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7話 こんな結末はあんまりだ
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「おい、準備はいいな。敵さんのお出ましだぜ!」
見張り役を務めていた弓使いのレイマッドが、登っていた木から降りてアニラの後ろにつく。隠していた額に自慢だという灰色の前髪が張り付いている。大量に浮かんでいる汗のせいだ。
「作戦はどうなってる!?」
敵の動きを把握するため、報告と見張りを繰り返していたレイマッドはまだ詳しく知らなかった。
質問を受けたアニラは沈痛な面持ちで説明する。デュラゾンが自らを外道と評した作戦の内容を。
「それしか……ねえのかよ……ちくしょう……!」
近くにあった木を殴りつける。レイマッドにデュラゾンを責めるつもりはなかった。彼がどういう人物かを知っている。決して簡単に他人を犠牲にできる男ではない。
そいつがまだ幼さの残る二人に盾となるのを命じた。恐らく血を吐く思いで言葉を絞り出したに違いなかった。だからこそ肯定はしたくないが、否定もしないのである。
戦闘が開始される直前、過酷な役目を担う少年と少女は一瞬だけ唇を合わせた。誰にも見つからないように。
「リエリ。向こうではさ、俺と夫婦になってくれるかな」
「まだこの腐れ縁を続けるつもりなの? ふふっ。でも、いいわ。いつまでも一緒にいてあげる。だって私はノーマンが大好きだもの」
「俺もだよ、リエリ」
瞳に涙を溜めたノーマンとリエリが抱き合うのを、アニラは見て見ぬふりをした。愛する二人の今生の別れを邪魔するほど野暮ではなかった。心の中にあるのは、叶うなら自分も好意を寄せるデュラゾンと最後に抱擁をしたかったという思いだけだった。
やがてどちらからともなくノーマンとリエリは離れる。雄叫びを上げる敵が、村を蹂躙しようとすぐ側まで迫っていた。
「行くよ」
「はい、あなた」
もう涙も震えもない。恐怖は愛情に打ち消された。新婚旅行にでも向かうような足取りで、ノーマンとリエリは敵の前に躍り出る。
「ここから先は絶対に通さない!」
「デュラゾンさん、アニラさん、皆、あとはお願い!」
ロングソードを手に持ち、屈強な戦士のひとりに斬りかかる。狙いは横列の中央だ。
「何だ、村人が攻撃してきやがったぜ。身の程を知りやがれ!」
両手剣でノーマンの一撃は受け止められたが、隙をついたリエリが戦士の横腹に一撃を見舞った。
初めての共同作業ね。リエリは笑った。それが彼女の最期の言葉となった。
ノーマンの前で他の戦士の凶刃が、アニラ達のとは違う粗末な革の鎧ごとリエリのしなやかな肢体を斬り裂いた。
地面に転がった最愛の女性へ手を伸ばそうとしたノーマンは、途中で動きを止める。視線を下に向けると、自分の腹から剣が突き出ているのが見えた。
剣を引き抜かれると同時に、全身の力が抜けていく。立っていられなくなる前に、ノーマンはリエリの元へ急ぐ。蹴とばされ、ボロ雑巾のように横たわっている最愛の女性へ覆い被さるようにノーマンは倒れた。
まだ温かい。ノーマンは血の付いた震える指で、ずっと好きだったリエリの前髪を撫でる。聞こえないかもしれないが、最期にひと言だけ伝えたい。そう思って開いたノーマンの口から溢れたのは、大量の血の塊だった。
屍となったノーマンとリエリの姿を目に焼き付け、ドナミスは両手を前に突き出す。一度しか使えない魔法を放つ場面はここ以外にない。躊躇ったりすれば、二人の覚悟と犠牲が無駄になる。
「煉獄の炎で朽ち果てるがよい!」
伸ばされた両手の間から生まれた小さな火の玉が、瞬く間に巨大化する。ノーマンの背に剣を突き立てた戦士がドナミスの動きに気づいた時には、もう炎の攻撃魔法は完成していた。
空気すら焼く灼熱の火炎が戦士を頭から飲み込む。悲鳴を上げ、剣から手を離して火だるまになる。苦しみ悶える戦士を、袈裟斬りでダイナルが仕留めた。
「ノーマンとリエリの仇だ、くそったれが!」
叫ぶダイナルの横を駆け抜け、出来たばかりの穴にアニラが身を躍らせる。慌てた戦士の横目を振り払い、指揮を執っている騎士に力勝負を挑む。
「援護するっ!」
レイマッドが中距離から牽制し、騎士のフルプレートアーマーの結び目へ狙い澄ました矢を撃ち込む。
邪魔な矢を振り払うのに手間取った騎士は、両手斧を振り上げたアニラが懐へ飛び込んでくるのを止められなかった。
「一撃で送ってあげるよ! ノーマンとリエリが嫌がると困るから、天国じゃなくて地獄にね!」
防具ごと頭部を破壊しようとした巨大斧は、馬上で上半身を捻った騎士の動きのせいで左肩へとずれた。それでも全力を込めたアニラの斧はフルプレートアーマーの一部を破壊し、おびただしい量の血を騎士に流させた。
「仕留めきれなかった! ならもう一回!」
「次はこちらの番だ、筋肉女め。私の槍で貫かれるとよいわ!」
激昂した騎士が、右手に持ったランスでアニラの鳩尾を突いた。鋭く光る槍の先端はいとも容易く革の鎧を貫き、アニラへ致命傷を与える。
「ちく、しょう……この程度、で……アタシを止められるもんかァ!」
槍が腹部を貫通してもなお、アニラは退かなかった。ノーマンとリエリもあれだけ頑張ったのに、戦士である自分が逃げられない。それに、愛する男や村人を守りたかった。
獣すら怯えさせるような咆哮を響かせ、アニラは血走った目で騎士を睨む。相打ち覚悟で最期の一撃を放とうと、愛用の斧を強く握り締める。あと少しだけ、愚かな自分に付き合ってくれ。心の中でそう声をかけながら。
命のすべてを力に変えて、斧を勢いよく振り上げる。間違いなくこれが最期の一撃となる。歯を食いしばり、前に出した左足で強烈に地面を踏みしめる。あとは斧を振り下ろすだけだ。
何かが突き刺さる音が、アニラの体から聞こえた。騎士を仕留めようと大振りの動作に入った直後を、周りを取り囲む戦士たちに狙われた。突き刺さった何本もの刃が、体中に穴を開けている。
「か、はっ……アタ、シ……だん、な……」
持ち上げた斧を下ろせないまま、アニラは力尽きた。剣を引き抜かれた肉体が、地面に崩れ落ちた。
「ちくしょう! アニラ! アニラあァァァ!」
せめて想い人の果たせなかった仕事を終わらせてやろう。憤怒の炎に身を任せて、ダイナルは騎士に突っ込んだ。
しかし、もう少しというところで戦士たちに隊列を組み直された。デュラゾンが僅かな勝ち目を求めて練った作戦が、失敗に終わった瞬間だった。
突進を阻まれたダイナルが苦し紛れに剣を振るうも、相手に致命傷を与えられない。逆に一斉攻撃を受け、あえなく撃沈してしまう。
空に浮かんでいる裕介は何の手助けもできず、次々と倒れていく者達を見ているしかなかった。
いや、そもそも日中の勝負を反映しているのであれば、助けてやりたいと思うこと事態が罪なのかもしれない。村に現在の状況を引き起こしたのは、他ならぬ裕介自身なのだから。
間合いを詰められればせっかくの弓も役には立たない。次に倒れたのがレイマッドだった。魔法を撃ち、戦う術を失ったドナミスを守るように死んだ。
「ミリアルル! お主はデュラゾンのところまで下がれ! 回復魔法が使えても、戦える者がいなければ意味がないからの」
「そんな! ドナミスさんもご一緒に!」
「たわけ。わらわまで下がったら、この場で時間稼ぎをする者がいなくなるであろう」
ドナミスの発言の意味を悟ったミリアルルは、顔をくしゃくしゃにして涙をこぼした。
「泣くな。これもまた運命だ。じゃが、わらわは感謝しておる。この村に居ついて数年間。初めて幸せだと思えたのだからの。この身が少しでも村の役に立つなら本望じゃ。さあ行け。わらわを哀れんでくれるなら、最後まで諦めずに皆を守っておくれ」
「……はい。約束します……!」
立ち去り際に祈りを捧げてくれたミリアルルの背中に「それじゃあの」と声をかけ、ドナミスは幾人もの仲間が死体となって倒れている村の入口を見た。遮る者がいなくなったのを受け、騎士や戦士たちがズカズカと村の中まで入り込んでくる。
ドナミスはフンと鼻を鳴らし、近くにあった木の棒を拾う。
「せめてこいつを連中の脳天に食らわせてやりたいのう。……わらわには無理か。こんなことになるのなら、想いに応えておいてやればよかったの。すまなかったのう、レイマッド」
右手に木の棒を握り締め、ドナミスは戦士たちと対峙する。彼女の命が尽きるその瞬間まで。
勝敗は決した。村の戦える人間は物言わぬ屍となったが、敵の犠牲はひとりのみ。もはや奇跡を期待するしかない。
デュラゾンは隣にいるミリアルルを見るが、逃げろとは言えなかった。彼女の性格上、村人を捨てて自分だけ助かろうとするはずがない。それにドナミスと最後まで諦めないと約束したみたいだった。
「俺に魔騎士としての力が残っていれば……いや、今さら言っても仕方ないか。やはり一対一に持ち込める状況を作って、地道に対処していくべきだったな。長期戦になれば敵の食糧が尽きて、勝てなくとも撤退はさせられていたかもしれん」
デュラゾンの言葉に、裕介はドキっとする。作戦の無意味さを批判されたような気がした。
ゲームだと思っていたからこそ、裕介はさして悩みもせずに村人を盾とする戦法を編み出した。大貴たちに絡まれる前は、それで勝利を得た経験もある。
自分が間違っていたのだろうか。空を見上げて悩んでいると、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。
拠点となる村長の家は囲まれ、前にでたデュラゾンよりも先にミリアルルが標的にされた。甚振るように小突き回され、身動きできなくなったデュラゾンの前でとどめを刺される。それでも、彼女の両手は祈りを捧げるべく胸の前で組まれていた。
「恨むなら自分を恨め。このような結末を招いた愚かさをな」
フルプレートアーマー姿の騎士が高らかに笑い、呪いの言葉を吐き捨てるデュラゾンの心臓を槍でえぐる。
小さな村の戦士たちはこうして――裕介が日中に英雄というゲームで負けた時と同じ展開で全滅した。
ドサリと地面に仰向けで倒れたデュラゾンと、目が合ったような気がした。
――こんな結末はあんまりだ。もうたくさんだ。
心臓は止まっているはずなのに、何故だか裕介にはデュラゾンのそんな言葉が聞こえたような気がした。
見張り役を務めていた弓使いのレイマッドが、登っていた木から降りてアニラの後ろにつく。隠していた額に自慢だという灰色の前髪が張り付いている。大量に浮かんでいる汗のせいだ。
「作戦はどうなってる!?」
敵の動きを把握するため、報告と見張りを繰り返していたレイマッドはまだ詳しく知らなかった。
質問を受けたアニラは沈痛な面持ちで説明する。デュラゾンが自らを外道と評した作戦の内容を。
「それしか……ねえのかよ……ちくしょう……!」
近くにあった木を殴りつける。レイマッドにデュラゾンを責めるつもりはなかった。彼がどういう人物かを知っている。決して簡単に他人を犠牲にできる男ではない。
そいつがまだ幼さの残る二人に盾となるのを命じた。恐らく血を吐く思いで言葉を絞り出したに違いなかった。だからこそ肯定はしたくないが、否定もしないのである。
戦闘が開始される直前、過酷な役目を担う少年と少女は一瞬だけ唇を合わせた。誰にも見つからないように。
「リエリ。向こうではさ、俺と夫婦になってくれるかな」
「まだこの腐れ縁を続けるつもりなの? ふふっ。でも、いいわ。いつまでも一緒にいてあげる。だって私はノーマンが大好きだもの」
「俺もだよ、リエリ」
瞳に涙を溜めたノーマンとリエリが抱き合うのを、アニラは見て見ぬふりをした。愛する二人の今生の別れを邪魔するほど野暮ではなかった。心の中にあるのは、叶うなら自分も好意を寄せるデュラゾンと最後に抱擁をしたかったという思いだけだった。
やがてどちらからともなくノーマンとリエリは離れる。雄叫びを上げる敵が、村を蹂躙しようとすぐ側まで迫っていた。
「行くよ」
「はい、あなた」
もう涙も震えもない。恐怖は愛情に打ち消された。新婚旅行にでも向かうような足取りで、ノーマンとリエリは敵の前に躍り出る。
「ここから先は絶対に通さない!」
「デュラゾンさん、アニラさん、皆、あとはお願い!」
ロングソードを手に持ち、屈強な戦士のひとりに斬りかかる。狙いは横列の中央だ。
「何だ、村人が攻撃してきやがったぜ。身の程を知りやがれ!」
両手剣でノーマンの一撃は受け止められたが、隙をついたリエリが戦士の横腹に一撃を見舞った。
初めての共同作業ね。リエリは笑った。それが彼女の最期の言葉となった。
ノーマンの前で他の戦士の凶刃が、アニラ達のとは違う粗末な革の鎧ごとリエリのしなやかな肢体を斬り裂いた。
地面に転がった最愛の女性へ手を伸ばそうとしたノーマンは、途中で動きを止める。視線を下に向けると、自分の腹から剣が突き出ているのが見えた。
剣を引き抜かれると同時に、全身の力が抜けていく。立っていられなくなる前に、ノーマンはリエリの元へ急ぐ。蹴とばされ、ボロ雑巾のように横たわっている最愛の女性へ覆い被さるようにノーマンは倒れた。
まだ温かい。ノーマンは血の付いた震える指で、ずっと好きだったリエリの前髪を撫でる。聞こえないかもしれないが、最期にひと言だけ伝えたい。そう思って開いたノーマンの口から溢れたのは、大量の血の塊だった。
屍となったノーマンとリエリの姿を目に焼き付け、ドナミスは両手を前に突き出す。一度しか使えない魔法を放つ場面はここ以外にない。躊躇ったりすれば、二人の覚悟と犠牲が無駄になる。
「煉獄の炎で朽ち果てるがよい!」
伸ばされた両手の間から生まれた小さな火の玉が、瞬く間に巨大化する。ノーマンの背に剣を突き立てた戦士がドナミスの動きに気づいた時には、もう炎の攻撃魔法は完成していた。
空気すら焼く灼熱の火炎が戦士を頭から飲み込む。悲鳴を上げ、剣から手を離して火だるまになる。苦しみ悶える戦士を、袈裟斬りでダイナルが仕留めた。
「ノーマンとリエリの仇だ、くそったれが!」
叫ぶダイナルの横を駆け抜け、出来たばかりの穴にアニラが身を躍らせる。慌てた戦士の横目を振り払い、指揮を執っている騎士に力勝負を挑む。
「援護するっ!」
レイマッドが中距離から牽制し、騎士のフルプレートアーマーの結び目へ狙い澄ました矢を撃ち込む。
邪魔な矢を振り払うのに手間取った騎士は、両手斧を振り上げたアニラが懐へ飛び込んでくるのを止められなかった。
「一撃で送ってあげるよ! ノーマンとリエリが嫌がると困るから、天国じゃなくて地獄にね!」
防具ごと頭部を破壊しようとした巨大斧は、馬上で上半身を捻った騎士の動きのせいで左肩へとずれた。それでも全力を込めたアニラの斧はフルプレートアーマーの一部を破壊し、おびただしい量の血を騎士に流させた。
「仕留めきれなかった! ならもう一回!」
「次はこちらの番だ、筋肉女め。私の槍で貫かれるとよいわ!」
激昂した騎士が、右手に持ったランスでアニラの鳩尾を突いた。鋭く光る槍の先端はいとも容易く革の鎧を貫き、アニラへ致命傷を与える。
「ちく、しょう……この程度、で……アタシを止められるもんかァ!」
槍が腹部を貫通してもなお、アニラは退かなかった。ノーマンとリエリもあれだけ頑張ったのに、戦士である自分が逃げられない。それに、愛する男や村人を守りたかった。
獣すら怯えさせるような咆哮を響かせ、アニラは血走った目で騎士を睨む。相打ち覚悟で最期の一撃を放とうと、愛用の斧を強く握り締める。あと少しだけ、愚かな自分に付き合ってくれ。心の中でそう声をかけながら。
命のすべてを力に変えて、斧を勢いよく振り上げる。間違いなくこれが最期の一撃となる。歯を食いしばり、前に出した左足で強烈に地面を踏みしめる。あとは斧を振り下ろすだけだ。
何かが突き刺さる音が、アニラの体から聞こえた。騎士を仕留めようと大振りの動作に入った直後を、周りを取り囲む戦士たちに狙われた。突き刺さった何本もの刃が、体中に穴を開けている。
「か、はっ……アタ、シ……だん、な……」
持ち上げた斧を下ろせないまま、アニラは力尽きた。剣を引き抜かれた肉体が、地面に崩れ落ちた。
「ちくしょう! アニラ! アニラあァァァ!」
せめて想い人の果たせなかった仕事を終わらせてやろう。憤怒の炎に身を任せて、ダイナルは騎士に突っ込んだ。
しかし、もう少しというところで戦士たちに隊列を組み直された。デュラゾンが僅かな勝ち目を求めて練った作戦が、失敗に終わった瞬間だった。
突進を阻まれたダイナルが苦し紛れに剣を振るうも、相手に致命傷を与えられない。逆に一斉攻撃を受け、あえなく撃沈してしまう。
空に浮かんでいる裕介は何の手助けもできず、次々と倒れていく者達を見ているしかなかった。
いや、そもそも日中の勝負を反映しているのであれば、助けてやりたいと思うこと事態が罪なのかもしれない。村に現在の状況を引き起こしたのは、他ならぬ裕介自身なのだから。
間合いを詰められればせっかくの弓も役には立たない。次に倒れたのがレイマッドだった。魔法を撃ち、戦う術を失ったドナミスを守るように死んだ。
「ミリアルル! お主はデュラゾンのところまで下がれ! 回復魔法が使えても、戦える者がいなければ意味がないからの」
「そんな! ドナミスさんもご一緒に!」
「たわけ。わらわまで下がったら、この場で時間稼ぎをする者がいなくなるであろう」
ドナミスの発言の意味を悟ったミリアルルは、顔をくしゃくしゃにして涙をこぼした。
「泣くな。これもまた運命だ。じゃが、わらわは感謝しておる。この村に居ついて数年間。初めて幸せだと思えたのだからの。この身が少しでも村の役に立つなら本望じゃ。さあ行け。わらわを哀れんでくれるなら、最後まで諦めずに皆を守っておくれ」
「……はい。約束します……!」
立ち去り際に祈りを捧げてくれたミリアルルの背中に「それじゃあの」と声をかけ、ドナミスは幾人もの仲間が死体となって倒れている村の入口を見た。遮る者がいなくなったのを受け、騎士や戦士たちがズカズカと村の中まで入り込んでくる。
ドナミスはフンと鼻を鳴らし、近くにあった木の棒を拾う。
「せめてこいつを連中の脳天に食らわせてやりたいのう。……わらわには無理か。こんなことになるのなら、想いに応えておいてやればよかったの。すまなかったのう、レイマッド」
右手に木の棒を握り締め、ドナミスは戦士たちと対峙する。彼女の命が尽きるその瞬間まで。
勝敗は決した。村の戦える人間は物言わぬ屍となったが、敵の犠牲はひとりのみ。もはや奇跡を期待するしかない。
デュラゾンは隣にいるミリアルルを見るが、逃げろとは言えなかった。彼女の性格上、村人を捨てて自分だけ助かろうとするはずがない。それにドナミスと最後まで諦めないと約束したみたいだった。
「俺に魔騎士としての力が残っていれば……いや、今さら言っても仕方ないか。やはり一対一に持ち込める状況を作って、地道に対処していくべきだったな。長期戦になれば敵の食糧が尽きて、勝てなくとも撤退はさせられていたかもしれん」
デュラゾンの言葉に、裕介はドキっとする。作戦の無意味さを批判されたような気がした。
ゲームだと思っていたからこそ、裕介はさして悩みもせずに村人を盾とする戦法を編み出した。大貴たちに絡まれる前は、それで勝利を得た経験もある。
自分が間違っていたのだろうか。空を見上げて悩んでいると、甲高い女性の悲鳴が聞こえた。
拠点となる村長の家は囲まれ、前にでたデュラゾンよりも先にミリアルルが標的にされた。甚振るように小突き回され、身動きできなくなったデュラゾンの前でとどめを刺される。それでも、彼女の両手は祈りを捧げるべく胸の前で組まれていた。
「恨むなら自分を恨め。このような結末を招いた愚かさをな」
フルプレートアーマー姿の騎士が高らかに笑い、呪いの言葉を吐き捨てるデュラゾンの心臓を槍でえぐる。
小さな村の戦士たちはこうして――裕介が日中に英雄というゲームで負けた時と同じ展開で全滅した。
ドサリと地面に仰向けで倒れたデュラゾンと、目が合ったような気がした。
――こんな結末はあんまりだ。もうたくさんだ。
心臓は止まっているはずなのに、何故だか裕介にはデュラゾンのそんな言葉が聞こえたような気がした。
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