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しおりを挟むキングサイズの夫婦用のベッドにクロヴィスは横になった。隣には顔を真っ赤にして浅い呼吸を繰り返しながら眠るリゼットがいる。
「全く、仕方ない子だな」
口では呆れながらも、顔はダラシなく緩んでしまう。まだあどけなさが残る少女の寝顔だ。だが、少し半開きになった唇から洩れる寝息が、女の色香を漂わせている。クロヴィスは思わず生唾を呑む。
手を伸ばし頬に触れながら、親指でプックリとした唇を何度も撫でた。そのまま手を首まで伝わしていく。白く柔らかな肌の感触が気持ちいい……身体が熱くなるのを感じた。これ以上はダメだと思いながらも、肌に触れる手が止められず暫く撫で回した。
「リゼットッ……」
自分の息が上がって行くのを感じる。クロヴィスは興奮が抑えられずに、思わず小さく吐息を洩らす。彼女と夫婦になってから十年が経つが、未だに唇に口付けすらした事はない。頬や額にはするが、ただのそれだけだ。
クロヴィスはグッと手を引っ込めると、リゼットに背を向けて目をキツく瞑る。絶対に手は出さない。清いまま彼女を送り出す。彼女だって本当に愛し合える人に、純潔を捧げたい筈だ。何時か彼女は自分では無い男とこうやって同じベッドで眠り、クロヴィスが叶わなかった身体を合わせるという行為をするだろう。
だが何時かと言いつつ、リゼットはもう気が付けば十五歳になっていた。最近は身体付きも昔と比べると大分女性らしくなってきたと感じる。
このまま側に置いておけばそう遠くない先、自分の我慢が利かなくなるだろう。正直、今でも結構辛い。ずっと同じベッドで愛する女性と眠っているのだ。たまに無意識に彼女に触れてしまう。頭の中では何度彼女を抱いたか分からない……。何も考えなくて良いのなら、今直ぐにでもリゼットを味わいたいのが本音だ。
最近はそんな事ばかりを延々と考えてしまう。……きっともう、潮時なのかもしれない。リゼットを傷付ける前に、大人しく身を引く。そして彼女を幸せにしてくれる伴侶に引き渡す。
これが彼女へしてあげられる、精一杯の僕の愛だー。
「おはよう」
「おはようございます、クロヴィス様……」
翌朝、目を覚ますと寝惚けたリゼットがクロヴィスに身体をまるで小動物の様に擦り寄せてきた。
「どうしたの?今日は甘えただね」
「……頭、痛いです」
「それは完全に二日酔いだね。飲んだ事もないのに、無茶するから」
「ゔ~……」
クロヴィスの胸元に顔を埋める彼女が余りにも可愛過ぎて、更に自分へと抱き寄せた。
「ヨーナスに言って後で薬を持って来させるから、もう少し寝てると良いよ。確か今日は学院は休みだったよね?」
「はい……」
「大人しく寝てるんだよ」
そう言って頭を撫でると、少し彼女の表情が和らいだ気がした。
◆◆◆
最悪だ……頭が割れる様に痛い。昨夜は勢い余って思わずクロヴィスのグラスを奪い、ワインを一気飲みしてしまった。これまで酒なんて飲んだ経験がないリゼットは、初めての刺激に耐えきれずに意識を失ってしまった。
ふと今朝の彼を思い出す。大分呆れた様子に見えた。だが、リゼットにだって言い分はある。
昨夜、クロヴィスの口振りが如何にもリゼットを子供扱いしている様で嫌だった。彼は何時になっても自分を子供として扱う。自分だってもう十五になるというのに……。
「頭、痛い……」
だが、今の自分を客観的に見たらやはり考えなしのただの子供だと思えて悲しくなった。
つい先程、ヨーナスが薬を持って来てくれたのでその内効いてくる筈だと思いながらリゼットは広いベッドで一人悶える。
今朝、クロヴィスに抱き締められて頭を撫でて貰った時は痛みが大分和らいだ。だが今、彼はいない。仕事に出掛けてしまった。何時もなら寂しくても我慢出来るのに、今は不調の為か心細くて仕方がない。リゼットは身体を小さく丸める。
「クロヴィス、様……」
次第に瞼が重くなり、そのまま眠りに就いた。
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