異世界作者~ワナビがペンの力で生き抜きます!~

桐条京介

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第17話 他を当たってくれ

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 謁見の間の厳かな雰囲気は、何度目でも慣れることはない。

 膝をつくカケルの前には、優雅に玉座に座しているロスレミリアの女王がいた。

「絵で本を作ったのですか。面白い試みですね」

 売り上げ勝負の結果発表をすると、朝から城へ呼びつけられた面々の前で、女王は楽しそうに各作品の感想を並べた。

「それが子供たちの人気を得て、文字が読めなくとも売り上げに繋がったのでしょうね」

 女王の褒め言葉に、恐縮するのは絵本を作ったアーシャである。

「アルメイシャ・ビアナランカ嬢の絵本、遠い国の王子様が見事に売り上げ一位となりました。よってこの勝負は彼女の勝ちとなります」

 謁見の間に詰めている貴族からも拍手が起こる。

「ありがとうございます。ですが――」

「――アーシャ、おめでとう」

 カケルに先の言葉を潰されたアーシャは不服そうに唇を歪めながらも、悩んだ末に結果を受け入れた。

「英雄たる僕に正面から挑んでは敵わないからね。素晴らしい工夫だったよ」

「お前の本は最下位だったじゃないか」

 ひたすら観衆が英雄を褒め称えるというシュールな内容はある意味で面白かったが、大衆受けはしなかった。加えてここはロスレミリアなので、貴族の知り合いが買うというブースト効果も得られなかった。

「微塵もショックを受けてないのがクオリアらしいわね」

 国に戻れば貴族の跡取りなのだが、最近ではアーシャも普通にクオリアを呼び捨てにするようになっていた。

 クオリアより上の立場であるリアが、カケルたちに砕けた付き合いを望んでいるのもあって、現在ではセベカ以外はリアにもため口を使っている。

 そのリアはカケルと一緒に書いたのもあり、クオリアよりは上だったが、セベカには届かなかった。

 鳥籠に捕らわれたお姫様が、辛い日々の中で勇者に救出される想像をするようになり、最後にはその通りの結末を迎えるという内容だった。

「出来としては悪くないと思ったのだがな」

「最高でありました。自分が全部買うつもりだったのでありますが……」

 侍女のセベカが歯軋りをする。

 純粋な売り上げ勝負であるがゆえに、女王から作家本人が本を購入するのを禁止されたのだ。

 その代わり、原本を自由に読むことができたので、他の人間がどのような作品を書いたのかは知っていた。

「世辞はよい。わらわが客であったとしても、リカ・セダの本を選んだろうからな」

 ペンネームで出したセベカの本は、女が夜這いをかけるほど愛した男が、実は以前に愛した男の仇だと知り、苦悶しながらも復讐を遂げる恋愛というかダークな内容だった。

「アーシャに負けたとはいえ、カケルは貫禄であったな。お互いに完売はしたのだから」

 各本を百冊ずつ刷っての勝負となったが、リアたちのはまだ在庫が残っていた。売り上げ数ではアーシャもカケルも同じだが、完売までの時間を加味しての順位となった。

「内容はクエスファーラで出したのと似てるけどな」

 日中はリアに付きっきりで、夜はこっそりと部屋を訪れるアーシャの相談に乗っていて、自分の作品に割ける時間が足りなかったのである。

「結果は結果でありますね」

 以前の口喧嘩の決着を売り上げでつけることになっていたのもあり、敗北を認めたセベカが謝罪の言葉を口にしようとしたが、他ならぬアーシャが止めた。

「アタシも言い過ぎだったし、今回だって一人じゃ無残な結果に終わってたわ」

「いえ、アーシャ殿は自分の不足部分を補うために、助けを求めたのであります。それは依存とは違うであります」

「ウフフ。どうやら仲が改善したみたいですね。ギクシャクしていると報告を受けていたので、気にしていたのです」

 微笑む女王に、アーシャとセベカが揃って頭を下げた。

 どこへ行くにもカケルたちの周囲には護衛のロスレミリア兵がいたので、ぎこちない雰囲気が丸わかりだったのだろう。

「友情というのは麗しいものだね。英雄たる僕も見習うべきかもしれないね」

「悪いけど、他を当たってくれ」

「遠慮しないでくれたまえ。ライバルが生涯の友となるのも英雄的展開だよ」

「だから、俺は求めてないんだよ!」

 全力で却下するが、めげないクオリアは勝手にカケルを親友認定してしまう。

「ロスレミリアでの目的を果たしたのなら、クエスファーラへ戻ろうではないか。今回の再戦もしたいからね。そうだ。次は団体戦にしようではないか」

 これまた勝手に、クオリアが行動方針を決める。

「まあ、残してきたノアラさんも気になるしな」

 売り上げ勝負もあったおかげで、カケルはすでに一月以上もロスレミリアに滞在している。向こうで始めた学校がどうなっているのかも確認したかった。

「皆さえよければ、俺もそろそろクエスファーラに戻ろうと思うんだけど」

 異論は出るはずもない……と思っていたのだが、予期せぬところから待ったがかかる。

「申し訳ありませんが、昨日に伝令が来ておりました。女の身であるがゆえに伝え辛いことだったのですが……」

 口籠る女王が目を伏せる。ただならぬ雰囲気を俊敏に察知したのはリアだった。

「わらわへの言伝ですね。国は何と言ってきたのでしょうか」

「……大臣、指令書をここに」

 女王に命じられた恰幅の良い中年男性が、羊皮紙をリアに手渡す。

「わたくしが聞かされたのは、リアレーヌ王女をガルブレドへ向かわせて欲しいというものです。理由はそこに書かれている通りです」

 簡潔に状況を説明されたリアが、書類を確認するなり両目を見開いた。

「……確かに受け取りました」

「王女殿下を帝国に……まさか……」

 何かを察したらしいセベカが、顔から血の気を失わせる。

「政略結婚だ」

「やはりでありますか」

 嫌な予感が当たったと言いたげに、セベカは唇を噛む。

「政略結婚……!?」

 カケルの声が震えた。このご時世にとも思ったが、ここは日本ではない。そういう慣習が残っていても不思議ではなかった。

「ガルブレドって確か、北の国だったよな」

「うむ。帝国と呼ばれる軍事国家であり、わらわが嫁ぐように命じられたのは皇帝シュバイン・ガルブレドその人だ」

 何の感慨もなさそうな態度が、余計にリアの辛い心情を物語っているようだった。

「じゃあ、リアは王妃になるってことか」

「フッ。羨ましいであろう」

 諦観の笑みを見せたリアが、新たに口を開きかけたカケルを制した。幼さを残す顔には、王族であるがゆえの悲しみと覚悟があった。

     ※

 日は出ていても、吹く風には厳しい冬の名残がある。

 馬車の中にいるのもあって急いで上着を調達するほどではないが、比較的温かかった南側に比べるとかなり寒い。

「街中にも兵士がいるんだな」

 ガルブレドが用意してくれた馬車の窓から外を見ると、鎧を着こんだ兵士が槍を片手に帝都を歩き回っていた。

「噂には聞いてたけど、ずいぶん物々しいわね」

 カケルの隣に座るアーシャが、肩に手を置いて顔を伸ばしてきた。

「空気も乾燥してるし、なんだか無機質だわ」

「ガルブレドは領土こそ広いが、北側は豪雪地帯で、とても作物は育てられぬ。南側は雪こそないが、肥沃な大地とも言えぬ。国民の食糧を賄うために、我が国との交易量も年々増えておる」

 セベカとクオリアに挟まれて座るリアが、淡々と説明を続ける。

「一方でより良い交易条件を得るために、ガルブレドは常にクエスファーラへ軍事的な圧力をかけている。それでも現在の皇帝が即位して以降は、ずいぶんと緩和された。この良質な関係を維持するための婚姻だろう。少しばかり焦りすぎな気がしなくもないが……」

 膝の上で握った拳に、年若い王女が視線を落とす。

 セベカが心配そうに声をかけようとしては、口を閉じるのを繰り返していた。

「ガルブレドには初めて来たが、妙な色の石を使っているね」

 クオリアが長い脚を組み替え、馬車の窓から流れる王都の住宅風景に感嘆の声を漏らした。

「あれは……煉瓦か?」

「ほう。よく知っているな」

 顔を上げたリアに先ほどまでの暗さはもうなかった。

「木では寒さをしのげぬからな。昔から石の家が大半だったが、最近では煉瓦も増えている。わらわも前回、視察で陛下に同行した際には驚いたものだ」

「カケルが知ってたってことは、日本もその煉瓦の家ばかりなの?」

 肩から手を離して席に座り直したアーシャに、カケルはゆっくりと首を振る。

「煉瓦は昔っていうイメージがあるな。最近ならコンクリートとかじゃないか」

「コン……何?」

「当たり前のようにそう呼んでたからな。コンクリートが何かと聞かれても、コンクリートとしか答えようがない」

「嘘をついているようには見えぬな。コンクリートなるものを、実際にこの目で確認してみたいものだ」

 気軽に、一緒に行こうとはとても言えなかった。

 帰る方法がわからないのもあるが、これから政略結婚をする少女には、どんな慰めも気休めにすらならない。

 ガタゴトと揺れる馬車に、野太い声が飛び込んでくる。

「またパンの値段が上がったのかよ!」

「こ、小麦が足りてないんです」

 兵士が食物屋の店主に詰め寄っていた。聞こえてきた価格にカケルは驚愕する。
「クエスファーラの倍以上じゃないか!」

「我が国も昨年の収穫は不足気味だったのだ」

 リアが表情を曇らせる。

「仕入れの減少が、そのまま価格の高騰に繋がっているのだろう」

「まさか、その不満を抑えるために……?」

 掠れた声でのカケルの呟きを受け、セベカが奥歯を噛んだ。

「それならまだいいであります。最悪は帝国が王女殿下を不満のはけ口にしようと考えていた場合であります」

「おいおい……リア、大丈夫なのか?」

「もう言葉は尽くしたであろう。わらわは王女。結婚の自由がないのは最初からわかっていた。それが予想よりも少しばかり早かったにすぎぬ」

 突き放すようにも感じられる台詞が、せっかく少しずつ縮めた距離が遠くなったような気がして、カケルは言いようのない寂しさを覚えた。
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