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第11話 それは期待してしまうな
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「これはこれはカケル殿。本日も王女殿下に招かれたのですかな」
一階ホールの近くで宰相のアズバルが、カケルを呼び止めた。隣には楚々と王妃も付き従っている。
「クオリア殿も一緒でしたか。着々と人脈を築いておられるようで頼もしい限りです」
(額面通りじゃないとすれば、こそこそ動き回るなっていう警告になるのか?)
自分で判断できないカケルがこっそりアーシャの様子を窺うと、商人らしくにこやかな表情を崩していなかったが、手指に普段よりも力が入っていた。
「英雄たる者、仲間やライバルは必須でしてね。アズバル殿もご理解なさっているはず」
「クオリア殿と違い、私は凡人でございますので」
宰相にまでなった人間が凡人なのかとカケルは思うが、独特な性格のクオリアは一切気にせずに高笑いする。
「僕は英雄だからね。特別で当たり前さ!」
背後に薔薇でも見えそうな動作で、クオリアが前髪を掻き上げる。
アズバルが小さく肩を竦める。有力貴族の子息であるだけに、宰相といえども強い態度には出られないのかもしれない。
「先ほど、王女の部屋に陛下が入っていかれましたが、何かお話をされたのですか?」
王妃にいきなり尋ねられたカケルは驚きながらも、無難に受け答えする。
「世間話のようなものです。陛下がお――私の本を読んでくださったみたいで」
「そうでしたか。陛下からお褒めの言葉を頂けて良かったですね」
気品ある微笑みに頭がクラッとする。自覚なく魅了されそうなほどの破壊力は、さすがリアレーヌの母親である。
どう会話を繋げていいか迷っていると、宰相がここぞとばかりに会話へ加わった。
「一説によると、カケル殿の本は祖国の知識が元になっているとか」
「作者の素性を神秘的に演出すれば、読者も食いつきます。これも販売戦略の一つです」
ギクリとしたカケルがボロを出す前に、公の場では任せろと言ってくれていたアーシャが応対を代わってくれた。
「是非とも、カケル殿の口から聞きたいですね。旧貴族の方ではなくね」
こめかみに青筋が浮かびそうな雰囲気でも笑顔を崩さないアーシャと、口角を吊り上げる宰相がしばらく無言で視線をぶつけ合う。
「主役の僕への質問も受け付けよう。英雄らしく語り尽くそうじゃないか」
空気を読めないクオリアが爽やかに割り込んでくれたおかげで、宰相と女商人の間で張りつめていた緊張感が霧散していく。
「政務がありますので、またの機会にお願いしますよ」
王妃を連れて二階へ向かおうとする宰相が、すれ違いざまにカケルの肩を叩いた。
「今後の作品も期待していますよ。クエスファーラ王国のためにね」
柔らかい口調なのに、何故かカケルはゾッとした。
(これがラノベなら、間違いなく悪役認定されてるな)
常に王妃と行動を共にする意味ありげな宰相など、黒幕と疑ってくださいと宣伝しているようなものだ。
(もしくは他の黒幕を隠すためのミスリードに使ってるかだよな)
その場合の候補は王妃か。それとも次の舞台となりそうなロスレミリアで出会うのか。
「ボーっとしてどうしたのよ」
アーシャがやや心配そうに顔を覗き込んできた。
「何でもない。緊張してたのかもな」
(異世界でも現実には変わりない。ラノベと一緒にはできないよな)
軽く笑いつつも、頭の中でカケルはこっそり反省した。
※
細工が施された燭台が荘厳な部屋を照らす。
衛兵も貴族もしかつめらしく並び、所定の位置で膝をついたカケルとアーシャを見ていた。
城からの伝令に、許可証が出来たと伝えられたのが数刻前。準備を終えて登城するなり、門番に案内されたのが謁見の間だった。
国王の代理として、玉座に腰を下ろした王妃から見て左側に宰相が立ち、右側に王女のリアレーヌが立っている。
滞りなく通行許可証の受け取りが済んだと思いきや、王妃がパンと手を合わせた。
「そうだわ。リアレーヌもカケル殿に同行してはどうかしら」
「良い案だと思います。王族として他国を知るのは重要です」
笑顔で宰相が同意し、拒否を認めないような雰囲気が生まれる。
「……国王陛下はご存知なのですか?」
リアレーヌが訝しげな視線を向けた相手は、王妃ではなく宰相だった。
「現在の王妃様は国王代理。すなわち陛下のお言葉も同然です」
再度、王妃を見るも、にこにこするばかりで何も言おうとしない。まるで最初に提案をした時点で、自分の仕事は終わったと言わんばかりだ。
やがてリアレーヌは小さくため息をつき、命令受諾の意思を示した。
※
「してやられたというべきか」
苦笑しかできないカケルの前で、頬杖をついた王女が苛立ち混じりにフンと鼻を鳴らす。
謁見の間から退室するなり、カケルとアーシャは侍女にリアレーヌの部屋へ立ち寄るように命じられた。
素直に従った二人を待っていたのが、仏頂面の王女だった。
「でも王女様が一緒なら道中は安心ですね。騎士団とか派遣されるんだろうし」
「わらわの護衛はそこにいるセベカだけだ」
さも当然のように言われたので、カケルはギョッとしてしまう。
「他国に行く王族に護衛が一人って……あ、こっちじゃそれが普通なんですか?」
「いや。大抵は専属の護衛がつくが、お主が赴こうとしているロスレミリアは友好国だ。治安もしっかりしている。だからこそ越境の許可が出やすい」
「それに身の回りのお世話は、自分がいれば十分であります。他の誰にも王女殿下の玉のお肌には触らせないであります」
断言したセベカの瞳には、何やら危険な輝きが宿っているような気もするが、あえてカケルは無視をする。
「話は戻りますけど、なんだって急に王女様の同行を決めたんでしょうね」
「さてな。単純に邪魔なのか、もしくはロスレミリアに取り込まれないように、わらわという鈴をつけたか。あの宰相はお主の小説から何かを得ようとしているみたいであったしな」
「確かに、そんな感じはしましたね」
「奴のことだ。目をつけるとすれば軍事関連であろう。そこでお主に一つ問いたい。鉄砲なる兵器の製造方法を把握しておるか?」
リアレーヌの目がスッと細まる。
心臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚え、カケルは全力で顔を横に動かした。
「本にも詳細な構造は書いていなかったゆえ、お主なら知識をひけらかしたりはせぬと判断しておるが、拷問には弱そうなのでな」
「ご……!? きっと尋常じゃないくらい弱いと思います」
アーシャが情けないわねと小声で呆れているが、平和な日常を過ごしてきたカケルが暴力に晒されればどうなるかなど想像するまでもなかった。
「そうであれば尚更、宰相とは懇意にさせられぬな。お主の本を知るなりセベカに接触させ、先手を打てたのは僥倖であった」
「いきなり城に呼んだのは、そういう意図があったのか。俺はてっきり、王女様が新作を早く読みたいからだと思ってましたよ」
はははと笑うカケル。そんなはずはあるまいという指摘を想像していたのだが、当のリアレーヌは真っ赤に染まった顔で目を大きくさせていた。
「う、自惚れるのはやめてもらおう。わらわはそれほど子供ではない」
「ですよね。その割には新作はまだかと連日問い合わせてたみたいなんで、すっかり誤解してしまいましたよ」
「わ、わらわの動きを知った他の連中にも、そう思わせるのが狙いだったのでな」
「だとしたら、今後は無理に書かなくてもいいですね」
「――っ! カケル! お主はわらわを虐めて楽しいのか!」
いきなり王女が声を荒げたかと思ったら、目にも止まらぬ速度で、カケルの鼻先にセベカの短剣が突きつけられた。
「そこは気づかないふりをしてあげるのが大人でしょうに」
呆れたように目元を押さえるアーシャ。
「その話はもうよい。武器以外で、我が国に役立ちそうな知識はないか?」
あまりに強引な話題変更だが、セベカのナイフから解放されるためにもあえて乗る。
「そ、そうだ。機会があれば王女様に提案しようと思ってたことが」
「ほう。それは期待してしまうな」
リアレーヌが本来の余裕を取り戻したこともあり、何故か残念そうにセベカがナイフを下げた。
「王都には意外と勉強をしたい人が多いんですよ。だから学校を作ったらどうかなって」
「学校? それはどのようなものだ」
現代日本版の学校を簡単に説明すると、王女は瞳を輝かせた。
「学費を納め、昼には食事も提供するのか。それは面白い仕組みだな。だが教科書やノートと言ったか。それらを作るには莫大な紙が必要となる。その分の経費も学費に含めれば、貴族や富裕層以外は手が届かないであろうな」
「その紙なんだけど、木から取れないの?」
「……何だと?」
王国どころかこの大陸で主に使われているのは羊皮紙であり、それが当たり前となっている。だがカケルにすれば木から作られた紙の方が当たり前だった。
「木の種類が知らないから簡単には言えないけど、日本の紙は木からできてたはずだよ」
「なんと……では紙にするのに適した木材が存在するということか。この話もにわかには信じられぬな」
リアレーヌのみならず、アーシャも商人の視点で考え込む。
「上手くすれば生産量を増やせて、価格も落とせるかもしれない。紙やインクがもっと一般的になれば、字を習得したい一般人も出てくる。さっきの学校も盛況になれば、教科書やノートというのも売れる。ウフフ。儲けのにおいがしてきたわ!」
「貴族と懇意にしている写本家などの反発を招くかもしれぬが、将来的に見れば王国の発展に繋がるか。よし、わらわの責任を持ってお父様に話を通しておこう」
すんなりと意見が通ると思っていなかったので、カケルは少し不安になる。
「簡単に決めて大丈夫なんですか?」
「王国の未来を照らすかもしれぬ方策だ。これまでは貴族の特権じみていたところがあったが、本来は望む者に与えるのが教育というものだろう」
「学校が正式に認可されたら、アタシにも参加させてください」
アーシャが申し出たのは、学校で必要になる教科書の調達だった。同じものを大量に用意するには、カケルが教えた木版技術が役に立つ。
「抜け目がないというか、金に貪欲すぎるだろ」
「商人なんだから当然でしょ! 学校や木版の考案者のアンタにもちゃんと支払いはするから安心しなさい」
「別にいらないんだが」
「は!? ならどうして提案なんてしたのよ。まさか周りを笑顔にするためとか、吐き気を催すようなことを言わないでしょうね」
急速にアーシャの機嫌が悪くなっていく。
「そんな聖人じゃないが、別にそこまでがめつくなる必要もないだろ」
「――ッ! 商売を甘く見ないで!」
女性とは思えないような力で、いきなり胸倉を掴まれた。
「ぐっ、く、苦し……い……」
「王女殿下の御前でありますよ」
セベカに叱責され、我を取り戻したらしいアーシャが手を離す。
ゴホゴホと咳き込むカケルは涙目で女商人を見上げるが、目を逸らされた。
一階ホールの近くで宰相のアズバルが、カケルを呼び止めた。隣には楚々と王妃も付き従っている。
「クオリア殿も一緒でしたか。着々と人脈を築いておられるようで頼もしい限りです」
(額面通りじゃないとすれば、こそこそ動き回るなっていう警告になるのか?)
自分で判断できないカケルがこっそりアーシャの様子を窺うと、商人らしくにこやかな表情を崩していなかったが、手指に普段よりも力が入っていた。
「英雄たる者、仲間やライバルは必須でしてね。アズバル殿もご理解なさっているはず」
「クオリア殿と違い、私は凡人でございますので」
宰相にまでなった人間が凡人なのかとカケルは思うが、独特な性格のクオリアは一切気にせずに高笑いする。
「僕は英雄だからね。特別で当たり前さ!」
背後に薔薇でも見えそうな動作で、クオリアが前髪を掻き上げる。
アズバルが小さく肩を竦める。有力貴族の子息であるだけに、宰相といえども強い態度には出られないのかもしれない。
「先ほど、王女の部屋に陛下が入っていかれましたが、何かお話をされたのですか?」
王妃にいきなり尋ねられたカケルは驚きながらも、無難に受け答えする。
「世間話のようなものです。陛下がお――私の本を読んでくださったみたいで」
「そうでしたか。陛下からお褒めの言葉を頂けて良かったですね」
気品ある微笑みに頭がクラッとする。自覚なく魅了されそうなほどの破壊力は、さすがリアレーヌの母親である。
どう会話を繋げていいか迷っていると、宰相がここぞとばかりに会話へ加わった。
「一説によると、カケル殿の本は祖国の知識が元になっているとか」
「作者の素性を神秘的に演出すれば、読者も食いつきます。これも販売戦略の一つです」
ギクリとしたカケルがボロを出す前に、公の場では任せろと言ってくれていたアーシャが応対を代わってくれた。
「是非とも、カケル殿の口から聞きたいですね。旧貴族の方ではなくね」
こめかみに青筋が浮かびそうな雰囲気でも笑顔を崩さないアーシャと、口角を吊り上げる宰相がしばらく無言で視線をぶつけ合う。
「主役の僕への質問も受け付けよう。英雄らしく語り尽くそうじゃないか」
空気を読めないクオリアが爽やかに割り込んでくれたおかげで、宰相と女商人の間で張りつめていた緊張感が霧散していく。
「政務がありますので、またの機会にお願いしますよ」
王妃を連れて二階へ向かおうとする宰相が、すれ違いざまにカケルの肩を叩いた。
「今後の作品も期待していますよ。クエスファーラ王国のためにね」
柔らかい口調なのに、何故かカケルはゾッとした。
(これがラノベなら、間違いなく悪役認定されてるな)
常に王妃と行動を共にする意味ありげな宰相など、黒幕と疑ってくださいと宣伝しているようなものだ。
(もしくは他の黒幕を隠すためのミスリードに使ってるかだよな)
その場合の候補は王妃か。それとも次の舞台となりそうなロスレミリアで出会うのか。
「ボーっとしてどうしたのよ」
アーシャがやや心配そうに顔を覗き込んできた。
「何でもない。緊張してたのかもな」
(異世界でも現実には変わりない。ラノベと一緒にはできないよな)
軽く笑いつつも、頭の中でカケルはこっそり反省した。
※
細工が施された燭台が荘厳な部屋を照らす。
衛兵も貴族もしかつめらしく並び、所定の位置で膝をついたカケルとアーシャを見ていた。
城からの伝令に、許可証が出来たと伝えられたのが数刻前。準備を終えて登城するなり、門番に案内されたのが謁見の間だった。
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滞りなく通行許可証の受け取りが済んだと思いきや、王妃がパンと手を合わせた。
「そうだわ。リアレーヌもカケル殿に同行してはどうかしら」
「良い案だと思います。王族として他国を知るのは重要です」
笑顔で宰相が同意し、拒否を認めないような雰囲気が生まれる。
「……国王陛下はご存知なのですか?」
リアレーヌが訝しげな視線を向けた相手は、王妃ではなく宰相だった。
「現在の王妃様は国王代理。すなわち陛下のお言葉も同然です」
再度、王妃を見るも、にこにこするばかりで何も言おうとしない。まるで最初に提案をした時点で、自分の仕事は終わったと言わんばかりだ。
やがてリアレーヌは小さくため息をつき、命令受諾の意思を示した。
※
「してやられたというべきか」
苦笑しかできないカケルの前で、頬杖をついた王女が苛立ち混じりにフンと鼻を鳴らす。
謁見の間から退室するなり、カケルとアーシャは侍女にリアレーヌの部屋へ立ち寄るように命じられた。
素直に従った二人を待っていたのが、仏頂面の王女だった。
「でも王女様が一緒なら道中は安心ですね。騎士団とか派遣されるんだろうし」
「わらわの護衛はそこにいるセベカだけだ」
さも当然のように言われたので、カケルはギョッとしてしまう。
「他国に行く王族に護衛が一人って……あ、こっちじゃそれが普通なんですか?」
「いや。大抵は専属の護衛がつくが、お主が赴こうとしているロスレミリアは友好国だ。治安もしっかりしている。だからこそ越境の許可が出やすい」
「それに身の回りのお世話は、自分がいれば十分であります。他の誰にも王女殿下の玉のお肌には触らせないであります」
断言したセベカの瞳には、何やら危険な輝きが宿っているような気もするが、あえてカケルは無視をする。
「話は戻りますけど、なんだって急に王女様の同行を決めたんでしょうね」
「さてな。単純に邪魔なのか、もしくはロスレミリアに取り込まれないように、わらわという鈴をつけたか。あの宰相はお主の小説から何かを得ようとしているみたいであったしな」
「確かに、そんな感じはしましたね」
「奴のことだ。目をつけるとすれば軍事関連であろう。そこでお主に一つ問いたい。鉄砲なる兵器の製造方法を把握しておるか?」
リアレーヌの目がスッと細まる。
心臓を鷲掴みにされたような恐怖を覚え、カケルは全力で顔を横に動かした。
「本にも詳細な構造は書いていなかったゆえ、お主なら知識をひけらかしたりはせぬと判断しておるが、拷問には弱そうなのでな」
「ご……!? きっと尋常じゃないくらい弱いと思います」
アーシャが情けないわねと小声で呆れているが、平和な日常を過ごしてきたカケルが暴力に晒されればどうなるかなど想像するまでもなかった。
「そうであれば尚更、宰相とは懇意にさせられぬな。お主の本を知るなりセベカに接触させ、先手を打てたのは僥倖であった」
「いきなり城に呼んだのは、そういう意図があったのか。俺はてっきり、王女様が新作を早く読みたいからだと思ってましたよ」
はははと笑うカケル。そんなはずはあるまいという指摘を想像していたのだが、当のリアレーヌは真っ赤に染まった顔で目を大きくさせていた。
「う、自惚れるのはやめてもらおう。わらわはそれほど子供ではない」
「ですよね。その割には新作はまだかと連日問い合わせてたみたいなんで、すっかり誤解してしまいましたよ」
「わ、わらわの動きを知った他の連中にも、そう思わせるのが狙いだったのでな」
「だとしたら、今後は無理に書かなくてもいいですね」
「――っ! カケル! お主はわらわを虐めて楽しいのか!」
いきなり王女が声を荒げたかと思ったら、目にも止まらぬ速度で、カケルの鼻先にセベカの短剣が突きつけられた。
「そこは気づかないふりをしてあげるのが大人でしょうに」
呆れたように目元を押さえるアーシャ。
「その話はもうよい。武器以外で、我が国に役立ちそうな知識はないか?」
あまりに強引な話題変更だが、セベカのナイフから解放されるためにもあえて乗る。
「そ、そうだ。機会があれば王女様に提案しようと思ってたことが」
「ほう。それは期待してしまうな」
リアレーヌが本来の余裕を取り戻したこともあり、何故か残念そうにセベカがナイフを下げた。
「王都には意外と勉強をしたい人が多いんですよ。だから学校を作ったらどうかなって」
「学校? それはどのようなものだ」
現代日本版の学校を簡単に説明すると、王女は瞳を輝かせた。
「学費を納め、昼には食事も提供するのか。それは面白い仕組みだな。だが教科書やノートと言ったか。それらを作るには莫大な紙が必要となる。その分の経費も学費に含めれば、貴族や富裕層以外は手が届かないであろうな」
「その紙なんだけど、木から取れないの?」
「……何だと?」
王国どころかこの大陸で主に使われているのは羊皮紙であり、それが当たり前となっている。だがカケルにすれば木から作られた紙の方が当たり前だった。
「木の種類が知らないから簡単には言えないけど、日本の紙は木からできてたはずだよ」
「なんと……では紙にするのに適した木材が存在するということか。この話もにわかには信じられぬな」
リアレーヌのみならず、アーシャも商人の視点で考え込む。
「上手くすれば生産量を増やせて、価格も落とせるかもしれない。紙やインクがもっと一般的になれば、字を習得したい一般人も出てくる。さっきの学校も盛況になれば、教科書やノートというのも売れる。ウフフ。儲けのにおいがしてきたわ!」
「貴族と懇意にしている写本家などの反発を招くかもしれぬが、将来的に見れば王国の発展に繋がるか。よし、わらわの責任を持ってお父様に話を通しておこう」
すんなりと意見が通ると思っていなかったので、カケルは少し不安になる。
「簡単に決めて大丈夫なんですか?」
「王国の未来を照らすかもしれぬ方策だ。これまでは貴族の特権じみていたところがあったが、本来は望む者に与えるのが教育というものだろう」
「学校が正式に認可されたら、アタシにも参加させてください」
アーシャが申し出たのは、学校で必要になる教科書の調達だった。同じものを大量に用意するには、カケルが教えた木版技術が役に立つ。
「抜け目がないというか、金に貪欲すぎるだろ」
「商人なんだから当然でしょ! 学校や木版の考案者のアンタにもちゃんと支払いはするから安心しなさい」
「別にいらないんだが」
「は!? ならどうして提案なんてしたのよ。まさか周りを笑顔にするためとか、吐き気を催すようなことを言わないでしょうね」
急速にアーシャの機嫌が悪くなっていく。
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「――ッ! 商売を甘く見ないで!」
女性とは思えないような力で、いきなり胸倉を掴まれた。
「ぐっ、く、苦し……い……」
「王女殿下の御前でありますよ」
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