冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 翌朝、リリアナは痛む足首を冷やしながら、舞踏会の出来事を思い返していた。捻挫は軽いもので済んだが、あのときの男爵の表情がどうにも気になって仕方がない。

「お嬢様、今朝はお早いですね」

 侍女が入室してきて、朝食の準備を整える。

「ええ、少し昨夜のことを考えていて…」

 リリアナが軽くスープに口をつけたとき、控えていた侍女が小さな手紙を差し出した。

「これは、どなたから?」

 封を切ると、そこには控えめな筆跡で書かれた言葉が並ぶ。どうやら父であるハロルド公爵宛のものらしいが、宛先にリリアナの名も見える。内容は“グレイヴ男爵の人となりについて”――噂通り冷酷なのか、それとも誤解なのか。まるで確認を取ろうとしているような文章だ。

「……噂なんて、所詮は噂かもしれない。私自身の目で見ないと」

 彼の救いの手は確かに温かかったし、あの時の表情にはわずかながら戸惑いがあった。万が一、周囲の評判がすべて誤解だとしたら?

「お嬢様、お手紙の差出人はどなたでしょう?」

「父が知り合いの伯爵からのものね。でも、これを読むと、私の縁談まで心配されているみたい。正直、関係ないわ」

 そう言いつつも、グレイヴ男爵の話題はそこかしこで囁かれるほど大きな問題になっているらしい。今までも婚約の話が出れば、相手方が「無慈悲の男爵なんて」と顔をしかめ、破談になったという噂も耳にした。

「リリアナお嬢様、あまり気にされないほうがいいですよ」

「わかってる。でも、ちょっとだけ気になるの。あの方は本当はどんな人なんだろう」

 そう呟いたところへ、父のハロルド公爵が部屋を訪れる。

「リリアナ、足の具合はどうだ」

「大丈夫ですわ。少しひねっただけでした」

 公爵はほっと胸を撫で下ろした後、少し表情を曇らせる。

「昨夜はグレイヴ男爵に会ったそうだな。評判は悪いが、何か感じたことは?」

「……確かに冷たそうでしたけど、私が転びかけたときに助けてくださいました。あの手は優しかった気がします」

 ハロルドは意外そうな顔をして、髭をさすりながら考え込む。

「なるほど…。噂というのは過大評価されるものだ。実際に話してみる価値はあるかもしれんな」

 リリアナはそれを聞いて一瞬、はっとする。

「父様、もし機会があれば、グレイヴ様に直接お目にかかってみたいです。私、やっぱり気になるんです」

「いいだろう。こちらから改めて声をかけてみよう」

 リリアナの胸には、妙な高揚感と少しの不安が同時に芽生えた。父が動いてくれるなら、近いうちにあの男爵と再び言葉を交わす日が来るかもしれない。

「本当に、無慈悲なだけの人なのか…」

 深まる疑念と好奇心。美味しさを感じない朝食を終えて、リリアナは空になったスープ碗を見つめる。彼のスープなら、もっと心が温まりそうな気がしてならなかった。
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