冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

文字の大きさ
24 / 49

24

しおりを挟む
 大広間に戻ると、客たちがざわめいている。その中心にはメルヴィル伯爵が立ち、鋭い声を張り上げていた。

「これはどういうことだ。男爵が用意したと言われるケーキがあるそうだが、毒の可能性があるんじゃないか」

「伯爵様、それはいったいどういう根拠が」

「根拠? 最近、男爵が怪しげな材料を集めているという噂を耳にした。しかも自分一人でこそこそと台所を使っていたとか!」

 人々は困惑しつつも、不安が増幅されていく。リリアナは息を呑み、グレイヴの表情を伺う。男爵の顔は相変わらず感情を表に出さないが、わずかに険しさがうかがえる。

「伯爵、これは私の誕生日を祝うために男爵様が心を込めて作ってくださったケーキです。毒なんて入っているはずがありません」

「いや、わからんぞ。あの男爵は何を考えているか知れたものじゃない。無慈悲だなんて噂もあるしな」

「どうしてそんなことを言うんですか」

 リリアナは懸命に声を張り上げる。しかし伯爵はあくまでも煽るような態度を崩さない。

「まさか、あなたが男爵に言いくるめられているだけじゃないのか。あれほど破談続きだった男爵と親しくするなんて、利用されている可能性もある」

「違います。私は……」

「とにかく、そのケーキを皆が口にするなら証明しろ。毒が入っていないのなら、何の問題もないはずだ」

 伯爵は高圧的に言い放ち、一部の客たちも不安を抱えて後押しする。

「確かに、何かあったら大変だ」
「でも、男爵が毒を使うなんて……」

 ハロルド公爵が冷静さを取り戻すように呼びかける。

「皆の者、落ち着いてくれ。毒など本気で信じるのか」

「ただの疑いかもしれませんが、証拠がない以上、安全と言い切れませんぞ」

「ならば……」

 その場に踏み出したのはグレイヴ自身だった。彼はホール中央へ進み、ケーキのそばに立つと、鋭い眼差しで伯爵を見返す。

「俺が先に食べればいいということだな」

「何ですって?」

「毒が入っていないと証明するには、それしかないんだろう」

 言うや否や、グレイヴはナイフを手に取り、ケーキを切り分ける。その一切れを自分の皿へ移し、迷いなく口に運んだ。

「男爵様……」

 リリアナが驚きと心配で声を震わせる。だが、グレイヴは涼しげに飲み込むと、何事もない様子で伯爵を睨む。

「どうだ。俺が倒れたか」

「いや、しかし……」

 伯爵が言葉に詰まったその時、リリアナは意を決してケーキを一口すくい、自らも口にした。

「私も食べます。これはとても美味しいです」

 周囲が息を呑む。まったく動揺しないリリアナの様子に、少しずつ人々の疑念が和らぎ始める。

「どうやら、毒など入っていないようだな」

 ハロルド公爵がまとめるように言うと、他の客もようやく安心し、次第に「そうか」「せっかくのケーキを疑って悪かった」という声が上がりはじめる。メルヴィル伯爵は居心地悪そうに唇を曲げ、グレイヴに食ってかかる。

「しかし、だからといって男爵の素性が潔白とまでは言えないのでは」

「お前が疑いたいなら勝手に疑え。俺は構わない」

 グレイヴは淡々と返すが、その言葉の裏には確固たる自信が感じられる。リリアナは胸の奥で安堵しながらも、この波乱がこれで終わるのか不安を拭いきれなかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...