冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 パーティの翌日。大きな騒ぎこそ収まったものの、リリアナはメルヴィル伯爵が投げかけた言葉を思い出していた。  
 グレイヴ男爵の領地運営に関して“怪しい噂がある”と言っていたが、本当に何か裏があるのだろうか。彼を信じているが、もし誤解を解かないと、今後も同じような中傷が続くかもしれない。

「何かできることはないかしら」

 リリアナは書斎にこもり、いくつかの地図や資料を取り寄せて眺めていた。するとハロルド公爵が顔を出す。

「お前、最近勉強熱心だな。男爵の領地のことを調べているのか」

「はい。男爵様は道の整備をこまめにされてると聞いて、地形や交通網も気になってきたんです」

 ハロルドは娘の健気な様子に、少し微笑みながら言葉を継ぐ。

「確かに男爵領は小さいが、ここ数年で大幅に改修が進んでいると耳にする。税収をどうやってやり繰りしているのか、周囲が疑問を持つのも無理はないのかもしれん」

「でも、男爵様は無理な取り立てはしていないと言っています。オズワルド様も、きっぱりそれを否定していました」

「そうか。ならばなおのこと、証拠を示す必要があるだろうな。幸い私には宮廷にも顔が利く。調査をするなら協力するぞ」

「本当ですか、父様」

 リリアナの目が輝く。ハロルドも頷き、彼女に温かな視線を向ける。

「グレイヴ男爵に直接聞いてみるのが一番だが、彼はあまり他人を頼る性格ではないだろう。ならば私たちが動きやすい形で証拠を集め、誤解を解いてやればいい」

「はい、ぜひそうしたいです。男爵様が理不尽な噂で苦しんでいるのを見ていられません」

「よし。では早速、私の知人にも当たってみるか。公的な文書があれば、あのメルヴィル伯爵を黙らせることも可能だろう」

 ハロルドの言葉にリリアナは心強さを覚える。二人で力を合わせれば、グレイヴの名誉を守る道筋を作れるかもしれない。

 一方その頃、男爵邸ではグレイヴが自室で書類を整理していた。彼はメルヴィル伯爵が更に手を打ってくると予想しており、対抗策を考えている様子だ。セバスチャンが心配そうに声をかける。

「旦那様、ご様子が優れないようですが、お疲れではありませんか」

「いや。少し考え事をしているだけだ」

「メルヴィル伯爵は、公的機関に訴える可能性もあります。領地の財政記録をしっかりまとめておかれるとよろしいのでは」

「すでに準備はしている。だが、奴の狙いは数字の不備や税収の不正ではなく、俺の評判を落とすことだろう」

「確かに。奴はリリアナ様とのご関係を快く思っていないのだと思われます」

 グレイヴは少し苦い表情を浮かべ、書類を机に置いた。

「リリアナを巻き込みたくはないが……彼女も公爵家も一歩も引かないだろう。俺ができるのは、これ以上余計な被害が及ばぬようにすることだけだ」

「旦那様」

「どうあれ、動じるわけにはいかない。何があっても最後まで耐えてみせる」

 その声には不屈の意志が宿っていた。しかし、その奥底には“再び大事な人を失うのでは”という恐れも隠れている。  
 こうして、リリアナとハロルド公爵の調査、そしてグレイヴの準備が同時に進行し始める。次なる嵐に備えるように、それぞれが静かに動き出していた。 
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