僕と英雄

桐条京介

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12話 さっきの言葉をそのまま返されちゃったね

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「あなたたちは本当に仲が良いのね。少しだけ羨ましいわ。これも青春よね」

 審判の梨田さんからよもやの冷やかしの声が飛び、それを合図に他のプレイヤーも、続々と裕介と七海の仲を聞いたりする。

 さすがに恥ずかしくなったのか、先ほどまでは饒舌だったのに、七海は茹で上がったみたいに顔面を火照らせている。

「中学生になっても、根本には人見知りと照れ屋なところが残ってるんだね」

「何よ。そういう裕介だって、顔を真っ赤にしてるじゃない」

「そうだったね。なんだか、おかしいや。アハハ」

 ずっと負け続けてきた大貴に勝てたからなのかはわからない。なんとなく楽しかった。笑う裕介を見て、七海も楽しそうにする。

「そういえばポイントを獲得したけど、何に使えばいいの?」

「キャラのレベルアップとかかな。そのまま配置ポイントにしてもいいけど、レベル一を大量に揃えても高レベルの人には勝てないし」

「ふうん。どうやるの?」

「審判の梨田さんさんにお願いすればいいんだよ。ポイントを使ってカードのレベルアップをしたいとね。そうすればダイスを振って、出た目に合わせて各能力を強化してくれるよ」

 ゲームを始めたばかりで事情をあまり知らない七海は、裕介の説明に「へえ」と面白そうに頷いた。

「じゃあ、レベルが上がるほどカードの個性ができていくのね」

「そうだね。運が良ければレベル七くらいでも、平均的なレベル十の能力値になったりするからね。そういう意味では、七海のレベッカは最初のレベルにしてはずいぶん強いと思うよ」

「そうなの? 全然わからなかった。でも、そうしたらレベッカのレベルを上げた方がいいわよね」

 同意を求められた裕介は頷きつつも、レベル上げの際の注意事項も教える。

 カードのレベルを一つ上げるには、初期配置時に必要なのと同じポイントが消費される。聖騎士なら三十ポイントだ。しかも使った分は戻らない。だから可能な限り上げても、次の戦闘では配置ポイントが足りなくて使えなくなるという事態になりかねない。

「何事もバランスが大事ということね。ならとりあえず、レベッカのレベルを五まで上げておこうかな。最高で十だったわよね?」

「そうだけど、それだと百二十ポイントも使っちゃうから、元々のと合わせても百八十しかなくなっちゃうよ? 配置するのに百五十は使うから、残りは魔騎士かもう一人の聖騎士のどちらかしか選べないし」

「ちゃんとわかってるから大丈夫。その分のポイントは、これから裕介に貰うもの」

「あはは。さっきの言葉をそのまま返されちゃったね。じゃあ、台が空いたら勝負しようか」

「うん。それまではゲームのことをもっと詳しく教えて」

 レベッカのレベルアップが終わってから、二人で駐車場に用意されているベンチに座る。コンビニで飲み物を買い、英雄についてあれこれ話す。

 裕介にとって今日は、テレビゲームが規制されてからもっとも楽しい日にになった。

     ※

「また、ここか」

 七海と暗くなるまで英雄を遊び、帰宅後は夕食をとって早めにベッドへ入った。今日は見ないかと思っていたが、眠りに落ちたはずの裕介は見慣れない荒野の空に浮かんでいた。

 相変わらず体は半透明で、自由に動かせない。なんとか回せる首で視線を移動させ、近くに村があるのを見つける。もしかしなくとも、デュラゾンたちの住む村だろう。

 前回は草原で今回は荒野。村の場所があちこち変わっているのだが、村人は変に思わないのだろうか。ふとそんな疑問を覚える。

 それに村には裕介の設定していない、つまりはカードとして所持していない人間もいる。そうした点も不思議のひとつだ。もっとも、夢だからという答えですべてが終わってしまうのだろうが。

 前回の惨殺された記憶はなくなっているのか、見張り役のレイマッドが焦り顔で敵襲を伝えに村へ戻った。

「デュラゾンさん。敵が攻めてくる。数は戦士が四人と弓使いが二人だ」

 デュラゾンと一緒に、村の奥で畑仕事をしていたアニラが豪快に笑う。

「ドナミスみたいな性悪魔法使いがいないんなら、大丈夫――って、すまないね。そういやレイマッドとはいい仲だったんだっけ?」

「そんなんじゃねえよ」

 含み笑いをするアニラの前で、レイマッドがむくれる。裕介の記憶が確かなら、ドナミスも彼を憎からず想っているはずだ。前回の最期、想いに応えておけばよかったと言っていたのだから。

 敗北した草原での戦いを思い出し、裕介の胸がズキンと痛んだ。現実世界で大貴には勝てたが、デュラゾンの物言いたげな死に顔は今も瞼に焼き付いたまま離れていなかった。

 けれど今回はこれまでと事情が違う。日中の戦いを反映しているのであれば、向かってくる敵にデュラゾンたちは勝利を得られる。

「口喧嘩をしてる場合じゃないぞ。戦士たちの目的がこの村なら、なんとしても守らなければ」

 デュラゾンの言葉に、他の二人が頷く。

「レイマッドはそのまま、敵の動きを注視してくれ。友好目的で村を訪れようとしてるなら、何の問題もない。武装してる時点で、その可能性は低いだろうが」
「わかった。何か異変があればすぐに知らせる」

 頼むと言ったデュラゾンに軽く右手を振って応え、レイマッドは村の外まで走る。一番高い木の上に登り、遠目で敵の動向を探るために。

「旦那、アタシはどうすればいい?」

「ダイナルを連れてきてくれ。俺はドナミスとミリアルルに声をかける」

 デュラゾンとアニラはすぐに動き出し、村の中央に集まる。村長にも事情を説明し、自宅へ住民を避難させるようにお願いした。

 デュラゾンが集まった面々に状況を説明していると、ノーマンとリエリがやってきた。二人の熱意に押され、渋々ではあるがデュラゾンは戦列に加わるのを承諾する。

 ここまでは裕介が見た前回の夢とほぼ同じ展開だった。そこへレイマッドが、敵の戦士たちは問答無用で村を襲うつもりだという報告を持って戻ってくる。

 隊列を指示したデュラゾンは自らも前に出る。戦いたがるノーマンとリエリには、村長宅付近の守りを任せた。

「腕が鳴ると言いたいところだけど、少しばかし分が悪いかね。適当に突っ込んで暴れればいいのかい?」

 お前の出番だとばかりに、アニラは両手に持つ巨大な斧を構える。

「レイマッドの話では、戦士たちは誰もがかなりの経験を積んだ猛者らしい。正面から挑んでは犠牲が増えるだけだ。ある程度のリスクは承知で、距離を保ちつつこちら側へ引き寄せよう。隊列がバラけてくれれば、ドナミスの魔法とレイマッドの弓で狙い撃てる」

「誘き出して、各個撃破しようってんだね。それならアタシも色仕掛けで一肌脱ごうか」

「筋肉まみれの体に欲情する男なぞ、世界広しといえどダイナルだけじゃ。無駄な真似はやめておけ」

「うるさいよ、ドナミス。偏屈な魔術師に言い寄ってくれるのだって、世界広しといえどレイマッドだけだろ。少しは大切にしてあげな」

 お主に言われるまでもないとそっぽを向くドナミス。やりとりだけ見れば緊張感がないが、実際はピリピリしている。生きて窮地を脱することができるか、誰もが不安なのだ。

「そういえば、ミリアルルは浮いた話がないね。まさか、旦那狙いじゃないだろうな!」

 何故か急に語気を強められたミリアルルは、めっそうもないとばかりに手と顔を小さく左右へ動かした。

「確かにデュラゾンさんは素敵な方ですけど、私はいまだ修行中の身。そのような願望はありません」

「はあー、神官ってのも難儀だねぇ。そんなこと言ってたら、折角の美貌もあっという間に枯れ木みたいになっちまうよ」

「か、枯れ木……」

 絶句するミリアルルの背中を力任せに叩き、アニラは女戦士らしい豪快な笑い声を上げる。

 少し離れた位置で寄り添うようにして見ていたノーマンとリエリが、一同に余裕がありますねと言った。

 するとアニラは一瞬だけ真面目な顔になり、余裕なんてないよと返した。

「もしかしたら今が、のほほんとお喋りできる最後の時間かもしれない。だから全力で楽しむのさ。例え一秒後に人生が終わってもいいようにね」

「そういうことだ。だが、簡単に終わらせてやるつもりはない。せいぜい、この村を狙ったのを後悔してもらわないとな」

 デュラゾンが見据える先、土煙を上げて荒野を走る集団が現れる。村を狙う戦士たちだ。防具はさほどでもないが、手にしている武器はどれも強力そうである。

「高そうな武器だ。どこぞの村から奪った金で買ったのかね。戦士とは名ばかりの盗賊じみた連中だ」

 顔をしかめるアニラの近くで、デュラゾンは戦士たちの動きに合わせて陣形を下げる。弱腰な戦法と判断したのか、戦士たちが挑発じみた言動を繰り返す。

「旦那! いつまで下がり続けるんだ! このままじゃ、村長の家まで押し込まれちまうよ!」

 猪突猛進を愛しているような男たちの群れが相手では、時間稼ぎも通用しそうにない。

「レイマッド。事前偵察では敵の総勢は六名だと言っていたな。間違いはないか?」

「ああ。何度も確かめた。奴らは六人で村を襲おうとしていた」

「そうか。なら敵の背後を突くぞ。どこから攻めてきたのかは知らんが、補給ポイントがあるはずだ。そこを落としてしまえば、連中も退くかもしれない」

「そういや連中が来た先に、いつの間にかデカイ砦があった。きっとそこを使ってるに違いない!」

「重要な情報だ。感謝するぞ、レイマッド。ダイナル! 俺とアニラで敵の後方を突く。その間、出来る限り防御に専念して敵を引きつけてくれ」

 アニラに惚れている戦士のダイナルが頷く。普段はデュラゾンを恋敵だと勝手にライバル視しているが、こんな時にまであれこれ言うような男ではなかった。
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