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八十八話〜心配〜
しおりを挟む状況からして逃亡のおそれはないと判断し、フラヴィは一先ずドニエ家に引き渡す事になった。侯爵家に使いを出すと、程なくしてフラヴィの兄が迎えに来た。
事の顛末を説明すると、一瞬にして顔を青ざめさせ何度も頭を下げてきた。
至急父である侯爵に報告をし日を改めて謝罪に伺うと言い、怪我を負いながらもなお騒いでいるフラヴィを押さえ込むようにして連れて帰った。
「いい加減にしろっ‼︎ どれだけ家紋に泥を塗れば気が済むんだ⁉︎」
フラヴィ達が馬車に乗り込み動き出した瞬間、そんな怒号が中から聞こえてきた。
それから特に怪我もしていないのにエレノラは何故かベッドに寝かされ医師まで呼ばれた。
一通り診察が終わると身体を起こし、そのままベッドの上で座る。
そして先ほどから異様なまでに心配しているユーリウスに声を掛けた。
「あの、ユーリウス様……座られたら如何ですか?」
診察を受けている時は部屋の中をうろうろしていたが、医師が帰ると今度はベッドの横に立ち分かり易く落ち込んでいる。
「……本当に平気なのか?」
「大丈夫です。お医者様もそう仰っていましたよね?」
「あ、ああ、そうだな」
そう言いながらもベッドの横に椅子を付けて座るとまたしゅんとなる。
「私の責任だ、すまなかった」
「いえ、ただ今回は流石に死ぬかと思いました」
元を辿ればユーリウスのせいではあるが助けてくれたのもまたユーリウスだ。あまり怒る気にはなれないと苦笑して見せる。
「前回はドニエ家に抗議だけで済ませたが、今回はそうはいかない。これは歴とした犯罪だ。告訴し相応の罰を受けさせる」
彼の言葉に目を丸くする。
特に何も言っていなかったので、まさか抗議していたとは思わなかった。てっきりフラヴィを庇っているものだと思っていたが違ったようだ。
それに階段での二人のやり取りに、違和感を覚えた。エレノラの想像していた二人の関係性とはかけ離れており、あれでは一方的にフラヴィがユーリウスに迫っているようにしか見えない。
その瞬間、安堵している自分に気付いた。そして、自分がこんなにも性悪だとは思わなかったと落ち込んでしまう。
「それではフラヴィ様はどうなるんですか? まさか極刑とかになったりしませんよね……?」
グラニエ国の法では貴族殺しは極刑になるが、未遂は立場や状況に委ねられる。一応教鞭をとる立場だったのでそれなりに知識はあるが、専門家ではないので曖昧な部分は判断がつかない。
頭の中にフラヴィが首チョンされそうになっている光景が浮かび眉根を寄せると、何故か盛大にため息を吐かれた。
「こんな状況で人の心配をしているのが信じられない。私が間に合ったから良かったが、一歩間違えれば君は死んでいたかも知れないんだぞ⁉︎」
「それは、そうですけど……」
落ち着いたとはいえ正直、まだあの瞬間の恐怖が残っており思い出すと背筋が凍るようだ。流石に彼女に対して強い嫌悪感もある。
ただだからといって、フラヴィに死んで欲しいとは思えない。罪を償うなら確りと自分自身と向き合い反省をして貰いたい。
口籠ると再び大きなため息を吐かれる。
「現状で考えられるのは、投獄か貴族籍を剥奪した後に平民として枯れた土地を耕すか、または修道院に送られるかだろう。無論ドニエ家も監督責任を問われる筈だ」
「そうですか……」
取り敢えず、首チョンはされないみたいなので胸を撫で下ろす。
彼を見れば、淡々と話してはいるが確かな怒りが伝わってきた。
ユーリウスが自分のために怒ってくれていると思うと、何だか妙に歯痒さを感じる。
「でもいいんですか? フラヴィ様は大切な幼馴染ではないんですか?」
極刑にはならなくても、決して処罰は軽いものではない。
エレノラが考えていた関係性とは違えど、彼にとって幼馴染であるフラヴィは愛人達の中でも特別な存在だった筈だ。その彼女が処罰されるとなれば、胸が痛むだろう。
「私にとって大切なのは君だけだ」
真っ直ぐに目を見据えられ、瞬間心臓が跳ねた気がした。
「え……ユーリウス様、もしかして何か変な物でも召し上がりましたか?」
「君は本当にぶれないな」
何故かユーリウスは困り顔で笑った。
「それはどういう意味ですか」
よく分からないが馬鹿にされている気分になり唇を尖らせる。
「いや、何でもない。それより聞きたい事がある」
いつになく真剣な面持ちのユーリウスに、エレノラはベッドから降りると端に座り直した。
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