僕と英雄

桐条京介

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11話 今日は本当に助かったよ

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「どうしたの、お兄ちゃん。戦士と弓兵を使って、拠点前の雑魚どもを駆逐するだけじゃん。悩む必要ないし」

「黙ってろ!」

「ひっ!? あ、ご、ごめんなさい」

 いきなり怒鳴られた真雪は、恐怖に顔面を引きつらせて反射的に謝っていた。

 大貴が今度は大きな舌打ちをした。正面から突き刺さる、裕介の視線に気づいたからだ。

 嬲られるだけだったのに、良い勝負ができているからだろうか。それとも七海が隣にいてくれるからだろうか。とにかく臆さずに、裕介はトラウマの元凶と対峙できていた。

 自分でも不思議な気分だった。あれだけ毎日びくびく過ごしていたのに、後先を考えずに大貴を睨みつけている。

 もしかしたら夢の中とはいえ、デュラゾンたちの散り様を見た影響かもしれない。誰かが命を失う瞬間を見る、それも自身に責任があるというのは、もの凄い恐怖だった。

 同時にまた夢で見るのではないかと思えば、大貴の威圧感よりも強烈なプレッシャーになる。おかげで七海の言う本来の裕介らしさを、すべてではないにしろ取り戻せているのかもしれない。

「おい、裕介。テメエ、何を狙ってやがる」

「対戦している相手に、いちいち答えるはずないでしょ」

「七海には聞いてねえよ!」

「怒鳴るのはやめてください。威嚇行為で失格にしますよ?」

 梨田さんから警告が飛び、再度大貴はゲームを進めるように言われる。

「クソッ!」

 吐き捨てるように言った大貴は、二枚の弓兵を下げて聖騎士のレベッカを攻撃した。これに驚いたのは真雪と七海だ。

「な、何で!? まさか弱介が何かしたの!?」

 真雪の疑問には答えず、戦士だけを裕介の拠点を落とす要員として使う。最初に立ち塞がったドナミスが犠牲になるも、村までは四人を突破しなければならない。

 すべて一撃で倒せるが、一ターンに一度しか行動できない以上、戦士ひとりで倒すには四ターンかかる。拠点制圧も含めれば五ターンだ。途中で聖騎士を倒した弓兵が追いつくだろうが、それでも三ターン程度は要する。

 騎士系のカードは馬に乗っており、移動力に優れている。聖騎士も同じだ。ゆえに次のターンには間接攻撃を得意とする弓兵を振り切れる。

 レベッカの残りの体力を考えれば、もう一ターンは弓兵二枚の攻撃を食らっても力尽きずに動ける。

 向かう先の敵拠点に防衛のための戦力はいない。大貴が弓兵を下げた時点で、裕介は圧倒的に有利となった。

 大貴の弓兵はそれでも執拗に、馬に乗って走る七海の聖騎士を追いすがる。村の制圧よりも、大砦の防衛を優先していた。

「ねえ、裕介。どうして大貴はこっちの拠点を落とさなかったの?」

「ひと言で言えば策士策に溺れるってやつだよ。七海のおかげでもあるけどね」

「私のおかげ?」

 七海が不思議そうに首を傾げた。

「そうだよ。大貴はね、七海と僕が打ち合わせをして、あえて遅れて援軍に入ったと考えたんだ。だから僕がさっき見物してる人たちへ視線を向けた時、他にも援軍がいるんじゃないかって思ったんだろうね」

 七海に対する裕介の返事を聞いた大貴の顔が忌々しげに歪んだ。

「テメエ、俺をハメやがったな! ハッタリだったのか! ちくしょう!」

 激昂した大貴が、両手で台を叩いた。弓兵の二枚が聖騎士に引っ張り出された以上、すぐに村を制圧するのは不可能。負けを悟ったからこそ、先ほどの行為に及んだのである。

「他に援軍がいれば、拠点の制圧に時間がかかるどころか、下手したら全滅しかねないもんね。それで聖騎士を追いかけつつ、拠点を守ろうとしたんだ」

「まあ、遅かったけどね。僕に援軍なんてあるはずないと、偏った編成にしたのが敗因になったんだよ」

「なるほどね。きっと裕介をこの程度にも勝てないのかって、勝負後に罵ろうとしたんでしょう。そんなことばかり考えてるから、どつぼにはまるのよ」

 七海が、裕介の台詞を引き継いで勝ち誇る。

「まだ勝負は決まってないじゃん! 弱介たち、調子に乗りすぎだし!」

 兄の代わりに怒鳴る真雪を前に、裕介は引き続き大貴の拠点である大砦を攻撃する。難攻不落に見えたが、例えレベルの低い者たちであっても、時間をかければ攻略は可能だった。

 大砦の生命力となる耐久力を裕介は知らない。村と比べて五倍のレベルを要するので、単純計算で五倍かとも思ったが、それでは強力すぎる。防御力もあるので二倍か、いっても三倍くらいではないかと予想する。

 硬すぎると低レベルでは高レベルのプレイヤーに必ず勝てなくなってしまうので、拠点の差は兵力ほどには開いていないはずだ。

「僕の予想が合ってるなら、大砦の耐久力はだいぶ少なくなってるんじゃないかな。聖騎士まで加われば、簡単に落ちてしまうくらいには」

 元々、大貴が拠点を守る兵を置かなかったのは、裕介ひとりではどう足掻いても、並ぶ戦士と弓兵の一団を突破できないと判断したからだ。

 デュラゾンとアニラが途中で拠点狙いに切り替えるのを見ても、余裕で先に村を占拠できると、追手を差し向けようとすらしなかった。

 最初から七海の援軍が来ると知っていれば、本拠地をがら空きにするような真似はしていないはずだ。裕介程度なら適当な編成でも好き勝手できるという油断――いわば強者の奢りが大貴の劣勢を引き起こした。

「弱介のくせに生意気すぎ! さっきまでお兄ちゃんに怯えて、何を言われてもへらへら笑ってたくせにさ!」

 ゲーム中の高揚感がなせる業とはいえ、確かにプレイ前と比べれば人格が若干変わっているような印象を持たれてもおかしくない。裕介自身、調子に乗りすぎかとも思ったが、隣に立つ七海には好評みたいだった。

「まだ物足りないところあるけど、これが本来の裕介なのよ。ちょっと生意気で、でもいつも自信満々で、皆の先頭に立って走っていく。輪に入りたそうで入れない子がいれば、率先して手を取ってくれる。そんな頼りがいのある男の子なのよ。どこかの誰かさんが、腕力にものを言わせて仲間外れにするまではね。真雪ちゃんだって、大貴より裕介の後ろをくっついて歩いてたじゃない。裕兄ちゃーんって」

 幼い時代の暴露話に、真雪が裕介以上に羞恥を露わにした。赤い絵の具でもぶちまけたみたいに、耳の先まで真っ赤になっている。

「ちょ、ちょっと! そんなのアタシ、記憶にないし! っていうか、アンタ性格悪いよね! 昔からそうだし! いい子ちゃんぶってばっかだし!」

「どうしてそこで私の話になるのよ!」

 真雪と七海の口喧嘩に発展しかけたところで、審判の梨田さんがひとり冷静にゲームを進行してくださいと告げる。

 苦笑する裕介は手を動かして大砦を攻略しつつ、ほぼ村人というメンバーで本拠地を守る。聖騎士を追うのを諦めた弓兵の二枚も戦士へ合流しようとするが、もう遅い。

 村人を守るために前へ出したミリアルルが犠牲になるも、敵の戦士は裕介の拠点を制圧できない。弓兵が他の村人を射程範囲へ収める前に、聖騎士レベッカが大砦攻めに加わる。

 すでに何ターンもかけて攻略していただけに、大砦の崩壊は予想よりも早かった。昨日までと同じように裕介ひとりなら負けていたが、予想外の七海の参戦が状況を一変させた。

 到着したレベッカの一撃で大砦が陥落。これにより裕介と七海の連合軍の勝利が確定した。

 梨田さんがゲーム終了を宣言すると同時に、大貴は席を立った。どこへ行くのよという七海の言葉に舌打ちを残し、コンビニの駐車場をあとにする。

 乱暴者がいなくなったのを受けて、裕介の周囲に人だかりができた。大貴に戦いを挑まれて、嫌な思いをしているプレイヤーは意外に多かった。

 周囲が盛り上がる中、居場所を見つけられずに、真雪は大貴を追いかけた。

 散々標的にされてきたはずなのに、どこか寂しげな後姿に心がモヤモヤする。結局のところ、裕介は復讐とかを求めるタイプではない。昔から調子に乗りやすい一面こそあったものの、基本的には人が好いのである。

「レベル五のプレイヤーにレベル一のプレイヤーが勝利した場合、二百もポイントを獲得できるわ。二人で半分ずつわけるのでしょう?」

 高レベルの大貴には大損害となるが、それだけレベル一がレベル五に勝利するのは難しい。例え同盟を組んでいてもだ。

 今回は防御力の低い戦士ばかりが出撃していたから、なんとかなったようなものだった。もし大貴が油断なく騎士系統のカードを使っていれば、とても太刀打ちできなかった。

 そう考えると、すべて七海のおかげになる。裕介は迷いなく、彼女にすべてのポイントを与えてほしいと梨田さんに伝えた。

「私に? 昨日始めたばっかりだし、裕介が貰った方がいいよ」

 顔の前で両手を振って遠慮する幼馴染に、裕介はいつぶりかわからない憂いの消えた気持ちで笑いかける。

「だからだよ。七海にも英雄というゲームの面白さを知ってほしいんだ。それに、きっとすぐそのポイントは僕が獲得しちゃうしね」

「言ったわね。私が本気になれば裕介なんて、けちょんけちょんなんだから」

「けちょんけちょんって、もっと中学生らしい言葉を使いなよ」

「あら、おしとやかな方が裕介の好みだった?」

 悪戯っぽく舌を出す七海の可愛らしさに、吹き出すと同時に裕介は顔を赤くする。

「……今日は本当に助かったよ。ありがとう」

「気にしないで。私が子供の頃、裕介に受けた恩に比べればどうってことないわ」

「恩って、僕が遊びに誘ったこと? そんなに感謝されるようなものじゃないと思うけど」

「何を言ってるのよ。人見知りで他の子たちの輪に入っていけず、いつも空き地や公園の隅で寂しげに見てた私を救い出してくれたのよ。あの時の私には、裕介が王子様みたいに見えたんだから。とっても感謝すべき話なのよ」

 当時を思い出しているのか、興奮気味の七海が瞳を輝かせる。自然と声が大きくなっているので、当たり前のように周囲の人たちにも話を聞かれる。
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