冷酷な男爵は家事で惚れさせる!?~その無慈悲さ、料理でほどける~

花霞つばき

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 メルヴィル伯爵が裏でどんな手を打ってくるかはわからないが、リリアナたちは着実にグレイヴの潔白を証明する準備を進めていた。  
 そんな中、リリアナは自分にできることを模索し、思い切って男爵領を訪ねてみたいと考える。彼が本当に領民とどう関わっているのか、この目で確かめるために。

「男爵様、突然のお願いなのですが、領地を見学させてもらえませんか」

 リリアナは男爵邸を訪れ、グレイヴの前で頭を下げる。すると彼はわずかに首を傾げた。

「……何のために」

「あなたが領民を思っているところを、私自身が確かめたいからです。噂がどうこうではなく、あなたの実際の領地を見たい」

「わざわざ行く必要はない。危険かもしれないぞ」

「平気です。私、父にも相談してきました。馬車の護衛もつけます」

 グレイヴは深くため息をつく。彼の本心は、リリアナが変なトラブルに巻き込まれるのを避けたいのだろう。だが、その頑なさにリリアナは一歩も引かない。

「私、後ろ指を指されるのは嫌なんです。あなたのことを正しく知りたい、そして周りの人にも知ってほしい」

「……わかった」

「本当ですか」

「案内するから、勝手に行動するな」

 ようやく彼の口から承諾が得られ、リリアナの胸は弾む。彼女は笑顔で頭を下げ、グレイヴは仕方なさそうに目を伏せた。

「明朝出発しよう。道は整備されているが、あまり快適ではないかもしれない」

「全然大丈夫です。ありがとうございます」

 こうして、リリアナは翌朝にグレイヴと共に男爵領を訪れることとなった。  
 朝早くに馬車を走らせ、都から少し離れた田園風景へと入る頃には、リリアナの胸は高揚感でいっぱいだった。到着した領地はこぢんまりとしているが、村の人々が生き生きと暮らしている様子が窺える。

「ここが俺の領地だ。大したものはない」

「いいえ、とても整っていて過ごしやすそうです。道路も綺麗に舗装されてますね」

「少し前にやった改修だ。やはり費用はかかったが、馬車の通行がスムーズになった」

 リリアナが道端で立ち止まっていると、通りかかった村人がグレイヴに声をかける。

「男爵様、お戻りでしたか。いつもありがとうございます。畑の柵を直していただいて助かりましたよ」

「問題なかったか」

「ええ、おかげで作物が荒らされずに済んでいます」

 にこやかに話しかける村人の様子に、リリアナは驚くと同時に感動を覚える。男爵を怖がるどころか、心から感謝し、親しみを持っているように見えた。

「ほら、こんな感じだ。俺はやるべきことをやっているだけだ」

「すごい。皆さん、とてもあなたを慕っているんですね」

「慕っているかは知らない。ただ、余計な負担を強いた覚えはない」

 グレイヴは相変わらずの無表情だが、領民が彼を信頼しているのは明らかだ。リリアナは村人と話を交わしながら、グレイヴの評判を確かめる。どの人も「男爵様は厳しいけれど優しい」「昔から本当に世話になっている」と口を揃える。

「これで噂が嘘だって証明できそう」

 リリアナが嬉しそうに呟くと、グレイヴはやや照れたように視線を外す。

「お前の狙いはそれか」

「そうですよ。私はあなたが誤解されないようにしたいだけ」

「……勝手なやつだ」

 その言葉にはどこかくすぐったい感情が混じっているようで、リリアナの頬も自然と緩む。二人は馬車を降り、しばらく村の中心部や新しく建築された施設を巡っていく。そのたびに村人が出迎え、グレイヴに礼を述べる光景が広がった。

 こうして、リリアナは自らの目で彼の“本当の領地”を見て回る。そこには決して“無慈悲”などではない、現実の優しさと努力がはっきりと存在していた。 
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