愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
24 / 63

23

しおりを挟む



「おっと」

「⁉︎」

蹌踉めいたユスティーナの身体を支えてくれたのは、ヴォルフラムだった。突然現れた彼に目を丸くする。タイミングが良いのか悪いのか分からない……。

「ヴォルフラム、殿下……」

ヴォルフラムを見上げると、彼は優しく微笑んだ。彼の顔を見た瞬間ユスティーナは脱力してしまうが、直ぐに我に返りヴォルフラムから身を離そうとした。だが何故か彼は離してくれない。こんな状況で益々怪しまれてしまうと焦る。

「折角のお茶会の席だと言うのに、随分と騒がしいね。で、これは一体何の騒ぎかな。ジュディット、レナード」

「ユスティーナ様が、嫌がらせをしたのよ。私に飲み物をワザと掛けたの。見てよこれ、折角のドレスが台無しだわ。しかもレナードと婚約解消されたのは私の所為だって怒られて……それに」

目尻に涙を浮かべながら、赤く染み付いたドレスをこれ見よがしに、ジュディットは見せてくる。

「ヴォルフラム。私ね、貴方がユスティーナ様と抱き合っている所を見たちゃったの……。私という婚約者がありながら、浮気するなんてこんな酷い裏切りないわ!」

「浮気?僕と彼女が?」

彼は眉を上げ首を傾げた。全く心当たりがないと言わんばりな素振りを見せる。

「そうよ。貴方、街外れにあるボロい教会でユスティーナ様と二人で会っていたでしょう。私だけじゃないわ、ねぇ、レナード。貴方も見たわよね?」

「……十日程前、私とユスティーナが婚約解消になった日の昼間です。解消になった事が納得出来なくて、彼女と話をする為に会いに行ったんです。そうしたら、兄上とユスティーナが……」

まさかレナードにまで見られていたなんて……ユスティーナは愕然とした。レナードを見ると一瞬彼と目が合う。すると鋭い視線を向けられた。その事に身体を震わせるとヴォルフラムが「大丈夫だよ」と囁いた。

「その時には既に、私と彼女は婚約は解消されています。ですが、兄上とジュディットは婚約しているんですよ。一体どういうおつもりなんですか?先程ジュディットも話していましたが、もしかしてもっと以前から二人はそういう関係だったんじゃないんですか⁉︎」

冷静に話していたレナードは、段々と言葉を荒げ苛々しているのが伝わってきた。大分興奮している様だ。

「そういう関係って?」

「ですから、不貞していたと言う意味です!」

「あぁ、成る程」

そんなレナードに対して、まるで意に返さない様子のヴォルフラムは終始笑顔のままだ。ユスティーナはそんな様子に一体どうなってしまうのかと、不安が募る。

「面白い事を言うね、笑えない冗談だ。僕とユスティーナ嬢がそんなふしだらな事、する筈ないだろう。……君達じゃないんだから」

「⁉︎」

声のトーンが急に下がり、ヴォルフラムの雰囲気が変わったのが分かった。鼻を鳴らし、レナードとジュディットを見遣り冷笑する。初めて見る彼の一面に目を見張った。

「ご、誤魔化そうとしても無駄よ?私はこの目でちゃんと見たんだからね!」

「そうですよ、兄上。この期に及んで言い逃れするおつもりですか」

明らかにユスティーナ達の方が分が悪い。だが、ヴォルフラムはしれっとしている。

「仮にそれが事実だとして、君達以外にそれを証明する人間はいるのかな?以前から不貞行為を繰り返してきた君達の言葉にどれだけの信頼性があるか否かは分かりきった事だ。それにもしかしたらレナードが王太子の座が欲しいが為に、愛するジュディットと結託して僕を陥れようとしている可能性もあるよね。ねぇ二人共、発言には気をつけた方が良いよ。僕が不貞をしていないと証明されたら、君達はただ単に僕を侮辱した事になる。それって不敬罪になっちゃうかも知れないよね」

不敬罪、その言葉にその場は水を打ったように静まり返った。



しおりを挟む
感想 412

あなたにおすすめの小説

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

処理中です...