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2.経理部、田中A子
その2、田中A子は右往左往②
しおりを挟む食後のカフェラテを二人で飲む頃には、彼女からの質問も尽きる。
「でも、後悔ないんですか? そんな相性いいひとと」
「いやー、もうお腹いっぱいというか、胃もたれするというか。それに相性いいって言うよりか、遊び慣れてるって感じだったよ、あれは。とても私の手には負えないわ」
「まぁA子先輩がいいなら何も言いませんけど。……でもよかった」
「え?」
「先輩が元気になって」
くそぅ、この! やられた!
可愛い可愛いかわいい!
こんなに可愛くて、キラキラしてて、おまけにモブにまで世話を焼いてくれる後輩に嘘をつく罪悪感が半端ない。いつか言えたらいいけど……定年退職後? 何十年かかるやら。いやそれより早織ちゃんが寿退社する方が早いか。
ギリギリまでカフェで話していたから、やや早足で会社へ戻る。多少遅くなっても残業すればいいんだけれど、なんとなく早く帰りたい、と感じた。部屋がきれいになったからって現金だなぁ……
「にしても、聞きしに勝るイケメンでしたね、新しい専務」
うう、きたな、その話。
自然に自然に、あくまで興味ない風に。実際、興味なんかこれっぽっちもないんだから。
「……うん、そうだねー」
「昨日から他の部署でも話題になってて。特に営業部とか秘書課の女子が張り切ってるみたいです。化粧室が占領されてました」
「あれ? 昨日から?」
「ああ、久遠専務、ほとんどの部署は昨日挨拶したみたいですよ。ウチは休みの社員がいたから、今日に回したとかで」
「あぁー……」
「マメですよねえ。さすが、あの歳で専務に抜擢されるだけはあるっていうか」
偶然……であれ。
挨拶が今日だったことも、あのとき視線が合ったことも、婚活パーティーで話しかけられたことも何もかも偶然であれ。
そして即座に誰かとくっついてくれ。営業部でも秘書課でも誰でもいいからくっついて、こんなモブとの一夜はなかったことにしてくれ。私はまだ辞めたくない。Uくんとの結婚がなくなった今、できれば定年までしがみつきたい。揉めごとはごめんだ。
「まぁ、親のコネもあるんでしょうけど」
「え……そうなの?」
「ですよー。久遠専務のお父さん、文科省の重鎮だってもっぱらのウワサですし」
「……ふーん」
「おつかれさまでーす。ただいま戻りましたー」
ああ、嫌だな。
何もかも知りたくなかった。
すべてあの時だけで完結したかった。
「田中さーん」
「はい」
「悪いんだけどさ、これ」
ああ神様、確かに私は善人じゃないけど。
「明日までにやっといてくんない?」
こんなの、あんまりじゃありません?
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