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施しはいらない
しおりを挟む「本当は分かってるんだ……。ジュディはダリルに惹かれてる。俺はその他大勢の一人に過ぎないって」
そう言ってスーツのポケットに手をやり、中から一本の鍵を取り出した。
さっきレイナがゴミ袋に捨てた豪邸の鍵だ。
ロワールがジュディのために選び、贈ったもの。彼はどこで知ったのか、ゴミ袋から回収しておいたらしい。
……やっぱり傷付いてたんだ。
珍しく弱気なロワール。そんな彼は見ていられなくて、俯く。
ろくでもない男なのは最初から知っていた。限界がきて離れると決めた今も、別に恨んではいない。ろくでもない彼についていくと決めたのは自分だから。
レイナとしては彼への悪態をこっそりつければそれでじゅうぶんだった。
ロワールにはいつも胸を張っていてほしい。一途な思いを踏みにじられて落ち込む姿など見たくない。
今、レイナはなぜ自分があそこまで意地になってロワールを追いかけ続けたか、分かった気がした。
彼が絶対に報われない当て馬ヒーローだからだ。
彼以外の成人ピクミン達はなんだかんだ他にちゃんとした恋人を作る柔軟性があって、ジュディの取り巻きをやっているのは半分好意でもう半分はダリルとロワールという経済界の二大巨頭にお近付きになるため。
ヒロイン・ジュディを心の底から本気で愛して貞操まで守っているのはダリルとロワールだ。
でもヒロインに選ばれるのは、ダリル一人だけ。
だからヒロインじゃないレイナはロワールを選んでやりたかった。
「ロワール……」
慰めの言葉を口にしようとしたその時、背後のクローゼットの中からスマホの呼び出し音が鳴り響いた。
ロワールは顔を上げ、「誰だ? こんな時間に」と訝しげな顔をする。
仕事の電話にしても、こんな時間にかけてくるほどの緊急事態なら手下のレイナではなくまずロワールに直接かけるものなのだが。
(しまった……スマホ、ロイが握ったままだった)
もしかして、ロイの兄が着信に気付いて折り返してきたのではないだろうか。
クロ―ゼットで鳴り続ける呼び出し音に、ロワールはますます不審そうな顔をする。
「……出ないのか?」
「後でかけ直すからいいわ」
やり過ごそうとしたレイナだったが、ロワールはなぜかこだわった。
「出ろ」
「いい。誰だか知らないけど、どうせ大した用事じゃない」
「いいから出ろ」
ロワールはレイナに対して変なところで独占欲を発揮する時があった。
愛することはないが自分以外の男と親しくするのは許さない。扱いは粗末だが逃がす気はない。
こんな深夜にわざわざ電話してくるなんて、レイナには自分以外の男がいるんじゃないかと疑ったのだ。
レイナはため息をついて、クローゼットを少しだけ開けた。
ロイがしゃがみ込んでいる隅っこに向かって手を伸ばし、スマホを受け取る。
応答するふりをして拒否ボタンを素早く押し、「あ、切れちゃった」と言った。
「誰だ」
「知らない。詐欺電話じゃない? 最近多いのよね」
「かけ直せ」
「正気? 詐欺電話にかけ直したら面倒なことになるわよ」
ロワールは黙り込み、それ以上何も言わなくなった。
一応、引き下がってくれるらしい。
……まあいい。
もし本当に男がいるなら必ず俺の前に引きずり出してやる。
レイナの行動は全て把握できるからな。
今まではある程度自由にさせていたが、ちょっと甘やかしすぎたらしい。
監視を厳しくしよう。
そう考えていたロワールの懐でこんどは彼のスマホが鳴る。
画面を見ると、ジュディからで。
ロワールは迷うことなく画面をタップし、応答した。
「もしもし」
『もー、まだなの? みんなロワールのこと待ってるんだからね! わたしが特別に作ったカクテル、飲みたくないの?』
ぷんすこしているジュディの顔が浮かぶようだ。
一瞬で優しい顔つきになったロワールは立ち上がり、部屋の扉に足を向ける。
「すぐ行くよ」
『うん。待ってるからね!』
通話が切れ、ロワールはドアノブに手をかけた。
そのまま出て行くかと思いきや、踵を返しレイナの元に戻ってきて。
「……これ。やるよ」
と、豪邸の鍵を押し付けてきた。
「いらないよ。それ、ジュディにあげたやつでしょ。そんな施しみたいな事されても困る」
「施しじゃない。ジュディがあげると決めたのならこれはもう君のものだ。明日、名義変更しておく」
「いらないって言ってるじゃない……」
「いらないなら売っていい。君の好きなようにしろ」
そう言ってロワールは出て行った。
静かに閉まる扉を見つめながら、ぽつりと唇から言葉がこぼれる。
「どうして、そんなにジュディが好きなの……?」
ロイはクローゼットの中で膝を抱えながら、その声を聞いた。
会話を全て聞いていたロイはレイナの境遇をだいたい察してしまい、あまりに痛々しくて、胸がきゅっとなった。
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