冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 月の光を浴びる庭園には、季節の花が咲き誇っている。遠くから聴こえる音楽の名残がかすかに耳に届く中、リリアナはグレイヴと二人で歩みを進める。

「男爵様、改めて……今日は来てくださってありがとうございます」

「礼を言われるほどのことではない」

「でも、私にとってはとても特別なんです。あなたがここにいてくれるだけで嬉しい」

 リリアナの言葉に、グレイヴは微かにまぶたを伏せる。ほんの一瞬、彼の表情が柔らかくなったように見えたが、またすぐに元の無表情に戻る。

「それで、何の話をしたいと」

「あの……」

 リリアナは少し戸惑いながら、言葉を探す。彼女の誕生日を祝う大事な夜。気持ちをまっすぐ伝えたいのに、どう切り出せばいいのかわからない。

「私、あなたに……その……」

「言いたいことがあるならはっきり言え」

「わかりました。私、あなたが好きです」

 一瞬、夜風が吹き抜ける。グレイヴは軽く息を呑んだように見えたが、やがてごく小さな声で問いかけた。

「なぜ、こんな俺を」

「理由なんて、たくさんあります。優しくて、料理が上手で、何より私のことをいつも気遣ってくれるから。それに……あなたの孤独を少しでも埋めたいんです」

 言葉に詰まりそうになるが、それでもリリアナは勇気を振り絞る。グレイヴは黙って彼女を見つめ、苦しげに眉を寄せる。

「俺は何も返せないかもしれない」

「そんなことないです。あなたの存在が、私には何よりの支えなんです」

「……」

 途切れた沈黙。月光に照らされたグレイヴの横顔は、どこか影を帯びている。リリアナは胸をドキドキさせながら、せめて少しでも近づきたいと願い、彼の腕に触れようとする。

 しかし、その瞬間。遠くから誰かが駆けてくる足音が聞こえ、庭園の入り口に使用人の姿が現れる。

「リリアナ様、大変です。お客様の中で騒動が起きておりまして……」

「え、騒動?」

「ええ、メルヴィル伯爵が何やらグレイヴ男爵のことで騒いでいるのです。さっき用意されていたケーキに関して、男爵が怪しい手を加えたんじゃないかと……」

「そんな……」

 リリアナは息を飲む。まさか、伯爵がパーティを混乱に陥れるつもりなのか。グレイヴは無言のまま、しかし険しい表情でその報を聞いている。

「行きましょう。私たちがきちんと説明しないと」

「……ああ」

 こうして二人は急ぎ足で庭園を抜け、館のホールへと戻っていく。リリアナの心には嫌な予感が渦巻いていた。せっかくグレイヴと特別な時間を過ごそうとしていたのに、メルヴィル伯爵が何か仕掛けてきたのなら、誹謗中傷では済まないかもしれない。

「男爵様、私を信じてください。必ず誤解を解きます」

 リリアナの決意に、グレイヴは静かに目を閉じて頷く。  
 夜の宴が思わぬ形で波乱を迎えようとしていた。 
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