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case1.亜子の場合
08.亜子の旦那様◆
しおりを挟む欲しいモノは、必ず手に入れる。
梅雨明けのその日は“家族”で食事を取った。報告しなければならないことがあり、本邸に全員を集めたのだ。
「それで、お話しって?」
「うん。とうとう軍曹から苦言を呈されてね。妻をもう1人迎えようと思うんだ」
「わぁ、そうなの! やっとね!」
2人目の妻である小百合は声を弾ませて答えた。彼女は自分が最後の妻であることに常々不満を訴えていたから、今度の提案はようやくのものだったのだろう。2人しかいない妻の間で、最初も最後もないと思うのだが。
「もうお相手は決まっているの?」
「いいや、まだなんだ。僕に大した希望はないから、君たちの意見が聞きたいと思ってね」
「あら、ずいぶん薄情な旦那様ですこと」
「そうじゃない。僕は君たち2人でも充分満足している。だから、君たちと気の合う人がいいと思ってるんだよ」
1人目の妻、美和の言葉に反論しておく。高所得者限定区域のリナリアで生まれ育った彼女は自尊心が高く、自分が尊重されていなければ許せない性分だ。
もっとも、その自尊心をくすぐれば彼女はそれ以上の反論をしない。見た目よりも扱いやすい女性だった。
「仕方ない人ね、旦那様は」
「ねえ、それなら独身者名簿見せてよ」
「私も見たい! 私、見たことないもの」
第一子の蘭も話に入る。あと2人の子供はまだ幼く、もう1人母が増えるのだというとすんなり納得した。
そうして、僕の3人目の妻の品評会が執り行われた。
液晶タブレットを確認しながら、3人の女はああでもないこうでもないと口うるさい。画面をスワイプする指一本で、数多の女性が切られ、捨てられ、忘れ去られる。目に止まることなど、ほんの僅かだ。
「あ、この人、ちょっとかっこいい」
「わぁ、ホントだ。こういう子ってメイクすると映えるのよねえ……」
「ん? どれどれ……ちょっと若すぎない?」
蘭と小百合の声に液晶画面を覗いてみる。写真の女性は確かに端正な顔立ちで、すらりと細く背が高い。肌は少し日に焼けていて、綺麗な男の子だと言われても頷ける印象だ。そしてセーラー服を着ているということは、まだ学生なのだろう。
ごくりと喉が鳴る。
うら若くまだ固そうなこの娘が、僕の前でほどけてゆくところを想像した。……悪くない。
「私、こんなお姉さんが欲しかったの!」
「蘭。今はお姉さんじゃなくて、僕のお嫁さんを探してるんだよ」
「いいじゃない。ねえお母さん」
3人がまた話し始め、ようやく一人で画面を見られる。名簿の詳細を開くと、彼女の人格評価はfで高くも低くもない。教師や塾講師からの評価では、大人しく、一歩引いて物事を見る性格と書かれている。どこまで信頼性があるかは別として、そういう評価なら他者への攻撃性は低そうだ。2人の妻とも、仲良くやれるかもしれない。
「あら、気に入った?」
「さあどうだろう。でもやっぱり、僕には若すぎるんじゃないか?」
「良いじゃないその方が。変に歳を食っているより、若い子の方がやりやすいわ」
「そうよ! それにこの子、きっと可愛いわ。旦那様、どうかしら?」
「ねえ駄目? お父さん」
女というのは面白い。こちらが引けば押してくるし、1人の意見に深く考えもせず賛同する。
妻たちの言葉を受けて悩むフリをするが、答えはもう決まっていた。ただこうしておけば、常識に揺れながらも妻たちの意見に沿う夫が出来上がる。周囲を味方につけさえすれば希望は通る。たとえ意見せずとも。
「うーん……じゃあ、みんなが良いならそうしようか」
「やったー!」
「でも蘭。相手方に断られることもあるんだからね」
「まぁ、旦那様は心配性ね」
そしてその10日後、僕は彼女ーー亜子の署名入りの婚姻届を手に入れていた。
***
亜子は可愛らしい娘だった。
彼女は思ったより美しく、その割に自己評価が低かった。危ういくらいに素直で僕に従順で、まだ何も知らずにいる。固く閉じた蕾はしかし、開くことを待ちわびているようだった。
「ああ、とても綺麗になったね」
「旦那様も……すてきです」
僕は彼女を大切な宝物のように扱った。それは僕の妻になる人であれば必ずそうしただろうが、亜子の場合は殊更そうした。
慣れない待遇に戸惑いながらも喜ぶ亜子は、もう少しで僕の手に堕ちる。その過程がたまらなく愉しい。
キスをすれば頬を染め、酒に酔って饒舌になる。18歳の色香と無垢が絶妙なバランスで共存していて、それを守ってやりたいような、壊してやりたいような気分にさせられる。
彼女は周りから王子と揶揄され、不毛な青春を送っていたと言う。僕は彼女を揶揄した学生たちに心からの感謝の念を抱いていた。
亜子をひらかずにいてくれて、ありがとう、と。
まだ誰にも触れられたことのない薔薇の蕾から、花びらを1枚ずつ千切るように、僕は着実に亜子の心と身体を開いてゆく。
「小さいから……」
「そうだね。でも、大きければいいってものでもない。それに、亜子の乳首はすごくいいよ」
彼女の身体はまた格別で、男を悦ばせるよう誂えられた人形のようだった。たしかに胸は小さいが、乳首は丸い真珠のようで色も淡い。男に吸い付かせるためにあるようなものだ。
「ひっ、あっ」
「本当に、恋人はいなかったの? ここで誰かと遊んだことも? 怒らないから、言ってみて」
それに身体のそこかしこが性感帯で、初めてだというのが信じられないほどの反応だ。これで最初なら、今後は一体どうなるのか。愉しみがまたひとつ増えた。
彼女はその身体の価値を知らず、むしろコンプレックスに感じていた様だが、僕がそこを刺激し認めてやると余計に感じ入っていた。
亜子には片想いの相手がいたが、自尊心の低い彼女は話しかけることすら出来なかったらしい。その男に抱く感情は憧れに近く、現実の生々しさは無い。子供特有の淡い恋心など、すぐに忘れさせてやる。
「僕は亜子を縛る気はない。だからもし亜子に好きな人ができたり、離婚したいと思った時はそう伝えて。亜子、わかった?」
「……はい」
避妊薬を与え別の道を残したのは、良識ある夫という印象を亜子に刷り込ませるためだ。彼女の気持ちを第一に考えたように見せかけて、その実 僕を尊重するよう作り変えてゆく。
思惑どおり、亜子は僕の諦めたような言葉に涙を浮かべてみせた。彼女の中で僕の存在が大きくなっていることを確認してほくそ笑む。彼女は僕の腕の中で、そのはじめてを甘やかに散らしていった。
「どうして……どうして、私だったんですか?」
情事の後、彼女は何故自分が選ばれたのかを聞きたがった。適当な理由を並べたてて、彼女の心を満たしてやる。
確かに幼いころ水泳教室に通ってはいたが、僕はまあまあ泳げたし、先生は短髪の女だったというくらいにしか亜子と共通点はない。彼女の方がよっぽど綺麗で僕の好みだ。
でも彼女はその理由に安堵して僕の胸に身体を預けた。僕に気に入られたくていじらしい言葉を紡ぐ彼女に、あくまで理解のある夫を演じる。
「ここは自由なように見えて、不自由も多い。だから君は君のしたいことをすればいい」
これは本当の事だった。
リナリアでは全ての自由が手に入ると謳われているがそれはまやかしに過ぎない。実際のここは高所得者のみを厳格に優遇し、亜子のような一般市民は不自由を強いて閉じ籠める。
リナリアは高所得者のためだけに作られた、豪華な鳥籠でしかない。
だから僕は妻たちに甘い夢を与えてあげる。
ここが鳥籠だと気付いても、僕から離れられないよう妻たちを優先し、自由にさせるふりをする。そうしてまた1人、僕の手に堕ちた憐れな小鳥は懇願する。
「……もういっかい、して……」
「いいよ亜子、仰せのままに」
「っんあ、ああ……!」
つい先ほどまで処女だった亜子はもう僕に染まっていた。その心から片想いの男は消え、ひたすらに僕を待っている。身体はあまさず溶けていて、甘美な蜜を垂れ流している。艶やかに花開いた彼女はこれから、僕のためだけに生き、僕のもとで何度も散るのだ。
「亜子。もうこんなにしてるの?」
「んん、あ、だって……ッ!」
「ねえ亜子、何が欲しいの? ……ちゃんと言わなきゃ分からないよ」
そう、いずれ。
そう遠くない未来で、亜子はきっと、子どもが欲しくなる。薬を飲まなくなる日が、きっとくる。
「だんなさまが、ほしい……っ」
亜子はもう、僕の女だ。
明け方まで彼女を抱き続けながら、僕はそう確信していた。
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