有能でイケメンクズな夫は今日も浮気に忙しい〜あら旦那様、もうお戻りですか?〜

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
90 / 105

八十九話〜両想い〜

しおりを挟む


「ーーそれで、アンセイム様に力を貸して頂く代わりに側妃になって欲しいと言われたんです」

 一体何を言われるのかと身構えていたが、ユーリウスから聞かれた事はアンセイムに愛人達の進路先の斡旋を頼んだかという質問だけだった。
 この際だからと離縁すると言った理由も含めて説明をする。

「なるほどな、殿下らしい……。ならば離縁は君の本意でないと思っていいのか?」

 自分で決めた事なのでユーリウスの言葉を肯定するのは違う気がするが、必要に迫られてエレノラの気持ちとは切り離し選んだ事には違いない。
 少し躊躇いながら頷いて見せた。

「そうか……」

 ユーリウスは気が抜けたように息を吐いた。
 改めてよく見ると、少し顔を合わせない間に痩せたように思える。
 ボニーの言っていたように、余り食事を摂っていないのだろう。


「エレノラ、殿下からの資料はここに入っているのか?」

「はい、そうですが……」

 ユーリウスはエレノラに許可を得た後、ベッドの横に置かれていた鞄の中から書類の束を取り出すと一緒に手紙の束が出てきた。

「これは?」

「それは候補先へ宛てた手紙で……」

 そして、何を思ったか折角書いた手紙を全て破り捨ててしまった。

「何をするんですか⁉︎  それ書くの大変だったんですよ⁉︎」

「後の事は私が引き受ける」

 意外な言葉に目を見張る。

「でも、それではユーリウス様の無駄に高い自尊心が傷付いてしまうのでは?」

「何⁉︎ 無駄だと⁉︎」

 一般的に人としてある程度自尊心を持ち合わせているのは普通だが、ユーリウスの自尊心は天よりも高いだろう。
 そんな自尊心の塊の彼が、自分の愛人だった女性達を自ら探した男性へ嫁がせるのは受け入れ難いのではないだろうか。
 働く事を希望している愛人や修道院を希望している愛人にも同じ事がいえる。
 ただその癖意外と繊細でガラスの心臓の持ち主だのようだし、かなり面倒くさい。
 それにそもそもエレノラが言い出した事だ。
 ユーリウスの手を借りるのは少し違う気もした。

「違うんですか?」

「っ……」

 暫し睨み合うが、意外にも途中で彼の方が白旗を上げた。

「いや違わないな、認めよう。私は君のいうように無駄に自尊心が高い。だが今回はその自尊心は全て捨てる」

「それって」

「愛人達の進路先は、私が責任を持ち探す。だから離縁するなどと言わないでくれ」

 弱々しく嘆願された。
 まるで捨て犬のように見えて胸が痛む。
 ただふと冷静になって考えると、ある疑問が浮かんだ。
 
「でも、ユーリウス様にそんな人脈あるんですか?」

「君は私を一体何だと思っているんだ」

「人脈って信頼ありきじゃないですか。なので、少し心配です……」

「私にもそれなりの人付き合いはある。そもそも、嫁ぎ先以外の働き口や修道院の資料を集めたのは私だ」

「え……」

「殿下は特に何も言わず、ただ妙齢の女性の働き口と修道院の資料を出来る限り集めるようにと言っていたが……流石にこのタイミングだ。勘付かない訳はない。殿下もそれを分かった上で、私に仕事を任せたのだろう。……正直、殿下からの申し出を受ける前に、一言でも私に相談をして欲しかった」

「申し訳ありません……」

 ユーリウスはアンセイムの側近なのだから少し考えれば分かった筈なのに、そんな簡単な事に気付けなかった。彼を傷付けてしまったと反省をする。

「いや違うな。そもそも私達は夫婦として成り立っておらず信頼関係もない。そもそも相談などする間柄ではなかった。それは全て私の責任だ……。君を責める権利は私はないな」

 彼のせいだけではない。
 書類上の夫婦故に、信頼関係など皆無だったのは事実だ。だが、それでも彼の言うように一言でもいいから相談すべきだったと今は思う。

「どうしても厳しければ、父上に頭を下げる。どんな手段を講じても必ずやり遂げると約束しよう。だから私の事を信じて欲しい」

 黙り込んでいるエレノラが迷っていると思ったのか、ユーリウスはそう付け加えた。
 そしてその言葉にエレノラは目を見張った。
 本心は分からないが、彼の昔の話から思うに父親である公爵に良い感情を持っているとは到底思えない。現在の関係性を見れば尚更だ。その父親に頭を下げるとまで言っているのだ。ユーリウスが本気だという事が分かった。

「そうまでして、どうして私と離縁したくないんですか?」

 突然の愛人達との縁切りといい、夫婦としてやり直したいと言い出したり、やはり彼の考えが分からない。
 フラヴィには愛していないと宣言していたし。ますます理解不能だ。

「……だ」

「え、もう一度良いですか?」

 口籠もり上手く聞き取れない。

「だから、好きだからだと言っているんだっ」

 顔を真っ赤にして瞳を潤ませる様子は、やはり子犬のようだと思ってしまう。

「誰が誰をですか?」

 エレノラは小首を傾げた。
 
「っ、私が君を好きなんだ」

「それって……ユーリウス様が私に好意を寄せているというように聞こえるんですが」

「だからそうだと言っているだろう⁉︎」

「っ⁉︎」

 ようやくユーリウスの言葉の意味を理解したエレノラは顔が熱くなり心臓が早くなっていくのを感じた。

「ただ私は君を愛せるかどうかは分からない。正直自信がないんだ。だが私は君を愛したい、君から愛されたいと強く思っている。それだけは覚えておいて欲しい」

 悲しげな表情を浮かべる。
 その姿にふと彼の母の話を思い出し切なくなる。
 きっと今の彼が表現出来る精一杯の気持ちなのだろう。そこに嘘はないと思う。

「大丈夫です。私もユーリウス様を愛せる自信がありませんから」

「なっ……いや、そうだな……分かっている」

 サラリと言い放つと、彼はショックを受け分かり易く落胆する。
 
「でも……好きかも知れません」

「っ‼︎」

 彼は好きだが愛せるかは分からないと言った。だがエレノラは愛を語るよりも前に好きかどうかも分からない。だがユーリウスの妻でいたいとは思う。そこに打算はない。それはようするに、好きという事なのかも知れない。

 ユーリウスは何故か口元を手で覆い顔を背けた。

「ユーリウス様?」

「も、もう一度、言ってくれないか?」

「えっと、知れません」

「違う‼︎  その前だっ」

「……好きかも、知れません」

 流石に二度目は恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じる。

「私も君が好きだ」

「っ……」

 恍惚とした表情で見つめられ、心臓が煩く脈打つ。伸ばされた彼の手はエレノラの頬に触れ、ゆっくりと彼の顔が近付いてきてそのまま唇と唇が触れそうになりーー

「っ‼︎」

 エレノラは思わずユーリウスの顔を手のひらで押し返すと、彼は目を見張り固まる。
 これは所謂両想いという状況だと思われるが、流石にキスはまだ早過ぎる。

「あ、あの! そういえばミルはどこにいるんですか?」

 恨めしそうに見られ、慌てて話題を変える。
 恐らくボニーと一緒だとは思うが、気になったのも本当だ。

「‼︎  す、すまない! 慌てる余り、馬車に置いてきてしまった……」

「え⁉︎」

 その言葉に驚き慌てて馬車へと向かった。
 勢いよく扉を開けるとミルは椅子の上で不貞寝していた。

「ミルっ‼︎  ごめんね、迎えにくるのが遅くなっちゃって……」

シュウ~‼︎

 エレノラが手を差し出すとしがみついてくる。きっと一人で心細かったに違いない。
 そしてミルはエレノラの後にいたユーリウスの存在に気付くと凄い形相で彼を見る。
 馬車に置き去りにするとか己は頭沸いてるん⁉︎  そんな風に怒りが滲み出ていた。




しおりを挟む
感想 210

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

処理中です...