僕と英雄

桐条京介

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4話 そんなの僕の勝手だろ

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「真雪が先にカード並べたげるから、それを見て作戦でも練りなよ」

 あくまでも上から目線なのは、いまだかつて裕介に一敗もしていないからだ。加えてかなりの戦力差もある。負けるなどと微塵も思っていない。

 審判が見ている前で、制限時間内に自陣へカードを並べる必要がある。まずは占拠されたら終わりの本拠地カードを置かなければならない。この本拠地も所持ポイントによって変化する。

 百ポイントしかない裕介は村しか選択できないが、三百ある真雪は砦を選択できる。本拠地に兵を入れれば、守ると同時に攻撃もできる。こうした点は規制されたテレビゲームから取り入れられたものだった。

 テレビゲームらしさをボードとカードで演出しつつ、小さい子供でも楽しめるようにルールを簡単にした。所持するカードを戦わせて相手の本拠地を奪うか、もしくは戦力を全滅させた時点で勝利となる。

「真雪の大将はもちろんこの神官で決まり。レベル十まで成長させてるから、回復魔法を使わなくても弱介程度には勝てるし」

 戦力カードには様々な兵種が存在する。腕力と生命力の高い戦士。魔法を使える魔術師や神官。間接攻撃が可能な弓兵。各兵には名前や生い立ちなどを自由に設定できる。

 真雪のカードでいうと、神官は配置に十五ポイントを要する。ただしレベルが一の場合だ。レベルが二になれば必要ポイントは倍の三十がいる。百ポイントしかない裕介であれば、最高でもレベル六の神官しか置けない計算だ。

 つまるところポイントというのはプレイヤーの持つ領地の勢力みたいなものだ。強国と弱国が同じ力を持たないように、ゲーム内でも戦力の差がはっきりと出る。

 ただしこれでは絶対に弱者が勝てないので、隠しルールというものが存在する。

 特殊な兵種へのレベルアップであったり、各兵の連携であったり、発動条件は色々とあるが、そのどれもが不明だ。プレイ中に条件が揃った場合、審判が隠しルールの発動を宣言する。それによって初めてプレイヤーは知る。

 隠しルールにお目にかかれても、詳しい条件は教えてもらえない。状況から各プレイヤーが予想し、判断するしかないのである。

 皆で集まって、明らかになっている隠しルールについてあれこれ話すのも英雄の楽しみ方のひとつといえる。

 ちなみに裕介の知っている隠しルールはひとつもない。それだけレアであり、条件が難しいのだ。その代わり、上手く発動できれば弱者でも強者を打ち破れる可能性が上昇する。

 頭の中でルールのおさらいをしている間に、真雪はカードを並べ終えていた。余裕の態度でホットパンツのポケットから棒付きのキャンディを取り出し、口に咥えながら裕介の準備を待つ。

 レベル十の神官の他に、レベル五の騎士が一枚、レベル一の戦士が五枚。戦士五枚を最前線で横並びに配置し、すぐ後ろには指揮官役でも任せるかのように騎士がいる。やや離れた位置に砦があり、本拠地には神官が入る。

 神官は神聖魔法のうちひとつを装備し、レベルによって使用回数が変わる。レベル十であれば五回使用できる。

 真雪の神官が使えるのはヒールで、魔法レベルによって上下するが、隣接するカードの生命力を回復させられる。レベル一であれば一割だ。

 肉弾戦を仕掛け、ダメージを受けたら壁を離脱させて回復。その後戦列に復帰させる。力押しを目的とした布陣だった。

 各カードには、表面に職種によって共通の絵と自由に設定を書き込める欄があり、裏面には生命力、攻撃力、防御力、命中力、回避力、移動力といった数値が並んでいる。

 裏面はカードの所有者だけが見ることができて、対戦相手は勝手に見てはいけないルールとなっている。各能力値は同職種であっても、カード毎に違う。そこにわずかながら運の要素も生まれる。

 単純に命中力から回避力を引いたのが命中率となり、攻撃力から防御力を引いたのがダメージとなる。生命力がゼロになれば、当然そのカードは戦闘内において使用不能となる。

 他にも地形効果があり、森だと回避力が上昇。本拠地であれば防御力が上昇などの恩恵を受けられる。攻撃が命中するかどうかの判定は審判が行う。恣意的な要因をなくすためにダイスを使用する。

「では、貴方もカードを並べてください」

 女性審判が裕介を見た。

 裕介は軽くため息をついて、本拠地に続いて大将――シンボルリーダーを配置する。

 持ちカードの中から、自由に決められるのがシンボルリーダーである。戦士レベル一をシンボルリーダーにすれば、従来のよりも多少とはいえ強くなる。その代わり、シンボルリーダーは場に一枚しか設置できない。

 後先考えずに設定しまくると、戦闘で使えるカードがなくなってしまうので注意が必要だった。

 裕介は事前に決めていたシンボルリーダーを、本拠地となる村の上に置いた。その瞬間に真雪が笑う。

「まだそれを使ってんの? 名前まで決めてさ。超ダサイんだけど」

「そ、そんなの僕の勝手だろ。放っておいてくれよ」

 裕介がシンボルリーダーにしているのはレベル十の村人だ。他の兵種であれば一レベル上げる毎に必要ポイントは倍増するが、村人であれば最高の十レベルにしても通常の倍の十ポイントで済む。

 実にリーズナブルだが、その分だけ実力も弱い。レベル一の戦士が相手でも、互角に戦えるかどうかだ。そんな弱いカードを使っているのは、設定厨な面も影響している。

 レベル十の村人にデュラゾンという名前だけでなく、三十五という年齢。元は魔法も使える騎士の魔騎士で、王都を守る戦いによって大怪我を負い、本来の力を発揮できなくなった。故郷に戻り、村人と接しているうちに穏やかな気持ちと笑顔を取り戻した。今では心から大切な場所と人々を守りたいと願っている。

 そんな設定まで作った。戦力的には劣るかもしれないが、こういうシチュエーションに裕介は燃えるのである。

 顔見知りとなったプレイヤーとワイワイやっているうちは楽しかったが、大貴たちが現れると弱点として徹底的に叩かれた。それでもシンボルリーダーを変えないのは、意地みたいなものだった。

「大将にすれば能力の上乗せができるんだから、素直に強いカードにしなよ」

 真雪の忠告を無視して、裕介はカードを並べる。

 前線にレベル三の若い女戦士のアニラを配置し、すぐ後ろにレベル一の男戦士ダイナルを置く。

 デュラゾンに惚れているアニラに、ダイナルは好意を寄せている。そんな複雑な関係だ。あくまでも裕介の設定上の話だが。

 少し離れた位置に村人のカードを二枚。本拠地の近くにヒールを装備したレベル一の神官と、フレアを装備したレベル一の魔術師。同じくレベル一だが弓兵も一枚置く。

 裕介が八枚。真雪は七枚の兵力でゲームが開始される。お互いにマス目のあるボードの上でカードを動かし、条件を満たせば勝利となる。どちらが先行かは、審判がコイントスによって決める、今回は真雪になった。

「真雪のアドバイスを無視するから、弱介は勝てないんじゃん。泣いてお願いするなら、色々教えてあげてもいいけど?」

 裕介が応じないと、真雪はキャンディを咥えた顔をムッとさせる。矢継ぎ早に文句を言おうとしたが、途中で審判に遮られる。

「それ以上の言動は虐めと見なして失格にしますよ」

 失格処分となればIDを剥奪され、今後二度と英雄はプレイできなくなる。さすがの真雪も、不服そうにしつつも押し黙る。

 口であれこれ言えなくなった代わりに力でもてあそんでやろうと考えたのか、早速最前線の戦士を動かす。

 ゲームはターン制で進行し、一ターンにつき各カードを一度だけ動かせる。移動後に敵が攻撃範囲内にいれば戦闘を行える。反撃のシステムはなく、防御側は自軍の兵が回避してくれるのを祈るだけだ。

 ターン内だからといって、絶対にキャラを動かす必要はない。やることを終えたらターン終了を宣言する。それで相手の番となる。勝敗が決するまで、これをひたすら繰り返す。

 何度も対戦しているので、真雪の作戦は理解している。基本的に力押しだ。魔法を使える兵種を並べてもいいが、新しい兵種を増やすのにもポイントが必要となる。最低ポイントしかない裕介には無理だった。

 審判が判断して格下が格上に勝利すれば、貰えるポイントは従来よりもずっと増える。難しいと運営側も理解しているからこその処置だった。

 真雪は迷いなく神官以外を移動力の限り前進させる。裕介が力勝負に応じなければ、後方の本拠地を一気に狙うつもりなのだろう。

 最低限の兵で時間を稼ごうにも、騎士一枚と戦士五枚の突撃を防ぐのは不可能だ。下手をすると一ターンで全滅する。だからといって、まともに相対しても不利は否めない。

 どうするか懸命に考えるが、具体的かつ有効な戦法は出てこない。そもそも簡単に思いつけるのなら、大貴や真雪に連戦連敗はしていない。審判がいる限り、暴力行為でわざと負けさせるというのは不可能なのだから。
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