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二十五話

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 にゃ。

「⁉︎」
「あら」

 差し出した手にエーファが手を伸ばして来たが寸前の所で白い塊がにゃーと鳴き声を上げ邪魔をする。エーファは何かを察したのか手を引っ込め代わりに白い塊を此方に差し出して来た。だが差し出した手を引っ込める訳にもいかず呆然と見守っていると、まさかの白い塊がマンフレットの手に手を乗せた。

 にゃ。

(此奴っ……)


「エメはマンフレット様が大好きなのね」

 にゃあ~。

 馬車に乗り込み彼女と向かい合い腰を下ろすと何故か白い塊はマンフレットの膝の上で丸くなる。時折りにゃーにゃーとご機嫌で鳴き尻尾をうねらせていた。

(何だ、この悪夢の様な状況は……。私は猫は好かん! 寧ろ嫌いなんだ!)

「きっとマンフレット様が猫好きなのが分かるんですね」

(何⁉︎)

 猫好きなど一体誰がエーファに吹き込んだのか。完全に誤解されている。どうにかして訂正をしなくてはこの白い塊を彼女に返す事が出来ない。だが、実は昔猫に酷い目に遭わされて苦手になったとは言えない。マンフレットの矜持に関わる……。

「所で馬車は何方へ向かっているんですか?」
 
 エーファの言葉にハッとする。そうだ、今は猫云々言っている場合ではない。自分には今日成し遂げなければならない使命がある。




「エメ、ダメよ。マンフレット様が重くて大変でしょう? 首が凝ったらどうするの?」

 問題はそこじゃないだろう! 的外れな注意をするエーファに思わず指摘したくなるが、喉元まで出た言葉を飲み込んだ。
 最初の目的地に到着し馬車を降りた直後、頭に重みを感じた。まさかの白い塊がマンフレットの頭上に乗って来た。エーファがいなければ直ぐにでも引っ剥がしてやりたい。だが彼女の手前グッと堪える。

「……せめて肩にしてくれないか」

 にゃ。

 屈辱的だが自分から妥協案を提示する。頭に乗られているくらいならまだ肩の方がマシな気がする。
 首を少し斜めに傾けると器用に肩へと移動した。白い塊は暫く身動ぐと落ち着く体位を見つけたらしく、肩にペッタリと張り付いた。最悪な気分だ。

「エメがご迷惑をお掛けして、すみません。もしもマンフレット様の肩が凝ってしまったら、私が責任を持って解させて頂きます!」
「……」

 エーファからの提案に、一瞬思考が止まる。だが直ぐに正気に戻り鼻を鳴らすと「必要ない」と返した。ただ頭の中ではエーファが自分の肩に触れている妄想が浮かぶ。

(悪くない、かも知れない)

 にゃ?

 肩に張り付く白い塊が急に可愛く思えてくる。不思議だ。

(まあ、肩に乗るくらい許してやる)


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