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3.彼らの関係
その15、お友だちとは適度な距離で①
しおりを挟む「いただきます」
「はい、どうぞ。メープルシロップいります?」
「ううん、まずはそのままで」
冬はこたつとして活躍するローテーブルは秋人さんにかなりミスマッチで面白い。たまに背中を丸めながら、でもナイフとフォークはきれいに使ってきれいに食べてる。
「うまい、これ、このままでもいいくらい」
「よかった」
「A子ちゃん、いいお嫁さんになるね」
「はいはい」
「……エンボちゃん?」
「はい」
「もう。慣れてよそろそろ」
「こればっかりは、どうも」
「まぁいいけど」
……今のは、それだけではないけど。
ごまかせたのなら丁度いい。それにしてもお嫁さん、だなんて、ちょっと酷くない? 顔がいいから全部許すけど。
「でもどうしてそんなに嫌なの? 自分の名前なのに」
……どこから話したものかな。
考えだすと夢の内容を否応なしに思い出してしまって、駄目だった。誰かで消化してしまいたい。だったら、目の前の人がいるじゃない。秘密を共有できる人が。
「……田中アジタートって知ってます?」
「あれでしょ? ボカロから進出してきた音楽プロデューサー。当然知ってるよ。それこそEmptyBOXのプロデュースもしてたよね?」
それは初耳。
「あれ、私の兄なんです」
高校生以降、誰にも言ったことのない話。
「知らなかった」
「入社したとき、秋人さん、もう海外でしたもんね。……実は私も、というか、私の方こそコネなんです」
「……そっか」
「黙っててすみません」
「言いづらいのわかるよ。それで?」
この人のこういうところ。
間合いを読んで、無駄に言ったり聞かないところに、いつも救われてる。
「兄って昔から音楽に関してはよくできて。小さな頃から神童だって言われてたんです」
「うん」
「それで、昔、友だちに『お兄ちゃんはすごいけど、映子ちゃんは普通だね。ABCのA子だね』って言われて。……そこから何となく、自分はABCのA子なんだって、思うようになっちゃったんですよね。いわゆる特別じゃない、どこにでもいそうなA子だって」
「……うん」
あ、しまった。妙なトーンにしてしまったかも。
暗い話にするつもりではなかったのに。どうしよう、重い女だとか思われてしまったら、嫌だな。
「あっ、その、もう全然つらいとか、そういうのはないんですよ! 兄とは作曲の手伝いするくらい仲がいいし、両親にも愛されて育っ……」
「エンボちゃん」
あわてて弁明する私を遮って、秋人さんがその長い両腕を大きく広げた。首を少し傾げて、
「おいで?」
……吸い寄せられてしまう。
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