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ステルス機能が欲しい
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しおりを挟む(お金の余裕もさることながら……領地経営の仕事のせいで時間の余裕もなかったなんて言ったら、もっと怒りそう)
なのでベルは、手の中に残っていたサンドイッチを全て食べ終えて話を逸らした。
「いつもありがとう……アンナのサンドイッチどうしてこんなに美味しいのかな」
「もう、ベルったら……多分ソースかな? パンの中に塗ってるソースは、領地の料理人が教えてくれたの」
昼食を終えて少しお喋りをした後、ふたりで学舎に戻る。
”王太子殿下に抱き上げられた男爵令嬢”
噂が広まった数日は、嫌な視線をあちこちから向けられていたが、今はそれほどでもない。三年生らしき女子生徒からは睨みつけられることが多いが、それだけだ。気にしないようにしていれば、実害はなかった。
クラス内での居心地は逆に良くなった。クラスメイトの態度はこれまでとそう変わらないのだが、アンナが傍にいてくれることが何より心強い。
そしてやはり、クラスの中心ともいえるシグルドがベルの噂に関して取り合わなかったことが大きかった。
「リンドル嬢。貸出資料をみんなから集めて図書室に届けてくれないか」
こういうところも相変わらずだが。使い走りのようなことを頼んでくるが、少しだけ以前の一方的な命令口調から変わってきている。呼び捨てでもなくなった。ベルが王太子殿下と関わったということが影響しているのではないか、と密かに思っている。
彼もまた、身分社会の縮図の中に生きているということだ。そのおかげで――
「構いませんが。いつか教授に言われても知りませんよ」
ベルの方も、こうして引き受けつつもひと言付け加える余裕ができた。高位貴族だからとベルの方がどこか距離を作っていたところもあったのかもしれない。彼は高圧的だが、それほど話が通じない相手ではない、とわかってきた。
(まあ、それが身分社会だし。調子に乗ってると思われたら社会的に抹殺される可能性あるもの)
「……言われた」
「あら、そうですか。ですがこれは私に任せたい、と……」
今日の授業で生徒に貸し出されていた資料だ。ガストン教授は、以前はクラスの代表的な立場で雑事をシグルドに頼んでいたようだが、近頃はわざとのような気がしている。彼がいつまでベルを小間使い扱いするのか、泳がされているのではないかとベルは推察しているが。既にひとことお小言はもらった後らしい。
「すまん、急いでいるんだ。生徒会に呼ばれていて」
「生徒会ですか?」
今回は本当に用があるらしい。しかし生徒会は主に三学年で構成されている。一学年が関わることは、ほぼないと思っていた。
「一学年でも、生徒会の補佐で声がかかることがあるんだ。その年の生徒会執行部と付き合いがある中で選ばれることが多いから、大抵は高位貴族になるが」
「そうなんですか」
「じゃあ、頼んだからな」
はい、引き受けました――と答える前に、彼はいつになく焦った様子で教室を出ていってしまった。
なんとなく、誇らしげに見えたのはベルの気のせい……ではなさそうだ。今年度の生徒会には未来の為政者とその側近候補、関係各所の要人候補が揃い踏みと聞く。その中に呼ばれて彼らの在任期間勤めあげたなら、将来を約束されたようなものだろう。
ちなみに副会長はもちろん未来の王太子妃レティシア・オースティン公爵令嬢だ。ベルは間違っても近づきたくないが、シグルドによれば執行部と付き合いのある者からという話だ。それはきっと、単純な知り合いだとかそういうものではなく、将来を見越して幼い頃から計画的に結ばれた人脈のことだ。
(一学年からも選ばれるって聞いてひやっとしたけど。それなら大丈夫そう)
「ベル、手伝うわ」
「ありがとう」
アンナとふたりで貸出資料を回収し、帰り支度をしてから図書室に向かった。
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