出涸らしと呼ばれた第七皇子妃は出奔して、女嫌いの年下皇子の侍女になりました

秘密 (秘翠ミツキ)

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七十五話〜事業計画〜

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「コルベール家の領地の生産量の多い物を使用します。ブルーベリー、ラズベリー、アプリコットの三つを使い、果実酒を作り販売する計画です」

 引き継ぎをする為に、エヴェリーナはセドリックやホルストに事業計画の説明を始めた。

「なるほど。領地の産物を使用する事で、仕入れ価格を抑えたり安定的に数を確保出来ますからね。ただ果実酒は、そこまで需要はないと思いますが」

 ホルストの指摘通り、現在ルヴェリエ帝国延いては東大陸で飲まれている果実酒はワインが主で他の品種は余り人気がない。
 ローエンシュタイン帝国を始めとした西大陸諸国も同じようなものだったので、理由は容易に想像はつく。
 原料となる果実の生産量がブドウに比べて少ない事もあるが、貴族達が全く関心を示さないのだ。
 ワインは平民が簡単に手にする事が出来る安価なものから貴族でも中々手が出せない高価な物までピン切りであるが、ワイン以外の果実酒の価格の振り幅は少ない。
 要するに、平民も同じ物を口にする事が出来る。ただワインのように極端に安価な物はなく、平民でもそれなりに裕福な者しか手は出せない。
 自尊心の高い貴族達は平民と同じ物を口にする事を嫌がり、そうなると客層がかなり限定されてしまい需要がなくなるという訳だ。
 
「需要がないのなら、持たせればいいだけです」

「いや、流石にそれはリズでも難しいんじゃない?」

 淡々と話すエヴェリーナ以外、困惑した表情を浮かべている。

「セドリック様、流行りはどうのように出来ますか?」

「え、流行りなんて気付いたら流行っているから、どうやってって言われても……」

「流行りは作りだすものです」

 意図せず流行りが生まれる事もあるが、殆どが誰かの意図で作り出されていると言っても過言ではない。

「リズさんの仰る事は理解出来ますが、元々需要がない物を流行らせる事は容易ではありません」

「勿論です。そこで、商品には付加価値つけて販売します」

「果実酒に付加価値とは」

 エヴェリーナはセドリック達に資料を配り更に説明を続ける。

「先程あげた品目ブルーベリー、ラズベリー、アプリコットにはそれぞれ効能があります。
例えばブルーベリー酒は、眼精疲労や老化防止が期待され、ラズベリー腸内環境の改善や美肌効果、アプリコット酒は便秘、疲労回復に効果があります。勿論、美容効果もありますよ」

 女性は無論のことどれも薬としての効果もあるので、ゆくゆくはその方面でも期待が出来る。

「水菓子は女性に好む方が多いですが、頻繁に食べる方は余りいません。その理由は、水菓子は食べ過ぎると糖分の過剰摂取にも繋がります。健康面のみならず体型管理をしている女性はやはり気になる所です。そこで、先程効能の話をしましたが、少ない量で水菓子を楽しめ更には美容にまで効果がある。素敵だと思いませんか?」

 貴族の女性達は、甘い物を制限している人間が多い。
 理由は様々あるが、その根本にあるのはやはり貴族としての自尊心なのだと思われる。そして男性達の間で女性は細い事が美徳とされているのもその要因だ。ただ細くても胸元が寂しいとモテないという理不尽な条件付きではあるが……。

「今回の客層は貴族のご婦人方です。ただ果実酒は貴族にとっては平民が全く同じ物を口にする品位に欠ける物との認識が強い品物です。ですから、ここで更に付加価値をつけます。これまでワインや果実酒の瓶は一般的に同じ形状な物ばかりでした。そこで貴族のご婦人方向けに瓶の色や形状を変え華やかにします。更にレースやリボン、なんでしたら宝石で飾るのもいいかも知れません。夜会の席は無論の事、お茶会のテーブルの上に置いておくだけで素敵なオブジェにもなります。またお茶に数滴入れて飲むだけで特別感を演出出来ます」

「……凄い発想ですね、まるで商人のようです。因みに販売はどの辺りをお考えですか?」

 予想以上に反応が良い。かなり熱心に資料を読み、疑問点などを質問してくる。
 感嘆の声を上げるホルストを見て、この後予定している彼との交渉が上手く運ぶと確証を得た。
 
「その質問にお答えする前に、セドリック様、一つお願いがあります」

「うん、構わないよ」

 まだ内容も話していないのにも拘らず、二つ返事で了承をしてくれるセドリックに、エヴェリーナは少し驚いた。

「リズの望みなら、僕が何でも叶えてあげる」

 こちらへ真っ直ぐな青い瞳を向け爽やかに微笑む。
 彼の言動に戸惑いながらも、取り敢えず今は話を進める事にする。

「ではお言葉に甘えまして、こちらの商品が完成した暁には、皇太子殿下の婚約者様に贈って頂けませんか?」

「え、兄上の婚約者に?」

 予想外だったらしくセドリックは訝しげな表情を浮かべた。ただ彼が言わんとしている事は分かっている。
 幾ら兄の婚約者だといえ、直接贈り物をするのは礼儀に反する行為だ。
 
「皇太子殿下を介してお渡し下さい。その際に”いつも兄がお世話になっている事への細やかな気持ち”だと伝えてみて下さい。もしそれで皇太子殿下が難色を示されたら直ぐに引き下がって頂いて構いません」

 だが以前対面した皇太子のセドリックへの反応を見る限り恐らく問題はないだろうと踏んでいる。寧ろ喜びそうだ。

「分かったけど、理由を聞いても?」

 エヴェリーナは軽く頷いて見せる。

「ではセドリック様への返答も踏まえまして先程のホルスト様の質問へ戻りますが、商品が完成しても始めは店頭などには卸しません」

「ではどのように売るつもりですか?」

「紹介のみです」

「その理由をお伺いしても?」

「商品に興味を持たせる為です。人の心理的に数に限りがあり中々手に入らないと余計に欲しくなるものです。更にそれが店頭などでは手に入らないとなると益々興味が湧いてくる筈です」

 そして嗜好品などは特にその傾向が高い。
 日用品などの消耗品は、日々必要な物なので手に入らなければ直ぐに代替え品に切り替えてしまうだろう。だが嗜好品はなくても困りはしないので待つ事が出来る。

「貴族社会での流行りの基準は概ね序列にあります。現在、ルヴィエ帝国の女性皇族、貴族のな序列は后妃陛下、側妃殿下方、その下に何れ皇太子妃殿下になられる皇太子殿下の婚約者様となります。皇太子殿下の婚約者様は未来の后妃陛下であらせられますので、私情は兎も角誰もが懇意にしたいと思うのは当然の事です。そして、ご婦人方は親しくなりたい方の真似をする傾向にあります。話題作りにもなりますし、そこには自分より上の立場の方への憧れなども含まれています」

 実際、ローエンシュタイン帝国でもそうだった。
 后妃が少し珍しいドレスを仕立てれば、貴族の夫人や令嬢達は似たようなドレスを仕立て、皇太子妃がとある宝石商のルビーのネックレスを身に付けていれば同じ宝石商のルビーのネックレスを挙って身に付けていた。
 実に馬鹿馬鹿しい話だが、流行りを生み出すには適した環境ともいえる。
 また先程基本的なと言ったが、正式な序列と実際の序列は少し異なる。
 后妃や側妃、皇太子妃、皇子妃、貴族令嬢や夫人ーー生家の影響力や経済力、皇帝からの信頼や寵愛の度合いなどで序列は常に左右されている。
 エヴェリーナの場合は、生家が子爵家から侯爵家へと昇爵したが元は下級貴族出身だった故、快く思っていない者も多かった。
 それでも皇太子の庇護下にあった事もあり立場は皇太子妃にも勝る扱いではあった。まあ裏では随分と言いたい放題言われていだが今更だ。


「ーー私からの説明は以上となります。ではホルスト様、お手柔らかにお願い致します」

 ホルストとの交渉に移る。これからが本番だ。
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