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3.彼らの関係
その17、お友だちとはさようなら。①
しおりを挟む下着を変えて、
服を着替えて、
家を出て、
満員電車に乗りながら(婦人科クリニックの予約をして)出勤。
いつもの日常、モブの世界に帰ってきた(一部仕様と異なる点あり)。
50階建ての総合商社ビル入口をIDカードで抜けて、タイムカードを切る。8時42分。余裕の出社。
音楽・動画配信サービスを中心に運営、展開する株式会社サイクル・ミュージック 経理部の田中A子、26歳、独身。さしたる趣味なし、特技なし、恋人なしのモブ女。そうそう、これがいつもの私。
おかえり私。ただいま私。
誰の目も自分に向いていないこの空間は味気ないけど安心もする。実家に戻ったような……いやいや、会社が実家とか最悪すぎる。どこのブラックだ。前言撤回。
高層階用エレベーターを使ってぐーんと上まであがって、40階から43階が我が社のフロアになる。秋人さんじゃないけど、たしかに地震が怖くなる高さ。なかでも経理部は43階に位置しているから、エレベーターが使えなくなれば死活問題だ。そして43階には専務室がある……つまりは、秋人さんの部屋が。
ああ、いやだなぁ私、馬鹿みたいにソワソワしてる。エレベーターの中でも、フロアに着いてからも秋人さんを目で探してた。いるならいるで緊張するくせに、ロッカールームに到着して出たのがため息だなんて、笑えない。恋する高校生か私は。
制服に着替えていると後ろに気配。
「せんぱい……おはようございます……」
「ああ早織ちゃん、おはよ……って」
「なんだかごきげんですね……」
「……早織ちゃんは、ご機嫌ななめだね、どうしたの、その、目」
「うう……ッ」
真っ赤になった目を細め、下まぶたにうるうると涙が溜まってくる。そんな姿ですら綺麗で、ついつい見惚れてしまいそうになるけど、我にかえって問いかけた。
「彼氏とケンカでもした?」
「……はい」
やっぱり。
「ランチ一緒に食べよ。早めに出てさ」
「すみませんんん……」
「いいからいいから。ほら、仕事できる?」
「ウィ……」
フランス人か。
こくこくと頷く早織ちゃん、実は、こういう状態はさほど珍しくない。半年から一年に一回くらいの頻度でこうなっているので、私はもちろん、経理部の大半はもう慣れている。
恋多き女と見られがちな早織ちゃんだけれど、私が知る限りはずっと同じ人と付き合っている。それこそ、おフランスの、濃い顔イケメン人。見た目としてはもうLEDかってくらい眩しくてお似合いなんだけど、このふたり、たまに大喧嘩をする。
大半はあきれるような事情が多い。食べ物の好き嫌いや、記念日のプレゼント問題、果てには子猫大論争など。それでも長く付き合っているのだから、これはこれで、相性がいいってことかもしれない。
「おはようございまーす」
「……はようございまー……」
「ああ、おおつ……大塚さん」
早織ちゃんを呼びかけた部長が一瞬止まる。慣れているとはいえ、やっぱりこうも元気がないと驚くし、心配もされる。主人公格の彼女はそれだけ周囲に影響力があった。私とは全然ちがって。
「はい」
「ちょっといいかな。あ、田中さん、今日の朝会、ちょっと二人とも出られないかもだから、進行お願いしていい?」
「わかりました」
そうして部長と早織ちゃんは経理部の会議室へ入って、部長の言ったとおり朝会には出てこなかった。早織ちゃんは仕事途中で戻ってきたけれど、私はそのとき色々と立て込んでいて、結局お昼まで、早織ちゃんと話をする余裕はなかった。
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