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二十七話〜芋娘の奇行〜
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数時間前ーー
落ちたパンを取り上げ食べるのを阻止した。だが帰りの馬車で事もあろうにこの芋娘は人から食料を恵んで貰おうとしたのでそれも寸前で阻止する。次から次に繰り出す奇行に全く気が抜けない。
拾い食いの次は物乞いをしている書類上の妻に目眩すらしてきた。
やはり奇人だ。
ユーリウスには予測不能な行動をする。
気持ちを落ち着かせる為に、今は兎に角この芋娘を視界に入れないでおくしかないだろう。
その甲斐もあり、街に到着をする頃には冷静さを取り戻していた。
(この私が、こんな芋娘に振り回されるなどあり得ない)
ただ例え書類上の妻だとはいえ飢えさせたままには出来ない。
仕方がない、これも慈善活動のようなものだ。また拾い食いなどされたらたまったものではない。
取り敢えず芋娘に何か食べさせようかと思ったが、馬車を降り改めてエレノラの格好を見れば、兎に角汚い。
食事をするにも、とてもじゃないがこのまま店に連れて入る訳にはいかないだろう。
(この芋を何処かで洗わなくては……)
ふとユーリウスの脳裏に浮かんだのは、昔たまに利用していた娼館だった。
あそこならば、全て揃っているので芋を洗うのに適している筈だ。
エレノラを娼館へ預けている間、ユーリウスもまた着替えを済ませた。
芋娘のせいで、自分まで埃っぽくなってしまったからだ。本当にろくな事をしない。
暫くすると、身なりを整えたエレノラがユーリウスの待つ応接間に入ってきた。
その姿を見て思った。
やはり娼館に連れて来て正解だった。
娼婦達は自らを売り物にしている故、身なりを整える事に長けている。こんな芋娘でも、少しは見れるようになったと感心をした。
ただ手にしている異物が目に付く。例の雑草の入った麻袋だ。
邪魔だと思い取り上げると返せと騒ぐ。
全くこんな雑草が一体何だというんだと呆れ果てながらも、これ以上騒がれたらたまらないと店員に麻袋を預け後で屋敷に届けさせる事にした。
娼館を後にすると、絶対に逃亡すると見越したユーリウスはエレノラの腕を確りと掴むとそのまま行きつけの店へと向かった。そしてーー
適当に注文した料理がようやく運ばれてきた。
向かい側に座るエレノラは目を輝かせ興奮しながら、料理が並び終えるのを大人しく待っている。一緒、脳裏に餌を待つ犬が浮かび、馬鹿馬鹿しいと打ち消した。
ユーリウスは暫しその光景をつまらなそうに眺めていたが、何故かエレノラはテーブルに全ての料理が並べ終わっても一向に手を付ける気配はない。
不審に思い食べないのかと聞くと、深刻な面持ちで口を開いた。
「ユーリウス様……」
「何だ」
真っ直ぐなすみれ色の瞳がユーリウスを見つめてくる。
通常の芋っぽさがない為が、何処となく色香を感じるが……こんなのは幻だ。目に異常をきたしているとしか思えない。
「私……」
一体何だというんだ。
幻だと自分に言い聞かせるが、エレノラの瞳に釘付けとなり目が逸らせない。思わず生唾を飲み込む。
芋分際で、こんな瞳をするなど生意気だと思っているとーー
「そんなに持ち合わせがありません‼︎ 」
「は……?」
エレノラの口からは予想だにしない言葉が発せられた。
一瞬何を言われたのか分からず思考が停止する。
(持ち合わせがない、だと? なんだそれは……)
「ですから、私はこれで失礼します!」
だが次の瞬間、エレノラが勢いよく席を立った事で一気に現実に引き戻された。
「いや、待て! 何処へ行くつもりだ⁉︎」
エレノラの奇行に、一体何が起きているのか全く理解が追いつかない。
思わず声を荒げてしまう。
「ですから! 私にはこんな贅沢な食事を食べられる余裕がないんです! 金欠じゃないけど金欠なんです!」
後半辺りもはや言語がおかしいが、要するにお金がないから払えないという意味だろうか。
「まさか、自分で支払うつもりでいたのか……?」
あり得ないだろうと思いながらも、確認せずにはいられなかった。
「当然です。そもそも、それなら一体誰が支払ってくれるというんですか?」
少し拗ねた様子で口を尖らせる。
それを見たユーリウスは、この芋娘には私が見えていないのだろうかとそんな下らない事を本気で考えた。
「私がいるだろう」
わざわざこんな場所にまで連れて来て、女性に支払わせるなど考えられない。それに書類上ではあるが妻に変わりないのだ。どう考えてもこちらが支払うに決まっているだろう。
「え、ユーリウス様が……」
その言葉に、目を丸くして小首を傾げた。
「他に誰がいるというんだ」
ようやく理解したのか。全くこれだから田舎者はと鼻を鳴らすがーー
「……」
あからさまに訝しげな視線を向けてくるエレノラに、これ見よがしに大きなため息を吐かれた。
落ちたパンを取り上げ食べるのを阻止した。だが帰りの馬車で事もあろうにこの芋娘は人から食料を恵んで貰おうとしたのでそれも寸前で阻止する。次から次に繰り出す奇行に全く気が抜けない。
拾い食いの次は物乞いをしている書類上の妻に目眩すらしてきた。
やはり奇人だ。
ユーリウスには予測不能な行動をする。
気持ちを落ち着かせる為に、今は兎に角この芋娘を視界に入れないでおくしかないだろう。
その甲斐もあり、街に到着をする頃には冷静さを取り戻していた。
(この私が、こんな芋娘に振り回されるなどあり得ない)
ただ例え書類上の妻だとはいえ飢えさせたままには出来ない。
仕方がない、これも慈善活動のようなものだ。また拾い食いなどされたらたまったものではない。
取り敢えず芋娘に何か食べさせようかと思ったが、馬車を降り改めてエレノラの格好を見れば、兎に角汚い。
食事をするにも、とてもじゃないがこのまま店に連れて入る訳にはいかないだろう。
(この芋を何処かで洗わなくては……)
ふとユーリウスの脳裏に浮かんだのは、昔たまに利用していた娼館だった。
あそこならば、全て揃っているので芋を洗うのに適している筈だ。
エレノラを娼館へ預けている間、ユーリウスもまた着替えを済ませた。
芋娘のせいで、自分まで埃っぽくなってしまったからだ。本当にろくな事をしない。
暫くすると、身なりを整えたエレノラがユーリウスの待つ応接間に入ってきた。
その姿を見て思った。
やはり娼館に連れて来て正解だった。
娼婦達は自らを売り物にしている故、身なりを整える事に長けている。こんな芋娘でも、少しは見れるようになったと感心をした。
ただ手にしている異物が目に付く。例の雑草の入った麻袋だ。
邪魔だと思い取り上げると返せと騒ぐ。
全くこんな雑草が一体何だというんだと呆れ果てながらも、これ以上騒がれたらたまらないと店員に麻袋を預け後で屋敷に届けさせる事にした。
娼館を後にすると、絶対に逃亡すると見越したユーリウスはエレノラの腕を確りと掴むとそのまま行きつけの店へと向かった。そしてーー
適当に注文した料理がようやく運ばれてきた。
向かい側に座るエレノラは目を輝かせ興奮しながら、料理が並び終えるのを大人しく待っている。一緒、脳裏に餌を待つ犬が浮かび、馬鹿馬鹿しいと打ち消した。
ユーリウスは暫しその光景をつまらなそうに眺めていたが、何故かエレノラはテーブルに全ての料理が並べ終わっても一向に手を付ける気配はない。
不審に思い食べないのかと聞くと、深刻な面持ちで口を開いた。
「ユーリウス様……」
「何だ」
真っ直ぐなすみれ色の瞳がユーリウスを見つめてくる。
通常の芋っぽさがない為が、何処となく色香を感じるが……こんなのは幻だ。目に異常をきたしているとしか思えない。
「私……」
一体何だというんだ。
幻だと自分に言い聞かせるが、エレノラの瞳に釘付けとなり目が逸らせない。思わず生唾を飲み込む。
芋分際で、こんな瞳をするなど生意気だと思っているとーー
「そんなに持ち合わせがありません‼︎ 」
「は……?」
エレノラの口からは予想だにしない言葉が発せられた。
一瞬何を言われたのか分からず思考が停止する。
(持ち合わせがない、だと? なんだそれは……)
「ですから、私はこれで失礼します!」
だが次の瞬間、エレノラが勢いよく席を立った事で一気に現実に引き戻された。
「いや、待て! 何処へ行くつもりだ⁉︎」
エレノラの奇行に、一体何が起きているのか全く理解が追いつかない。
思わず声を荒げてしまう。
「ですから! 私にはこんな贅沢な食事を食べられる余裕がないんです! 金欠じゃないけど金欠なんです!」
後半辺りもはや言語がおかしいが、要するにお金がないから払えないという意味だろうか。
「まさか、自分で支払うつもりでいたのか……?」
あり得ないだろうと思いながらも、確認せずにはいられなかった。
「当然です。そもそも、それなら一体誰が支払ってくれるというんですか?」
少し拗ねた様子で口を尖らせる。
それを見たユーリウスは、この芋娘には私が見えていないのだろうかとそんな下らない事を本気で考えた。
「私がいるだろう」
わざわざこんな場所にまで連れて来て、女性に支払わせるなど考えられない。それに書類上ではあるが妻に変わりないのだ。どう考えてもこちらが支払うに決まっているだろう。
「え、ユーリウス様が……」
その言葉に、目を丸くして小首を傾げた。
「他に誰がいるというんだ」
ようやく理解したのか。全くこれだから田舎者はと鼻を鳴らすがーー
「……」
あからさまに訝しげな視線を向けてくるエレノラに、これ見よがしに大きなため息を吐かれた。
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