近所の遊び友達からもそっぽを向かれた。子供たちのリーダー格だったその幼馴染に指示されたのである。
今でも子供だが、もっと幼かった裕介に仲間外れの原因などわかるはずもなく、路頭に迷い込んだ気分になった。それでも当初は自分から積極的に話しかけ、仲間に入れてもらえるように頑張った。
一緒に遊んでほしくて、泣いて謝ってみたりもした。けれど状況は変わらなかった。いつしか諦めの気持ちが強くなり、部屋の中でひとりテレビゲームをするようになった。
その頃から人に嫌われるのが無性に怖くなり、普通に接していたはずの友達にも必要以上に気を遣いだした。そうすると誰かと一緒にいるのが疲れるようになった。
共働きで両親が夜まで家にいなかったのもあって、ますますテレビゲームにのめり込んだ。ひとりでも寂しくないようにと買い与えられたテレビゲームが親友になるまで、時間はさほどかからなかった。
友達と遊ぶ機会は少なくなり、授業が終わるとすぐに帰宅してテレビゲームに没頭する。やがてオンラインゲームにも手を出し、ネットの中とはいえ他の誰かと会話をするようにもなった。互いに気を遣うメンバーでチームを組んだため、実生活で誰かと遊ぶよりずっと気が楽だった。
なのにテレビゲームは規制された。絶望のどん底という瞬間を、裕介はあの時に生まれて初めて味わった。命を絶とうかと本気で考えたくらいだ。
暗い海の底に沈んだような状況で、気がつけば一緒にいてくれたのが七海だった。
考えてみれば彼女は昔から、裕介の隣にいた。ひとりでゲームをしている時もじっと見ていた。当人は好んでゲームをやりたがらなかったが、頼めば対戦ゲームも一緒に遊んだ。
外へ引っ張り出すようにして町中を連れ回し、太陽の下で歩くのも悪くないと再確認させてくれたのも七海だった。
おかげでテレビゲーム規制のショックから立ち直れた。引きこもりがちだった自分を変えようと、英雄の発売に合わせて対人のゲームに参加した。
不安はあったが、始めのうちは暇だからと理由をつけて七海が付き合ってくれた。そのうちに顔見知りも増え、ゲームを楽しめるようになった。ひとりでコンビニの駐車場に出かけ、小遣いで買ったお菓子やジュースを飲みながら一日中遊んだこともあった。
――あの男がやってくるまでは。
ため息をつき、首を左右に振って考え事をやめた。その頃には、一時間目を担当する中年の男性教師が教卓に立っていた。
他の生徒と同じように授業を受け、昼休みになれば給食を食べる。少し前までは会話を楽しむ友達もできかけていたが、今は無言だ。時折心配そうに七海が見てくるが、裕介は気にせず過ごす。元々ひとりでいる機会が多かっただけに、極端な寂しさを感じたりしなかった。
放課後になれば席を立ち、ひとりで帰宅しようとする。そこへ、すべての元凶がやってくる。
やせ形の裕介よりも二回りは大きな体格の男性が、文字通りのしのしと歩いてくる。短く刈り揃えている髪の毛が、強面の顔をより凶悪そうに演出している。
同年代に比べて発達した筋肉を誇示するかのごとく、学生服のボタンをあえて留めていない。やや肌黒なのに歯は白く、いかつい外見に横柄な態度。さらには腕っぷしの強さもあって、学校内でもっとも恐れられている。
「よう、裕介。今日も来るんだろ?」
男が歯を剥いて笑う。もしかしなくとも、標的は裕介だった。
「あ、うん。そうだね」
誰よりこの男が苦手な裕介は拒否できず、曖昧に頷いた。
見知らぬ仲ではない。幼少時はよく一緒に遊び、面倒も見てもらっていたひとつ年上の男性。裕介が仲間外れにされた元凶で、かつて近所の子供たちのリーダー格だった。七海と同じで、幼馴染でもある。
男の名前は春日井大貴。彼が絡むようになってきて、裕介の中学校での生活環境は一変した。関係がなくなっていたので干渉されないだろうと思っていたが、甘い考えだったと思い知らされた。
事の原因は少し前。裕介がコンビニの駐車場で英雄を楽しんでいた時だ。テレビゲームが規制され、遊びが少なくなったからこそ大貴も現れた。企画者は英雄というゲームを通してかつての仲が戻るのを期待しているのだろうが、現実はそこまで都合よくなかった。
獲物を見つけたとばかりに、大貴は知り合いという理由で裕介を対戦相手に指名した。ゲームだからと言い聞かせて応じたが、心に巣くっていた苦手意識を簡単には払拭できなかった。プレイしている間中嫌な記憶が思い出され、ふと気がつけば大差で負けていた。
それ以来、裕介はカモにされるようになった。ゲーム自体は面白くもあるので、続けたい。けれど見るからに悪人面の大介に絡まれる哀れな生贄に、好んで関わりたがるプレイヤーはいない。
結果として裕介の相手は大貴とそれ以外の一名に限定され、負けるためにゲームに参加しているような状態だった。そのことを知ったからこそ、七海は今朝、ゲームをやめたらと言ったのである。
裕介もそうは思うが、逆らえば以前よりも酷い仲間外れにされるかもしれない。両親にも七海にも心配や迷惑をかけたくなくて、泥沼へ沈み込むようにして現状から抜け出せなくなっていった。
大貴に連れられて、コンビニの駐車場へ移動する。本来は店内でゲームプレイの受付をしなければならないが、人気があるだけにほぼ誰かが楽しんでいる。審判をしている人に声をかければ、それだけでプレイ可能になる。
駐車場には、エアーホッケーのような高さの台が二つ置かれており、その上に審判がゲームの舞台となるボードを用意している。森や川、草原や荒野などその時々によって変わり、地形効果も加わる。
英雄というゲームをひと言で例えるなら、テレビゲーム時代のシミュレーションロールプレイングゲームになる。
ネットで英雄に登録すると貰えるID番号を使い、各ポイントもそこに振り込まれる。情報はスマホでも見たりできるが、ゲームのプレイはあくまでもコンビニ駐車場に設置された専用スペースが主になる。審判しか知り得ない様々な隠し要素やルールが存在するからだ。
そのため知った隠しルールを高額でオークションする人物もいたりするが、その場合はすぐに身元を特定されてIDを削除。以降は名前を変えようとも二度とゲームに登録できなくなる。
有資格者は日本に滞在する人間に限られる。自分だけ有利になりたいプレイヤー心理もあり、不正行為に関しては少なく思えた。
「あ、弱介じゃん。今日も懲りずに来たの?」
駐車場に着いたばかりの裕介を出迎えたのは、甲高い女性の声だった。誰かは見なくともわかる。大貴の妹で、こちらも昔からやたらと絡んでくる春日井真雪だ。
近所の小学校に通っており、現在は六年生。ホットパンツにニーソックスをはいており、チラリと小麦色の肌が覗く。上半身は袖の長いシャツに薄手のカーディガンを羽織っている。
地毛だという明るい茶色のショートヘアが太陽の光に反射して、この上なく目立つ。薄っすらとメイクもしていて、同年代の女の子に比べればずっと大人びていた。
真雪は両目に挑戦的な輝きを宿し、裕介に近づいて笑みを浮かべる。
「せっかくだから、今日は真雪が遊んであげるし。感謝しなよ、弱介」
昔は真雪も一緒に遊んでいたが、兄の大貴が裕介を仲間外れにするようになった頃から今みたいに弱介と呼ぶようになった。弱い裕介を略したらしい。
からかうと面白いという理由で、何かと兄に裕介を連れて行こうと進言していた。引きこもるようになって大貴とは顔を合わせなくなったが、真雪は事あるごとに家へ来ては連れ出して玩具にしようとした。
ヘッドホンをつけてゲームの世界に没頭し、聞こえないようにして事なきを得ているうちに、事情を知った七海がいつの間にか追い払ってくれていたらしい。それでも暇さえあれば裕介に絡みたがったので、厄介なことこの上なかった。
そんな真雪とも、この場所で再会を果たした。いつだったかプレイ中の裕介に、面白そうじゃんと言って近づいてきたのだ。
真雪がコンビニの駐車場へ入り浸るようになってすぐ、兄の大貴もやってきた。それが裕介の苦難の始まりだった。
「ほら、丁度台も空いたし。まさか逃げないよね」
周囲の人間はいつものやつが始まったかとばかりに、遠目で見つめるだけ。以前は見かねた人が助けに入ってくれたが、すべて大貴によって返り討ちにされた。そのうちに自分の意思で通ってるんだからと、放置されるようになった。
今回の審判は二十代前半くらいの若い女性だった。コンビニ店の制服に身を包んでいるが、右腕には黒字で審判と書かれた黄色の腕章をしている。
「では勝負を開始します。今回のステージは平原です」
「マジで? それじゃ、ますます弱介の勝ち目ないじゃん。キャハハ!」
開いた手のひらを口元に当てて、楽しそうに真雪は笑った。
草原は障害物が少なく、力勝負には持ってこいのボードである。連戦連敗の裕介はポイントを奪われてばかりで、所持しているのは最低ランクの百だけ。その中から持ち兵を選択しなければならない。一方の真雪の持ちポイントは三百を超えていた。
どんなに負けても最低ランクのポイントは維持されるが、勝者は規定通りのポイントを貰える。だからこそ弱いカモを見つけて徹底的に甚振るのは、戦略上大きな間違いではない。
IDはひとりひとつに限定されていて、本人以外の名義のものは使用できない。家族に頼んでIDを作ってもらい、自分ひとりで戦わせるという真似は審判がいる限り不可能だ。
もっとも自宅で練習するのは自由だし、家族と一緒にプレイするのは許可される。休日には父親と息子が、和気藹々と楽しんでいる光景も珍しくはなかった。
登録料として千円を支払えば、誰でもプレイ可能。ボードの利用料などは一切かからない。費用の安さも、英雄を人気にした要因のひとつだった。
七海と同じクラスだったのもあって、中学校でも目立たない裕介が虐められることはなかった。童顔でからかわれたりするが、その程度は可愛いものである。
これでも小さい頃は活発だったんだけどね。いつだったか、仲良くなってきたクラスメートの前で、七海は裕介をそう評した。
実際にある程度の年齢までは明るかった。むしろ七海の方が大人しくて、いつも裕介の服の裾を引っ張って後ろをついて回っていた。
小学校低学年だったろうか。いつも一緒に遊んでいた年上の幼馴染の少年が、急に裕介を嫌うようになった。仲間外れにして、それまで仲が良かった近所の遊び友達からもそっぽを向かれた。子供たちのリーダー格だったその幼馴染に指示されたのである。
今でも子供だが、もっと幼かった裕介に仲間外れの原因などわかるはずもなく、路頭に迷い込んだ気分になった。それでも当初は自分から積極的に話しかけ、仲間に入れてもらえるように頑張った。
一緒に遊んでほしくて、泣いて謝ってみたりもした。けれど状況は変わらなかった。いつしか諦めの気持ちが強くなり、部屋の中でひとりテレビゲームをするようになった。
その頃から人に嫌われるのが無性に怖くなり、普通に接していたはずの友達にも必要以上に気を遣いだした。そうすると誰かと一緒にいるのが疲れるようになった。
共働きで両親が夜まで家にいなかったのもあって、ますますテレビゲームにのめり込んだ。ひとりでも寂しくないようにと買い与えられたテレビゲームが親友になるまで、時間はさほどかからなかった。
友達と遊ぶ機会は少なくなり、授業が終わるとすぐに帰宅してテレビゲームに没頭する。やがてオンラインゲームにも手を出し、ネットの中とはいえ他の誰かと会話をするようにもなった。互いに気を遣うメンバーでチームを組んだため、実生活で誰かと遊ぶよりずっと気が楽だった。
なのにテレビゲームは規制された。絶望のどん底という瞬間を、裕介はあの時に生まれて初めて味わった。命を絶とうかと本気で考えたくらいだ。
暗い海の底に沈んだような状況で、気がつけば一緒にいてくれたのが七海だった。
考えてみれば彼女は昔から、裕介の隣にいた。ひとりでゲームをしている時もじっと見ていた。当人は好んでゲームをやりたがらなかったが、頼めば対戦ゲームも一緒に遊んだ。
外へ引っ張り出すようにして町中を連れ回し、太陽の下で歩くのも悪くないと再確認させてくれたのも七海だった。
おかげでテレビゲーム規制のショックから立ち直れた。引きこもりがちだった自分を変えようと、英雄の発売に合わせて対人のゲームに参加した。
不安はあったが、始めのうちは暇だからと理由をつけて七海が付き合ってくれた。そのうちに顔見知りも増え、ゲームを楽しめるようになった。ひとりでコンビニの駐車場に出かけ、小遣いで買ったお菓子やジュースを飲みながら一日中遊んだこともあった。
――あの男がやってくるまでは。
ため息をつき、首を左右に振って考え事をやめた。その頃には、一時間目を担当する中年の男性教師が教卓に立っていた。
他の生徒と同じように授業を受け、昼休みになれば給食を食べる。少し前までは会話を楽しむ友達もできかけていたが、今は無言だ。時折心配そうに七海が見てくるが、裕介は気にせず過ごす。元々ひとりでいる機会が多かっただけに、極端な寂しさを感じたりしなかった。
放課後になれば席を立ち、ひとりで帰宅しようとする。そこへ、すべての元凶がやってくる。
やせ形の裕介よりも二回りは大きな体格の男性が、文字通りのしのしと歩いてくる。短く刈り揃えている髪の毛が、強面の顔をより凶悪そうに演出している。
同年代に比べて発達した筋肉を誇示するかのごとく、学生服のボタンをあえて留めていない。やや肌黒なのに歯は白く、いかつい外見に横柄な態度。さらには腕っぷしの強さもあって、学校内でもっとも恐れられている。
「よう、裕介。今日も来るんだろ?」
男が歯を剥いて笑う。もしかしなくとも、標的は裕介だった。
「あ、うん。そうだね」
誰よりこの男が苦手な裕介は拒否できず、曖昧に頷いた。
見知らぬ仲ではない。幼少時はよく一緒に遊び、面倒も見てもらっていたひとつ年上の男性。裕介が仲間外れにされた元凶で、かつて近所の子供たちのリーダー格だった。七海と同じで、幼馴染でもある。
男の名前は春日井大貴。彼が絡むようになってきて、裕介の中学校での生活環境は一変した。関係がなくなっていたので干渉されないだろうと思っていたが、甘い考えだったと思い知らされた。
事の原因は少し前。裕介がコンビニの駐車場で英雄を楽しんでいた時だ。テレビゲームが規制され、遊びが少なくなったからこそ大貴も現れた。企画者は英雄というゲームを通してかつての仲が戻るのを期待しているのだろうが、現実はそこまで都合よくなかった。
獲物を見つけたとばかりに、大貴は知り合いという理由で裕介を対戦相手に指名した。ゲームだからと言い聞かせて応じたが、心に巣くっていた苦手意識を簡単には払拭できなかった。プレイしている間中嫌な記憶が思い出され、ふと気がつけば大差で負けていた。
それ以来、裕介はカモにされるようになった。ゲーム自体は面白くもあるので、続けたい。けれど見るからに悪人面の大介に絡まれる哀れな生贄に、好んで関わりたがるプレイヤーはいない。
結果として裕介の相手は大貴とそれ以外の一名に限定され、負けるためにゲームに参加しているような状態だった。そのことを知ったからこそ、七海は今朝、ゲームをやめたらと言ったのである。
裕介もそうは思うが、逆らえば以前よりも酷い仲間外れにされるかもしれない。両親にも七海にも心配や迷惑をかけたくなくて、泥沼へ沈み込むようにして現状から抜け出せなくなっていった。
大貴に連れられて、コンビニの駐車場へ移動する。本来は店内でゲームプレイの受付をしなければならないが、人気があるだけにほぼ誰かが楽しんでいる。審判をしている人に声をかければ、それだけでプレイ可能になる。
駐車場には、エアーホッケーのような高さの台が二つ置かれており、その上に審判がゲームの舞台となるボードを用意している。森や川、草原や荒野などその時々によって変わり、地形効果も加わる。
英雄というゲームをひと言で例えるなら、テレビゲーム時代のシミュレーションロールプレイングゲームになる。
ネットで英雄に登録すると貰えるID番号を使い、各ポイントもそこに振り込まれる。情報はスマホでも見たりできるが、ゲームのプレイはあくまでもコンビニ駐車場に設置された専用スペースが主になる。審判しか知り得ない様々な隠し要素やルールが存在するからだ。
そのため知った隠しルールを高額でオークションする人物もいたりするが、その場合はすぐに身元を特定されてIDを削除。以降は名前を変えようとも二度とゲームに登録できなくなる。
有資格者は日本に滞在する人間に限られる。自分だけ有利になりたいプレイヤー心理もあり、不正行為に関しては少なく思えた。
「あ、弱介じゃん。今日も懲りずに来たの?」
駐車場に着いたばかりの裕介を出迎えたのは、甲高い女性の声だった。誰かは見なくともわかる。大貴の妹で、こちらも昔からやたらと絡んでくる春日井真雪だ。
近所の小学校に通っており、現在は六年生。ホットパンツにニーソックスをはいており、チラリと小麦色の肌が覗く。上半身は袖の長いシャツに薄手のカーディガンを羽織っている。
地毛だという明るい茶色のショートヘアが太陽の光に反射して、この上なく目立つ。薄っすらとメイクもしていて、同年代の女の子に比べればずっと大人びていた。
真雪は両目に挑戦的な輝きを宿し、裕介に近づいて笑みを浮かべる。
「せっかくだから、今日は真雪が遊んであげるし。感謝しなよ、弱介」
昔は真雪も一緒に遊んでいたが、兄の大貴が裕介を仲間外れにするようになった頃から今みたいに弱介と呼ぶようになった。弱い裕介を略したらしい。
からかうと面白いという理由で、何かと兄に裕介を連れて行こうと進言していた。引きこもるようになって大貴とは顔を合わせなくなったが、真雪は事あるごとに家へ来ては連れ出して玩具にしようとした。
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そんな真雪とも、この場所で再会を果たした。いつだったかプレイ中の裕介に、面白そうじゃんと言って近づいてきたのだ。
真雪がコンビニの駐車場へ入り浸るようになってすぐ、兄の大貴もやってきた。それが裕介の苦難の始まりだった。
「ほら、丁度台も空いたし。まさか逃げないよね」
周囲の人間はいつものやつが始まったかとばかりに、遠目で見つめるだけ。以前は見かねた人が助けに入ってくれたが、すべて大貴によって返り討ちにされた。そのうちに自分の意思で通ってるんだからと、放置されるようになった。
今回の審判は二十代前半くらいの若い女性だった。コンビニ店の制服に身を包んでいるが、右腕には黒字で審判と書かれた黄色の腕章をしている。
「では勝負を開始します。今回のステージは平原です」
「マジで? それじゃ、ますます弱介の勝ち目ないじゃん。キャハハ!」
開いた手のひらを口元に当てて、楽しそうに真雪は笑った。
草原は障害物が少なく、力勝負には持ってこいのボードである。連戦連敗の裕介はポイントを奪われてばかりで、所持しているのは最低ランクの百だけ。その中から持ち兵を選択しなければならない。一方の真雪の持ちポイントは三百を超えていた。
どんなに負けても最低ランクのポイントは維持されるが、勝者は規定通りのポイントを貰える。だからこそ弱いカモを見つけて徹底的に甚振るのは、戦略上大きな間違いではない。
IDはひとりひとつに限定されていて、本人以外の名義のものは使用できない。家族に頼んでIDを作ってもらい、自分ひとりで戦わせるという真似は審判がいる限り不可能だ。
もっとも自宅で練習するのは自由だし、家族と一緒にプレイするのは許可される。休日には父親と息子が、和気藹々と楽しんでいる光景も珍しくはなかった。
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