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七十四話〜後任者〜
しおりを挟む「さて、本題に入ろうか」
不穏な空気の中、お茶を飲み終えたセドリックが口を開いた。
「ニコラ、君に紹介したい人物がいる」
セドリックの視線の先へ目を向けると、彼の隣に座っていた黒髪とヘーゼルの瞳の男性は居住まいを正した。
「彼はホルスト・アンドレ侯爵だ。昔、僕が勉強を教わっていた謂わば師と呼べる人でね。信頼のおける人物であり、博学で聡明でもある。僕からの提案なんだが、リズの後任を彼に任せるのはどうだろう? きっと君の力になってくれる筈だ」
セドリックが屋敷に来た際に、護衛以外に連れていた男性。
見慣れない顔ではあったが、恐らく今回の件で補佐や雑務を担っている人物なのだろうと思っていた。だがまさかエヴェリーナの代わりだったとは驚きだ。
「初めまして、ニコラ殿。今し方セドリック様からご紹介に与りましたホルスト・アンドレです。コルベール家の一件、お話は伺っております。苦渋の決断でしたね、心中お察し致します。ですが賢明な判断だったと思います」
「……」
穏やかに優しい口調で寄り添うように語り掛ける姿にホルストの人柄を感じた。
だがニコラはどこか不安気で黙り込んでいる。
「ニコラ殿。我アンドレ家では、様々な事業を手掛けております。つきましては必ずお力になるとお約束致します。どうでしょうか? コルベール家の未来の為にも私と力を合わせませんか?」
戸惑った様子でこちらへと視線を向けるニコラに、エヴェリーナは微笑し頷いて見せた。
セドリックの紹介ならば安心だろう。
それに皇族相手に教鞭を執る事が出来る人間は限られている。
皇帝から全幅の信頼を置かれていなくては指名はされない。何故なら教育により思想が植え付けられるからだ。
皇族、王族は幼い頃より自らを最高位の存在だと教えられる。いかにその身に流れる血が素晴らしく尊いものなのかと。国によっては神と同等とだと称される事すらあるくらいだ。
これは皇族や王族の権威を守っていく為には必要な事だ。
ただその意味を履き違えれば、国は荒れ悲惨な未来が待っているだろう。それ故に、皇族の教育に失敗は許されない。
それら等の事からいかに教鞭を執る人間が重要なのかが分かる。
ふと祖国であるローエンシュタイン帝国を思い出す。ローエンシュタイン帝国の現世代の皇族は、正直教育は失敗している。
皇帝は傲慢ではあるが、政はそれなりに機能しており現段階で然程問題は感じられない。
第七皇子のジュリアスは論外だが、問題は他の皇子達ーー特に第二皇子は危うい存在だ。
彼は己という存在を過信している。
高潔で誰よりも優れ、自分こそが玉座に座るに相応しい人間だとそう思い込んでいる。
高慢で世界は自分の為に在るのだと本気で信じている人物だ。
何度も自分側につかないかと誘われた事がある……。
エヴェリーナは、内心ため息を吐いた。
嫌な事を思い出してしまった。
もうジュリアスの事延いてはローエンシュタイン帝国での事は忘れようと決めたのに、今更こんな事を考えてしまう自分に嫌気がさす。
それよりも、今目の前の問題を解決しなくてはならないと気を取り直した時、ニコラが意を決した様子で口を開いた。
「……ボクはまだまだ未熟者ですが、精一杯努力しますので、こちらこそお力添えをお願いします」
ニコラがホルストからの申し出を受け、少しだけ胸を撫で下ろした。
今回の計画が軌道に乗るまでは見守りたいと考えてはいたが、エヴェリーナはあくまでセドリックの屋敷の侍女であり、いつまでもニコラの手伝いが出来るわけではない。その事がずっと気掛かりだった。なので、セドリックがエヴェリーナの後任を連れて来てくれて感謝している。
ただセドリックもそれならそうと初めから言ってくれれば良いものの……。
後出しで出すなど少し意地が悪い。
セドリックへ視線を向ければ目が合った。すると少し意地の悪そうな笑みを浮かべる。
その笑みを見て思う。許可なくコルベール家に出入りしていた意趣返しなのかも知れないと。
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