出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

秘密 (秘翠ミツキ)

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八十四話〜視線〜

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 翌日ーー
 セドリックやサイラス達は町に視察に行くと言って朝から出掛けて行った。
 屋敷に残ったエヴェリーナは侍女達の仕事の手伝いをしていたのだが、何やら違和感を覚えた。

 雲一つない青空の下、洗い終えたばかりのシーツを干していたのだが、先程から誰かに見られている気配を感じる。
 振り返り確かめると、木の下に小さな影が見えた。そしてその影は、エヴェリーナが気付いた事を知ると慌てた様子で逃げて行く。

「……」

「リズ様、如何なさいましたか?」

 不思議そうな顔の侍女に尋ねられるが、エヴェリーナは「いえ、何でもありません」と首を横に振った。

 洗濯を干し終わり今度は部屋の掃除を始める。正面入り口の掃き掃除を済ませた後昼食の準備をしていたが、やはり背中越しに視線を感じた。


「あれって何?」

 昼過ぎに町から視察を終えたセドリック達が戻って来たので昼食をテーブルに並べていると、分かり易く扉の隙間からこちらを覗いているルークにセドリックは怪訝な表情を浮かべる。

「なんだ、一緒に食べたいのならそう言いなさい。ほらルークこっちに……」

 話によればルークは人と食事をする事を嫌がるそうで以前から別々にしているそうだ。
 サイラスが嬉しそうにルークを呼ぶが、彼は勢いよく逃げて行ってしまった。

「絶対リズ嬢を見てるよな」

「そうですわね、明らかにリズさんを見ていますわ」

 翌日も朝昼晩と背中に視線を感じ続けた。 
 無論セドリックや他の人達は不審に思い始め、アルバートやディアナは勘付いた様子で話す。
 その隣ではセドリックは何故か不機嫌そうにしていた。
 今は夕食後にゆったりとしたお茶の時間を過ごしていたのだが、やはり扉の隙間からルークがこちらを窺い見ていた。

「……まさか惚れたのか」

「っ‼︎」

 サイラスが考え込むように顎に手をやるとそんな冗談を言う。するとお茶を飲んでいたセドリックが咳き込んだ。

「セドリック様、大丈夫ですか⁉︎」

「う、うん……ちょっと咽せただけだから」

 言葉通り問題はなさそうなので安堵するが、セドリックはその後暫く不機嫌そうだった。

 その翌日の昼過ぎ、セドリック達が中庭でお茶をしており何故かエヴェリーナまで椅子を勧められ参加していた。

「叔父上、いい加減アレをどうにかしてくれませんか?」

 穏やかに話してはいるが、セドリックの顔は険しい。
 そしてアレとは今日もまた例の如く朝からエヴェリーナの後を付けてくるルークの事だ。
 
「まあそう言ってやるな。ルークはリズ嬢と仲良くなりたいだけなんだろう。もう少し見守ってやってくれないかい?」

「……何故リズなんですか」

「それは私にも分からない。だが、何か通じるものがあるのかも知れないね」

 サイラスはそう言って此方へと視線を遣る。何かを探っているような目に内心息を呑む。
 一見すると人当たりがよく穏やかに感じるが、やはり皇族に違いない。勘が良さそうだ。
 エヴェリーナは平常心を装いながら苦笑して見せた。

「リズさんは穏やかで優しいですから、安心するのかも知れませんわ。それにとても美人ですもの。まだ子供でもやっぱり男性なのでしょうね」

 普通に捉えれば嫌味とも思える言葉だが、ディアナの表情や声色からはそんな事は微塵も感じられない。
 彼女と一緒に過ごして半月程経つ。
 まだ疑念は残るものの彼女の人柄は大分分かってきた。貴族令嬢には珍しく素直で優しい女性だと感じている。
 
「俺もディアナに同意だ。何しろリズ嬢は俺の愛剣にまで敬意を払ってくれる女性だ。前に愛剣クリスティーヌにまでお茶を出してくれた時は心から感動した!」

「おや、それは興味深い話だね」

 話は脱線しアルバートが如何に剣を愛しているのかという話題になった。そしてそのままお茶会はお開きとなった。
 
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