冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 リリアナの誕生日が数日後に迫った。公爵家でも準備が進み、久しぶりに華やかなパーティを開こうという話が持ち上がっている。しかしリリアナは浮かない顔をしていた。

「どうした、リリアナ。せっかくの誕生日だぞ」

 ハロルド公爵が不思議そうに声をかける。リリアナは苦笑いしながら答える。

「華やかなのはいいんですけど、なんだか物足りなくて」

「そうか。何なら招待客を厳選するか。無駄に大勢を呼ばなくてもいいぞ」

「それも考えます。あと、グレイヴ男爵には来てほしいと思ってるんです」

「もちろん招待状を出そう。あの男爵が来るかどうかは分からんが」

 リリアナは「きっと来てくれる」と微笑むが、実は内心ドキドキしている。パーティの場が苦手なグレイヴが、わざわざ祝ってくれるだろうか。

 同じころ、男爵邸ではグレイヴがセバスチャンから一通の手紙を受け取っていた。内容はリリアナの誕生日パーティへの招待状だ。見慣れた公爵家の封蝋に、グレイヴはしばし沈黙する。

「……どうされますか、旦那様」

「出席する。……準備をしてくれ」

 セバスチャンは少し驚いた顔を見せる。いつもなら社交的な場を敬遠しそうなのに、今回は迷いのない返事だったからだ。

「かしこまりました。服装や贈り物の手配を」

「贈り物は自分で用意する」

「かしこまりました。それでは、他の手配は私にお任せを」

 グレイヴは手紙を静かに畳み、机の引き出しにしまい込む。その瞳には何かを決意したような光が宿っていた。

 その夜、男爵は厨房で静かに材料を並べ始める。粉、バター、砂糖、そして卵――いずれも吟味された上質な品。オーブンの温度を確かめながら、小さく呟く。

「誕生日、か」

 彼の手付きはいつになく丁寧で、かつ慎重だ。セバスチャンは遠目に見守りながら、いつもの何倍も時間をかけて計量する姿に、胸が温かくなるのを感じた。

「旦那様、これはケーキの生地でしょうか」

「余計な口を挟むな」

「申し訳ございません。ただ、珍しく真夜中に作られるものですから」

 グレイヴは返事をしないまま、生地をかき混ぜることに集中する。その表情にはどこか心配と期待が入り交じった複雑さが浮かんでいた。

「……リリアナが喜ぶ味にしなければ意味がない」

 ごく小さな声で呟かれた言葉。セバスチャンは聞こえなかったふりをし、そっと背を向けて出ていく。

 こうして秘密裏に特別な料理やケーキの試作が始まった。リリアナのために、彼女が今まで味わったことのないような甘く優しい味を。そしてグレイヴ自身も、それを通じて彼女への想いを伝えられるのではないか――そんな淡い期待を胸に、男爵は夜が更けるまで厨房に立ち続けた。

 誕生日当日が近づくにつれ、彼の内面は静かに揺れ動いている。リリアナへの感謝、そして何より愛おしさ。その感情を形にするための準備は、まだ始まったばかりだった。 
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