僕と英雄

桐条京介

文字の大きさ
10 / 25

10話 僕に考えがあるんだ

しおりを挟む
 魔騎士と聖騎士二人、それにドナミスの攻撃によって敵の戦士の一枚が倒れる。これにより大貴は戦士が残り二枚、弓兵が残り二枚となる。

「お、お兄ちゃん」

 ここで初めて、ゲームを見守っていた真雪が不安そうにした。もしかしたら兄の大貴が負けるのではと思ったのだ。

 だが大貴は余裕そのもので「情けない声を出すな」と真雪を一喝する。

「これはゲームなんだ。スリルがあった方が面白えだろ。なあ、女に手伝ってもらってようやく互角の弱介君よ」

「負けそうになったら口で脅すの? 大貴の最低さはわかっていたけどね」

「チッ。文句まで女に言わせっぱなしかよ。また審判様に注意されたら敵わねえから、この程度にしとくけよど。ハン。そういや審判様も女だったな。相変わらずたらしこむのだけは一人前か」

 ゲラゲラ笑う大貴を、審判の梨田さんが睨みつける。七海も不快そうだ。

 いつものことなので裕介は慣れているが、いまだに不思議なのは、よく一緒に遊んだ大貴がどうして急に仲間外れにするような真似をしたのかだ。

 過去の話でしかないが、当時の理由は気に入らないからというものだった。しかし、何が気に入らないのかという問いには、最後まで答えてもらえなかった。

 大貴のターンになる。能力をアップさせている魔騎士を集中的に狙うかと思いきや、標的にしたのは聖騎士のエレノアだった。

 これまでの戦闘や今までの経験も踏まえ、能力値に目星をつけて計算すると、戦士と弓兵の総がかりでも、魔騎士だとギリギリ生き残る。

 そうなれば、次のターンでまた裕介に一枚戦士を潰される。そうなるよりは、戦士二枚で仕留められる聖騎士を狙ったのである。

「聖騎士は強力なカードだが、レベル一じゃそこまでの脅威にならねえよ。俺の弓兵のレベルがもう少し高ければ、戦士一枚とのセットで潰せてるしな」

 実際に大貴の言うとおりだった。時間稼ぎを目的としているので十分な戦果になっているが、全滅させるしかない勝負であったなら、裕介と七海には万に一つも勝ち目がなくなる。

 拠点を防衛する兵が蹴散らされる前に、なんとかデュラゾンとアニラで大砦を攻略しなければならない。幸いにして、ようやく隣接できる位置へ到達した。

 早速二人がかりで挑ませるが、生命力と防御力に優れた大砦はなかなか撃沈してくれそうもない。

「どうするの、裕介。ガルディとレベッカだけだと、敵の戦士を倒せないわ」

 大貴に聞こえないよう、顔を寄せた七海が相談してくる。近い距離に普段なら照れるかもしれないが、久しぶりにゲームに集中している裕介は、そんなところにまで気を回してる余裕はなかった。

「それでも集中して狙うしかないだろうね。そうすれば次のターンでもう一枚戦士を減らせる。その後、弓兵を狙おう。戦士を壊滅させるのは無理そうだしね」

「うん、わかった」

「こそこそと内緒話かよ。相変わらず仲が良いこったな」

 野次を飛ばす大貴の背後で、真雪が何故か面白くなさそうに唇を尖らせる。

 裕介も七海もからかいには反応せず、それぞれにカードを動かす。

 ソフィーリアだけでなく、近くにノーマンとリエリも合流させて拠点を守らせ、残りのメンバーで戦士の一枚に総攻撃を食らわせる。

 防御力が低い職種とはいえ、生命力は高い。加えて最高レベルでもある。聖騎士をひとり失った裕介たちでは、一気に倒せない。それでも少なくないダメージは与えられた。次のターンになれば、魔騎士の攻撃で仕留められる。

「裕介を甚振って遊ぶための編成が仇になりやがったか。だが、まだ終わってねえぞ。回復役がいねえからって、舐めんなよ」

 目をギラつかせた大貴が戦士二枚と弓兵二枚で魔騎士を攻撃した。

「まさか!?」

「何で驚いてんだ? 前のターンで魔騎士にはダメージを与えてたんだ。厄介なのを先に倒すのは当たり前だろ。てめえは視野が狭いから、間抜けな判断ミスをするんだよ」

 レベル十の戦士は命中率も高く、聖騎士よりは攻撃に重きを置いている魔騎士は回避もできなかった。通常は命中力から回避力を引いた命中率が百以下になれば、審判が六面ダイスを二つ振って判定を行う。

 一の目を八という数値に置き換えて計算する。ダイス二つの合計値が十二になれば九十六。つまり命中率が九十六以上なら、十二の目以外は命中になる。

 八十五なら十一の目である八十八以下になるので、十一の目と十二の目が出れば回避成功となる。命中率が十六以下になるようには作られていないので、ダイスをひとつだけ使うようなケースはないらしい。

 さらに英雄は命中力がかなり高いゲームかつ、身軽な盗賊などの職種もないので、よほどのレベル差がない限り回避はほとんど成功しない。

 数値の計算はし易いが、能力値はカードの裏面に書かれているので、予想と記憶も大事になってくる。もっとも裕介の場合は負け続けたおかげで、大貴と真雪のカードの能力はほぼ把握できていた。七海のは見せてもらえるので問題はない。

 逆に大貴側にとってもレベル一のパラメーターは基本的に似たり寄ったりなので、予測にはさほど苦労しないだろう。あとは相手の表情や態度から、読み取ったりも可能となる。そうした部分は、子供よりも大人向けになるのかもしれない。

 魔騎士を失った裕介は、デュラゾンとアニラによる砦攻略を引き続き実行しつつ、残りの体力が僅かになっていた戦士を聖騎士で倒し、ドナミスとミリアルルは攻撃させずに拠点まで下がらせる。

 聖騎士のレベッカが戦士と弓兵二枚の攻撃を耐えれるかどうかは微妙なので、見捨てて次のターン以降の拠点防衛要員とした。

 ――そう判断させるのが狙いだった。

 大貴には知る由もないが、あくまで同じレベル一の聖騎士と比べてだが、レベッカは生命力が高い。すでに散ったエレノアよりも上だ。そのため敵の生き残りである戦士と弓兵による総攻撃に耐えられる。

 恐らく次のターンに弓兵の一撃で終わりだろうが、焦った大貴が戦士で攻撃してくれれば御の字だ。その時初めて裕介の前に勝利の扉が現れる。

「そうきたか。じゃあこっちは聖騎士をぶちのめしてから、ゆっくりと他の雑魚どもを甚振ってやるかな」

 予想通りの展開に、裕介は表情に出さないよう気を付けながら、内心でガッツポーズをする。

「――とでも言うと思ったか?」

 右側の口角を耳元まで上げ、対面上から身長の高い大貴が文字通り裕介を見下ろす。

「何を企んでるかは知らねえが、簡単に乗ってやるほどお人好しじゃねえよ。オラ、さっさとしねえと村を占拠しちまうぞ」

 立ち塞がっていた聖騎士には目もくれず、移動させた弓兵でドミナスとミリアルルを射抜く。レベル一で魔法職の二人がレベル五の弓兵の攻撃に耐えるのは難しいと思われたが、なんとかギリギリで踏みとどまってくれた。

 魔騎士や聖騎士へのダメージで計算できていた攻撃力そのままだったので、特段の驚きはなかった。恐らくは大貴もわかっていたはずだ。

 なのにどうしてひとりを仕留めにこなかったのか。考えてもわからないので途中で思考を放棄しそうになった瞬間、不意に裕介の脳裏にまたしても力尽きたデュラゾンの姿が蘇った。

 カードではなく彼らの命が懸かっていると思えば、中途半端に悩むのをやめられなくなる。逃げたい心を気合で抑え込み、唇を噛んでより良い選択肢を探す。その先に勝利が待っていると信じて。

「ねえ、裕介」

 脂汗を流し、無言で悩み続ける裕介を七海が心配する。少しでも力になりたいと、考えつく限りの提案も行う。

「大貴のカードも残り少なくなってるし、裕介のデュラゾンさんとアニラさんを合流させて戦えばいいんじゃない?」

 魔術師と神官が瀕死になったとはいえ、七海の聖騎士は無傷で残っている。

 そこに戦士レベル三のアニラが加わり、レベル一の戦士近くの能力はあるレベル十の村人デュラゾンと、同じくレベル十まで成長させている七海の村人ソフィーリアも加われば確かに勝てるかもしれない。

 妙案には間違いないのだが、何故か素直に頷けなかった。

 盗み見るようにこっそりと大貴の様子を窺う。不安そうな真雪の前に立つ、裕介のトラウマの元凶は、腕を組んで仁王立ちしている。どこからでもかかってこいと言わんばかりの、実に堂々とした態度だった。

「大貴にはまだ余裕がありそうだし、大砦はきっと落ちないわ。分散させている戦力を合流させて戦いましょう」

 七海の声が聞こえたのか、大貴がこちらへ気づかれない程度に舌打ちをした。

 だが、裕介はしっかり見ていた。平常心を装っていても、内心は焦っているのかもしれない。だとしたら、七海の作戦に乗るべきだ。

 そこまで考え、デュラゾンに手を伸ばしたが途中で止める。本当にそうかという疑問が、裕介の中に残っているせいだ。

 今までは戦力差がありすぎて、一方的に蹂躙されるばかりだった。しかし七海のおかげで状況は変わり、劣勢から互角に近いところまで戻った。

 そして裕介は先ほど、心理戦を仕掛けるに至った。あえて陣内のカードを退かせて、聖騎士に攻撃を集中させようとしたのである。

 だがそうはならなかった。力押しが得意技とばかり思っていた大貴が、完璧ではないにしろ、裕介の意図を見抜いた。頭もそれなりに働かせられるのに、そんな簡単に苛立ちや不安を露わにするだろうか。

「――いや、このまま砦を攻めよう。七海の聖騎士も上げて、イチかバチかの攻勢に出るよ」

「え!? そんな真似をしたら拠点が守れなくなるわよ」

「大丈夫。僕に考えがあるんだ」

 小声で言い、裕介は大貴にもわかるように、観客の方へチラリと視線を向けた。

 最終的に七海は裕介の意見を尊重してくれた。弓兵の間を通り抜け、無人の大砦へ向かって前進させる。

 これで拠点防衛に残っているのは五名。数はいるが、頼りにはならない。何せ一番高い戦闘力を持つのが、七海の村人ソフィーリアなのだ。まともにぶつかったら、二ターンで全滅し、拠点を奪われる。

「アホじゃないの、弱介。聖騎士を村の守りから外したら、負け確定じゃん。そんなにお兄ちゃんに嬲られたいわけ」

「ああ、そうさ」

「はあ!? アンタ、ゲームに負けすぎてとうとう狂っちゃった?」

 今度は何も言わない。時間だけが過ぎていく。

 あまりに長考だと、指定ターン数がこなくてもゲーム時間が長くなるので、審判の梨田さんが大貴へ早く進めるように促す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...