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プロローグ
彼女との思い出、文化祭実行委員会議にて
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放課後の校門前、花が散りただの背景と成り下がった桜の下でしばし物思いに耽る。自分の目標とか意義だとか。彼女の目的とかその意図だとか。
家族に半ば強制的に入れられた高校で、なるたけ人と関わらないでいこうとしていた道筋は少し横路に逸れてしまった。
今日の今日、高校二年のこの素晴らしき春日和に話し掛けられるまで、彼女との面識はほとんど無かった。
一年の頃自分のクラスですら余り交流のなかった俺が他クラスにいた彼女を知っているはずもなく、そんな道理もない。しかし、思い返してみれば一度だけ話をしたことがあった。
確かあれは文化祭の準備期間の時の話だ。
俺は運営はおろかクラスの中ですら何の役割も振られないという偉業を成し遂げ、その日も伏目がちに教室を出ようとしていた。
その時、クラスメイト以上知り合い未満の女子に話し掛けられた。文化祭の実行委員をやっている、俺がその時点の彼女について知っているマトモな情報はそれだけで、話の内容もそれに関してだった。
明日部活の公式試合があり今日は部活に出たいから実行委員の会議に代理で出てほしい、何故か五分も要した彼女の話の内容は要約するとそれだけ。
いやだ、何で俺が。一も二もなく俺はそう言い、次の日学校に来てみると何の役にもたたないクズとして一躍時の人に。想像に難くない。
結局、俺は一も二も挟む余地なく首肯していた。
それから確か代行で行ったのだが、そんな良い思い出じゃないし詳しい記憶は残っていない。
行って、そこに「彼女」が居た。何を聞かれたか何を話したか、そんなものは会議の記憶と一緒に忘れてしまったけれど、最後に彼女に言われた言葉だけは鮮明に覚えている。
「お前はなんだ」
まるで異形の化物でも見るかのような目付きで彼女は吐いた。怒りとか嫌悪とかの感情もあっただろうけど、俺が何より一番感じたのは憎悪だ。少なくとも初めて出会う人にぶつけるような感情ではない。
何者かなんて質問、一体誰が答えられるのだろうか。凡人か偉人か、それとも聖人か悪人か。残念ながら俺は自分の名前しか自分を表せるモノは知らない。強いて云えば、社会に殉じた幼少期の残り滓だ。
しかしなんだと言われれば「宍戸夏樹、探偵さ……」としか返す言葉はないし、まさかその歳で殴られるなんて思いもしない。その右ストレートは俺の痛みと恐怖を引きずり出し、その後会議中彼女は一度も俺に目をくれることはなかった。
彼女と俺の出逢いはそんなところ。まったく初見殺しも良いところで、今になっても正解は知れない。少なくとも探偵と称する事は不正解だったようだが。
もしかしたら代行に俺が選ばれた時点で不可避の事象だったのかもしれない。それでも言葉の意味を、殴られた意味を考えてしまうと……胸倉を掴まれ覗かされたあの瞳を思い出すと、どうしようもなく自分が不安定になってしまった。会議を終えたその瞬間、緊張が解けてしまい、急ぎ口を押さえて人目を忍び階段裏に逃げ込んだ。その日久しぶりに、俺は息の仕方を忘れた。
家族に半ば強制的に入れられた高校で、なるたけ人と関わらないでいこうとしていた道筋は少し横路に逸れてしまった。
今日の今日、高校二年のこの素晴らしき春日和に話し掛けられるまで、彼女との面識はほとんど無かった。
一年の頃自分のクラスですら余り交流のなかった俺が他クラスにいた彼女を知っているはずもなく、そんな道理もない。しかし、思い返してみれば一度だけ話をしたことがあった。
確かあれは文化祭の準備期間の時の話だ。
俺は運営はおろかクラスの中ですら何の役割も振られないという偉業を成し遂げ、その日も伏目がちに教室を出ようとしていた。
その時、クラスメイト以上知り合い未満の女子に話し掛けられた。文化祭の実行委員をやっている、俺がその時点の彼女について知っているマトモな情報はそれだけで、話の内容もそれに関してだった。
明日部活の公式試合があり今日は部活に出たいから実行委員の会議に代理で出てほしい、何故か五分も要した彼女の話の内容は要約するとそれだけ。
いやだ、何で俺が。一も二もなく俺はそう言い、次の日学校に来てみると何の役にもたたないクズとして一躍時の人に。想像に難くない。
結局、俺は一も二も挟む余地なく首肯していた。
それから確か代行で行ったのだが、そんな良い思い出じゃないし詳しい記憶は残っていない。
行って、そこに「彼女」が居た。何を聞かれたか何を話したか、そんなものは会議の記憶と一緒に忘れてしまったけれど、最後に彼女に言われた言葉だけは鮮明に覚えている。
「お前はなんだ」
まるで異形の化物でも見るかのような目付きで彼女は吐いた。怒りとか嫌悪とかの感情もあっただろうけど、俺が何より一番感じたのは憎悪だ。少なくとも初めて出会う人にぶつけるような感情ではない。
何者かなんて質問、一体誰が答えられるのだろうか。凡人か偉人か、それとも聖人か悪人か。残念ながら俺は自分の名前しか自分を表せるモノは知らない。強いて云えば、社会に殉じた幼少期の残り滓だ。
しかしなんだと言われれば「宍戸夏樹、探偵さ……」としか返す言葉はないし、まさかその歳で殴られるなんて思いもしない。その右ストレートは俺の痛みと恐怖を引きずり出し、その後会議中彼女は一度も俺に目をくれることはなかった。
彼女と俺の出逢いはそんなところ。まったく初見殺しも良いところで、今になっても正解は知れない。少なくとも探偵と称する事は不正解だったようだが。
もしかしたら代行に俺が選ばれた時点で不可避の事象だったのかもしれない。それでも言葉の意味を、殴られた意味を考えてしまうと……胸倉を掴まれ覗かされたあの瞳を思い出すと、どうしようもなく自分が不安定になってしまった。会議を終えたその瞬間、緊張が解けてしまい、急ぎ口を押さえて人目を忍び階段裏に逃げ込んだ。その日久しぶりに、俺は息の仕方を忘れた。
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