65 / 67
65恐れていたこと
しおりを挟む
「あ、あの、すいません、古屋敷さん。で、電話を替わってもらってもいいですか?」
「どうしたの?顔が真っ青だけど、また、迷惑電話でもかかってきたの?」
「ま、まあそんなところです」
とりあえず、冷静に考える時間を取るため、電話を保留にする。電話のディスプレイを見ると、非通知となっている。携帯からかけているとは思うが、永徳の居場所はわからない。会社の番号を知っているということは、実乃梨の居場所もばれている可能性が高い。
「折り返しの電話番号を聞けばいいのかしら?」
古屋敷と呼ばれた社員は、実乃梨の新人教育をしてくれた五十代の女性だった。三十代にしか見えない実乃梨を自分の娘のように思っているのか、仕事を優しく教えてくれる。そんな彼女に、和音や永徳の電話の相手をさせるのは心苦しかったが、自分がまた電話に出ることは避けたかった。
「お願いします」
仕方ないわね、と言いながらも、古屋敷は保留にした電話に出て、丁寧な口調で永徳の対応を行う。
「では、失礼いたします」
永徳なら、実乃梨に電話を替わってくれとか言いそうだと思ったが、あっさりと古屋敷は電話を終えて、受話器を置いた。
「栄枝さんの元カレです、と言われたけど、どういうこと?」
「私のストーカーです。しかも相当質の悪い」
「そう、お昼にその話を聞かせてくれるかしら?」
古屋敷さんには面倒な電話の相手をしてもらった借りがある。仕方なく、怪しまれない程度に、実乃梨は永徳について話すことにした。
昼休憩に、実乃梨が古屋敷に電話の件について事情を話すと、深いため息を吐かれた。
「変な男に好かれてしまったのね。一週間くらい前にも、別の社員の方が栄枝さん宛に不審な電話がかかってきたと聞いたけど、それと今回の電話は関係あるの?対策はしている?」
「ああ、先週の電話ですね……。あれは、古屋敷さんがちょうどお休みの日で、別の方に対応してもらいました。今日の電話と関係は、ありますね。前回と今回の電話の相手は違いますけど」
「心配事や悩みがあるのなら、話だけでもきくわ。他人に話すと気が楽になるというでしょう?話してもらえれば、私も栄枝さんの力になれるかもしれないし」
「ありがとうございます。今日の電話の男については、近々、うちまで来ると思ったので、警察には相談しています」
「そう、警察が動いてくれるのなら、少しは安心ね」
まるで自分の娘のように心配してくれる古屋敷に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼女は実乃梨のことを自分の娘くらいの年齢だと思い込んでいる。しかし、実際は古屋敷の二倍以上の年月を生きている。彼女に心配される年齢でもない。それでも、他人から心配されることがうれしくて、不老不死のことは話していなかった。実乃梨は彼女との時間を心地よいと感じていた。この大切な時間を長引かせるために、永徳にはさっさと実乃梨の目の前からいなくなってもらわなくては。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
定時に仕事を終えて、実乃梨が会社を出ると、一台の車が会社の前に停車した。まるで、実乃梨の送迎をしますと言わんばかりの停車のタイミングだった。
「先日、ストーカーの被害届を出していた栄枝と申します。ええ、今、会社の前に不審な車、が」
停車した車から男が出てくる前に、実乃梨は急いで会社に引き返す。その間にポケットに入れていたスマホを取り出し、110番通報する。定時を過ぎた社内にはまだ数人の社員が残っていて、他人がいる空間にたどりつき、ほっと一息つく。
「部外者は立ち入り禁止ですけど」
「栄枝実乃梨さんの婚約者です。定時で上がると聞いて、迎えに上がったのですが」
「栄枝、ですか?確認してまいりますので、少々お待ち」
「キャー」
実乃梨が新しく勤めだした会社は前勤めていた会社よりも規模の大きな会社だった。受付があり、そこから社員証を機械に通して社内に入ることになっていた。部外者の人間は受付ではじかれる仕組みとなっていた。
「あ、あの、お客様」
「実乃梨さんを出してください。今すぐに出さないと……」
受付け付近が急に騒がしくなった。女性社員の悲鳴が車内に響き渡った。
「どうしたの?顔が真っ青だけど、また、迷惑電話でもかかってきたの?」
「ま、まあそんなところです」
とりあえず、冷静に考える時間を取るため、電話を保留にする。電話のディスプレイを見ると、非通知となっている。携帯からかけているとは思うが、永徳の居場所はわからない。会社の番号を知っているということは、実乃梨の居場所もばれている可能性が高い。
「折り返しの電話番号を聞けばいいのかしら?」
古屋敷と呼ばれた社員は、実乃梨の新人教育をしてくれた五十代の女性だった。三十代にしか見えない実乃梨を自分の娘のように思っているのか、仕事を優しく教えてくれる。そんな彼女に、和音や永徳の電話の相手をさせるのは心苦しかったが、自分がまた電話に出ることは避けたかった。
「お願いします」
仕方ないわね、と言いながらも、古屋敷は保留にした電話に出て、丁寧な口調で永徳の対応を行う。
「では、失礼いたします」
永徳なら、実乃梨に電話を替わってくれとか言いそうだと思ったが、あっさりと古屋敷は電話を終えて、受話器を置いた。
「栄枝さんの元カレです、と言われたけど、どういうこと?」
「私のストーカーです。しかも相当質の悪い」
「そう、お昼にその話を聞かせてくれるかしら?」
古屋敷さんには面倒な電話の相手をしてもらった借りがある。仕方なく、怪しまれない程度に、実乃梨は永徳について話すことにした。
昼休憩に、実乃梨が古屋敷に電話の件について事情を話すと、深いため息を吐かれた。
「変な男に好かれてしまったのね。一週間くらい前にも、別の社員の方が栄枝さん宛に不審な電話がかかってきたと聞いたけど、それと今回の電話は関係あるの?対策はしている?」
「ああ、先週の電話ですね……。あれは、古屋敷さんがちょうどお休みの日で、別の方に対応してもらいました。今日の電話と関係は、ありますね。前回と今回の電話の相手は違いますけど」
「心配事や悩みがあるのなら、話だけでもきくわ。他人に話すと気が楽になるというでしょう?話してもらえれば、私も栄枝さんの力になれるかもしれないし」
「ありがとうございます。今日の電話の男については、近々、うちまで来ると思ったので、警察には相談しています」
「そう、警察が動いてくれるのなら、少しは安心ね」
まるで自分の娘のように心配してくれる古屋敷に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼女は実乃梨のことを自分の娘くらいの年齢だと思い込んでいる。しかし、実際は古屋敷の二倍以上の年月を生きている。彼女に心配される年齢でもない。それでも、他人から心配されることがうれしくて、不老不死のことは話していなかった。実乃梨は彼女との時間を心地よいと感じていた。この大切な時間を長引かせるために、永徳にはさっさと実乃梨の目の前からいなくなってもらわなくては。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
定時に仕事を終えて、実乃梨が会社を出ると、一台の車が会社の前に停車した。まるで、実乃梨の送迎をしますと言わんばかりの停車のタイミングだった。
「先日、ストーカーの被害届を出していた栄枝と申します。ええ、今、会社の前に不審な車、が」
停車した車から男が出てくる前に、実乃梨は急いで会社に引き返す。その間にポケットに入れていたスマホを取り出し、110番通報する。定時を過ぎた社内にはまだ数人の社員が残っていて、他人がいる空間にたどりつき、ほっと一息つく。
「部外者は立ち入り禁止ですけど」
「栄枝実乃梨さんの婚約者です。定時で上がると聞いて、迎えに上がったのですが」
「栄枝、ですか?確認してまいりますので、少々お待ち」
「キャー」
実乃梨が新しく勤めだした会社は前勤めていた会社よりも規模の大きな会社だった。受付があり、そこから社員証を機械に通して社内に入ることになっていた。部外者の人間は受付ではじかれる仕組みとなっていた。
「あ、あの、お客様」
「実乃梨さんを出してください。今すぐに出さないと……」
受付け付近が急に騒がしくなった。女性社員の悲鳴が車内に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる