【拝啓、天国のお祖母様へ 】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

秘密 (秘翠ミツキ)

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30話

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 舞踏会の翌日、学院の廊下を歩いていたティアナは思った。今日は何時も以上に視線を感じると……何故。



「昨夜のアレはなんだよ。公然の場でイチャつくとか、随分とレンブラントと仲が良いんだな。今朝からお前等の噂で持ちきりだぞ」

 昼休みにティアナは、友人がいないので一人裏庭でお弁当を食べていると、ミハエルがやって来た。彼を見たティアナは珍しいと、眉を上げる。ミハエルは何時もこの時間は、教室で昼食を摂らずに机に突っ伏して寝ている筈なのだが。

「ミハエル様」

 彼は当然の様にティアナの隣に腰を下ろした。結構距離が近い。
 昨夜ミハエルを、広間で見かけた記憶はないが、どうやら彼もあの場にいたらしい。まあ、王子なのだから当然かと納得をする。

「お前もさ、結局他の女と同類だな。あんな顔だけで能天気な男に色目使ってさ、莫迦だろう。あんな奴、どこが良いんだよ……」

 口が悪いのはもう慣れたが、何を言いたいのかはさっぱりだ。それに、自分の兄の友人に対して、顔だけ能天気とは随分な言いようだ。それにティアナは、色目なんて使った覚えはない。とんだ言い掛かりだ。そもそも、レンブラントとは一応婚約しているのだから、例えばティアナがレンブラントに対して色目を使った所で問題はないだろう、と思うが言えない。
 ミハエルは珍しく饒舌で、余程気に食わないか、その後も暫くレンブラントに対して、文句を言っていた。

「ミハエル様。半分、お召し上がりになりませんか?」

 ティアナは、包みに残っていた卵とベーコン、チーズと野菜をふんだんに挟んだパンを取り出し、ミハエルに見せた。実は先ほどから彼は文句を言いながらも、視線はティアナの食べ掛けのパンへと向けられていたのだ。

きっとミハエル様は、お腹が空いて苛々されてるのね。

 だからよく分からない、いちゃもんをつけてきたに違いないと思った。

「いらない……。だってそれ、銀髪の分だろう」

 ぶっきらぼうにそう言った彼はそっぽを向いてしまうが、タイミング良く彼のお腹がぐぅと鳴った。

「……」

「実は私、もうお腹いっぱいだったんです。なのでミハエル様さえ宜しければ、召し上がって下さいませんか」



 無言で黙々と食べるミハエルを見て内心ティアナは笑った。

「美味しいですか」

「……うん」

「ふふ、それは良かったです」

 どうやら彼の口に合った様だ。実はこれ、ティアナの手作りだったりする。と言っても殆ど挟んだだけだが。ティアナは、お菓子を作ってからというもの、調理に興味が湧いた。思っていた以上に手間も時間も掛かるが達成感もあったりと、遣り甲斐を感じる。それに慈善活動で、孤児院にも行く事があるので役に立ちそうだと思ったので、今は勉強中だ。

 暫くしてミハエルは綺麗に完食すると満足そうにしながら、欠伸をする。もう特に用はないみたいだが、食べ終えた後も彼はその場から動く様子は皆無だ。沈黙が流れ、気不味さを感じる。だがまだ昼休みが終わるまで時間がある。立ち去るのは失礼だ。何か話をしなくてはと思うが、全く思いつかない。

「そう言えば……もう直ぐ収穫祭だな」

「ミハエル様でも、お祭りなんて興味があるんですね」

 そんな時、彼から話を振ってきた。内容はただの世間話だが、ティアナは意外だと眉を上げる。

「実は毎年、お忍びで行っているんだ」

 更に意外な事を聞いた。ミハエルの性格なら絶対に下らないとか、それこそお祭りに参加する様な奴等は、能天気な連中だとか言って莫迦にするかと思ったのだが、彼は平民に扮装し紛れ、出店などで食事をするのだと、愉しそうに話してくれた。

「煩いくらい賑やかな音楽や民衆の笑い声を聞きながら飲み食いするのは、格別なんだぞ」

「それは素敵ですね」

 少しだけ得意げに話す横顔は、普段よりも少しだけ大人びて見えた。

「お前にも見せてやる」

「?」

 いきなりそう言われたティアナは、直ぐに話を飲み込めずにいた。ミハエルは急にソワソワとして落ち着かない様子のまま立ち上がる。それをティアナは目を丸くして眺めていた。

「だから!収穫祭にお前も連れて行ってやるって言っているんだ」
 
えっと……聞き間違いでなければ、今私はミハエル様から祭りに、誘われた……?

「いいか、祭り当日空けとけよ。街の広場の噴水に、夕刻待ち合わせだからな」

 うんともすんとも言っていないのに、勝手にティアナが行く事が決定し、ご丁寧に集合場所と時間まで教えてくれた。ぽかんとしているティアナを余所に、ミハエルは慌ただしく去って行く。

「必ず、来いよ‼︎」

 そう捨て台詞を残して……。

 行ってしまった……と、戸惑っていると何故か息を切らしたミハエルが戻って来た。何か忘れ物?と首を傾げる。

「パ、パン……美味かった、ご馳走様っ」

 恥ずかしいのか、顔を赤くしたミハエルは早口でそれだけ言うと、今度こそ走り去って行った。
 
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