冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 リリアナはグレイヴを父のもとへ案内する。ハロルド公爵は男爵の来訪を歓迎しつつも、彼が苦手な社交の場に負担を感じていないかを気に掛ける。

「男爵殿、ようこそ。賑やかすぎませんかな」

「問題ありません。お招きに感謝します」

「リリアナが喜ぶでしょうな。どうぞ、ゆっくりしていってください」

 グレイヴは最低限の言葉で礼を伝え、軽く頭を下げる。公爵もまた納得した様子で微笑むと、パーティの進行へ戻っていった。するとリリアナはグレイヴに寄り添い、小さな声で話しかける。

「ありがとうございます。本当に来てくれて……どこか、ご気分が悪くなったらすぐに教えてくださいね」

「別に。これくらい構わない」

「それならいいんです。あの、実は……後で少しだけお時間いただけませんか。お話したいことが」

 グレイヴはリリアナの瞳を一瞬だけ覗き込む。何か企みがあるのかと問うようにも見えるが、深く詮索はせず、短く返事をした。

「わかった」

 その時、会場が一段と賑わいを見せ始める。誰かが「グレイヴ男爵が遅れてきた」と告げ口し、周囲の女性たちも遠巻きに興味津々だ。そんな視線を意に介さず、男爵は控えめにリリアナと過ごしている。

 そこへ、先ほども現れたメルヴィル伯爵が近づいてきた。表面的には慇懃な笑みを浮かべているが、その目には挑発的な光が宿っている。

「これはこれは、グレイヴ男爵。お会いできて光栄です。リリアナ様とはかなり親しくされていると聞きましたが、何か特別なお話でも」

「……」

 グレイヴは回答する気配を見せず、淡々と視線を逸らす。その態度に伯爵は薄く笑う。

「なるほど。まあよろしい。お二人の仲が深まることを祈っておりますよ。もっとも、貴族同士とはいえ、変な噂が広がると良くないですからね」

「変な噂とは」

 リリアナが思わず問い返すと、伯爵は肩をすくめる。

「いや、私が耳にした話では、男爵があれこれ裏工作をしているとか、破談続きの縁談を無理やり引き寄せようとしているとか。おや、すみませんな。噂話なんて根拠もないものでしょうが」

 言葉尻は丁寧だが、明らかな嫌味。リリアナは怒りを覚えるが、グレイヴは微動だにしない。まるで相手にする価値がないと無視しているようだ。

「……」

 伯爵はその無視ぶりに苛立ちを感じたのか、目を細めて言い残す。

「では、私はこれで失礼します。後ほどまた」

 引き際も不穏な雰囲気を残し、伯爵は去っていく。リリアナはグレイヴの腕にそっと触れて声をかける。

「男爵様、気にしないでください。あの方はいつもああいう言い方なんです」

「平気だ。言わせておけ」

 まるで取り合う必要がないというように、グレイヴはどこまでも冷静だ。だが、リリアナは伯爵が後で何か仕掛けてくるのではないかと胸騒ぎを覚える。

 少し経ち、パーティの余興が一段落したところで、ようやくリリアナはグレイヴを庭園へと誘った。人目を避け、ゆっくり話ができる静かな場所を求めて。月明かりに照らされる夜の庭は美しく、彼女の誕生日を祝うかのように優しい光を放っていた。 
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