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29話
しおりを挟む眩しいっ……。
ティアナは眩しさに立ち眩みを覚えた。城の大広間には、沢山の着飾った貴族達で溢れている。豪華絢爛な巨大なシャンデリアや壁、磨き上げられた美しい床……余す所なく隅々まで光り輝いて見える。中でも一際眩しいのが、彼等だ。
「ティアナ」
優しく話しかけてくるレンブラントを、直視出来ない。ティアナは、まともに彼の正装姿を見るのは初めだ。普段から、控えめに言って超美男子な彼だが、今夜は控えめに言って超超~美男子だ。しかもクラウディウスやヘンリック、テオフィル、エルヴィーラも言わずとも分かると思うが、どこの世界の神様か女神様かと思うくらい輝いている。
「良く似合ってるよ」
レンブラントからの言葉に、乾いた笑いしか出ない。朝早くから、自分なりに気合を入れて支度をしてきたのが、無駄な努力だったと痛感する。
こんな人達と並んで歩くなんて、控えめに言って怖過ぎる……。
そうは言っても、レンブラントの婚約者であるティアナに逃げ道はない。レンブラントはティアナの腰に手を添えると、歩き出した。身体が密着して恥ずかしい。だがそんな事を考える余裕は直ぐになくなった。何故なら、視線が突き刺さり痛い。広間中の若い令嬢達からの妬み嫉みの負に満ちた視線に息苦しさを覚えた。
「ティアナ、大丈夫かい」
様子のおかしいティアナに気が付いたレンブラントは心配してくれるが、ティアナは笑って誤魔化した。
「大丈夫です。こういった場は、余り慣れていないので、緊張してしまって……あはは」
ティアナはレンブラントと共に、順番に挨拶をして回る。今夜は母や兄、弟の姿はなく父と伯父だけが参加していた。その理由は、娘に関心のない父だったが、レンブラントと婚約した事で状況は一変した。母や息子達にかなり厳しくなり、今後ティアナに嫌がらせや手を出す様な事があるなら屋敷から追い出すとまで言ったそうだ。これは後からレンブラントから聞いた話だ。彼が何時の間にか、父に書面で約束をしてきてくれていた。
ティアナの親族に挨拶を終え、今度はレンブラントの両親と対面をする。緊張し過ぎてどうなるかと思ったが、彼の両親はかなり淡白な人達で、挨拶をしてもまるで他人事の様だった。かなり拍子抜けだ。
「ごめんね。うちの両親は、昔から僕には関心がなくてね」
そう言って、どことなく寂しそうに笑う彼の手に触れて握ると、驚いた様にこちらを見た。なのでティアナは、精一杯の笑顔で返した。
ティアナとエルヴィーラは壁側に寄り、レンブラントやクラウディウス達を遠目で眺めていた。彼等は沢山の令嬢達に囲まれて、談笑をしている。婚約者がいようとも関係ない。あれも歴とした仕事だと分かっているエルヴィーラは、別段気にした様子はない。だが偽物である筈のティアナの方が、余裕がなかった。令嬢達と愉しそうに話すレンブラントを見て、胸が苦しくなる。嫉妬なんて出来る立場ではないと分かっているのに、見ていたくなくて顔を背けた。情けない。
「エルヴィーラ様……」
するとエルヴィーラが、ティアナの頭をポンポンと優しく撫でてくれた。余裕のある彼女が、大人に思えて内心ため息を吐く。
「あら、レンブラント様の婚約者になられましたティアナ様、じゃありませんか」
そんな時、如何にも意地の悪そうな令嬢数人に声を掛けられた。底意地の悪さが顔に滲み出ている。ティアナは嫌な感じを覚えながらも、丁寧にお辞儀と挨拶を返すが、その瞬間彼女達は笑い出した。
「なぁにそれ。挨拶もまともに出来ないの?貴女みたいな小娘が、レンブラント様の婚約者なんて、私認めませんから」
「本当、図々しいったらないわ」
「ほら、レンブラント様ってお優しい方だから、慈善活動の一環なんじゃないの」
「もしかして貴女、鏡ご覧になった事ないのかしら?」
嫌味を言われたティアナは、顔を引き攣らせながらも笑顔で受け流す。
慈善活動で婚約って、何⁉︎
色々突っ込みたい気持ちでいっぱいだが、問題を起こせばレンブラントに迷惑が掛かってしまう。此処は耐えるしかない。
平常心、平常心、平常心……。
さっさと立ち去って欲しいのに、何も反論しないティアナをいい事に、令嬢達は次から次へと嫌味を言いながらその場に居座る。そんな様子に流石のティアナも腹が立ち「挨拶がお済みでしたら、もう宜しいでしょうか」と話を途中で終わらせようとした。因みに彼女達は、隣にいるエルヴィーラには全く興味がないらしく、完全に空気の様に扱われている。
「あら、ごめんなさいね」
ティアナの物言いや態度が気に入らなかったのか、物凄い形相で睨まれた。そして次の瞬間、一人の令嬢が蹌踉めいたかと思ったら、手にしていたワイングラスをワザと傾けるのが見えた。咄嗟に避けようと身体を後ろに引いたが、間に合わない、そう思った瞬間視界が揺れた。
「エルヴィーラ様⁉︎」
気付いた時にはエルヴィーラのドレスにワインが掛かり、汚れてしまっていた。どうやティアナにワインが掛かる直前、エルヴィーラが庇ってくれたみたいだ。嫌味な令嬢達は、その光景に酷く驚き固まる。ティアナは慌てて謝りながらハンカチを取り出すと、エルヴィーラのドレスを拭く。だが、既に染みになり落ちない。どうしたら良いのかと戸惑っていると、軽快な声が聞こえてきた。
「これはまた、随分と豪快だな」
クラウディウスやレンブラント達が戻って来たのだ。ヘンリックが茶化す様に一人笑っているが、空気は重い。エルヴィーラのドレスの染みを見たクラウディウスは、一瞬目を丸くすると彼女の側に来た。そして直様自身の上着を脱ぐと彼女の肩に掛ける。
「エルヴィーラ、大丈夫?」
顔を覗き込みながら優しく尋ねるクラウディウスに、エルヴィーラはニッコリと笑い頷いた。
「ワインを溢すなんて、随分と行儀の悪いな」
笑みを崩さず穏やかな口調だが、目だけは笑っていない。令嬢等は一斉に青ざめ、混乱した様子で弁明をする。
「ち、違うんです‼︎ワザとではありません!そもそもエルヴィーラ様に掛けるつもりは」
「へぇ、じゃあ一体誰に掛けようとしたの?」
いつの間にか後ろに立っていたレンブラントに、ティアナは抱き寄せられる。予想外の事態にティアナは抵抗する事も出来ずに、大人しく彼の腕の中に収まってしまった。恥ずかしさに思考も動作も停止する。
「まさか僕の大切な婚約者に、とか言わないよね」
底冷えがしそうなくらい冷たい声色と視線に、令嬢等は放心状態で何やら訳の分からない言い訳をしながら、去って行った。
腕の中でレンブラントを見上げると、頭を撫でられる。
「ごめんね、ティアナ。僕が確りしていない所為で、君に怖い思いをさせてしまったね」
正直、嫌味を言われたり無視されたり、虐げらる事は慣れているので怖くはなかったが、ワインを掛けられそうになった時は、流石に少し身体が強張ってしまったのは事実だ。だが、悪いのは彼女達でありレンブラントではない。何故謝罪する理由が分からない。「大丈夫です、慣れますから」ティアナがそう言おうする前に、彼が先に口を開いた。
「これからは、僕が君を護るからね」
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