冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

文字の大きさ
25 / 49

25

しおりを挟む
 毒混入疑惑が一旦収まると、会場内はぎこちない雰囲気ながらも、なんとかパーティの体裁を取り戻し始める。何人かの貴族がケーキを口にし、その味に舌鼓を打ったところでようやく騒動が沈静化していった。

「これは本当に美味しい。ここまで繊細な甘さはなかなかないぞ」
「確かに、先ほどの騒ぎが嘘のようだわ」

 人々の賞賛の声が大きくなるにつれ、メルヴィル伯爵の居心地はさらに悪くなる。リリアナはそんな様子を見ながらも、ほっと胸を撫で下ろした。

「よかった……男爵様のケーキが無事に認められて」

 傍らにいるグレイヴは相変わらず無表情だが、リリアナには少しホッとしているようにも見えた。だが、メルヴィル伯爵は諦める様子を微塵も見せず、ふいに冷たい声を響かせる。

「なるほど、ケーキの毒はないと。ならば私からはもう一つ、男爵殿に問いたいことがある」

「まだ何か」

 グレイヴが軽く眉をひそめると、伯爵は嘲るように口元を歪める。

「領地の商売が怪しい噂を呼んでいるようだ。高額の商品を無理に売りつけているのではないか、などと。事実がどうあれ、こんなに冷酷な男爵を疑う声があるのは仕方ないことだろう」

「それは私が伺っている話と違うわ。男爵様の領地は人々から慕われているはず」

 リリアナが声を上げても、伯爵は聞く耳を持たない。

「ふん、領民たちは怖がって言えないだけかもしれませんぞ。確たる証拠がなければ、いつまで経っても男爵の疑惑は拭えん」

 その場が再び不穏な空気に包まれたとき、ハロルド公爵が前に進み出る。

「伯爵、そのあたりの話はパーティの場にふさわしくない。後日、公的な場で改めて検証すればいいだろう」

「しかし、公爵……」

「そもそも、勝手な噂を持ち込むあなたの態度こそが問題だ。これ以上この場を混乱させるなら、私の客として許容しかねる」

 ハロルドの眼差しは厳しく、伯爵も反論しづらい状況へ追い込まれる。しばし沈黙が続き、やがて伯爵は「フン」と鼻を鳴らし、やむなく引き下がった。

「ここはリリアナ様の誕生日でしたね。私としても、このめでたい席を乱すつもりはない。失礼する」

 そう言い残し、踵を返す伯爵。リリアナとグレイヴは視線を交わし、胸のざわめきがようやく落ち着いたことを感じる。

「……男爵様、すみません。私のパーティなのに、変な騒ぎが起きてしまって」

「気にするな。俺に責任があるわけではない」

「でも、あなたを傷つけようとする言葉があって、私は……」

 リリアナが続けようとする言葉を、グレイヴは軽く首を振って制する。

「こういうことは慣れている。むしろ、騒ぎに巻き込んでしまったのは俺のほうかもしれない」

「そんなことないです。あなたの作ったケーキ、みんな絶賛していました。私も本当に嬉しかった」

 リリアナの瞳は潤み、グレイヴが与えてくれた特別な贈り物への感動が溢れている。男爵も目を伏せながら、低い声で言葉を選ぶように話す。

「お前が喜んでくれたなら、それでいい」

「はい。最高の誕生日です」

 そう微笑み合う二人の周囲には、温かな空気が広がっていた。やがてパーティは続行され、客たちは再び和やかな雰囲気に包まれていく。  
 小さな波乱はあったが、グレイヴの誠意はしっかりとリリアナの心に届いていた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...