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2.経理部、田中A子
その3、田中A子は七転八倒①
しおりを挟むあのク○部長、いつか絶対○してやる。
何十枚とある決算未整理書類を前に、私は今年何度目かの呪いを部長へ飛ばしていた。明日まで。明日までって! あの野郎、月末までほったらかしにしてやがったな。
脳内発語が口汚くなる。まぁいいや、脳内だし。
早織ちゃんには「手伝いましょうか?」と聞かれたけど断った。急遽の仕事の場合、彼女の失敗率は4割にまで跳ね上がる。ちなみに普段なら2割ほど。ほんと使えねえ。ダメダメ、お口チャック。
そんなわけで、今日も今日とて残業だった。キーを打つ指がどこのドラマーだってくらいには荒ぶってる。このままヘドバンしてやろうか。だから駄目だって。誰かに見られたらどうするのよ。
そこでふと思い出した。
そういえば誰だったんだろう。大爆音で歌っていたあの日からすでに半月以上の月日が流れているけれど、なんの音沙汰もない。ということは、少なくとも経理部ではないのかな。営業部や企画部でめちゃくちゃ嗤われてたりして。うわ、ありそう。実は早織ちゃんも部長も知ってて何も言わないでいてくれてる? ああ死ねる。
ん?
……未整理書類はあとちょっと。やってしまおう。全部終わってから考えよう。止まった手を再び動かしても、もうさっきみたいな荒ぶる打鍵音ではなくなっていた。うーん、静かすぎる。
携帯電話を取り出してラジオアプリを……やめとこう。音楽アプリにして、クラシック・ソロピアノ集を選択した。これなら歌う必要なし。よしよし。
気持ちが落ち着くと、モヤモヤしていた思考がクリアーに整理されていく。音楽。エンボ。EmptyBOX。あれ? なんでつづりが分かるんだろう。あ、電車だ。うーんと、あれはいつごろ……
あ。
「そっか」
「どうしたのエンボちゃん」
「ひいっ!」
「っと危ね。すっ転ぶなよ」
なに?! つめたい!
こ、腰を、腰が掴まれてる。
体温が伝わって、目が合って、呼吸が近い! ぶわぁっと一斉に血が立ち昇ってくるのが分かった。多分きっと、この人にも。
「ぶふ、顔まっか」
「あ、あ、あの」
「とって食うわけじゃないんだから安心して。ってか、食われたの俺の方みたいだし?」
「っ!」
「はいコーヒー」
「あ、ありがとう、ございます……」
「いーえ、どういたしまして」
頬に当てられた冷たさはこれだったのか。冷えた微糖缶コーヒーを受け取って、プルタブを押し込んで開けて、飲む。もらい物を相手より先に頂くのは行儀が悪い気がしたけど、不可抗力だ。とにかく冷静になりたい。
ごっごっごっ。
勢いよく飲めば、ほの甘くて安っぽい、慣れた味が喉から胃まで通る感覚がした。ため息が出る。目の前の人は、それを、デスクに浅く腰かけて見守っていた。
顔があげられない。
「あの」
「ん?」
「……聞いてました? あの日、もしかして」
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