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3.彼らの関係
その16、お友だちとは適度な距離で②
しおりを挟む四つ這いで寄っていって、ばふ、と彼の方に顔を預けると、ぎゅうっと抱きしめられる。ぬくもりとかすかな男の人の匂い。強い方のハグ。さっきの台所みたいなのより、やっぱり、こっちが好きだなぁ。
「ほんとにそんな、つらいとかじゃないんですよ?」
「うん。でもさあ」
腕の力がわずかに緩んで、額同士がくっつく。
見えているような、かすんでいるような。この視界なら彼の目も直視できる。
「俺には特別だよ」
「もう、そんな……」
「本当だって。俺にとって、映子ちゃんは特別」
「……ありがとうございます」
キスされる。
舌を絡める。
甘い。胸がいっぱいになる。
さっきまでの話がどこかにとんでいって、秋人さんのことしか、彼の味しか、わからなくなる。
「……ふ、ぅ……」
「……すきだよ、映子」
「ん、わたしも、すき……」
「それに、きれいな名前だよ、映子。映える子って書いて映子」
「映す、じゃなくって?」
「映える、だよ」
映える。
考えたこともなかった。そう思うと、すごくきれいな名前。
「なんだか、ちょっと、名前負けですね」
「なに言ってんの。ぴったりだよ」
「……うれしい、です」
「ん」
本当に嬉しかった。
泣きそうになるくらい。
ああ、依存してる。こんなの、離れるとき絶対つらい。いっぱい泣いちゃうんだろうな。それこそ、今度こそ立ち直れないくらいに。
でもいいや。
しあわせだし。
「……本当はここで押し倒して、いっぱいシたいとこだけど」
「もう時間ですね」
「あーくそ。ねえ、ほんとに休まない?」
「休みません! ほら、食べちゃってください」
「残念」
そうしてふたりでニュースを見ながら朝食を食べて、コーヒーを飲んで、未練がましく時間ギリギリまでうちにいて、でもとうとう帰ることになった。
「じゃ、エンボちゃん。また土日に。何かあったらいつでも連絡して?」
「なにか?」
「……体調とか、もろもろ」
珍しいことを言われて首をかしげたけど、すぐ思い至った。なるほど、Uくんのことを言っているんだろう。秋人さんが心配するほどの事だったのに、今の今まですっかり忘れていたなんて、女って怖い。
「はい、ありがとうございます」
「俺からも連絡するね」
「わかりました」
玄関先、スニーカーを履いた足をトントンと鳴らして、視線が合う。唇が……落ちてくる。頭を上げて、すこし背伸びして、受け入れる。
「エッチのときは、映子ちゃんって呼ばせてね?」
「……はい」
「いや?」
「うう……呼んでほしい、です」
恥ずかしくて下を向こうとした私の、顎をひょいと上げられて、またキスをする。ああ、消えてしまいたい。でも嬉しい。
「ん。じゃあ、また」
満足げな笑みを見て、エレベーターホールに向かう背中を見送って扉を閉めた。部屋を見返せば、まだ秋人さんの気配がそこかしこに残っている。
「あ……」
ナマでしたから、当然、私の中にも。
……アフターピルって、何時間以内が有効なんだろう……?
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