30歳処女、不老不死になりました

折原さゆみ

文字の大きさ
54 / 67

54聞きたくありません

しおりを挟む
「もしもし」

「栄枝さん、ちゃんと家に帰れましたか?」

「そういう、永徳さんはどこにいるのですか?相沢と一緒にいますか?」

「僕のことを心配してくれるのですね。うれしいな」

「いや、心配しているわけでは」

 どんな用事で電話をかけてきたのだろうか。もしかしなくても、実乃梨の安否を気にしているのだとしたら、余計なお世話である。永徳のことは心配していないと伝えようとするが、その言葉にかぶせるように永徳が話を続ける。

「僕は平気ですよ。栄枝さんに言われた通り、永遠は僕の部屋に運んで、今はソファに横になって寝ています。永遠は体調が回復次第、栄枝さんの会社に戻ってもらうつもりです。僕も栄枝さんのことを護衛するために、来週から任務を再開しようと思っています。ですから、来週からも引き続き」

「それには及ばない。実乃梨さんもあんたなんかに護衛を頼まないわ。今日で護衛の任務は終了。不老不死連続事件もこれにて終わり。不老不死の女性が狙われる事件はもう、起きることはないでしょう。ということで、護衛の必要はなくなりました。はい、ではさようなら」

「ツーツー」

 永徳の話を最後まで聞くことなく、和音が一方的に切ってしまった。



「不老不死の女性を狙うのをやめたんですか?ずいぶんとあっさりやめるんですね」

「実乃梨さんがあんな男と話しているのが悪いのでしょう?」

「永徳みたいなクズ男が和音の好みだとしたら、先に忠告しますが、やめておいた方がいいかと。まあ、その年まで処女だったのなら、今更な忠告な気がしますけど」

 勝手に電話を切られてしまったが、そのことに対して実乃梨は怒ってはいなかった。むしろ、これ以上永徳と電話していたくなかったので、和音の行動に感謝した。

「ありえないわね。それに、私が処女なのは、男が嫌いだからよ。苦手とかじゃなくて、嫌いなの。嫌いすぎて、男に触れられると、反射的に殴ってしまうの」


「殴る……」

「そう、だから男とやるなんて、私には無理な話。男を好きになるとかありえないし、どちらかというと……。まあ、その辺はいいとして。だから、見当違いのことを言うのはやめてくれる?想像するだけで吐き気がする」

 和音は男が嫌いで不老不死となってしまったらしい。和音と乗ったタクシー内での会話を思い出す。

「男性恐怖症ではなかったんですね」

「恐怖ではない、と思うわ。単純に男を見ると嫌悪感が湧いて、触れられると殴ってしまう。そのせいで、私はずっと、今後もずっと不老不死コースを歩み続けるしかないの」

「それはまた、大変な体質ですね」

「そうなの。私の話、詳しく聞きたい?」

そういえば、和音が今までどうやって生活していたのか、聞く予定だったことを思い出す。実乃梨の沈黙を肯定と受け止め、和音は自らの過去を語り始めようとした。


「私が生まれた家は比較的裕福な家系で」

「その話はまた、今度にしましょう。ほら、今日はいろいろ大変だったから。そうそう、まずはお昼でも食べましょう。今から作るのは面倒ですから、出前でも頼むのはどうですか?和音は何が食べたいですか。今日は特別に私がおごりますよ」

 和音が口を開きかけたところで、実乃梨は話を遮った。部屋の壁時計を確認すると、すでに昼の時間をだいぶ過ぎていた。朝からむごたらしい殺人現場を目撃したのに、その上、なんだか明るい話とは思えない和音の過去を聞くのは、精神が持ちそうになかった。



「ぐうう」

 ちょうど良いタイミングで、実乃梨の身体が空腹を訴える。

「ちょ、ちょっと、それはないでしょ。人の話を遮って、腹まで鳴らすなんて」

突然、自分の話を中断された和音が困惑していたが、実乃梨は追い打ちをかけるように言葉を続ける。

「よく考えたら、和音の過去なんて聞く必要はないんですよね。過去を聞いたところで、不老不死の女性を和音が殺害したことに変わりはないし、和音の男嫌いなことも変わらない」

 過去の話をするより、目の前の生活を大切にしましょう。

 にっこりと笑う実乃梨の圧に負け、和音は自分の過去を語ることを止めたのだった。そして、実乃梨たちは寿司の出前を頼み、その後はただの一般人の女性二人として、実乃梨の家でのんびりと過ごすのだった。

 実乃梨は、和音がさらりと口にした「不老不死の女性の殺害をもうしない」という言葉の真意について、答えをもらっていないことに気付くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...