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二十六話〜超高級料理店〜
しおりを挟む一体どこまで行くのかとうんざりしていると、ユーリウスはようやくとある店の前で足を止めた。
そこは見るからに格式の高そうな店構えだった。娼館とはまた違った高級感が漂っている。
彼は迷わず中へと入っていった。
「いらっしゃいませ、ユーリウス様」
出迎えてくれた店員は、ユーリウスとエレノラを見て一瞬驚いた顔をするが直ぐに穏やかな笑みを作ると店の奥へと案内をしてくれる。
途中、周りのお客からの視線が痛い程突き刺さるが、少し前を歩くユーリウスはまるで気にも留めていない様子だった。ふと夜会の時を思い出す。
本当に傍若無人だが、常に堂々としている姿は少し感心さえしてしまう。色んな意味で大物だ。
通されたのは個室で洗練された空間だった。
思わず立ち尽くし部屋の中を見渡す。
天井から床、テーブルから椅子まで超高級感満載だ。
(これって、もしかして……金⁉︎)
よく見ると壁の細かな模様が金で描かれている事に気付いた。
全て削り取ったら総額いくらになるのだろうか……思わずゴクリと喉を鳴らす。
「何をしているんだ、さっさと座れ」
「あ、はい……」
訝しげな視線を向けてくるユーリウスと少し困り顔の店員に気付き、エレノラは慌てて彼の向かい側に座った。
「嫌いな食べ物はあるか?」
突然嫌いな食べ物を聞かれ、目を丸くした。
普通は好きな食べ物を聞くのではないのだろうか……捻くれている。
「特に好き嫌いはないです」
というか、好き嫌いなど贅沢な事を出来る余裕はフェーベル家にはなかった。毎日三食食べれるだけで感謝していたくらいだ。
「そうか。ならシェフのお勧めを全て持ってきてくれ」
「かしこまりました」
ユーリウスの言葉にエレノラは呆然とした。
注文の仕方が豪快過ぎる。
やはり生まれながらのお金持ちは違うと身に染みた。
それより、これはもしかしなくてもご飯が食べられる⁉︎
グゥ~……
期待感と共にお腹がなった。
するとユーリウスが呆れたような哀れみのような目を向けてくる。
(だって、しょうがないじゃない! 貴方が私のパンを捨てるからよ!)
と言いたいが、彼の機嫌を損ねてまた食べそびれたくないので今は黙っておく事にする。
気不味い空気の中、耐え忍んでいると、程なくして次々に豪華な料理が運ばれてきた。
肉料理に魚料理、彩豊かな新鮮な野菜に瑞々しいフルーツなど盛りだくさんだ。大きなテーブルがあっという間に料理で埋め尽くされる。
初めて公爵家で料理を出された時にも驚いたが、また違った驚きがあった。
なんというか料理が輝いて見える。
これは芸術と言ってもいいかも知れない。
そんな風に感動を覚えていると、ふとある事に気付き現実に引き戻されたエレノラは固まった。
「どうした、食べないのか」
一向に料理に手をつけようとしないエレノラに、ユーリウスは訝しげな顔をする。
「ユーリウス様……」
「何だ」
「私……そんなに持ち合わせがありません‼︎ 」
空腹で思考が鈍っていたが、よくよく考えて見ればお金がない……。
「は……?」
こんな恐ろしく豪華な食事代はエレノラには絶対に払えない。
屋敷に帰れば先日支給された品位維持費があるが、生憎今日は馬車代+お昼代しか持ってきていなかった。
そもそも、こんな贅沢をする余裕はない。そうじゃなくても都会の物価の高さに恐れ慄いていた所だったのに……。無駄遣いは出来ない。
だがお腹が空いているのに、目の前にこんなにご馳走があるのに食べられないなんて新手の拷問だ……。
そこでエレノラはハッとして、ユーリウスを見た。
(まさか、目的はこれ⁉︎ 酷い、酷過ぎるっ‼︎)
流石クズを極めし男だ、やる事が一味違う! エレノラは悶絶した。
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